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eSportsが流行で終わらないために必要なこととは!? 3人のキーマンが語る! 「BACKSTAGE 2018」レポート
2018年8月29日、虎ノ門ヒルズで開催された体験型マーケティングのカンファレンス「BACKSTAGE 2018」において、「eSportsが流行で終わらないためにやるべきこと ~コミュニティ育成がeSports活性化のカギ、でもいま、eSportsって、手出して大丈夫!?」セッションが開催された。
登壇したのはeSportsを盛り上げようと活躍している株式会社電通のプロデューサー菊地英雄氏。ビットキャッシュ株式会社 / eスポーツコネクト株式会社 / 株式会社JCGと3つの会社で代表取締役社長を務める伊草雅幸氏。ウェルプレイド株式会社代表取締役/CEO谷田優也氏。eSports界の最前線で活躍している三名により、eSports界を取り巻く現状やこれからについて、熱いトークが交わされた。
お二人のところには具体的にどんな話が飛び込んできましたか?
伊草:一番多いのは「eSportsのことを教えてくれ」「eSportsってなんなのか」という話ですね。いろいろな企業や自治体から問い合わせが来ています。その次のレイヤーとなると「eSportsは儲かるのか」「eSportsをどうマネタイズしたらいいのか教えてくれ」という問い合わせが多いです。「人を集める装置としてeSportsを使いたいのでイベントをやってくれないか」という問い合わせもあります。
他にもeSportsにすでに積極的に関わっている人たちからは、私どもに「イベントに参加してくれないか」という問い合わせが来ることもあります。
谷田:今年になってから問い合わせの数は二ケタ倍くらいには増えていますね。大学から「一緒に何か取り組めませんか」といった問い合わせや、地方自治体からは「こういうイベントをやって盛り上げたい」という地域を含めてどういうことができるのかという問い合わせもあります。
あとはもともと会場というか箱モノを持っている方々から「こういうことはできませんか」という問い合わせもあります。最近では映画館に人を集められないかという話があったので、僕たちがゲームコンテンツを作りますので全国の映画館で観ませんか? という取り組みのケースがあります。でもやっぱり一番多いのは「eSportsが何なのかわからないから教えてくれ」ですね(笑)。
菊地:ゲーム会社がゲームを売ったり継続率を上げるために問い合わせをするのはわかります。一方でゲームデバイス、周辺機器の方々も儲かりますよね。ここはわかるんです。しかし僕のところにも「eSportsで町おこしをしたい」という問い合わせが来たりしています。あるいは「聖地化したい」という話もあります。おそらくはeSportsが何なのか、きちんと定義されていないと思うんです。日本だと「ゲームだからスポーツじゃない」と言っている人もいますし。
例えばスポンサードしたいという企業がいたとして、担当者がゲーム好きならいいんですが、会社の上のほうから「何かeSportsというのをやっとかないとまずいからお前やっとけ」と言われちゃったレベルの人たちから問い合わせを受けたとしたら、どんな答えを返すべきだと思いますか?
伊草:結構難しいです(笑)。
菊地:答えはないと思います(笑)。今やられている中で何かお返しできるのかなと。
谷田:最初のコミュニケーションの段階で、真摯に「本当に絶対(eSportsは)必要ですか?」と話をするのが重要かなと。eSportsはヘビーユーザーやコアユーザーが多いので、イベントを開催したときに「わかってない感」が出れば出るほど炎上する可能性が高くなります。なのでまず、担当者の方に「そのコンテンツを愛せるか」という覚悟は必要だと説明します。
伊草:うちでは企業さんにとっての経営課題を確認して、問題点の解決にeSportsがマッチするかどうかという話をさせていただくことにしています。例えば通信会社さんであればトラフィックを増やしたい、加入者を増やしたいという課題があると思うんですけど、そういう話であれば聞くことができると思います。カンフル剤としての効果を期待されるとそれは難しいですねと話をさせていただきます。
ただ、どの企業も注目しているのが、TVも見ないし新聞雑誌も読まない10代や20代というネット世代なんです。この世代を自社コンテンツに引き込むためにどのような手を打つかという話をさせてもらうことは多いですね。
菊地:なるほど。ところで、今年はeSportsが大きく盛り上がっているわけですが、「何をしていいのかわからない」という方も大勢いらっしゃいます。今から「TGS」を経て年末までのあいだに、やっておいたほうがいいことはありますか?
谷田:eSportsにはいろいろなタイトルがあり、高い賞金を得ているプロプレイヤーもいますが、チャンスをもらうので精一杯な子、チャンスすらもらえない子もいます。こういった状況ですので、選手にチャンスを与え続ける企業はコミュニティにめちゃくちゃ愛される可能性があるんですね。絶対結果を残す選手に張るというメーカーさんも多いんですけど、若手にチャンスを与えて「あのメーカーさんのおかげで僕はプロになれました」という宣伝をすると、嫌われることはないと思います。
うちの社員はコミュニティに愛される場を理解するために大会に出ることもあるんですが、世界最大のeSports大会「EVO 2018」の『ポッ拳』で準優勝した人間がいます。また、スポンサードしている選手が『鉄拳7』で好成績を残したりしています。あまり話の筋と関係ないですが(笑)。
伊草:それはたくさんあって語り尽くせないと思います。先日『Overwatch』の大会にうちの選手が日本代表として出場したんですけど、韓国の代表にボコボコにやられてしまったんです。
違いはいろいろあるんですが、まずもらっているお金が違います。練習時間が違います。練習環境も違います。でも一番違うのは選手のメンタリティです。これは選手もマネージャーも口をそろえて言っていましたね。
なぜメンタリティが違うのかというと、まずeSportsを取り巻く社会環境が全然違うんです。韓国の選手にとってはeSportsは生活の一部なんです。親御さんも息子や娘がeSportsプレイヤーになりたいというと後押ししてくれるんです。eSportsプレイヤーというのが社会的にしっかり認知されていて、リスペクトされている。当然プレイヤーの層も厚くなるということです。
谷田:うちの社員が大会に出たときの話なんですが、試合をしていると選手の後ろに同じコミュニティの仲間たちが集まってきて応援し始めるんですよ。対戦席は何百とあったんですが、同じような光景を何度も見かけました。みんなで応援するという楽しみ方はものすごく幸福感があるんですよ。1プレイに一喜一憂して全力で楽しむ。その大会では3日間でのべ1万人以上の格闘ゲーム好きの人たちなんで、絶対みんな同じノリで盛り上がれるというのが伝わってきました。対戦して勝ち上がっていくことがかっこいいことだとみんな理解して楽しんでいる。そして誇らしいからまた帰ってくるというサイクルができあがってるんじゃないかと思います。
菊地:そういう世界だというのをまず理解していただきたいですよね。プロ野球やJリーグとは違うんです。それでも1万人という人が集まってくる。それを示すのがこの画像ですよね。
菊地:まず現場を見てほしいですね。
伊草:eSportsの熱狂や熱がどんなものなのか知って、こういうシーンが生まれつつあるんだというのを理解してほしいですね。
谷田:これが「EVO」の3日目で、1万3000人入る会場なんですが、人がびっしり入っています。選手がスポットライトを浴びながら戦い、それを応援してるんです。朝の9時から夜の11時くらいまで13時間くらい、ずっとみんなでイベントを楽しんでいるんですよ。
菊地:今、日本でこの規模ではできないですよね。
谷田:さいたまスーパーアリーナくらいですか。
菊地:会場はあってもこの規模では難しい……。
谷田:「EVO」が素晴らしいと思うのは、格闘ゲームというカテゴリーの中ですけど、複数のタイトルがみんな集まって、同じノリでみんなが見れて、メーカーさんも協力しあっているところです。
興味のあるタイトルを見に行って、空き時間に他のタイトルを見て「これ面白そうじゃん!」と思ってもらうことまでセットになっていて、楽しんでもらった上に広告効果もあるんですね。
eSportsはまだそこまで環境が整っていませんし、教育の仕組みができていない。職業としてもどうなのか。お二人はしっかり準備はされていると思いますが、リスクについてはどう感じていますか?
伊草:短期的なブームで終わりかねないというリスクはみなさん感じていると思います。例えば『Call of Duty』は1年で仕様がガラッと変わりほとんど違うゲームになります。プロも1からやり直しになります。新しく参入しやすいという土壌ではあるんですけど、果たしてモチベーションはついてこれるのか。継続性というのは重要で、プロ選手がダメになったらパートナー企業に紹介して就職させてもらったり、ライターになったりコーチやマネージャーになった子もいます。キャリアパスをちゃんと描いてあげるというのは大事ですね。
あとはゲーマーは社会人としての経験値が低いので、そういうところも教育してあげて、ゲーマーを辞めた後もちゃんと社会に出ていけるような下地を作ってあげて、将来に対するリスクを極力排除していくことはやっていかなければいけないと思います。
谷田:eSportsはひとつのスポーツではないというのもリスクだと思います。サッカーは100年前はサッカーだけど『ストリートファイター』は『Ⅱ』になったのが約30年前。ゲームは今年と来年と再来年で違うものになっている可能性があります。メーカーさんが出したゲームの出来だったり、売れ方によってもかなり影響を受けてしまいます。
そのあたりのひずみを受けるのは選手なので、似たベースの違うタイトルが流行ったときに、キャリアをチェンジしやすい空気をどう作り上げるのか。引退するにしてもコーチングができる形にするとか。家みたいに受け皿になれる会社がもっと増えてくれたらなと思います。
セッション終了後はFIRE SIDE CHATでのアフタートークというおまけつき。ここではセッションであまり語られなかったコミュニティについて熱いトークが繰り広げられた。
菊地:僕は広告代理店の人間なので、広告主さんからお金をいただいてバンバン広告を出すのが利益源なんですけど、ゲームの場合はテレビCMを流したら売れる時代ではなくなってきているんです。ここで重要になのがコミュニティになっていると感じます。
谷田:そうですね。eSportsで大会をやりましょうという話になったときに、その選手を応援するコミュニティが形成されているかいないかは、盛り上がりが激烈に変化するポイントになっています。
格闘ゲームの「闘劇(別記事参照「ゲーメスト杯」から「闘劇」へ、伝説の成田大会を語る ~対戦格闘ゲーム大会を作った男、猿渡雅史~ <後編>)」というイベントがあったんですが、これは地域予選を勝ち抜いた、それぞれの地方の一番強いプレイヤーが代表として戦っていたんです。甲子園でもそうだと思うんですけど「うちの地域の選手が一番強いから」と思いながら見ることによって盛り上がれるところがあると思うんです。誰も知らない選手が急に出てきて「誰?」と思われるとしらけちゃうんで、選手がコミュニティの一員であるというのはかなり重要かなと思います。
伊草:コミュニティを育成すると言われても、ピンとこない人が多いと思うんですよ。そもそもコミュニティを育てるにはみんなが集う、一緒に遊べる場所が必要なんです。日ごろネット上で会っている人が、イベントをやりたい、他のコミュニティと対戦したい、というときに必要な「リアルで遊べる場所」。これが日本は圧倒的に少ない。これは世界との一番の相違点だと思います。
例えばウチで開放している40〜50人くらいが遊べるスペースでは、年間330日以上ほぼ毎日なんらかのイベントが行われています。この間は関西の大学対抗戦を企画したんですが、ちょっとしたコミュニティに声をかけて「4校くらい集まりますかね?」なんて話をしていたら17校、180人くらい集まっちゃって入場制限をかけるはめになりました(笑)。
なんでこんなに集まってきたのかというと、やはりみんな別のコミュニティの人と話をして、仲間を増やしたいからなんですよ。「ゲームを通じて友達を作りたい」とみんなはっきり言うんですよね。これがコミュニティ育成なんだと私は思います。こういうことができる場所が、もっとたくさん必要なんじゃないかな。
谷田:公式側の動き方も重要なんですよね。最近ではコミュニティを育成したいという課題意識があるところも増えてきています。でも、コミュニティ側が自分たちで頑張っていることと、メーカー側の動きと距離感があると、コミュニティ側は引いてしまうんですよね。なので公式側から私に「あれをやりたい」「これをやりたい」っていう要望をいただいたら、「まずコミュニティの人に直接会いに行きましょう」と提案しています。
実際に、あるメーカーでは、担当者が日本全国を飛び回って5000枚くらい名刺を配ったあとに「オフ会をコミュニティ側でやるならいろいろ協力しますよ」と言ったらめちゃくちゃ応募がありました(笑)。他のゲームでもオフ会をやってくれたらメーカーのサイトに載せるとか、いろいろとサービスすると申し出たら、3カ月で700件のオフ会が開かれて、のべ3000人以上の人たちが参加しています。公式側からの歩み寄りは非常に重要です。
菊地:結局は人なんで、どう人と人とがコミュニケーションしていくのかという中で、やっぱり顔が見えないと不安になるというのは、彼女でも家族でも一緒なんですよ(笑)。
この後は質疑応答となった。アフターセッションに詰めかけた熱心なギャラリーからは、eSportsについての様々な質問が投げかけられ、お三方は丁寧に回答していた。eSportsの今後はまだまだ予断を許さないが、最前線で身体を張って啓蒙に努めるその姿は、eSportsの世界の草の根が、ゆっくりとだが広く、深く張られていっていることを感じさせるものだった。
■関連リンク
BACKSTAGE
https://backstage.tours/
電通
http://www.dentsu.co.jp/
ビットキャッシュ
http://bitcash.co.jp/docs/index
eスポーツコネクト
http://esports-connect.com/
JCG
http://www.j-cg.com/
ウェルプレイド
http://wellplayed.jp/
登壇したのはeSportsを盛り上げようと活躍している株式会社電通のプロデューサー菊地英雄氏。ビットキャッシュ株式会社 / eスポーツコネクト株式会社 / 株式会社JCGと3つの会社で代表取締役社長を務める伊草雅幸氏。ウェルプレイド株式会社代表取締役/CEO谷田優也氏。eSports界の最前線で活躍している三名により、eSports界を取り巻く現状やこれからについて、熱いトークが交わされた。
▲左から菊地氏、伊草氏、谷田氏
eSportsに関する問い合わせは10倍以上に
菊地:eSportsというビッグワードは去年の夏くらいから企画書でちょくちょくみられるようになっていました。でも去年の秋の「TGS」(東京ゲームショウ)のときには企画書にeSportsという文字を入れても動きは鈍かったんです。流れが決定的に変わったと思った瞬間は、今年の冬に開催された「EVO JAPAN」に日清食品さんがスポンサーについたこと。ここからいろいろな企業や団体から「eSportsっていうのをやりたいんだけど」という相談が一気に増えました。お二人のところには具体的にどんな話が飛び込んできましたか?
伊草:一番多いのは「eSportsのことを教えてくれ」「eSportsってなんなのか」という話ですね。いろいろな企業や自治体から問い合わせが来ています。その次のレイヤーとなると「eSportsは儲かるのか」「eSportsをどうマネタイズしたらいいのか教えてくれ」という問い合わせが多いです。「人を集める装置としてeSportsを使いたいのでイベントをやってくれないか」という問い合わせもあります。
他にもeSportsにすでに積極的に関わっている人たちからは、私どもに「イベントに参加してくれないか」という問い合わせが来ることもあります。
谷田:今年になってから問い合わせの数は二ケタ倍くらいには増えていますね。大学から「一緒に何か取り組めませんか」といった問い合わせや、地方自治体からは「こういうイベントをやって盛り上げたい」という地域を含めてどういうことができるのかという問い合わせもあります。
あとはもともと会場というか箱モノを持っている方々から「こういうことはできませんか」という問い合わせもあります。最近では映画館に人を集められないかという話があったので、僕たちがゲームコンテンツを作りますので全国の映画館で観ませんか? という取り組みのケースがあります。でもやっぱり一番多いのは「eSportsが何なのかわからないから教えてくれ」ですね(笑)。
菊地:ゲーム会社がゲームを売ったり継続率を上げるために問い合わせをするのはわかります。一方でゲームデバイス、周辺機器の方々も儲かりますよね。ここはわかるんです。しかし僕のところにも「eSportsで町おこしをしたい」という問い合わせが来たりしています。あるいは「聖地化したい」という話もあります。おそらくはeSportsが何なのか、きちんと定義されていないと思うんです。日本だと「ゲームだからスポーツじゃない」と言っている人もいますし。
例えばスポンサードしたいという企業がいたとして、担当者がゲーム好きならいいんですが、会社の上のほうから「何かeSportsというのをやっとかないとまずいからお前やっとけ」と言われちゃったレベルの人たちから問い合わせを受けたとしたら、どんな答えを返すべきだと思いますか?
伊草:結構難しいです(笑)。
菊地:答えはないと思います(笑)。今やられている中で何かお返しできるのかなと。
谷田:最初のコミュニケーションの段階で、真摯に「本当に絶対(eSportsは)必要ですか?」と話をするのが重要かなと。eSportsはヘビーユーザーやコアユーザーが多いので、イベントを開催したときに「わかってない感」が出れば出るほど炎上する可能性が高くなります。なのでまず、担当者の方に「そのコンテンツを愛せるか」という覚悟は必要だと説明します。
伊草:うちでは企業さんにとっての経営課題を確認して、問題点の解決にeSportsがマッチするかどうかという話をさせていただくことにしています。例えば通信会社さんであればトラフィックを増やしたい、加入者を増やしたいという課題があると思うんですけど、そういう話であれば聞くことができると思います。カンフル剤としての効果を期待されるとそれは難しいですねと話をさせていただきます。
ただ、どの企業も注目しているのが、TVも見ないし新聞雑誌も読まない10代や20代というネット世代なんです。この世代を自社コンテンツに引き込むためにどのような手を打つかという話をさせてもらうことは多いですね。
菊地:なるほど。ところで、今年はeSportsが大きく盛り上がっているわけですが、「何をしていいのかわからない」という方も大勢いらっしゃいます。今から「TGS」を経て年末までのあいだに、やっておいたほうがいいことはありますか?
谷田:eSportsにはいろいろなタイトルがあり、高い賞金を得ているプロプレイヤーもいますが、チャンスをもらうので精一杯な子、チャンスすらもらえない子もいます。こういった状況ですので、選手にチャンスを与え続ける企業はコミュニティにめちゃくちゃ愛される可能性があるんですね。絶対結果を残す選手に張るというメーカーさんも多いんですけど、若手にチャンスを与えて「あのメーカーさんのおかげで僕はプロになれました」という宣伝をすると、嫌われることはないと思います。
うちの社員はコミュニティに愛される場を理解するために大会に出ることもあるんですが、世界最大のeSports大会「EVO 2018」の『ポッ拳』で準優勝した人間がいます。また、スポンサードしている選手が『鉄拳7』で好成績を残したりしています。あまり話の筋と関係ないですが(笑)。
世界と日本のeSports格差
菊地:世界大会で活躍する選手も多く出ていて盛り上がってきてもいますが、世界と日本には決定的な差があると感じています。実際に世界を見てきているお二人からは日本と世界の差はどのように映っていますか?伊草:それはたくさんあって語り尽くせないと思います。先日『Overwatch』の大会にうちの選手が日本代表として出場したんですけど、韓国の代表にボコボコにやられてしまったんです。
違いはいろいろあるんですが、まずもらっているお金が違います。練習時間が違います。練習環境も違います。でも一番違うのは選手のメンタリティです。これは選手もマネージャーも口をそろえて言っていましたね。
なぜメンタリティが違うのかというと、まずeSportsを取り巻く社会環境が全然違うんです。韓国の選手にとってはeSportsは生活の一部なんです。親御さんも息子や娘がeSportsプレイヤーになりたいというと後押ししてくれるんです。eSportsプレイヤーというのが社会的にしっかり認知されていて、リスペクトされている。当然プレイヤーの層も厚くなるということです。
谷田:うちの社員が大会に出たときの話なんですが、試合をしていると選手の後ろに同じコミュニティの仲間たちが集まってきて応援し始めるんですよ。対戦席は何百とあったんですが、同じような光景を何度も見かけました。みんなで応援するという楽しみ方はものすごく幸福感があるんですよ。1プレイに一喜一憂して全力で楽しむ。その大会では3日間でのべ1万人以上の格闘ゲーム好きの人たちなんで、絶対みんな同じノリで盛り上がれるというのが伝わってきました。対戦して勝ち上がっていくことがかっこいいことだとみんな理解して楽しんでいる。そして誇らしいからまた帰ってくるというサイクルができあがってるんじゃないかと思います。
▲選手もギャラリーも一体となって大会を楽しめるのがeSports
菊地:そういう世界だというのをまず理解していただきたいですよね。プロ野球やJリーグとは違うんです。それでも1万人という人が集まってくる。それを示すのがこの画像ですよね。
▲他のスポーツとeSportsの違いは、選手とギャラリーが同じ方向の画面を見ていること
菊地:まず現場を見てほしいですね。
伊草:eSportsの熱狂や熱がどんなものなのか知って、こういうシーンが生まれつつあるんだというのを理解してほしいですね。
谷田:これが「EVO」の3日目で、1万3000人入る会場なんですが、人がびっしり入っています。選手がスポットライトを浴びながら戦い、それを応援してるんです。朝の9時から夜の11時くらいまで13時間くらい、ずっとみんなでイベントを楽しんでいるんですよ。
菊地:今、日本でこの規模ではできないですよね。
谷田:さいたまスーパーアリーナくらいですか。
菊地:会場はあってもこの規模では難しい……。
谷田:「EVO」が素晴らしいと思うのは、格闘ゲームというカテゴリーの中ですけど、複数のタイトルがみんな集まって、同じノリでみんなが見れて、メーカーさんも協力しあっているところです。
興味のあるタイトルを見に行って、空き時間に他のタイトルを見て「これ面白そうじゃん!」と思ってもらうことまでセットになっていて、楽しんでもらった上に広告効果もあるんですね。
eSportsのキャリアパス
菊地:ただ、ひとつ懸念があって、eSportsという言葉が中身がない状態で流行りすぎちゃってるなという危機感がある。今って情報の消費速度がめちゃめちゃ早いじゃないですか。一瞬でみんなで総攻撃して使い果たしてハイ終わり。まだマーケットとして確立していないありがちなマイナースポーツになりかねない状況だなと思っています。eSportsはまだそこまで環境が整っていませんし、教育の仕組みができていない。職業としてもどうなのか。お二人はしっかり準備はされていると思いますが、リスクについてはどう感じていますか?
伊草:短期的なブームで終わりかねないというリスクはみなさん感じていると思います。例えば『Call of Duty』は1年で仕様がガラッと変わりほとんど違うゲームになります。プロも1からやり直しになります。新しく参入しやすいという土壌ではあるんですけど、果たしてモチベーションはついてこれるのか。継続性というのは重要で、プロ選手がダメになったらパートナー企業に紹介して就職させてもらったり、ライターになったりコーチやマネージャーになった子もいます。キャリアパスをちゃんと描いてあげるというのは大事ですね。
あとはゲーマーは社会人としての経験値が低いので、そういうところも教育してあげて、ゲーマーを辞めた後もちゃんと社会に出ていけるような下地を作ってあげて、将来に対するリスクを極力排除していくことはやっていかなければいけないと思います。
谷田:eSportsはひとつのスポーツではないというのもリスクだと思います。サッカーは100年前はサッカーだけど『ストリートファイター』は『Ⅱ』になったのが約30年前。ゲームは今年と来年と再来年で違うものになっている可能性があります。メーカーさんが出したゲームの出来だったり、売れ方によってもかなり影響を受けてしまいます。
そのあたりのひずみを受けるのは選手なので、似たベースの違うタイトルが流行ったときに、キャリアをチェンジしやすい空気をどう作り上げるのか。引退するにしてもコーチングができる形にするとか。家みたいに受け皿になれる会社がもっと増えてくれたらなと思います。
アフターセッションではさらに熱く
▲お三方ともまだまだ語り足りない様子だった
セッション終了後はFIRE SIDE CHATでのアフタートークというおまけつき。ここではセッションであまり語られなかったコミュニティについて熱いトークが繰り広げられた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
菊地:僕は広告代理店の人間なので、広告主さんからお金をいただいてバンバン広告を出すのが利益源なんですけど、ゲームの場合はテレビCMを流したら売れる時代ではなくなってきているんです。ここで重要になのがコミュニティになっていると感じます。
谷田:そうですね。eSportsで大会をやりましょうという話になったときに、その選手を応援するコミュニティが形成されているかいないかは、盛り上がりが激烈に変化するポイントになっています。
格闘ゲームの「闘劇(別記事参照「ゲーメスト杯」から「闘劇」へ、伝説の成田大会を語る ~対戦格闘ゲーム大会を作った男、猿渡雅史~ <後編>)」というイベントがあったんですが、これは地域予選を勝ち抜いた、それぞれの地方の一番強いプレイヤーが代表として戦っていたんです。甲子園でもそうだと思うんですけど「うちの地域の選手が一番強いから」と思いながら見ることによって盛り上がれるところがあると思うんです。誰も知らない選手が急に出てきて「誰?」と思われるとしらけちゃうんで、選手がコミュニティの一員であるというのはかなり重要かなと思います。
伊草:コミュニティを育成すると言われても、ピンとこない人が多いと思うんですよ。そもそもコミュニティを育てるにはみんなが集う、一緒に遊べる場所が必要なんです。日ごろネット上で会っている人が、イベントをやりたい、他のコミュニティと対戦したい、というときに必要な「リアルで遊べる場所」。これが日本は圧倒的に少ない。これは世界との一番の相違点だと思います。
例えばウチで開放している40〜50人くらいが遊べるスペースでは、年間330日以上ほぼ毎日なんらかのイベントが行われています。この間は関西の大学対抗戦を企画したんですが、ちょっとしたコミュニティに声をかけて「4校くらい集まりますかね?」なんて話をしていたら17校、180人くらい集まっちゃって入場制限をかけるはめになりました(笑)。
なんでこんなに集まってきたのかというと、やはりみんな別のコミュニティの人と話をして、仲間を増やしたいからなんですよ。「ゲームを通じて友達を作りたい」とみんなはっきり言うんですよね。これがコミュニティ育成なんだと私は思います。こういうことができる場所が、もっとたくさん必要なんじゃないかな。
谷田:公式側の動き方も重要なんですよね。最近ではコミュニティを育成したいという課題意識があるところも増えてきています。でも、コミュニティ側が自分たちで頑張っていることと、メーカー側の動きと距離感があると、コミュニティ側は引いてしまうんですよね。なので公式側から私に「あれをやりたい」「これをやりたい」っていう要望をいただいたら、「まずコミュニティの人に直接会いに行きましょう」と提案しています。
実際に、あるメーカーでは、担当者が日本全国を飛び回って5000枚くらい名刺を配ったあとに「オフ会をコミュニティ側でやるならいろいろ協力しますよ」と言ったらめちゃくちゃ応募がありました(笑)。他のゲームでもオフ会をやってくれたらメーカーのサイトに載せるとか、いろいろとサービスすると申し出たら、3カ月で700件のオフ会が開かれて、のべ3000人以上の人たちが参加しています。公式側からの歩み寄りは非常に重要です。
菊地:結局は人なんで、どう人と人とがコミュニケーションしていくのかという中で、やっぱり顔が見えないと不安になるというのは、彼女でも家族でも一緒なんですよ(笑)。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
この後は質疑応答となった。アフターセッションに詰めかけた熱心なギャラリーからは、eSportsについての様々な質問が投げかけられ、お三方は丁寧に回答していた。eSportsの今後はまだまだ予断を許さないが、最前線で身体を張って啓蒙に努めるその姿は、eSportsの世界の草の根が、ゆっくりとだが広く、深く張られていっていることを感じさせるものだった。
■関連リンク
BACKSTAGE
https://backstage.tours/
電通
http://www.dentsu.co.jp/
ビットキャッシュ
http://bitcash.co.jp/docs/index
eスポーツコネクト
http://esports-connect.com/
JCG
http://www.j-cg.com/
ウェルプレイド
http://wellplayed.jp/