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【GDC2017】IGF、GDCA受賞作に見るナラティブ重視の傾向~IGFは『Quadrilateral Cowboy』、GDCAは『Overwatch』が大賞を受賞

2月27日〜3月3日、アメリカ・サンフランシスコでゲーム開発者会議「GDC (Game Developers Conference)」が開催された。会期内の3月1日にはゲームアワード「IGF (Independent Games Festival)」と「GDCA(Game Developers Choice Awards)」の2017年度の発表授与式があり、『Quadrilateral Cowboy』と『Overwatch』がそれぞれ大賞を受賞。ナラティブ重視の近年の傾向は今年も続き、IGFでナラティブ部門の部門賞に初の成人向けゲーム『Ladykiller in a Bind』が輝くなど、ジャンルの可能性をさらに広げる結果となった。その授賞式の様子と受賞作品についてリポートする。

GDCを彩る二つのゲームアワード

Independent Games Festival

Game Developers Choice Awards

IGFで大賞にあたるSeumas McNally Grand Prizeに輝いたのは、ハッカーがテーマの一人称パズルアクション『Quadrilateral Cowboy』。GDCAではアリーナシューターの『Overwatch』が大賞のGame of the Yearを受賞した。なお『Quadrilateral Cowboy』はIGF、『Overwatch』はGDCAで、それぞれゲームデザイン部門を受賞している。

本サイトで過去に取り上げた作品では、IGFのビジュアル部門とオーディエンス部門でアクションゲームの『Hyper Light Drifter』。GDCAではビジュアル部門とオーディオ部門でパズルアクション『Inside』が受賞した。他にインディーゲーム的文脈の作品で、SFシューターの『No Man’s Sky』やミステリアドベンチャーの『Firewatch』が受賞している。

GDCとIGFで二つのVR部門が新設

IGFは今年で19回目、GDCAは17回目を迎えるアワードで、当初は対象となるゲームや受賞傾向がハッキリと分かれていた。しかし大手ゲーム会社がインディーゲームを販売したり、スタジオに投資したりする事例が増加する中で、両者の違いを挙げることが年々難しくなってきた経緯がある。


IGF2017トレイラー

GDCA2017トレイラー

実際に2016年度は、本サイトでもとりあげた『Her Story』がIGFで大賞とナラティブ部門。GDCAでイノベーション部門、モバイル/携帯ゲーム機部門、ナラティブ部門と合計5冠に輝いている。特にGDCAは海外ゲーム開発者の投票ベースで顕彰されるため、インディーゲームの受賞が増える傾向にある。

もっとも本年度はIGFとGDCAでダブル受賞に輝いたタイトルはなく、各アワードでも特定タイトルに顕彰が固まるといった傾向も見られなかった。良く言えば多様性に富んだ、別のいい方をすれば注目作に乏しかった1年だったとも言える。こうした中、IGFとGDCAでVRに関する部門がそれぞれ新設された。

まずIGFでは独創的なコントローラーを用いたゲームを顕彰する「alt.ctrl.GDC」部門が新設され、巨大エアドームの内側と外側で協力プレイを進める『Fear Sphere』が受賞した。内側のプレイヤーは探照灯型コントローラーでエアドームの内側をプロジェクションマッピングし、外側のプレイヤーに情報を伝えつつ、洋館からの脱出に挑戦する。

協力プレイが楽しい『Fear Sphere』

『Fear Sphere』制作チーム

一方GDCAではVR/AR部門が新設され、さまざまな職種を仮想体験する『Job Simulator: The 2050 Archives』が初の部門賞に輝いた。国籍の異なる4名が中心となってリモート開発されたインディーゲームで、約3億円の売上を記録。インディーゲーム開発者によるジャンル開拓が続くVRゲームで、新たな可能性を示したタイトルとなった。

『Job Simulator: The 2050 Archives』

『Job Simulator: The 2050 Archives』制作チーム

このほかIGFにマイクロソフトの協賛で「ID@Xbox Gaming for Everyone Award」部門が新設され、『We are Chicago』『I, Hope』『A Hero’s Call』の3作品が顕彰されている。

強まるナラティブ重視の傾向

また、ここで改めて指摘しておきたいのが近年におけるナラティブ重視の流れだ。IGF2011では『Minecraft』がIGFとGDCAで合計5冠を達成し、サンドボックス型ゲームの大きな流れを作った。さらに『Minecraft』は家庭用ゲーム機にも移植されるなど、世界中で大成功し、インディーゲームがビジネス面で注目される契機にもなった。

その後、インディーゲーム界で「ポスト・サンドボックス」として注目されてきたのがストーリー重視の流れだ。GDCAでは2011年、IGFでは2013年からナラティブ部門が設立され、GDCでもナラティブサミットがスタート。翌2014年にはプレイヤーが入国審査官となるナラティブゲーム『Papers, Please』がIGFで三冠を達成し、注目を集めた。

その後もナラティブはゲームならではの物語体験を提供するキーワードとして、さまざまな実験的な作品が登場している。IGFで大賞を受賞した『Quadrilateral Cowboy』もその一つで、プレイヤーはキーボードでタイピングを行いながらパズルを解いていく。黎明期のコマンド入力方式を彷彿とさせる内容だ。

黎明期のアドベンチャーゲームを彷彿とさせる『Quadrilateral Cowboy』

『Quadrilateral Cowboy』制作者のブレンドン・チャン氏

成人向けゲームが初の受賞

それではIGF、GDCAのナラティブ部門を受賞したゲームは、どのようなものだっただろうか。まずIGFでは性的倒錯をテーマとした成人向けゲーム『Ladykiller in a Bind』が受賞した。日本と異なり、欧米市場では暴力表現には寛容だが性的表現には厳しい。アダルトゲームが受賞したのも、IGF、GDCAをあわせて初めてのことだ。

本作の主人公は双子の兄弟に男装させられた少女だ。高校生活最後の7日間を豪華客船ですごしつつ、同性愛をはじめ、さまざまな性的体験を繰り広げていく。女性開発者による女性視点の内容が特徴で、アダルトシーンもテキスト重視の精神的な描写が中心。ナラティブゲームの可能性が今回の受賞でさらに推し進められたといえる。

成人向けゲームで初の顕彰作品となった『Ladykiller in a Bind』

『Ladykiller in a Bind』制作者のクリスティン・ラブ氏(左)

これに対してGDCAでは大自然が舞台のミステリアドベンチャー『Firewatch』がナラティブ部門を受賞した(開発元のCampo Santoは本作でデビュー部門も受賞している)。トランシーバーを通して上司から指示を受けつつ、レンジャーとして生活していく中で、徐々に上司の言動に疑念を抱いていき……というストーリーだ。

大自然が舞台のミステリアドベンチャー『Firewatch』

『Firewatch』制作チーム

もっともナラティブゲームには言語の壁がつきまとう。そのため日本では『Inside』のように言語によらないナラティブゲームが人気を集めている。その一方で日本にはナラティブゲームの厚い歴史があるが、同じ理由でなかなか海外に紹介されていない。この壁を越えるためにも、ローカライズ面での技術革新を期待したいところだ。

業界の奥行きの深さを感じさせる個人賞

このほかゲーム業界や開発者コミュニティに貢献した人物に贈られるアンバサダーアワードでは、ホワイトハウスで科学技術政策アドバイザーをつとめたマーク・デローラ氏が受賞した。アメリカ任天堂を皮切りに大手スタジオで活躍。書籍『Game Programming Gems』の初期シリーズも著作し、日本でも多くの愛読者がいる。

2013年からはホワイトハウス入りし、ゲーム業界とオバマ政権のパイプ役として活動。2014年にはゲーム開発者と教育関係者を集めて実施された「ホワイトハウス教育ゲームジャム」の旗振り役を務めた。トランプ政権への移行と共にホワイトハウスを離れたが、こうした長年のゲーム開発と教育に関する功績に対して、今回の顕彰となった。

また生涯厚労賞には「Unreal Engine」の生みの親として知られるティム・スウィーニー氏。パイオニア賞には『カラテカ』『プリンス・オブ・ペルシャ』の開発で知られるジョーダン・メックナー氏が、それぞれ受賞した。前者は『DOOM』で有名なジョン・カーマック氏。後者は『シム』シリーズで知られるウィル・ライト氏が顕彰し、アワードに華を添えた。

アンバサダーアワードを受賞したマーク・デローラ氏

その他、アワードの受賞作品は下記の通りだ。日本語訳されていないタイトルも多いが、いずれも名作ぞろいなので、ゲーム選びの参考にしてほしい。

19th Independent Games Festival

・Best Student Game
Un Pas Fragile (Géraud de Courrèges, Alisée Preud’homme, Gregory Parisi, Gaspard Morel)
https://www.youtube.com/watch?v=DQanqXjFIac

・Excellence in Visual Art
Hyper Light Drifter (Heart Machine)
http://www.heart-machine.com/

・Excellence in Audio
GoNNER (Art in Heart)
http://www.gonnergame.com/

・Nuovo Award
OikoSpiel, Book I (David Kanaga)
https://dkoikos.itch.io/oikospiel

・Excellence in Design
Quadrilateral Cowboy (Blendo Games)
http://blendogames.com/qc/

・Excellence in Narrative
Ladykiller in a Bind (Love Conquers All Games)
http://ladykillerinabind.com/

・Audience Award
Hyper Light Drifter (Heart Machine)
http://www.heart-machine.com/

・ID@Xbox Gaming for Everyone Award
We are Chicago(Culture Shock Games)
http://wearechicagogame.com/
I, Hope (Arconyx)
http://www.arconyx.com/
A Hero’s Call (Out of Sight Games)
http://outofsightgames.com/

・alt.ctrl.GDC AWARD
Fear Sphere (New Arcade)
https://loldi.github.io/newarcade/

・Seumas McNally Grand Prize
Quadrilateral Cowboy (Blendo Games)
http://blendogames.com/qc/

17th Game Developers Choice Awards

・Best Debut
Campo Santo (Firewatch)
http://www.firewatchgame.com/

・Best Audio
Inside (Playdead)
http://playdead.com/games/inside/

・Innovation Award
No Man’s Sky (Hello Games)
http://no-mans-sky.com/pathfinder-update/

・Best Technology
Uncharted 4: A Thief’s End (Naughty Dog)
https://www.unchartedthegame.com/en-us/games/uncharted-4

・Best VR/AR Game
Job Simulator: The 2050 Archives (Owlchemy Labs)
http://jobsimulatorgame.com/

・Best Visual Art
Inside (Playdead)
http://playdead.com/games/inside/

・Best Narrative
Firewatch(Campo Santo)
http://www.firewatchgame.com/

・Best Design
Overwatch (Blizzard Entertainment)
https://playoverwatch.com/ja-jp/

・Best Mobile / Handheld Game
Pokémon GO (Niantic)
http://pokemongo.nianticlabs.com/ja/

・Audience Award
Battlefield 1 (EA DICE)
https://www.battlefield.com/ja-jp

・Game of the Year
Overwatch (Blizzard Entertainment)
https://playoverwatch.com/ja-jp/

・Ambassador Award
Marc DeLoura氏
(元ホワイトハウス・科学技術政策アドバイザー)

・Lifetime Achievement Award
Tim Sweeney氏
(Unreal Engineシリーズの開発など)

・Pioneer Award
Jordan Mechner氏
(『カラテカ』、『プリンス・オブ・ペルシャ』など)

■関連リンク
GDC
http://www.gdconf.com/

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