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eSportsの展望とゲーム依存症を考察する ─「黒川塾」レポート
4月26日、専門学校東京ネットウェイブにて、黒川文雄氏が主宰するイベント「黒川塾」が開催された。この黒川塾は2012年から黒川氏がひとりで実施しているイベントで、この6月で6年目となる。
59回目の今回のテーマは「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」。高額賞金のかかるeSports大会の法律上の問題について以前から警鐘を鳴らしてきたカジノ研究家の木曽崇氏と、投資家でありEVO Japanの開催などにも関わっている山本一郎氏のふたりをゲストに迎えた。実は1年前の2017年2月20日にも、この両名を招いて、「景表法、カジノビジネスのエンタメ的考察」というテーマで日本におけるeSportsの課題を一度考察している。当時から様々な状況が変化しており、今回はあらためて現状に照らしての座談会となった。
ちなみに、今回の座談会でもたびたび話題に上ったJeSUにも黒川氏から参加を要請したが、現在は「プレイヤーサイドとの話に重点を置きたい」とのことで、参加はかなわなかったという。
この間、eSportsの国内での大会について高額賞金が出せないという法律上の課題が指摘され、3団体のJeSUへの統一と、プロゲーマーライセンスの認定と発行、それに伴うアマチュアの扱いに関する課題などが問われてきた。しかしこの点について木曽氏、山本氏両名とも、現行法令下で適法に大会を行い、仕事の報酬として高額賞金を出すことは、プロ、アマ問わず問題はなく、消費者庁などの見解からもそれは事実と結論づけている。
ただし、その賞金の払い方やイベント自体が風俗営業適正化法(風営法)上問題なく開催されているかが問われること、また1回の賞金の額は社会通念上認められる金額でなければならないといった要件があるなど、課題は残されている。そういう意味で木曽氏は、賞金制度ではなく「(プロ野球のように)常設リーグにしてちゃんと雇い上げるのが一番スムーズ。単発の企画で1日の1デイトーナメントで出てきた人にいくら払えるのかというのは、仕事の報酬として認められる範囲の枠があるはずだが、それは次の議論」と語る。具体的に定められた額はなく、10万円ならいい、100万、200万もあるかもしれない、では1000万はどうか……といった部分がどこまで社会通念と認められるかはこれからの課題だという。
また、こうした議論を経たうえでJeSUに望むこととして、山本氏は「いまお話が出ているのは基本的に現行法においてという縛りがあるけれど、刑法、賭博罪に問われない仕組みとか、もしくは風営法上許される枠組みとかを変えていく必要がある。たとえば2020年の東京オリンピックに向けて国民のニーズを踏まえた措置をとってもらえるようなロビーイングをしましょうとなってくれば、それはJeSUさんの存在意義があります。消費者庁に働きかけをしたり、それこそ規制みたいなものをキチンと時間をかけて、官民一体となって法律を変えよう、もしくは解釈を少し緩めてもらえるような方法を考えてもらおう!……というところまで行けば、それは業界全体にとってウエルカムなこと」とコメントしている。
特に山本氏はEVO Japanなどで大規模ゲーム大会を開催した経験から、「2デイまでは風営法上許されるが、3デイ以上になると風営法に引っかかるので会場を変えなければならない。それで興行として成立させるのは難しいため、2デイで高額賞金をとなると回らなくなってくる。サブスクリプション型のファンを抱えて、そのコンテンツの中で回収できる仕組みを作らないとこの日数での大会運営は難しい」と現実を語っている。
余談だが、リーグ制でのプロリーグ運用については、『リーグ・オブ・レジェンド』の国内リーグ「League of Legends Japan League」でも、チームに対する出演料のような扱いで支払われている。リーグ制がプロゲーマーへの報酬というかたちで明確化されている例が国内にもあることは、他の賞金型のゲーム大会を開催する際にも見習うべきところはあるのではないだろうか。
賞金問題はかなりクリアになってきたが、次の問題として懸念されているのが「eSports施設の問題」だと木曽氏は続ける。この4月に大阪で起きた、プレイ動画の配信を上映権の侵害などの理由で一斉にゲームバーが閉店したというニュースが記憶に新しいが、こうしたゲーム施設やゲームカフェなどの多くが、運営に関してゲームセンター営業と実態が同じということで、いわゆる風俗第五号営業と呼ばれる許可営業が必要となってくることが指摘された。
これについては、現在ゲーム施設を運営する側も様々な言い分を用意してはいるものの、基本的にはグレーゾーンはなく、「ほとんどの施設がNGと見なされるだろう」と木曽氏は語る。そのうえで今後の施設運営については、「一番シンプルなのは、風営法の許可のなかでやる。つまりゲームセンターとしての許可を取ってゲームセンター営業をすれば問題ない」という。もちろん、立地要件や特定のエリアでやること、人的要件、構造要件などもあるが、eSportの健全な発展を進めるという中では、今後さらに話題になるかもしれない。
このプレイヤーの派遣といった観点については、山本氏も「賞金など日本の法令下でできることはやりながら、日本の中長期の海外との選手の交換や派遣、オリンピックといった要素がからむなかで、ワールドワイドに活躍できる日本人プレイヤーを後押しできる団体として、JeSUに発展してもらいたい」と願っていると語る。
ただし一方で、日本のゲームタイトルが世界で見た場合に決して多く遊ばれているわけではないという点についても言及。日本のゲームメーカーとの協力体制を結んでいるJeSUにとって、今後海外を中心に発展しているeSportsに関わるうえで、たとえば世界大会が行われる同一ジャンルのゲームとして海外のゲームタイトルが選ばれた場合に、どのように対応していくのか、といった不安要素を指摘した。
さらに、日本でいま人気のゲームタイトルの中には、性的な表現や暴力的な表現ととられてしまうような対戦ゲームなども多く、またプレイヤー数も世界的に見ると多くはないことから、それらが世界的に正式種目として採用されることも難しいのではないか、という海外の事情も紹介している。この点で、JeSUに対しては「日本のゲームタイトルを扱ってもらえるようなロビーイング活動をぜひ行ってほしいが……。正直難しいだろう」と、両名とも語っている。
JeSUに対する要望としてもう1点、eSportsの大会を開催しやすくするという意味で、IPホルダーである日本のゲームメーカーに対しての権利料や配信時の料金といった部分の調整役として、JeSUに頑張ってほしいという要望も付け加えた。この点については、「日本で唯一の統括団体であり全国組織だからこそ、代弁できる組織としてロビーイングをしましょうとか、法的整備をしようとか、大会に対して認可を下ろしていくような仕組みを考えましょうとか、いろいろなやり方があると思います」と山本氏。ただしここは「一番稼げないところ」とも指摘しており、JeSUの立場の難しさにも理解を示した。
この依存の問題について、数年前にパチンコによるギャンブル依存症がクローズアップされた経験を踏まえ、木曽氏はカジノ研究家という立場から、「ゲーム業界をガチャ寄りの射幸性の業界としてみるとギャンブル依存、ネットゲームのような人間関係に依存しているとみると関係性依存になる」と、ふたつの切り口があると分析。山本氏はそれを受けて「前者が7万人、後者が2万人と言われている」と補足し、現在は圧倒的に借金をしてガチャにつぎ込んだりする前者が多いという。
こうした傾向は、ゲーム依存症と言われる前からゲーム業界では指摘されてきた。山本氏によれば、「関係性依存は時間なんです。徹夜してでもギルドパーティーなんかに嫌な思いをさせたくない。ただし、そういう人たちは減ってきていわば卒業する。一方で、お金を使いすぎる人、小遣いを全部はたいて使っちゃう人がハマりすぎないようにするための射幸性制限をどうやって業界のなかでやっていくかというのがまたどこかで必要になる」と説明。借金してまでガチャを回すような人がいることは事実と認めた上で、「でも、ハマる人というのはパチンコだろうがAKBだろうがハマる。対象が違うだけで、あたかも違う問題が発掘されたかのように言われるのは違うと思う」と、ゲーム依存症に限った問題ではないというところも指摘している。
特に、国内で7万人と言われるギャンブル依存、いわゆるガチャ依存に関しては、つい先日ベルギーでRMT(リアルマネートレード)がないガチャ(ルートボックス)に関しても賭博法違反とみなすという判断が下されたことが話題になっている。これまでEUでは、RMTが可能かどうかが賭博法違反とみなす基準だったが、ベルギーの件では具体的に『Overwatch』や『FIFA 18』を名指しして賭博法違反であるとしている。これらのゲームはリアルマネーでの換金はできず、ゲーム内でもキャラ性能に影響を与えないスキンなどの購入に使うガチャのみ。つまり、かなり踏み込んだ判断となっている。今後EUとしてどのように判断されるのかはまだわからないが、採択次第ではゲーム業界に大きなインパクトがあるかもしれない。
また、木曽氏はゲーム依存症の別の側面として、依存症として認められてしまうことで、医療業界の中で回復プログラムや回復施設といったビジネスにつながっていく側面もあると指摘。パチンコによるギャンブル依存症が取り沙汰された際にもそのような動きがあったとし、ゲーム依存症についても、病気として扱われてしまうことで、問題がより大きくなってしまうことへの不安を感じているという。
特に、ゲームへの依存というと、小・中学生がゲームにハマりすぎて学校に行かなくなるといったケースが必ず出てくる。さらに、ゲームを頭ごなしに悪ととらえたり、判断能力の乏しい子供にとっては害悪と考えている人々もいることも事実。そういったゲームへの反対意見が存在するなかで、「そろそろ真面目にゲーム業界も、長く遊びすぎているプレイヤーに対して、ちょっと長すぎませんかとやるような、うまいプロセスを踏まないと」と山本氏は警鐘を鳴らす。
そして、ゲーム依存症へのゲーム業界としての対策について、「業界として、CSR(社会的責任)としてやりましょう、というところはどこか線引きをしてあげるべきであって、その線引きをした上で技量を競うようなeSports的なものも含めて盛り上げていくための仕組みが必要」と山本氏は提言する。また、すべてのゲームが悪いわけではなく、たとえば『ポケモンGO』などはライトゲームユーザーを拡大するために貢献したし、Nintendo Switchも様々な人たちが遊べるような設計になっていて、いわゆる多くの人たちが手軽に遊べるものをきちんと開発していけば、これだけニーズがあって幸せな時間が増えるということもあらためて強調した。
そして「そこからハマりすぎないようにする、自分の本来やるべき生産的な活動や学業や修学、就労を妨害しないようなやり方を、他で歯止めをかけるような仕組みを作れというような要請は出てくるでしょう。そのうちのひとつがルートボックス規制みたいなものであり、それに対する日本の立ち位置をどうやって考えるかというのはそろそろ考えないといけない」と締めくくった。
この座談会が発表された当初はJeSUとの対立構図のようなかたちがどうしてもイメージされてしまい、たしかにところどころ歯に衣着せぬ発言もあった今回の黒川塾。しかし、根底にあるのは日本のeSportsと海外で日本のゲームタイトルやプレイヤーの存在感をいかに高めていくか、ということを真剣に考える場であり、JeSUも含めて「フェアな立場での話し合いを持ちたかった」という黒川氏の趣旨は徹底されていたように感じた。
国内だけでなく海外展開も見据えたかたちで、ゲームメーカーやプレイヤー、大会主催者、そして我々メディアも含めて、eSportsの発展を目指してそれぞれの立場から互いの立場を尊重しながらさらに力を注いでいければ、と気持ちを新たにした座談会だった。
59回目の今回のテーマは「eスポーツの展望とゲーム依存症を考察する会」。高額賞金のかかるeSports大会の法律上の問題について以前から警鐘を鳴らしてきたカジノ研究家の木曽崇氏と、投資家でありEVO Japanの開催などにも関わっている山本一郎氏のふたりをゲストに迎えた。実は1年前の2017年2月20日にも、この両名を招いて、「景表法、カジノビジネスのエンタメ的考察」というテーマで日本におけるeSportsの課題を一度考察している。当時から様々な状況が変化しており、今回はあらためて現状に照らしての座談会となった。
ちなみに、今回の座談会でもたびたび話題に上ったJeSUにも黒川氏から参加を要請したが、現在は「プレイヤーサイドとの話に重点を置きたい」とのことで、参加はかなわなかったという。
賞金問題はほぼクリアだが、適法でやるにはリーグ制がベスト
最初の話題は「eスポーツの展望」。主にプロリーグやプロ制度の日本でのあり方についての議論が交わされた。この間、eSportsの国内での大会について高額賞金が出せないという法律上の課題が指摘され、3団体のJeSUへの統一と、プロゲーマーライセンスの認定と発行、それに伴うアマチュアの扱いに関する課題などが問われてきた。しかしこの点について木曽氏、山本氏両名とも、現行法令下で適法に大会を行い、仕事の報酬として高額賞金を出すことは、プロ、アマ問わず問題はなく、消費者庁などの見解からもそれは事実と結論づけている。
ただし、その賞金の払い方やイベント自体が風俗営業適正化法(風営法)上問題なく開催されているかが問われること、また1回の賞金の額は社会通念上認められる金額でなければならないといった要件があるなど、課題は残されている。そういう意味で木曽氏は、賞金制度ではなく「(プロ野球のように)常設リーグにしてちゃんと雇い上げるのが一番スムーズ。単発の企画で1日の1デイトーナメントで出てきた人にいくら払えるのかというのは、仕事の報酬として認められる範囲の枠があるはずだが、それは次の議論」と語る。具体的に定められた額はなく、10万円ならいい、100万、200万もあるかもしれない、では1000万はどうか……といった部分がどこまで社会通念と認められるかはこれからの課題だという。
また、こうした議論を経たうえでJeSUに望むこととして、山本氏は「いまお話が出ているのは基本的に現行法においてという縛りがあるけれど、刑法、賭博罪に問われない仕組みとか、もしくは風営法上許される枠組みとかを変えていく必要がある。たとえば2020年の東京オリンピックに向けて国民のニーズを踏まえた措置をとってもらえるようなロビーイングをしましょうとなってくれば、それはJeSUさんの存在意義があります。消費者庁に働きかけをしたり、それこそ規制みたいなものをキチンと時間をかけて、官民一体となって法律を変えよう、もしくは解釈を少し緩めてもらえるような方法を考えてもらおう!……というところまで行けば、それは業界全体にとってウエルカムなこと」とコメントしている。
特に山本氏はEVO Japanなどで大規模ゲーム大会を開催した経験から、「2デイまでは風営法上許されるが、3デイ以上になると風営法に引っかかるので会場を変えなければならない。それで興行として成立させるのは難しいため、2デイで高額賞金をとなると回らなくなってくる。サブスクリプション型のファンを抱えて、そのコンテンツの中で回収できる仕組みを作らないとこの日数での大会運営は難しい」と現実を語っている。
余談だが、リーグ制でのプロリーグ運用については、『リーグ・オブ・レジェンド』の国内リーグ「League of Legends Japan League」でも、チームに対する出演料のような扱いで支払われている。リーグ制がプロゲーマーへの報酬というかたちで明確化されている例が国内にもあることは、他の賞金型のゲーム大会を開催する際にも見習うべきところはあるのではないだろうか。
木曽崇氏
次の問題はeSports施設
賞金問題はかなりクリアになってきたが、次の問題として懸念されているのが「eSports施設の問題」だと木曽氏は続ける。この4月に大阪で起きた、プレイ動画の配信を上映権の侵害などの理由で一斉にゲームバーが閉店したというニュースが記憶に新しいが、こうしたゲーム施設やゲームカフェなどの多くが、運営に関してゲームセンター営業と実態が同じということで、いわゆる風俗第五号営業と呼ばれる許可営業が必要となってくることが指摘された。これについては、現在ゲーム施設を運営する側も様々な言い分を用意してはいるものの、基本的にはグレーゾーンはなく、「ほとんどの施設がNGと見なされるだろう」と木曽氏は語る。そのうえで今後の施設運営については、「一番シンプルなのは、風営法の許可のなかでやる。つまりゲームセンターとしての許可を取ってゲームセンター営業をすれば問題ない」という。もちろん、立地要件や特定のエリアでやること、人的要件、構造要件などもあるが、eSportの健全な発展を進めるという中では、今後さらに話題になるかもしれない。
海外で日本のプロゲーマーが活躍するためには
JeSUがプロゲーマーのライセンスを発行する理由として、将来的にオリンピックでeSportsが正式種目になった場合の対応ということが挙げられていた。3つあった団体が統一したのも、もともとは日本人プレイヤーの海外派遣やJOC、IOCへの加盟といった目的があったとされている。ただし現在は、IPホルダーのコンプライアンスを重視するために適法な運用を行うため、と説明されている。このプレイヤーの派遣といった観点については、山本氏も「賞金など日本の法令下でできることはやりながら、日本の中長期の海外との選手の交換や派遣、オリンピックといった要素がからむなかで、ワールドワイドに活躍できる日本人プレイヤーを後押しできる団体として、JeSUに発展してもらいたい」と願っていると語る。
ただし一方で、日本のゲームタイトルが世界で見た場合に決して多く遊ばれているわけではないという点についても言及。日本のゲームメーカーとの協力体制を結んでいるJeSUにとって、今後海外を中心に発展しているeSportsに関わるうえで、たとえば世界大会が行われる同一ジャンルのゲームとして海外のゲームタイトルが選ばれた場合に、どのように対応していくのか、といった不安要素を指摘した。
さらに、日本でいま人気のゲームタイトルの中には、性的な表現や暴力的な表現ととられてしまうような対戦ゲームなども多く、またプレイヤー数も世界的に見ると多くはないことから、それらが世界的に正式種目として採用されることも難しいのではないか、という海外の事情も紹介している。この点で、JeSUに対しては「日本のゲームタイトルを扱ってもらえるようなロビーイング活動をぜひ行ってほしいが……。正直難しいだろう」と、両名とも語っている。
JeSUに対する要望としてもう1点、eSportsの大会を開催しやすくするという意味で、IPホルダーである日本のゲームメーカーに対しての権利料や配信時の料金といった部分の調整役として、JeSUに頑張ってほしいという要望も付け加えた。この点については、「日本で唯一の統括団体であり全国組織だからこそ、代弁できる組織としてロビーイングをしましょうとか、法的整備をしようとか、大会に対して認可を下ろしていくような仕組みを考えましょうとか、いろいろなやり方があると思います」と山本氏。ただしここは「一番稼げないところ」とも指摘しており、JeSUの立場の難しさにも理解を示した。
山本一郎氏
ゲーム依存症のふたつの流れ
後半は「ゲーム依存症」についての話題に移った。WHO(世界保健機関)が「ゲーム障害/ゲーム依存」という言葉を規定し、2018年に精神疾患のひとつに加えられると発表されているが、このことはeSportsを普及させようとする日本はもちろん、世界でも大きな問題となっている。この依存の問題について、数年前にパチンコによるギャンブル依存症がクローズアップされた経験を踏まえ、木曽氏はカジノ研究家という立場から、「ゲーム業界をガチャ寄りの射幸性の業界としてみるとギャンブル依存、ネットゲームのような人間関係に依存しているとみると関係性依存になる」と、ふたつの切り口があると分析。山本氏はそれを受けて「前者が7万人、後者が2万人と言われている」と補足し、現在は圧倒的に借金をしてガチャにつぎ込んだりする前者が多いという。
こうした傾向は、ゲーム依存症と言われる前からゲーム業界では指摘されてきた。山本氏によれば、「関係性依存は時間なんです。徹夜してでもギルドパーティーなんかに嫌な思いをさせたくない。ただし、そういう人たちは減ってきていわば卒業する。一方で、お金を使いすぎる人、小遣いを全部はたいて使っちゃう人がハマりすぎないようにするための射幸性制限をどうやって業界のなかでやっていくかというのがまたどこかで必要になる」と説明。借金してまでガチャを回すような人がいることは事実と認めた上で、「でも、ハマる人というのはパチンコだろうがAKBだろうがハマる。対象が違うだけで、あたかも違う問題が発掘されたかのように言われるのは違うと思う」と、ゲーム依存症に限った問題ではないというところも指摘している。
特に、国内で7万人と言われるギャンブル依存、いわゆるガチャ依存に関しては、つい先日ベルギーでRMT(リアルマネートレード)がないガチャ(ルートボックス)に関しても賭博法違反とみなすという判断が下されたことが話題になっている。これまでEUでは、RMTが可能かどうかが賭博法違反とみなす基準だったが、ベルギーの件では具体的に『Overwatch』や『FIFA 18』を名指しして賭博法違反であるとしている。これらのゲームはリアルマネーでの換金はできず、ゲーム内でもキャラ性能に影響を与えないスキンなどの購入に使うガチャのみ。つまり、かなり踏み込んだ判断となっている。今後EUとしてどのように判断されるのかはまだわからないが、採択次第ではゲーム業界に大きなインパクトがあるかもしれない。
また、木曽氏はゲーム依存症の別の側面として、依存症として認められてしまうことで、医療業界の中で回復プログラムや回復施設といったビジネスにつながっていく側面もあると指摘。パチンコによるギャンブル依存症が取り沙汰された際にもそのような動きがあったとし、ゲーム依存症についても、病気として扱われてしまうことで、問題がより大きくなってしまうことへの不安を感じているという。
特に、ゲームへの依存というと、小・中学生がゲームにハマりすぎて学校に行かなくなるといったケースが必ず出てくる。さらに、ゲームを頭ごなしに悪ととらえたり、判断能力の乏しい子供にとっては害悪と考えている人々もいることも事実。そういったゲームへの反対意見が存在するなかで、「そろそろ真面目にゲーム業界も、長く遊びすぎているプレイヤーに対して、ちょっと長すぎませんかとやるような、うまいプロセスを踏まないと」と山本氏は警鐘を鳴らす。
そして、ゲーム依存症へのゲーム業界としての対策について、「業界として、CSR(社会的責任)としてやりましょう、というところはどこか線引きをしてあげるべきであって、その線引きをした上で技量を競うようなeSports的なものも含めて盛り上げていくための仕組みが必要」と山本氏は提言する。また、すべてのゲームが悪いわけではなく、たとえば『ポケモンGO』などはライトゲームユーザーを拡大するために貢献したし、Nintendo Switchも様々な人たちが遊べるような設計になっていて、いわゆる多くの人たちが手軽に遊べるものをきちんと開発していけば、これだけニーズがあって幸せな時間が増えるということもあらためて強調した。
そして「そこからハマりすぎないようにする、自分の本来やるべき生産的な活動や学業や修学、就労を妨害しないようなやり方を、他で歯止めをかけるような仕組みを作れというような要請は出てくるでしょう。そのうちのひとつがルートボックス規制みたいなものであり、それに対する日本の立ち位置をどうやって考えるかというのはそろそろ考えないといけない」と締めくくった。
この座談会が発表された当初はJeSUとの対立構図のようなかたちがどうしてもイメージされてしまい、たしかにところどころ歯に衣着せぬ発言もあった今回の黒川塾。しかし、根底にあるのは日本のeSportsと海外で日本のゲームタイトルやプレイヤーの存在感をいかに高めていくか、ということを真剣に考える場であり、JeSUも含めて「フェアな立場での話し合いを持ちたかった」という黒川氏の趣旨は徹底されていたように感じた。
黒川文雄氏
国内だけでなく海外展開も見据えたかたちで、ゲームメーカーやプレイヤー、大会主催者、そして我々メディアも含めて、eSportsの発展を目指してそれぞれの立場から互いの立場を尊重しながらさらに力を注いでいければ、と気持ちを新たにした座談会だった。