eSPORTS eスポーツに関する最新情報をチェック!
「FAV gamingはeiNsと同じ覚悟を持っていた」FAV gaming『R6S』部門 ShiN選手インタビュー<後編>
前編に引き続き、PC版『レインボーシックス シージ(R6S)』の国内競技シーンの第一人者であるShiN選手インタビューをお届けする。
ShiN選手が中心のチームeiNsは2018年12月、FAV gamingに加入した。それまでずっとアマチュアチームとして活躍していたeiNsがプロチームになったのは、大きな転換期となったわけだが、FAV gamingはなぜShiN選手らを勧誘したのか。そしてeiNsらShiN選手は何を条件に受け入れたのか。
後編では、株式会社Gzブレイン メディアプラットフォーム事業本部 ネットプラットフォーム部 マネジメントセクションから石坂浩世氏にも同席していただき、加入の経緯を中心に話を聞いた。
石坂 ファミ通編集部員に熱心な『R6S』ファンがいまして、その部員がFAV Gameingで『R6S』部門を立ち上げたいという要望書を作成したんです。その段階ですでに「eiNsをFAV gamingに」という内容でした。というか、半分は「eiNs大好き」って書いてあるようなもので(笑)、とにかく熱量がすごい資料だったんです。会社としても格闘ゲームや『クラッシュ・ロワイヤル』以外にも……というタイミングだったこともあり、『R6S』部門を立ち上げることになりました。
ShiN その編集部員さんは海外試合も含めて、僕たちがぜんぜん有名じゃない頃からずっと取材してくれていました。
――加入に関してはどんな感じでお話されたのでしょう?
石坂 今だから言えますが、実際に会ってみてから判断しようと思っていました。だから最初はあまり具体的な話というより、まずちょっと会ってお話ししませんか、というふんわりしたところからShiNに相談しました。プロシーンに対して意識が低かったり、プロになることについて本気じゃないなって思ったら退こうって思っていたんです。なので、最初にご連絡したときは明確に「FAV gamingに入っていただけませんか」みたいなことは言っていなかった気がします。
――ShiN選手はそのあたりどう感じていましたか? FAV gamingの人が話をしたいといったら、そりゃそういう話かな? っていうは感じますよね?
ShiN 実は海外も含めて他チームからも声がかかっていたんですけど、なかなか実際に会ってお話しすることはなかったんです。ほとんどかメールとかメッセージのやりとりだけで。相手がどう考えて僕たちにオファーしているのかとか、表情もわからないので全部お断りしていたんです。
でもFAV gamingは実際会ってくださったし、一番熱意も感じました。
――運営側としては実際にお会いしてどうでしたか?
石坂 見定めたかったところは「覚悟」と「意思」があるかどうかです。明確にそれが見えるかどうかという点が判断のポイントだったと思います。そこが見えないと、どんなに強いチームだったとしても、こちらが何をしてあげればいいかがわからないので……。ShiNに会って話をしたら、そこはもう本当に明確でした。今でもそこはブレていないですね。
――ShiN選手はFAV gamingへ加入してプロチームに、という話を面と向かって聞いたときはどう思われたのですか?
ShiN 僕だけでは判断できないので、もちろんチームメイトと話をしました。お会いして話をしたら何を目的で来てくれたのがはっきりしましたし、チームメイトにも説明しやすかったです。
メンバーはみんな「すごい!」という反応だったのですが、「俺たちじゃなくてShiNだけに来ている話なんじゃないの?」という話もありました。
例えば他のメンバーはいらないからキミだけとりあえず入って! だったり、チームごとであっても僕らの活動内容より「とにかく勝てばいい」だったら、即断っていました。
でもFAV gamingは、僕たちの活動内容を理解してくれたうえで、「そこも含めて一緒にやりましょう」だったんです。
――運営側として、ShiN選手率いる『R6S』チームに求めるものは何でしょう?
石坂 『R6S』はチームメンバーの入れ替えが激しい競技だと思っています。私たちは長くチームを育てたいという方針があるので、そもそも1年近く同じメンバーで試合に出場しているという部分にまず安心感がありました。ここに明確な意思が見えたというのもあります。
FAV gamingの最大のメリットは、ファミ通グループという媒体があるところなのですが、媒体に出していく機会も多いのでひとりひとりのパーソナルをちゃんと打ち出していきたいという目的もありました。選手を丁寧に紹介していくことが、eスポーツを面白くすることでもあると思っています。
そんな中、eiNsは同じメンバーでやり続けていく覚悟や意思が見えました。そこに私たちがモットーとしている「プレイや行動を通じて常に成長し、すべての世代に愛される(好かれる)ようなチーム」という雰囲気を感じたんです。そこはFAVgamingの方針と非常にマッチングが高かったですね。
――ShiN選手ら『R6S』チームのメンバーとは、いわゆるプロ選手としての契約をしている、ということでよろしいですか?
石坂 そうですね。選手・コーチ・アナリストには普段のチーム活動やFAVgamingの広報活動として活動費用としてお支払いさせていただいています。より良い環境作りのため、定期的な東京合宿や取材イベントの移動宿泊費負担など支援しています。
他のチームはどうやって運営をされているかはわからないんですけど、私たちは彼らに社会との関わりを遮断したくないと思っているんです。そのため、働くことや学生を続けることは、可能なかぎりこれまでどおりに続けてほしいと思っています。
ShiN 2018年3月に結成したチームで約1年間やってきたので、みんなも成長していたし、Sengoku Gamingさえ倒せばいけると思っていました。僕も他のメンバーも基本的にはいつも通りの雰囲気でやっていましたね、リラックスして。
――試合内容を振り返ってみていかがでしたか?
ShiN 1回戦の相手は、僕たちがeiNs時代に倒したことのあるAerowolfだったので、今まで練習してきたことをやれば勝てるからとチームメンバーにずっと言っていました。結果は2-1で、「おお、勝てるじゃん!」って。「みんなが練習してきたことはここにつながっているんだぞ」ということをわかってもらえたと思います。
今のところちゃんと結果も出ているので、短期的にではなく長期的な考えを持って成長して結果を出す、ということができるようになってきました。
――ShiN選手が狙ってきたものがここに結実、という感じですね。
ShiN そうですね。もちろん「Six Invitational 2019」自体も出たかったんですけど、APACファイナルの決勝でmantis FPSに負けてしまいました。そこで負けたこともちろん悔しかったのですが、それ以上に今のメンバーに海外のオフライン大会を経験させられた、ということが大きいですね。
「勝てなかった!」「もうだめだ」ではなくて、その経験をさらに先に伸ばすために、何が足りなかったのだろうと反省したり、メンバー全員で現地で一緒に生活できたことは貴重な経験になったとは思います。
たとえばオフラインでみんなでひとつの画面を見ながら、「こことここが悪かったね」と指さしながら話し合ったりとか、「キミはどう思う?」と表情を見ながら会話できたので、今後どうやって修正していったらいいのか、方向性も見えました。
石坂 Gzブレイン内に『R6S』専用トレーニングルームを常設しており、そこは自由に使えるようにします。ただ、メンバーみんな生活環境が違うのでそこはフレキシブルに考えています。
今年はShiNが就職しますし、新しいメンバーが加入したりしているので、そういう意味でもこのチームも形は変わり続けていくのかな、と。
ShiN 2020年から関東に出てくる人も多いので、そうなったらここのトレーニングルームをゲーミングオフィス的な形で使えればいいかなあ、と。月に何回か集まって話し合ったり、練習してココがよかった、ダメだったとか言い合えるといいかな、と思っています。
――たとえばゲーミングハウスはどうでしょう?
ShiN ゲームでは気が合うけど、プライベートでは気が合わないって人もいるんですよ。それが起こっちゃうとゲーミングハウスの中で気まずい空気ができてしまうので。そういうデメリットもあるんです。
実際、チームスポーツをやっている選手同士でも、オフは全然会わないという話もありますし。
それに、世界大会常連でチャンピオンにもなっているG2 Esportsは、普段の練習はオンラインなんですよ。オフラインは月に数回。普段はプライベートが確保されていて、大事な練習のときはみんな集まって問題点を話し合う。僕はそのスタイルが理想だと思っています。
石坂 ゲーミングハウスなしで強くなれるの? という意見もあります。ただ、私たちはあくまでもeiNsが今まで築いてきたやり方をそのまま続けてもらいたいと思ってFAV gamingに入ってもらったので、現時点ではゲーミングハウスの計画はありません。
ShiN 他のチームを見ても、ゲーミングハウスのあるなしですごく差があるとは思っていません。もし『R6S』が昼間でもスクリムの環境が整うんだったら話は変わってくると思うんですが、それもなさそうなので。
――ShiN選手自身、今年から社会人として働きつつも『R6S』のプロゲーマーとして活躍するわけですが、たとえば社会人としての仕事とプロゲーマーのどちらかに絞る、という判断はなかったのでしょうか?
ShiN それは今まで通り大学院の研究室と一緒だと思っています。もし『R6S』が昼間も練習できる環境だったら、プロゲーマーの活動を優先してもいいと思っています。
でもこのゲーム、昼間はほとんど対戦相手がいないんですよ。オンラインが賑やかになってくるのは夜9時からなんです。だったら昼間は普通に働けますよね。深夜型になってもせいぜい午前1時くらいまでですから。
ShiN 僕自身は全然そんなふうに思っていないんです。
なぜかというと、ひとつはずっと「チームのこと」を考えているからです。チームの今後のことをずっと考えています。正直なところ、僕に代わる人がいれば引いてもいいんです。今は後進を育てる活動ができればと思っているので。
――お話をうかがっていても、どちらかと言えば自分が前に出るよりマネジメント側に近い感覚なのですね?
ShiN そうです。メインメンバーの中から僕より秀でている選手が出てきたら、「あとは任せるわ」ってできますし、もし僕がいないほうがいいって言われたらぜんぜん引きますよ。チームがいい方向に向かっていくのであれば、僕自身どうなってもいいと思っているので。
――プロ選手の中でそういう考え方は珍しいほうかなと思うのですが、その考え方に至ったのは何かキッカケがあるのでしょうか?
ShiN ひとつはチームプレーのことばかりを考えていたということもありますね。『R6S』というゲームは1人だけでどうこうできるゲームではないですし。
それから、この『R6S』というゲームが大好き! というのも大きいです。
ゲームが好きだからうまくなりたい、うまくなるには何をしたらいいのかと練習していると競技シーンもやってみたくなる。それで、競技シーンで強くなるための練習をし始めると、今度は強いチームに勝つにはどうしたらいいか考えるようになる……といったかたちで、逆算逆算でずっと考え続けてきた結果、でしょうか。
――その考えに24、5歳の方が到達してるというのがすごすぎますね……。ちなみに、選手として自分の腕前はどの程度の自信がおありですか?
ShiN ほとんど自信ないですね。ただ、味方をいつも信じています。後ろを守ってくれていると思ってやっているので、僕は自分ができることをやっている感じです。
――でも、必ずしもそうならないこともありますよね? それこそ後ろを守り切れなかったり……。
ShiN そういうこともあります。でも、疑い始めたらダメなんですよ。ですから、失敗しても何をしても仲間を信じ切ってやらないとダメですね。
たとえミスしてもそれを補うように僕もプレイするから、キミもミスを恐れずに自分ができることをプレイしてくれ! と伝えています。もしカバーできていなかったら、それは僕がもっと「後ろをカバーして!」と言えればよかった、僕の責任だからごめん、って感じでやっています。
――ShiN選手のようにうまくなりたいという人は多いと思うのですが、練習方法やアドバイスなどはありますか?
ShiN チームのことを考える時に、僕が参考にしていることをお話ししますね。
アメリカのプロバスケットボールリーグのNBAに、サンアントニオ・スパーズというチームがあって、僕、このチームが大好きなんですよ。スター選手がいるわけでもないのに、ずっと上位グループなんです。
強いチームであり続けるためにどんなことをやっているのかというと、まず絶対に揺るがないチームスタイルの確立があって、そのスタイルを実現するためにどうしたらいいかということを、コーチが選手に教えているんです。
選手に求められるものは、コーチの考えを実現するための練習をすること。技術なのか知識なのか、何が足りないのかを考えて、それを補うために練習するんです。
こういう考えは『R6S』の初心者から中堅クラスのチームに言えることだと思うので、チームのために何がしたいのか、何ができるのか、何が足りないのか、といったところから練習内容を考えると成長できると思います。
――逆に、ShiN選手ご自身が自分に足りていないと思っていることは何ですか?
ShiN そうですね、今足りないものは何だろう……うまく伝えることですかね。意外とコミュニケーションエラーとか、間違ったことを言ってしまうことがあるので、今そのときに伝えるべき内容の精度を高めてわかりやすく伝えられるようになりたいですね。
――やはりチーム戦の競技はコミュニケーションが大事ですからね。
ShiN それが基本なんですよ。別にゲームに限らず、学校でも会社でも。全部の基本ですね。基本だからこそ難しい部分もあります。基本ができれば応用もできます。
――……何だか今日はすごくためになる話を聞かせていただいた感じがします。50歳くらいの先生に話を聞いたみたいです(笑)。
ShiN 僕、子供の頃からそういう感じだったみたいです。学校の先生が一番向いているって言われていました。僕自身は本当に知名度とかいらないんです。チームのためなら何もいらないっていう感じですね。
ShiN選手のすごさは、自ら設立したチームで勝利し、世界に進出したことはもちろんだが、それを数多ある国内のプロチームを相手に、アマチュアチームとして実現してしまったということだ。
技術も時間もデータも、アマチュアだからプロにかなわないということは決してない。常にチームのことを第一に考え、ShiN選手自らが信じる方法でまとめ上げてきたeiNsというアマチュアチームが、FAV gaminigというプロチームに生まれ変わったというサクセスストーリーが、それを証明している。
そして、そんなeiNsが培ってきたやり方を尊重し、勝利のみを目的としないeスポーツチームのあり方を語るFAV gamingもまた、ビジネスとしてのeスポーツチーム設立とは異なる、明確なポリシーが感じられた。
これからも『R6S』の頂点を目指していくFAV gaming、そしてShiN選手を、ALIENWARE ZONEとしても追いかけていきたい。
■関連リンク
FAV gamingのTwitter
https://twitter.com/fav_gaming
ShiN選手のTwitter
https://twitter.com/shinr609
レインボーシックス シージ
http://www.ubisoft.co.jp/r6s/
ShiN選手が中心のチームeiNsは2018年12月、FAV gamingに加入した。それまでずっとアマチュアチームとして活躍していたeiNsがプロチームになったのは、大きな転換期となったわけだが、FAV gamingはなぜShiN選手らを勧誘したのか。そしてeiNsらShiN選手は何を条件に受け入れたのか。
後編では、株式会社Gzブレイン メディアプラットフォーム事業本部 ネットプラットフォーム部 マネジメントセクションから石坂浩世氏にも同席していただき、加入の経緯を中心に話を聞いた。
▲FAV gaming『レインボーシックス シージ』部門 ShiN選手(右)と、『R6S』部門マネージャーを務める石坂浩世氏
FAV gamingの熱意と、eiNsの覚悟と意思が出会って
――2018年12月にeiNsがFAV gamingに加入することになります。このあたりキッカケを、まずはFAV Gamingの石坂さんからお話を聞かせてください。石坂 ファミ通編集部員に熱心な『R6S』ファンがいまして、その部員がFAV Gameingで『R6S』部門を立ち上げたいという要望書を作成したんです。その段階ですでに「eiNsをFAV gamingに」という内容でした。というか、半分は「eiNs大好き」って書いてあるようなもので(笑)、とにかく熱量がすごい資料だったんです。会社としても格闘ゲームや『クラッシュ・ロワイヤル』以外にも……というタイミングだったこともあり、『R6S』部門を立ち上げることになりました。
ShiN その編集部員さんは海外試合も含めて、僕たちがぜんぜん有名じゃない頃からずっと取材してくれていました。
――加入に関してはどんな感じでお話されたのでしょう?
石坂 今だから言えますが、実際に会ってみてから判断しようと思っていました。だから最初はあまり具体的な話というより、まずちょっと会ってお話ししませんか、というふんわりしたところからShiNに相談しました。プロシーンに対して意識が低かったり、プロになることについて本気じゃないなって思ったら退こうって思っていたんです。なので、最初にご連絡したときは明確に「FAV gamingに入っていただけませんか」みたいなことは言っていなかった気がします。
――ShiN選手はそのあたりどう感じていましたか? FAV gamingの人が話をしたいといったら、そりゃそういう話かな? っていうは感じますよね?
ShiN 実は海外も含めて他チームからも声がかかっていたんですけど、なかなか実際に会ってお話しすることはなかったんです。ほとんどかメールとかメッセージのやりとりだけで。相手がどう考えて僕たちにオファーしているのかとか、表情もわからないので全部お断りしていたんです。
でもFAV gamingは実際会ってくださったし、一番熱意も感じました。
――運営側としては実際にお会いしてどうでしたか?
石坂 見定めたかったところは「覚悟」と「意思」があるかどうかです。明確にそれが見えるかどうかという点が判断のポイントだったと思います。そこが見えないと、どんなに強いチームだったとしても、こちらが何をしてあげればいいかがわからないので……。ShiNに会って話をしたら、そこはもう本当に明確でした。今でもそこはブレていないですね。
――ShiN選手はFAV gamingへ加入してプロチームに、という話を面と向かって聞いたときはどう思われたのですか?
ShiN 僕だけでは判断できないので、もちろんチームメイトと話をしました。お会いして話をしたら何を目的で来てくれたのがはっきりしましたし、チームメイトにも説明しやすかったです。
メンバーはみんな「すごい!」という反応だったのですが、「俺たちじゃなくてShiNだけに来ている話なんじゃないの?」という話もありました。
例えば他のメンバーはいらないからキミだけとりあえず入って! だったり、チームごとであっても僕らの活動内容より「とにかく勝てばいい」だったら、即断っていました。
でもFAV gamingは、僕たちの活動内容を理解してくれたうえで、「そこも含めて一緒にやりましょう」だったんです。
▲2018年12月12日、ShiN選手のツイートより
――運営側として、ShiN選手率いる『R6S』チームに求めるものは何でしょう?
石坂 『R6S』はチームメンバーの入れ替えが激しい競技だと思っています。私たちは長くチームを育てたいという方針があるので、そもそも1年近く同じメンバーで試合に出場しているという部分にまず安心感がありました。ここに明確な意思が見えたというのもあります。
FAV gamingの最大のメリットは、ファミ通グループという媒体があるところなのですが、媒体に出していく機会も多いのでひとりひとりのパーソナルをちゃんと打ち出していきたいという目的もありました。選手を丁寧に紹介していくことが、eスポーツを面白くすることでもあると思っています。
そんな中、eiNsは同じメンバーでやり続けていく覚悟や意思が見えました。そこに私たちがモットーとしている「プレイや行動を通じて常に成長し、すべての世代に愛される(好かれる)ようなチーム」という雰囲気を感じたんです。そこはFAVgamingの方針と非常にマッチングが高かったですね。
――ShiN選手ら『R6S』チームのメンバーとは、いわゆるプロ選手としての契約をしている、ということでよろしいですか?
石坂 そうですね。選手・コーチ・アナリストには普段のチーム活動やFAVgamingの広報活動として活動費用としてお支払いさせていただいています。より良い環境作りのため、定期的な東京合宿や取材イベントの移動宿泊費負担など支援しています。
他のチームはどうやって運営をされているかはわからないんですけど、私たちは彼らに社会との関わりを遮断したくないと思っているんです。そのため、働くことや学生を続けることは、可能なかぎりこれまでどおりに続けてほしいと思っています。
APAC Finalで得た海外大会の経験
――どちらも互いに方向性が合致したっていう感じですね。そして、FAV gamingとしては最初の大きな大会である「Six Invitational 2019」のAPAC Finalまでいきました。ShiN 2018年3月に結成したチームで約1年間やってきたので、みんなも成長していたし、Sengoku Gamingさえ倒せばいけると思っていました。僕も他のメンバーも基本的にはいつも通りの雰囲気でやっていましたね、リラックスして。
▲2019年1月「Six Invitational 2019 APAC」ファイナル
――試合内容を振り返ってみていかがでしたか?
ShiN 1回戦の相手は、僕たちがeiNs時代に倒したことのあるAerowolfだったので、今まで練習してきたことをやれば勝てるからとチームメンバーにずっと言っていました。結果は2-1で、「おお、勝てるじゃん!」って。「みんなが練習してきたことはここにつながっているんだぞ」ということをわかってもらえたと思います。
今のところちゃんと結果も出ているので、短期的にではなく長期的な考えを持って成長して結果を出す、ということができるようになってきました。
――ShiN選手が狙ってきたものがここに結実、という感じですね。
ShiN そうですね。もちろん「Six Invitational 2019」自体も出たかったんですけど、APACファイナルの決勝でmantis FPSに負けてしまいました。そこで負けたこともちろん悔しかったのですが、それ以上に今のメンバーに海外のオフライン大会を経験させられた、ということが大きいですね。
「勝てなかった!」「もうだめだ」ではなくて、その経験をさらに先に伸ばすために、何が足りなかったのだろうと反省したり、メンバー全員で現地で一緒に生活できたことは貴重な経験になったとは思います。
たとえばオフラインでみんなでひとつの画面を見ながら、「こことここが悪かったね」と指さしながら話し合ったりとか、「キミはどう思う?」と表情を見ながら会話できたので、今後どうやって修正していったらいいのか、方向性も見えました。
FAV gamingでの練習も、eiNs時代と同じやり方で
――今後FAV gamingとしての活動はオンラインでの練習がメインとなりますか? たとえばゲーミングハウスを用意する予定はありますでしょうか?石坂 Gzブレイン内に『R6S』専用トレーニングルームを常設しており、そこは自由に使えるようにします。ただ、メンバーみんな生活環境が違うのでそこはフレキシブルに考えています。
今年はShiNが就職しますし、新しいメンバーが加入したりしているので、そういう意味でもこのチームも形は変わり続けていくのかな、と。
ShiN 2020年から関東に出てくる人も多いので、そうなったらここのトレーニングルームをゲーミングオフィス的な形で使えればいいかなあ、と。月に何回か集まって話し合ったり、練習してココがよかった、ダメだったとか言い合えるといいかな、と思っています。
▲FAV gaming 練習オフィス風景
――たとえばゲーミングハウスはどうでしょう?
ShiN ゲームでは気が合うけど、プライベートでは気が合わないって人もいるんですよ。それが起こっちゃうとゲーミングハウスの中で気まずい空気ができてしまうので。そういうデメリットもあるんです。
実際、チームスポーツをやっている選手同士でも、オフは全然会わないという話もありますし。
それに、世界大会常連でチャンピオンにもなっているG2 Esportsは、普段の練習はオンラインなんですよ。オフラインは月に数回。普段はプライベートが確保されていて、大事な練習のときはみんな集まって問題点を話し合う。僕はそのスタイルが理想だと思っています。
石坂 ゲーミングハウスなしで強くなれるの? という意見もあります。ただ、私たちはあくまでもeiNsが今まで築いてきたやり方をそのまま続けてもらいたいと思ってFAV gamingに入ってもらったので、現時点ではゲーミングハウスの計画はありません。
ShiN 他のチームを見ても、ゲーミングハウスのあるなしですごく差があるとは思っていません。もし『R6S』が昼間でもスクリムの環境が整うんだったら話は変わってくると思うんですが、それもなさそうなので。
――ShiN選手自身、今年から社会人として働きつつも『R6S』のプロゲーマーとして活躍するわけですが、たとえば社会人としての仕事とプロゲーマーのどちらかに絞る、という判断はなかったのでしょうか?
ShiN それは今まで通り大学院の研究室と一緒だと思っています。もし『R6S』が昼間も練習できる環境だったら、プロゲーマーの活動を優先してもいいと思っています。
でもこのゲーム、昼間はほとんど対戦相手がいないんですよ。オンラインが賑やかになってくるのは夜9時からなんです。だったら昼間は普通に働けますよね。深夜型になってもせいぜい午前1時くらいまでですから。
味方が後ろを守ると信じて、自分にできることをやるだけ
――ShiN選手自身の『R6S』のプレイヤーとしての目標はあるんでしょうか? すでに『R6S』界隈では十分にすごい人ではあると思うのですが……。ShiN 僕自身は全然そんなふうに思っていないんです。
なぜかというと、ひとつはずっと「チームのこと」を考えているからです。チームの今後のことをずっと考えています。正直なところ、僕に代わる人がいれば引いてもいいんです。今は後進を育てる活動ができればと思っているので。
――お話をうかがっていても、どちらかと言えば自分が前に出るよりマネジメント側に近い感覚なのですね?
ShiN そうです。メインメンバーの中から僕より秀でている選手が出てきたら、「あとは任せるわ」ってできますし、もし僕がいないほうがいいって言われたらぜんぜん引きますよ。チームがいい方向に向かっていくのであれば、僕自身どうなってもいいと思っているので。
――プロ選手の中でそういう考え方は珍しいほうかなと思うのですが、その考え方に至ったのは何かキッカケがあるのでしょうか?
ShiN ひとつはチームプレーのことばかりを考えていたということもありますね。『R6S』というゲームは1人だけでどうこうできるゲームではないですし。
それから、この『R6S』というゲームが大好き! というのも大きいです。
ゲームが好きだからうまくなりたい、うまくなるには何をしたらいいのかと練習していると競技シーンもやってみたくなる。それで、競技シーンで強くなるための練習をし始めると、今度は強いチームに勝つにはどうしたらいいか考えるようになる……といったかたちで、逆算逆算でずっと考え続けてきた結果、でしょうか。
――その考えに24、5歳の方が到達してるというのがすごすぎますね……。ちなみに、選手として自分の腕前はどの程度の自信がおありですか?
ShiN ほとんど自信ないですね。ただ、味方をいつも信じています。後ろを守ってくれていると思ってやっているので、僕は自分ができることをやっている感じです。
――でも、必ずしもそうならないこともありますよね? それこそ後ろを守り切れなかったり……。
ShiN そういうこともあります。でも、疑い始めたらダメなんですよ。ですから、失敗しても何をしても仲間を信じ切ってやらないとダメですね。
たとえミスしてもそれを補うように僕もプレイするから、キミもミスを恐れずに自分ができることをプレイしてくれ! と伝えています。もしカバーできていなかったら、それは僕がもっと「後ろをカバーして!」と言えればよかった、僕の責任だからごめん、って感じでやっています。
――ShiN選手のようにうまくなりたいという人は多いと思うのですが、練習方法やアドバイスなどはありますか?
ShiN チームのことを考える時に、僕が参考にしていることをお話ししますね。
アメリカのプロバスケットボールリーグのNBAに、サンアントニオ・スパーズというチームがあって、僕、このチームが大好きなんですよ。スター選手がいるわけでもないのに、ずっと上位グループなんです。
強いチームであり続けるためにどんなことをやっているのかというと、まず絶対に揺るがないチームスタイルの確立があって、そのスタイルを実現するためにどうしたらいいかということを、コーチが選手に教えているんです。
選手に求められるものは、コーチの考えを実現するための練習をすること。技術なのか知識なのか、何が足りないのかを考えて、それを補うために練習するんです。
こういう考えは『R6S』の初心者から中堅クラスのチームに言えることだと思うので、チームのために何がしたいのか、何ができるのか、何が足りないのか、といったところから練習内容を考えると成長できると思います。
――逆に、ShiN選手ご自身が自分に足りていないと思っていることは何ですか?
ShiN そうですね、今足りないものは何だろう……うまく伝えることですかね。意外とコミュニケーションエラーとか、間違ったことを言ってしまうことがあるので、今そのときに伝えるべき内容の精度を高めてわかりやすく伝えられるようになりたいですね。
――やはりチーム戦の競技はコミュニケーションが大事ですからね。
ShiN それが基本なんですよ。別にゲームに限らず、学校でも会社でも。全部の基本ですね。基本だからこそ難しい部分もあります。基本ができれば応用もできます。
――……何だか今日はすごくためになる話を聞かせていただいた感じがします。50歳くらいの先生に話を聞いたみたいです(笑)。
ShiN 僕、子供の頃からそういう感じだったみたいです。学校の先生が一番向いているって言われていました。僕自身は本当に知名度とかいらないんです。チームのためなら何もいらないっていう感じですね。
* * * * * * *
ShiN選手のすごさは、自ら設立したチームで勝利し、世界に進出したことはもちろんだが、それを数多ある国内のプロチームを相手に、アマチュアチームとして実現してしまったということだ。
技術も時間もデータも、アマチュアだからプロにかなわないということは決してない。常にチームのことを第一に考え、ShiN選手自らが信じる方法でまとめ上げてきたeiNsというアマチュアチームが、FAV gaminigというプロチームに生まれ変わったというサクセスストーリーが、それを証明している。
そして、そんなeiNsが培ってきたやり方を尊重し、勝利のみを目的としないeスポーツチームのあり方を語るFAV gamingもまた、ビジネスとしてのeスポーツチーム設立とは異なる、明確なポリシーが感じられた。
これからも『R6S』の頂点を目指していくFAV gaming、そしてShiN選手を、ALIENWARE ZONEとしても追いかけていきたい。
■関連リンク
FAV gamingのTwitter
https://twitter.com/fav_gaming
ShiN選手のTwitter
https://twitter.com/shinr609
レインボーシックス シージ
http://www.ubisoft.co.jp/r6s/