Gamers Zone

move to login

GAME PCゲームで勝ち抜くための情報満載!

『アイドルマネージャー』Steam版レビュー:アイドル産業は多様性の文化を持ち合わせていると提示する、アイドル事務所経営シミュレーター

『アイドルマネージャー』はロシアのインディーデベロッパー「Glitch Pitch」による「“日本の”アイドル事務所経営シム」。プレイヤーはスポンサーから資金提供を受けてアイドル事務所を主題とした経営を行う。アイドルグループ名もプレイヤーの性別、名前も自由に決められる。ストーリーとしてはアイドル事務所運営をしていく過程で「シングル5位以内に入る」などをこなせば進行していけて、最終的にはとんでもない着地を見せてくれる内容となっている。

なお、画面レイアウトはビルを横からみた見た目になる。本稿のプレイバージョンは1.02となっていることに留意されたい。


『アイドルマネージャー』のポイント
  •  資金繰りが難しい厳しめの経営シム
  •  バグは少し多くUIもこれが最適だと思えないところが惜しい
  •  アイドル産業にまつわる光と闇の、光を強く意識させてくれる力強いシナリオ

経営シムジャンルにアイドル産業を混ぜたゲームプレイ

「アイドル産業には女衒(ぜげん)と言えてしまう危うさがないか?」という問い、あるいは問題意識を持つ者はいるだろう。

たとえば、アイドルにも造詣が深いプロインタビュアー吉田豪氏のTwitterをフォローして数カ月もすれば、アイドル産業はその要素の一部を担い、アイドル自身も悩むということがわかる。

しかし本作は、「アイドル産業は女衒ではなく、多様性の文化である」という可能性を提示する。

▲本作の始まりを用意してくれるスポンサーの「不二本」

たとえばこういったシーケンスがある。スポンサーの不二本に「もしおたくのアイドルを一晩貸してもらえるのであれば多額の金を払う、と言われたらどうする?」と問われるシーンだ。この場面では「応じない」と答えれば賢明だと言われるし、もし「応じる」と答えたなら淡々と叱責される。

ここにアイドルオタクと称する開発者の意識がある。アイドルは女衒であってはならないはずだ、という。

紹介が遅れることになったが、本作は「アイドル事務所経営シム」である。発表されたのは2018年のKickstarterで、発売は2021年7月27日となる。デモ版が先んじてリリースされそのときも注目を浴びたタイトルだ。

では、女衒ではあってはならないはず、というのは実際どう垣間見えてくるか、一つずつ説明していこう。まずはゲームプレイからだ。

▲画面レイアウトはどことなく高層ビル経営シム『The Tower』を思わせる

とくに気張らず1周してみよう、そう思ってプレイすると1時間後には破産、ゲームオーバーになる。本作の資金繰りはかなり厳しく、アイドルゲームという甘やかなものではなくビジネスシムといった方が相応しい作りに感じられるだろう。ただし、それを知ってからのリトライではより収支に気を配ったプレイに変わるはずだ。

▲できればゴールドは最低ラインで欲しいアイドルだ

まず必須のアイドルオーディションでは、アイドル候補5名の中から選ぶことになるが、アイドルにはそれぞれ能力値ごとにレアリティがあり、ノーマル、シルバー、ゴールド、そしてブラックという最上級がある。どのアイドルが出るかは運次第だ。オーディションは開催範囲を3種から選択でき、全国区でオーディションを開けばレアリティの高いアイドルが出やすい。

そしてシングルを出したり宣伝をしたりしてファンを増やしていく。ファンの数ベースでシングルの売り上げは決まるが、その際にマネージャーの販売戦略が上手く行けば売り上げは加算される。そして人気のアイドルグループを作って資金繰りするのだ。なお、販売戦略は「広告キャンペーン」や「握手会」などがあり、シングルリリース時に成否が決まるルーレットが回り、成功すれば多くのリターンが得られるメカニクスを採用している。

▲同時にすべてのシングル製作タスクを割り振れず、一つずつしか消化できない

シングル製作は「作詞、作曲、振り付け、マーケティング」のすべてを、雇ったスタッフに任せてこなす必要がある。プロデューサーは作詞で、プロダクション所属のミュージシャンは作曲担当などだ。また「研究ポイント」というものがあり、新しいジャンルへのポイント割り振りでジャンルへの造詣をランクアップさせて売り上げを伸ばせる。

資金繰りにはローンがあり、スポンサーがなんらかの条件、たとえば「グルメが主題のラジオ番組を開いてほしい」などを要望してくるので応えればローンをお願いできる。そのほかには銀行ローンもあるが、ローンがかさむと返済地獄になるので、一刻も早くアイドルグループを人気にして売り上げを出す必要がある。

▲白熱するコンサートだが、運営側に回ってみると「トラブらないでくれ!」という思いでいっぱいになる

アイドルの人気を上げるには「コンサート」を開く方法も当然ある。コンサートではトラブル回避のカードが配られ、演目ごとにいずれかを使ってもいいし使わなくていいという調整になっている。演目はこれまでに出したシングルからプロデューサーであるプレイヤーが選ぶ。

「総選挙」は効果がすごい。綿密に「シングルリリース・総選挙企画発表・コンサート発表」の3つを準備しなくてはならない。これはファンも喜ぶのでなるべくやりたいが、数カ月のクールタイムがある。

じつは経営面の遊びよりもストーリードリブンなデザイン

▲余談だが二人とも筆者トップアイドルだ

本作にはランダムイベントもある。メンバーが会話する、スタッフが成長するイベントはその個人の俗人情報が出るというか、人間性を吐露するので、きちんと人物が固有名になっていることが意味をなし感情移入を助けてくれる。プロダクションに対する愛着が生まれるはずだ。

▲序盤のストーリー、テレビ番組初出演のイベント

そしてストーリーがある。いくらか時間が進むとストーリー進行ボタンがあらわれて進められる。ビジュアルノベルのような形式で物語られるそれは、たとえばアイドルのテレビ番組を海外輸出するかといったものを手始めに、スポンサーである不二本の過去にまつわる話、それこそ女衒に関わる話も展開される。

しかし「アイドル産業は女衒ではない。音楽、歌謡、舞踏を用いた芸能である」という光の側面を持ち出し、それを実現するために奔走できる。アイドル自体の自主性を尊重するように「恋愛自由」の方針を打ち出せるし、SNSなども自由か管理か禁止か選べる。女衒の要素を排除してプレイすると「アイドルの裏口入学」などを行えず資金面で少々難易度が上がるが、難易度は高い方が「挑む」という構造になるので、開発者はここに挑んでほしいという願いを持っているはずだ。攻略してほしい、そうとも言い換えられる。

▲あえて特別なコメントは差し控えるが、日本のアイドル事情にとても詳しいことがうかがえる

ストーリーを追っていくと、海外産の作品なのに日本のアイドル文化への理解度や意識がとても高く驚かされる。たとえばアイドルの不祥事、配信などであった失言、それは実際にあったことをモチーフにしている箇所もある。

惜しいことに本稿執筆時点では
バグやUIの不親切さが目立つ

▲一度に表示される過去シングルは3枚分。別画面で管理したく感じられる

他方、惜しい面としては、出したシングルの管理、把握が難しいところだ。一応は見ることができる一覧は縦列に新しい順で記載されているのを確認できるが、すべてのシングルをもっと一画面で把握したい。なぜなら、ライブでなにを歌うべきか、あるいはストーリーに要求されるシングルをどれにすべきかわかっておく必要があるからだ。

それにアイドル同士の人間関係に踏み込むまでに掛かる手間があり、実際にはアイドルと雑談を繰り返して交友を深めないと、たとえばアイドルグループで起きているいじめを特定することなどは困難になっている。ここに掛かる手間は大きめだ。

また、ボタンを連打するとウィンドウが消えたり重なったりとバグりやすく、プロデューサーのストーリー進行ボタンを押したときに何も起こらず消えたことがあり、これはバグなのでは、進行が止まったのではと疑ってしまった。

結局は別人物のストーリーを進めたが、バグがあるのは進行がバグったのではという疑いを持たせてしまうので早急にフィックスしてほしい。なにしろストーリー進行ボタンが出る条件がわからないため、消えても進めていくしかないからだ。

▲左側のパネルがストーリー進行にあたる

バグったのではという疑いを持ったまま日数を進めていくのはかなり不安だ。ただし、リリース初期段階にあった「資金がオーバーフローする」などのバグはちゃんとフィックスされたので直ることは期待できる。

それでも魅力的なストーリーと本作の思想

▲これはスポンサーの不二本ルートにてみられるワンシーンだが、人生の示唆を与えてくれる

本作が魅力的なのはストーリーがおもしろい点にある。ライバルプロダクションのプロデューサー、スポンサーの不二本、新聞記者、それぞれの人物がおり、それらのストーリーは条件を満たせば個別に進むが、どれも人生の含蓄に富む発言がみられる。

▲この人物は新聞記者だが、いちライターとしてはドキッとさせられる展開だ

この点をもってしても、本作のローカライズはかなり高いレベルにまとまっている。まるで日本製のゲームのように感じられるほどだ。またストーリーを通して開発者の思うアイドル像が垣間見え、日本の誇るべき文化として世界進出するかといったシーケンスでは、選択肢を用意することによって押しつけにもなっていない。

▲ライバルプロデューサーだが、ライバルゆえに深まる情もある

開発は海外、それも多国籍チームで、デザイナーはロシア人、シナリオライターはアメリカ人で、アートはスペイン人とロシア人と幅広い。そうでありながら日本のアイドル文化を心から愛していると感じさせてくれる。なぜなら日本で起こっているアイドルの事情をちゃんと研究し、きちんと把握しており、それをシナリオに落とし込んでいるからだ。とても興味深く、感動すらできるストーリーだ。

起動するたび聞くことになるタイトルBGMも、含みを持たせて言うが、ちゃんと活かしている。ゲームプレイ中のサウンドも進行によってグリッチホップのようなものに変わり飽きさせない。


ネタバレにならない範囲の言及となって歯がゆいが、本作のアイドルが行き着くステージは驚かされるとともに感動的ですらあった。本作は多様性の作品だ。義手のスポーツ選手が登場したり、そもそも所属アイドルは恋愛対象が女性の者も現れたりもする。アイドル文化には多様性がある、もしくは必要だという思想が感じ取れる。

それをもってして、私は本作を深く愛し「推す」のである。

(C)2021 GlitchPitch. All rights reserved. Licensed and published by Active Gaming Media Inc.

●タイトル:アイドルマネージャー
●ジャンル:アイドル事務所経営シミュレーション
●発売元:PLAYISM
●開発元:Glitch Pitch
●プラットフォーム:PC(Steam
●発売日:2021年7月27日
●価格:1980円[税込]
●必須スペック
OS: Windows XP SP3
プロセッサー: 2GHz
メモリー: 2GB
グラフィック: 1GB以上のVRAMを持つもの
ストレージ: 1GB
●推奨スペック
OS: Windows 7以上
プロセッサー: Intel Core i5-2300 または AMD FX-6300
メモリー: 4GB
グラフィック: 1GB以上のVRAMを持つもの
ストレージ: 1GB
●公式サイトURL:
https://idolmanager.net/
https://playism.com/game/idol-manager/
●ダウンロードサイトURL:
https://store.steampowered.com/app/821880/Idol_Manager/

WRITER RANKING プロゲーマーやゲーム業界人などの人気ライターランキング