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『ドラクエ』を題材としたカードゲームの歩み 〜カードゲームで『ドラクエ』を表現できるのか?〜【シブゲーアーカイブ】
※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2019年1月25日/執筆:co.2N)
スマホ向けカードゲーム『ドラゴンクエストライバルズ』(以下、DQR)がリリースされてから1年以上が経過した。国産デジタルカードゲームとしては『シャドウバース』に並ぶ知名度を誇り、今後の動向により注目したいゲームのひとつだ。だが、ドラゴンクエストシリーズのカードゲームは『DQR』だけなのか?
実は発売元であるスクウェア・エニックスは、企業合併が行われる前のエニックス社単体だった頃から2つのドラクエのトレーディングカードゲームをリリースしたことがあるのだ。それらのいくつかの要素は『DQR』に引き継がれ、また引き継がれなかった物も存在する。
その2つのゲームを見ていくと、きっと『DQR』を新しい視点で見る事が出来るはずだ。このコラムではかつて存在していたドラクエのカードゲームを導線に、いかにして『DQR』というゲームが生まれてきたのかをじっくり振り返りつつ比較する。
なお、今回は取り上げないが、このコラムで紹介する物以外にもドラクエのカードゲームは存在する。興味を抱いた方は調べてみるとさらに新しい発見があるかもしれない。
ドラゴンクエスト カードゲーム<2000年~2002年>
現在で言うカードゲームらしい体裁が整ったのはこのゲーム「ドラゴンクエストカードゲーム」からだ。
このゲームがリリースされたのはKONAMIが制作した『遊☆戯☆王オフィシャルカードゲーム』の流行直後であり、多種多様なカードゲームがバブルのように登場した時期である。記憶に新しいところで、ソーシャルゲームの流行期に一気に多くのゲームがリリースされた状況に近いだろう。その潮流に乗ってか、ドラクエでも初のトレーディングカードゲームをリリースしていた。
本作は50枚でひとつのデッキとして扱い、デッキが先に0枚になった側が敗北となる。デッキ自体をライフとする発想はデジタルカードゲームではあまり見かけないが、紙のカードゲームでは時たま見られるものだ。
『DQR』ではこの形式を採用しなかった。おそらくルールを『ハースストーン(※)』に倣っている事がその理由であると思われる。
※ハースストーン:ブリザード・エンターテイメントが開発したデジタルカードゲーム。『World of Warcraft』の世界観を背景にしている。
デッキは3種類のカードから成る。
パーティカード
モンスターや勇者側のキャラクターなどをひっくるめてパーティカードと呼ぶ。勇者側のカードは白色で統一されており魔物側は紫属性しか残っていなかったが、本来は緑、青、紫、黒の四属性に分かれている。
キャラクターたちはカードレベル、攻撃力、COST、HP、SPEED、TYPEと様々な要素で特徴づけがなされており、そこに特殊な行動も入ってくるのでキャラクターとしての再現度は『DQR』よりも精密である。その分戦闘のルールに関してはかなり複雑であるが、それはまた後述。
アイテムカード
アイテムカードとは、白属性、すなわち勇者側のキャラクターのみが装備出来るカード。『DQR』では武器のみ存在するが、この頃は防具や道具も存在していた。これらの装備を好きなキャラに装備させ、ゲームを有利に進める事が出来るのだ。
この装備とパーティカードのTYPEが繋がっており、このTYPEに対応した装備でないと装備が出来ないという凝りっぷり。これによって突然魔法使いがゾンビキラーを持って攻撃しに行くだとか、戦士がドラゴンローブを装備し始める様なイメージにそぐわない行動ができない様に工夫されていた。
TYPEに加えて、アイテムカードを装備する為にはGP(ゴールドポイント)というコストを支払う必要がある。原作でいうゴールドであり、GPは旧ドラクエカードゲーム特有の要素となっている。
クエストカード
クエストカードとは原作のシーンを再現したカードで、使用した瞬間に効力を発生する。例えば上記左の幼年時代はカードレベルが低いパーティカードしか行動出来ないように制限してしまう。ドラクエⅤの幼年期を再現した演出であり、ほんわかしたイラストで愛らしい雰囲気を出している。
基本的に原作イラストを使用している旧ドラクエカードゲームの中でも、これらのカードは攻略本に書かれていた挿し絵や書き下ろしのイラストを採用している様で、かなり見応えあるイラストが揃っているのも見所。
以上、「パーティーカード」「アイテムカード」「クエストカード」の3種類を組み合わせ、戦闘を行う事になる。
特徴的なルール
それでは早速ルールの説明に入りたいが、何せこのゲームのルール説明書は小さい上に目次含めて75ページもある大長編だ。だから、特徴的な所のみをかいつまんで紹介する事になる。ご了承願いたい。▲小さい文庫サイズの攻略本よりもさらに小さいルールブック
経験値と収入
本作はドラクエ本編同様に敵を倒すと経験値が得られる。カード右上のレベルと同じ数の経験値を得られ、経験値5ごとにレベルが1ずつ上がっていく。レベルを上げる事で最初からレベルの高い仲間を行動できる状態で戦場に出したり、またターン開始時にGPを得られる。ここで言うGPとは『DQR』でいう所のMP(マジックパワー)のような存在だ。『DQR』では「召喚魔法を用いてカードに秘められた呪文を唱えている」という設定からかマジックパワーという呼称が使用されている。それに対して旧ドラクエカードゲームにおけるGPとはゴールドポイント。つまり金で装備を買い与え、戦士や魔導師を雇うイメージだ。モンスターに関しては倒して仲間にするまでのコスト、と考える事が出来る。このGPはダメージの回復、状態異常の回復、相手ターン時の自陣パーティの行動権の回復などにも使用する。
前衛、後衛の要素
実は前衛、後衛という要素自体はこの頃から存在していた。ただし当時はウォールやブロックといった並べ方を参照する概念はなく、単純に前衛のメンバーしか攻撃の対象に選択できなかった。これによって回復効果を使うメンバーは後衛に、攻撃を担当するメンバーは前衛に置くという役割分担が可能になっている。もちろんイオナズン(※)などの特技を使えば後衛に干渉する事が出来る。※イオナズン:ドラクエシリーズに登場する呪文のひとつで、敵全体に大ダメージを与えられる爆発呪文のこと
その為前衛のメンバーは常に後衛のメンバーよりも多くなければならず、前衛のメンバーより後衛の数が多くなってしまった場合は都度後衛から前衛にパーティを移動させる必要がある。
この要素は次のドラクエカードゲームでは廃止されたが、また『DQR』で形を変えて復活しているところを見ると、本作の影響が少なからずあるのかもしれない。
超細かい戦闘表現
そして何と言ってもこのゲームの真骨頂は、まるでドラクエ本編かの様な細かい戦闘がカードゲーム上で行われる事である。このカードゲームでは行動ステップ、判定ステップ、終了ステップの3つが存在する。 行動ステップ
攻撃プレイヤーが攻撃するカードを1枚選択。防御側も1枚戦闘させるカードを選択し、それで反撃を行うかを選択する。またこのタイミングであらかじめ道具を使うか、特殊能力を起動するかも宣言する。
判定ステップ
特殊効果や武器、防具の修正値を含めてダメージがどれだけ出るかを計算し、確定させる。行動ステップで防御側が反撃を宣言していなければ攻撃側が一方的にダメージを与え、反撃を宣言している場合はすばやさが早い方が先にダメージを与えることができる。 このダメージはデッキから受けた分だけ裏向きのままカードを上から1枚ずつダメージを受けた対象に乗せていく。ダメージが体力を上回った時パーティカードは撃破され、ダメージカードと装備していたアイテムを捨て札に置く。そのパーティカード自体は対戦相手の経験値ボックスに置かれ、自身の経験値となる。そしてそのキャラクターのレベルに応じたGPを得る。
終了ステップ
隊列の判定を行い、前衛メンバーより後衛にいるパーティが多ければその分後衛から前衛に移動させる。それが終わったら別の行動可能なパーティカードで行動ステップからもう一度戦闘を行うか、戦闘フェーズ自体を終わらせるかを決定出来る。戦闘フェーズ終了後、どちらかのパーティが全滅していた場合は全滅ペナルティとして5枚のカードがデッキの上から墓地に送られる。
初代ドラクエカードゲームは、とにかく原作の戦闘をカードで再現しようとしたのだろう。確かに普段デジタルで行われている複雑な処理を全てやるとするとこれくらいはかかるのかもしれない。だが、ことカードゲームにおいてこの煩雑さと分かりづらさは致命的では無いだろうか。
これではいかんと感じたのか、次回作では説明書で見開き5ページ分とシンプルになっているし、『DQR』ではもっと単純になっている為。混乱する事も無い。
また独力でルールを知りたい場合、構築済みデッキ等を買わないとルールを把握出来ないことが、初代ドラクエカードゲームの最も大きな欠点だった。特に当時はカードショップでのルール講習会なども少なかった印象があり、既にプレイしている友人に教えてもらったりアニメでざっくりとルールを把握しているなどという背景が無ければカードゲームとして遊ぶことは出来なかった。
『遊戯王』等が広く親しまれたのは、アニメによって大まかなルールが分かった事も大きかったのかもしれない。例えそれが発動された魔法カードを「サイクロン」で無効化して破壊出来るような物であっても、買ったカードでゲームをするというのは楽しい物だ。どんな形であれ、カードを集めればすぐにゲームが出来る様な風土があったゲームは今でも多く残っている印象がある。
ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム<2014年~2016年>
初代ドラゴンクエストカードゲームから12年の時を経て登場した2代目ドラクエのカードゲームがこれだ。本作では前作に存在していた隊列要素が無くなり、代わりにパーティフィールド、バトルフィールドという形で戦場が区分された。また、クエストカードはイベントカードという名前になり、パーティカードはなかまカードという名称に変わった。
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
なかまカードとする事で、勇者達の仲間になるモンスターと仲間でないモンスターを区分した。例えばスラリンは戦闘不能になっても仲間なのでパーティフィールドに戻って戦闘不能状態を解除する事ができるが、通常のスライムは戦闘不能になったらそのまま捨て札に送られる。この辺りは再現として前作よりも原作に近くなったと言えるだろう。基本的には旧ドラクエカードゲームを踏襲しつつ煩雑だったルールを単純化した印象がある。まず目を引くのが勝利条件の変更であり、勝利ポイントを5ポイント貯めるという物に変わった、ということ。勝利ポイントは手番プレイヤーが相手のパーティを全て行動不能状態にした時、すなわち全滅させた時に1ポイント得られる。勝利ポイントはポイントを取った手番プレイヤーのデッキの一番上のカードを裏向きのまま勝利ポイントステータスに置くと言う形なので、必要なカードが勝利ポイントゾーンに落ちて使えなくなってしまう事も起こる。
この頃には公式大会の場や各カードショップなどでルール講習会が開かれていたのも注目すべきポイントだろう。ひとりでは理解が難しいルールを講習会で教えてもらえるのは周囲に上級者がいない初心者としてはありがたかったはずだ。それにしても近場で講習会が行われていなかったら参加しづらい、という問題が残ってはいた。
また、システムとして特筆すべきは「お助けカード」要素だ。
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
これを使う事で、戦闘中に突然手札から行動を行える様になった。これは『DQR』には存在していない要素だが、これによって他のドラクエ系カードゲームとは一味違った駆け引きが生まれている。そのため本作のはぐれメタルは突然現れてメタルボディで敵の会心の一撃以外を受け止め、捨て札に逃げていく様なデザインになっている。本編のはぐれメタルは味方をかばう様な行動こそしないが、メタル系の突然現れて逃げていくイメージには沿っているのではないだろうか。
なお会心の一撃は武闘家等一部のカードが持っており、相手のデッキの一番上のカードを参照して自分のレベル以下なら会心の一撃となる仕様となっている。これはレベルが上がると「器用さ」の数値が上がって会心の一撃が出やすくなる、というドラクエⅨの設定を採用していると思われる。
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
手札から効果が発動するカードと言えば遊戯王デュエルリンクスのクリボールが代表的だが、他のデジタルカードゲームではあまり採用されていない。特殊な効果だと処理が煩雑になってしまったり、どこでその効果を挟むかが重要になったりすると通信が頻繁に行われてテンポを損なう事、また通信のラグで相手の手札に何かがある事に気付かれてしまう事が一つの理由では無いだろうか。このお助けカードのシステムに関しては戦闘中にしか使用するタイミングが発生しないとはいえ、明確な戦闘フェーズが存在しない『DQR』では攻撃する対象を選択する度に、また攻撃する対象として選択された時にいちいち使用するかどうかを選択するラグが発生してしまうはずなので、かなり戦闘のテンポが悪くなってしまう事が容易に想像出来る。
そして残念ながら本作はサービス開始から2年で新しいカードが発行されなくなってしまった。理由を推測するなら、すでに紙のトレーディングカードゲームは有力なタイトルに占拠されてしまっていた事かと考えられる。当然カードショップ側からしたら新しいカードゲームに既存のカードの入ったショーケースを割く事は難しいから、シングル買いでカードを集めづらい。プレイヤー側からしても既にいくつかのゲームを平行してプレイしている事が多いので、ドラクエカードゲームの為に新たなリソースを割く事は難しかったのだろう。
そして、現在のデジタルカードゲームに至る。『ハースストーン』で言うヒーローパワーの要素をテンションという形で表現する事で、各キャラクターの特徴を表現しつつ原作のキャラクター達に設定を寄せる事ができているのは注目したいポイントだ。
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
かつてのカードゲームでは単なる1キャラに過ぎなかったトルネコが、テンションを貯める=探索をして宝箱を開いていく商人的な要素を得ているのは個人的に『DQR』で1、2を争う程に感動した点かもしれない。正義のそろばんで敵を倒すと道具が出てくるという効果だけはゴールドを落として欲しかったなあとも思ったが、そこはゲームシステムとの兼ね合いもあったのだろう。
頭を悩ませてきたルール説明問題も、ゲーム中に解説する事で解決した。これこそ現代のデジタルカードゲーム特有の利点であり、周囲にルールを知っている人や説明書が無くても分かりやすくルールを理解出来るのは大きなポイントだ。新しいルールが増えてもソロプレイモードですぐに説明を聞ける分、カードに書くテキストを短く出来るという利点もある。
デジタルカードゲーム全般に言える事だが、カードゲームをやろうと考えたらすぐにルールを覚えて遊べるのはありがたい。順調にプレイヤーが増えている理由はこのためだと思われる。イラストもそれぞれ書き下ろしであり、これまで原作のイラストを流用していたドラクエカードゲームよりもイラストを楽しめる様になったのは原作ファンとしても嬉しいところ。
その中でも特に『DQR』が秀逸なのは、カード効果で完全に魔王を再現している事だ。例えば、ゾーマの効果を紙とデジタルで見比べてみよう。
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
ゾーマは、確かにかつてのカードゲームでも「いてつく波動」を筆頭に強力な技を3つも持つ魔王だ。だが『DQR』で登場したゾーマは光の玉を使い闇の衣を剥いでからでないと攻略する事すら出来ない、という原作のゾーマを完全再現する事に成功している。確かにゾーマのいてつく波動は特徴的な技かもしれないが、やはりドラクエファンとしてはいてつく波動よりも闇の衣を剥がすシーンをゲーム中に出来た方が楽しいしゾーマらしいと感じる。
その上BGMとして「勇者の挑戦」が流れ出し、3Dのゾーマが登場するのは流石に興奮せざるを得ないだろう。魔王の演出においては、過去のドラクエカードゲームとは比較にならないほど派手で豪華なものになっていて、使う側としても対峙する側としてもテンションが上がる。
何故かつてのカードゲームではこれが出来なかったのか。BGMやグラフィックはともかくとして、光の玉だけなら採用しても良い様な気がしないでもない。だが少し考えてみると、致命的な問題が浮き彫りになる。
もし光の玉というカードを刷ってゾーマの闇の衣を剥がすシーンを再現したとして、デッキの中に光の玉を入れていなかったらどうしようもない所まで再現するのか? そのせいで一方的に敗北する事になってしまえば、それは明らかに面白くない。さらにこれにはもう一つ問題があって、光の玉をデッキに入れたとして対戦相手がゾーマを入れていなかったら何も起こらないカードをデッキに入れたままゲームをする事になってしまう。これもまた、ゲームとして面白くなくなってしまうと言わざるを得ないだろう。現在の『DQR』の様に特殊なカードをデッキの上に置く様にしたとしても、光の玉のカードを持っていなかった場合はどうするのか?
問題は多く、この要素を取り入れない方がスマートなゲームになるだろう。
対して『DQR』はデジタルになった事で、光の玉というカードをトラブル無く使用する事が出来る様になった。それ以外にもオルゴデミーラの四段変身や、りゅうおうがドラゴンに変身する様をスムーズに再現出来ているのは、さすがデジタルという感がある。
だが、だからと言ってデジタルよりも紙のカードゲームの表現力が低かったかと言えば、あながちそうとは言い難い。同様にダークドレアムのカードも見比べてみよう。
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
紫のカードとは、ボス系のカードを指している。つまりこれは、ダークドレアムが魔王デスタムーアを歯牙にもかけず撃破してしまったゲーム中のエピソードを再現した物だ。それだけではなくグランドクロスというダークドレアムらしい技まで持っているのはドラクエファンとしてはたまらない原作再現だと言える。
『DQR』側のダークドレアムは破壊神的な要素を前面に押し出しているが、原作のシーンを再現しているという面ではドラクエカードゲームに軍配が上がるのではないだろうか。
『DQR』は何故この効果に出来なかったのか。その理由は『DQR』が細かく魔王を再現出来過ぎた事が原因かもしれない。ダークドレアムで魔王を破壊する効果を使ったのに竜王が真の姿を現したら拍子抜けであるし、オルゴデミーラが形態を変えて手札に戻ってしまったらダークドレアムの名シーン再現とはならない。 また、ドラクエ原作を全く知らないで『DQR』をプレイしている人はどれが魔王でどれが魔王で無いのか分かるのかという問題もある。そう考えてみるとゲームシステムとしても、ゲーム中の活躍としてもドラクエカードゲームはダークドレアムを再現するのに向いていたのだ。ただ紫のカードには魔王以外のカードもあるので、魔王では無いボスまで倒せてしまうのには若干の違和感がある。
この様な例は旧ドラクエカードゲームとも比較する事でより顕著になってくる。本稿の最後に、3代に渡るカードとキャラクターの変遷を振り返ってみたい。
最後に、自分の所持しているカードの範囲内のみで恐縮であるが3代に渡るドラクエのカードゲームごとに全て登場している2つのキャラクターについて比較してみたい。
ミネア
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
まずミネアを見て『DQR』プレイヤーが意外に思うであろう事として、占い師的な側面が見られない事が挙げられる。その代わりに使えるのがフバーハ。フバーハとは敵の炎の息や凍りつく息と言った息に関する攻撃、いわゆるブレス系攻撃のダメージを軽減する呪文である。作品ごとに多少の違いがあるが効果の内容自体はほぼ変わっておらず、それがカードゲームにも伝播する形になった様だ。ミネアはドラクエⅣのパーティで唯一フバーハを覚えるキャラクターとして重宝されていたので、そこをピックアップする事にしたのだろう。
旧ドラクエカードゲームでは効力ダメージという名前で表現されているが要するに特殊効果で与えるダメージは全て効力ダメージなので、原作のフバーハよりも強い別の呪文になっている印象がある。息のダメージはもちろん呪文のダメージも、特技っぽい名前のダメージも全て1ターンの間だけ受けなくなるので動ける条件付きアストロンみたいな趣がある様に思った。
2代目ドラクエカードゲームでは、ダメージを限定されたおかげでよりフバーハらしくなった。だがそれだけでは力不足と捉えられたのか、ラリホーやホイミと言った補助呪文も使えるサポート役キャラクターという役割がより明確に表現されている。
その点『DQR』では占い師という要素を前面に押し出したのが印象的である。確かに占い師という設定はあったがゲーム本編ではそれほど重要視されてはいなかったし、銀のタロットも博打的な要素の強い効果だった。ちょっと使ってみたら味方全員にザラキが発生して全滅しかけるとか、はたまたボス戦中に使えば突然二フラムの効果が発生して何も起こらなかったりする。でもたまにバイキルトやベホマズンがかかって嬉しいな〜ってくらいに使い勝手の悪い技だったのに、それが今では占いの効果をどちらか選べるなんてミネアの占いの腕も上がった物だなあとしみじみ思う。
逆に言えばデジタルだからこそ占いというランダムな効果が選択される特技を再現出来たのであり、それまでの紙のカードでは占いを再現したくても出来なかったのかもしれない。原作での活躍で言えばタロットよりもフバーハの方が強く印象に残ったのもあってかつてはフバーハばかりが取り上げられたのだろうが、現在になってようやく占い師という設定に基づいてタロットや占いという要素を前面に推し出せる様になったのだ。
元々のゲームでは縁の下の力持ち的な役回りだったミネアの方向性を大きく変えたのが『DQR』だ。この辺りはゲームの都合もあるだろうが、どっちに転んでも美味しい効果が出る様にする事でミネアというリーダーを強い占い師として表現したのは時代の流れだと感じる。
クリフト
出典:ドラゴンクエスト トレーディングカードゲーム カードリスト
現代ではすっかり何に対してもザラキばかり使う僧侶という扱いに甘んじているクリフトだが、そこの表現は旧ドラクエカードゲームでは影も形も見られないのが極めて印象的である。ホイミしか使えないクリフトなど、一見別に他の僧侶でも良いんじゃないかと思ってしまうほどの薄味なキャラクターに見えてしまうかもしれない。
だが、その中で個性が光るのが「もし対象が『アリーナ』であれば、この特殊効果のクローズコストを支払わない。」という部分。ざっくり書けば必要なコストを支払わずにホイミを一度使える、という事だ。なぜアリーナに対してかと言えばクリフトはアリーナに好意を寄せているらしい台詞がファミコン版ドラクエⅣに存在しているからであり、その設定がファンからも人気があったのでそこを再現しようと考えたのだろう。後の作品では明確に好意を寄せている台詞が増えるのだが、本作はその先駆けとも言えるかもしれない。
2代目ドラクエカードゲームではザラキ使いとしての片鱗を見せ始めるが、まだアリーナとの関係性が見受けられる効果が存在している。またクリフトがさみだれ突きを使う事も特徴的だが、これはドラクエヒーローズという外伝ゲームをテーマにしたパックに収録されたクリフトであるからだ。原作ではどちらかといえば杖や剣を装備する様なキャラクターだったが、外伝作品で槍を装備し始めた為に他の外伝作品にも槍を装備するキャラクターだという設定が現れているのは面白い。
『DQR』では僧侶属性のカードになってしまったので武闘家であるアリーナの下で戦場に出す事が出来なくなってしまったし、とうとう場所を指定せずにランダムに放つザラキしか使えなくなってしまった。かつてはまだホイミを使う僧侶らしさが残っていたのに、デスピサロにザラキを撃ってしまうファミコン時代のクリフトに逆戻りしてしまった感がある。しかしアリーナやドラクエⅣで仲間になるメンバーとの関係性は健在で、アリーナやミネア相手に召喚すると特殊ボイスが流れる、という形で原作を再現した。他のキャラクターでもその様な特殊ボイスが収録されている例があり、カードテキストに書かれない形でもそのキャラクターの個性を出せている事こそが、デジタルカードゲームならではの表現だと言えるのでは無いだろうか。
紙上の効果のみでも工夫を凝らしてクリフトというキャラクターの個性を引き出していた事に制作側の愛を感じるが、クリフトがザラキしか使えなくてもアリーナとの関連性を出す事が出来る様になった『DQR』にもまた目を見張るものがある。効果テキストのみでは語り切れない、あるいは語りづらい関係をボイスで補完する手法は今後も採られていくはずなので、この先も原作で関係性のあるキャラクターが増えた場合は特殊ボイスを聴いて検証してみるのも面白い。
以上2つの例を見てもらうと分かる通り、原作のどの要素を抜き出してカード化するかはそのゲームのゲーム性にもよるし、過去のドラクエカードゲームもまた『DQR』に対して原作再現で劣っているどころか、細かいマニアックな所まで再現しようとしている事がお分かり頂けたのでは無いだろうか。一概に優劣をつけるよりは、むしろそのゲーム性と擦り合わせてカードの性能を見て行ったほうが楽しめるだろう。
おわりに
『DQR』はデジタルならではの視点でキャラクターの魅力を引き出し、面白いゲームを生み出す事に成功していると言えるのではないだろうか。しかし以前の紙のカードゲームもまた別の手法でドラクエらしさを表現しており、『DQR』には無いドラクエらしさを持っている。そしてこれらの積み重ねがあってこそ現在の『DQR』があるのではないだろうか。
もしこれで興味を持っていただけたならぜひ実際に『DQR』本編をプレイしてみたり、ドラクエの歴史をより深く調べてみたりして欲しい。