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地球最強のプレイヤーと戦い続けたい――SonicFoxは戦いの先に何を見るのか【シブゲーアーカイブ】
※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2019年6月14日/執筆:佐島蒼太)
嫉妬したい、と彼は言う。
プロチーム「Echo Fox」に所属するアメリカの格闘ゲーマー、ドミニク・マクリーン――格闘ゲーマーたちには “SonicFox” や “ソニフォ” として知られている――は、弱冠21歳にして世界最大級の格闘ゲーム大会「EVO」で4度の優勝を経験している。
しかもその内訳が『Injustice: Gods Among Us』で1回、『Mortal Kombat X』で2回、『ドラゴンボール ファイターズ』で1回と様々なタイトルに渡っていることこそ、彼が「新時代の天才プレイヤー」と評される所以だ。
だが世界一の称号を何度手にしても、彼の目は曇ることなく上を向いている。「"こいつだけは絶対に倒してやる" と悔しさを感じながら戦いたいんだ。そのためだけに生きている」と語る彼は、「EVO」で優勝した時と同じように嬉しそうな表情を浮かべていた。
ドミニクが “世界最強” の名をほしいままにしてもなお戦い続ける理由は、一体どこにあるのだろうか?
プレイスタイルは「クソ野郎」
「ゲームにおいて俺は “クソ野郎(asshole)” なんだ。嫌がらせが上手いんだよ」と、ドミニクは嬉々として語る。
もちろん相手に対して失礼なプレイをしている訳ではない。プレッシャーを与え続け、相手の気持ちが折れるのを待つのだ。「相手がイライラしているのが分かったら――相手の感情が読めるようになったら、簡単に勝てるよ」
そんな彼が格闘ゲームに触れたのは、本人が覚えている限りでは3歳の頃だったそうだ。『鉄拳3』に触れ、その後も『デッド オア アライブ』『Mortal Kombat』などの格闘ゲームシリーズをプレイし続ける。
この頃の彼は勝ちにこだわっている訳ではなかった。目の前の対戦をこなし、己が技術を磨き続けていたが、プロゲーマーとして食っていけるとはとても思えなかったという。その気持ちは、2014年に「EVO」の『Injustice: Gods Among Us』で優勝しても変わることはなかった。
転機となったのは、2015年の『Mortal Kombat X』の発売だ。世界最大のeスポーツリーグ運営会社ESLが『Mortal Kombat X』のプロリーグ開催を発表し、同ゲームの開発元から多額の賞金も提供された。
「当時では最も高額な賞金だったから、競技シーンが一気に盛り上がったんだ。プロeスポーツチームも、継続的に格闘ゲーマーを抱えることに興味を持ち始めた。"もしかしたらこれで生きていけるかも" って思うのに十分な出来事だったよ」
プロゲーマーという生き方に希望を見出してからの道のりは、あまり覚えていないそうだ。「数年前の俺に言っても信じてもらえないかもしれないけど……なるようになったんだよ。何にもなかった自分が1本の電話を受けて、5日後にはプロゲーマーになっていた。本当に突然だったんだ」
プロになった一番のメリットは経済的な面だと正直に語るドミニクは、「ゲーム上でひたすら嫌な奴でいることでお金を稼げるっていうのは、不思議な気分だよ。俺はプロのクソ野郎になったんだ!」と冗談交じりに笑った。
ただ……と彼は続ける。「プロになったからって、他の人を馬鹿にするようなことは絶対にしない。俺らがプレイしているのは結局は “ゲーム” で、外から見たらみんな同じ “ゲーマー” だから」
悟空のように "強い奴" と戦い続ける
『Injustice: Gods Among Us』『Mortal Kombat X』などのアメリカ産の格闘ゲームで華々しい活躍を続けていたドミニクは、2018年の「EVO」において『ドラゴンボール ファイターズ』(以下、DBFZ)部門にも出場した。『DBFZ』は日本製のゲームということもあって、「EVO」にも数多の日本人プレイヤーが出場していた。
「今まで出て来た大会とは雰囲気が全然違っていた」と、ドミニクは当時の会場の様子を振り返る。「アメリカにいるはずなのに、日本人プレイヤーに囲まれてちょっと心細かった」とも漏らしたが、「自分が知らない強豪プレイヤーたちと戦えるのは、本当に楽しい」とあくまでもその環境を楽しんでいたようだ。
「日本人のプレイヤーは英語で配信している人が少ないから、大会で戦うことになっても、どんなキャラを使うのか、どういうプレイスタイルなのか全く分からない場合が多いんだ。でも少し戦っただけで "こいつは強い" と分かる。
自分が一度も戦ったことがない相手と対戦できるのは、怖い部分もあるけど、とても楽しい。もしかしたらその相手が俺を負かすんじゃないか、ってワクワクするんだ。まるで『ドラゴンボール』の悟空にでもなった気分だったよ。自分はいつも "地球最強のプレイヤーと戦いたい" と思っているから」
ドミニクは「世界中の強豪と戦うチャンスがある」こともプロになったことのメリットだと言う。「プロになってなかったら、GO1、どぐら、かずのこのような強豪プレイヤーたちと出会うことは絶対に無かった。これは、俺にとってはとても名誉なことなんだ」
“プロ” という足枷をつけてでも伝えたいこと
だが仕事としてゲームをする以上、良いことばかりではない。
プロになったデメリットを聞くと「友達を慎重に選ばないといけなくなったことかな」と少し悲しそうに答えた。ステージ上でも臆することの無いエンターテイナーで、誰とでも仲良くなりたいと考えている社交的なドミニクにとっては、最も辛い足枷だろう。
「"SonicFoxと友達" と言いたいだけの人なのか、本当に友達になりたい人なのか見極めづらくなったんだ。それに、ライバルたちとも本当の意味では仲良くなれないよね。ライバルだから。日本人選手のみんなとも、普通に友達になってもっといろんな話がしたいんだけど。これに関しては、自分が日本語を話せないという方が大きいけどね(笑)」
それでも彼はプロだからこそ持ち得る影響力を活かしたいそうだ。「人生の大きな目標として、コミュニティに大きな影響を与えたいと思っている」とドミニクは言う。彼がここで言うコミュニティとは、単に格闘ゲームコミュニティのことだけではない。
ゲイであり、ケモナー(モフモフのケモノを愛する人)でもあるドミニクは、彼と同じようにマイノリティの人々のコミュニティをも見据え、「大きな影響を与えたい」と宣言している。彼がTwitterでゲイであることをカミングアウトしたのも、着ぐるみ姿で試合に臨むのも、他の人に勇気を与えるためなのだ。
「"あなたのおかげで、自分もカミングアウトできました!" と言ってくれたファンもいて、本当に嬉しかった。もっとみんなが自分らしさを曝け出していってくれたら良いね!」と人生の目標を着実に達成しつつある彼の目には、“プロ” という足枷など映っていないのかもしれない。
プロよ、個性を持て
ではドミニクの “自分らしさ” はどこにあるのだろう。
「プロであるためには、スポンサーが何を言ってきても対応できるようにパフォーマンスを維持しないといけない」とのプロフェッショナリズムを持つドミニクのことだから、ステージ上でのエンターテイナーな彼はドミニクではなくSonicFoxとしての姿なのでは……と邪推してしまう。
だがドミニクは、純粋に自分らしく振舞っているだけだと断言する。屈託の無い笑顔で「人が幸せなら、自分も幸せだから」と続けた。
「人に優しくすることや、人を笑わせることが好きなんだ。ゲームをプレイしているときも、できるだけ楽しいことをやろうと意識しているよ。大声を出して騒いだりね」
ドミニクが思うプロゲーマー像を聞くと、「自分のブランドを持つことが大切」と即答した。「自分だと、ゲイ・アイコンだし、フワフワの着ぐるみでプレイするし。全員がエンターテイナーである必要は無いけど、プロなら少なくとも個性を出さないと」
彼は「ゲーム」を、ゲイであり、ケモナーであり、エンターテイナーである「自分らしさ」を結び付け、完璧なバランスを見つけることができたと自信に満ちた表情で語った。
戦いの先の大いなる野望
破竹の勢いで活躍を続けるドミニクだが、プロ生活に終わりが来ることは意識していると言う。戦うことの次に彼が目論んでいるのは、新たな戦いの場の提供だった。
「C++とか他のプログラミング言語を習っているんだ。自分で格闘ゲームを作りたくて。普通のキャラももちろん出すつもりだけど、モフモフしたキャラが大半だろうね(笑)」
キャラクターも独創的になりそうだが、世界最強の格闘ゲーマーが考える理想の格ゲーはどのようなものになるのだろうか。「今までの格闘ゲームには無い、とある要素を入れたいと思っているんだ」とドミニクは言う。「ずーっとアイデアとして頭にあるんだけど、まだ世界中の誰もその要素を取り入れた格闘ゲームは作られていない」
どのような要素なのかドミニクに問うと珍しく無口になってしまったが、それだけ思い入れのある野望だとも解釈できる。
ドミニクの理想が詰まった格闘ゲームを我々がプレイできる日は遠い未来の話かもしれない。だが、彼が今後も様々なコミュニティに影響を与え続けることだけは確かだろう。
Dominique "SonicFox" McLean
1998年3月2日生まれの格闘ゲームプレイヤー。アメリカのプロチームEcho Foxに所属している。2014年から2016年まで3年連続でEVO優勝を果たし、2018年にも優勝している。『Injustice 2』のプロシリーズでも2年連続で優勝するなど、圧倒的な強さを誇る。『デッドオアアライブ』『ソウルキャリバー』『UNDER NIGHT IN-BIRTH』など格闘ゲームジャンルを縦断するように幅広く活躍しているため、「天才」の呼び声が高い。 最も好きな格闘ゲームとして『スカルガールズ』を挙げており、2015年のEVO(サイドトーナメント)では世界1位に輝いている。
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ドラゴンボールファイターズ ワールドツアー
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