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【プロゲーマー ふ〜ど選手インタビュー・後編】マルチゲーマー・ふ〜どの人生攻略哲学
『ストリートファイターⅤ アーケードエディション』で活躍するプロゲーマー・ふ~ど選手のインタビュー後編をお届けする。今回はふ~ど選手の日常や練習風景、昨今のeスポーツブームについて、じっくり語っていただいた。
ふ~ど:大会とかイベントのない日は、だいたい練習場とか対戦会とかに行っていますね。海外の大会に出ることが多くて時差ボケの時期も多いんですけど、日本時間に合っているときだとだいたい昼に起きて、家にはこもらないで対戦会に出かけています。
――活動時間は昼からなんですね。
ふ~ど:仕事によって起きる時間は変えるのが当然だと思っていて、それがプロゲーマーなんだったらやっぱり夜型がいいと思います。ゲーセンもオンラインもゲームが活発になるのは夜なので、むしろ午後13時に起きて、15時くらいから対戦を始めて、夜中までしっかり集中力を持って練習するサイクルを組めたら、強くなると思います。
――起きているあいだはどこかの対戦会に?
ふ~ど:基本はそうしています。そっちのほうが楽しいですね。別の事をやっているときでも、対戦会の現場でしていることが多いです。空間にいるのが好きなんですよ。空間にいることが結果的に情報が集まって、自分が強くなるので。
――現場にいながらにしてプレイしていない時間も多いんですね。
ふ~ど:ゲームをたくさんやるから強くなるっていう考え方には疑問があって。プレイ以前に情報があったほうが絶対に効率がいいし、やってないときだから考えられることもありますからね。そのうえでたくさんプレイする。そして何よりもまずは現場に行く。
――練習の仕方としては話をする、考える、対戦の繰り返し?
ふ~ど:そうですね。数年まではトッププレイヤーの対戦練習って延々プレイする感じだったんですけど、最近は5先(5試合先取)とか3先で区切るんですよ。区切ってやめる。それで内容を考えたり、思うところがあったら言い合ったり。みんなそうなってます。
そのほうが内容が良いんですよ。あまり長くやってると疲れて来て動きが雑になってしまいますし。負けをちゃんと負けと受け止めるための5先というか。それをみんなが共有できているのが、今の日本の強さなのかな。
――『ストリートファイターⅤ』(以下『ストV』)のシーズン1なんて、かなり海外勢に押されましたもんね。
ふ~ど:あれは『ストリートファイターIV』がゲーセンのゲームで、『ストⅤ』が家庭用ゲーム専用のゲームになったから起きた、海外勢の巻き返しでしたね。
海外って国土が広くて、盛り場の治安も危ないところがあるんで、毎日集まるようなゲーセンっていう文化がなかったんです。『ストIV』は日本勢がかなり抜けて強かったんですけど、家庭用ゲームになった『ストⅤ』ではそれが完全に逆転してしまって。ゲーセンに集まれなかった海外勢は、誰かの家なり、会場を借りるなりして、家庭用ゲームを持ち寄って対戦するのにもともと慣れていたんです。
『ストⅤ』が出てすぐのころ、日本勢でオフラインに集まって対戦してたのなんて、ほんのひと握りのプレイヤーでした。そもそも日本勢の頭の中では国内のプレイヤーはみんな敵としか思ってなかったんですよ(笑)。
そうやって国内で牽制し合ってたら海外勢に抜かれてしまって「これはマズいぞ」となりました。日本国内のレベルを上げるために、シーズン2からは集まるようになったんです。それが今でも続いているから、最近の日本プレイヤーの強さだったり若手の成長だったりに直結しているなと思いますね。
――最近は『ストリートファイターⅤ アーケードエディション』(以下『ストV AE』)に集中していて、他のゲームはそんなにやってない感じですか?
ふ~ど:少し空いた時間にもスマホで遊べる『シャドウバース』と『TEPPEN』はやっていますけど、そんなにいろいろは手を出せないですね。
新しいゲームもすごくやりたいんですけど、やっぱり今は世界中の『ストⅤ AE』プレイヤーがみんな本当に真面目にやっているんで、他のものに行っている余裕がないんですよ。その瞬間にたぶん置いて行かれるくらいレベルが上がっていて。『ストIV』のときは正直、もう少しゆるくてもなんとかなったんですよ。今は本当にレベルが高くなり過ぎましたね。
――まだまだレベルは上がっていますか。
ふ~ど:対人戦の成長って相対的に伸びないと意味がなくて、ただ「ゲームがうまくなる」ことに比重を置くと危険なんです。「相手よりうまく」ならないと相対的にはうまくなっていない。それがすごく重要で。僕が上達に効率を求めるのはそこなんです。
だから家でちょっとしかやらないとかは、実質やってないのと変わらないと思っていますね。個人で見ればうまくなっているとは思うんですけど、相対的に見ればむしろ下手になっている。
――置いていかれるのは下手になっているのと同じということですね。
ふ~ど:そうです。なのでウメハラさんが著書で「1日ひとつだけ強くなる」なんて書いてますけど、絶対1つと言わずもっとうまくなってるんですよねぇ、あの人(笑)。実際みんな一日ひとつ強くなることってできていないんです。ほとんどの人は1日に1歩も進んでいないですよ。「1日1歩でも進めていれば結果的に一番前になっているでしょ」って意味ではウメハラさんの言うことが合ってるんだろうな(笑)。
1日2歩進んでいるやつがいれば、ウメハラさんはぜったい3歩は練習すると思うんですよね。そういう意味では、今トップ戦線で戦えてる人ってのは、みんな相対的に捉えて練習しているから競争できているんだと思います。
――競争とか勝負の世界はそうなりますよね。
ふ~ど:周りを見て、相対的に自分をどう上げるかのやり方は自由ですけども。ももち選手なんかは、対戦会に出てこないでひたすら自分で練習してるけど、めちゃくちゃ独自のスタイルで強いですし。
――異様なスタイルですもんね。他の誰かに似てないというか。
ふ~ど:あの圧倒的な勝ち方がなんで起きるかっていうと、攻略がひとりだけ上に行っている瞬間なんですよ。相対的に見て、攻略が抜けている瞬間はみんなと対戦しないほうが大勝ちできるんです。みんなに追いつかれないから。
――逆にウメハラ選手なんかは、自分だけが知っている技術もどんどん公開するって、配信などで言っていますよね。
ふ~ど:そこはあえて公開することで相手に対策を講じてもらって、また自分がそれに対応して、って全体の実力を上げるためのやり方ですよね。自分が一番良いものを持ってるときに人に与えない、だから結果的に自分が上、っていうのは相対的な強さの維持としていい手段なんですけど、強さっていう意味では伸びは遅れるんです。
でも今って、敵が日本だけじゃなくて海外だったりするんですよ。自分が国内で抜きん出た考え方とか攻略とか持っているときにそれを共有するかしないかは、どこを見ているかによって変わるんだなと思います。
なので、世界レベルで見て自分が一番抜けているなと思ったら隠す考え方もアリだと思いますよ。まあ、僕は楽しくなっちゃって結構見せちゃうんですけど。
実際、練習場に来ている人の中にもそういう利用の仕方をしている人もいます。自分が勝っているなと思うときは対戦会に来ないで、攻略で負けているなというときは対戦会に来る、みたいな。
――若い人たちにもそういうゲーセンマインドは伝わっているものなのですか?
ふ~ど:どうなんだろう……。若い子たちは、なんで僕らおじ(おじさん)世代がなんでこんなにやっているのかっていうのはわかっていないんじゃないかな。若い子たちには、ゲームやって仕事になる、みたいな奇跡的な状態をなくしたくないっていうモチベーションはわからないですよ。
逆に今の若いゲーマーって、少しゲームにハマって調べたら「プロゲーマーって職業があるらしい」「ゲーム強くなると付加価値があるぞ」みたいな感じで参加して来れるんですよね。単純に、人生の選択肢のひとつになり得るというか。
僕らはぜんぜんそんな展望もない頃から人生かけちゃってたら、こんなまさかの状況になって、これを終わらせまいと必死になってて。若い子たちからしたら謎のモチベーションだと思われてるはずです。
でもこれは、今のままじゃ良くないんです。このまま業界がもっと大きくなって、プロゲーマーの地位が本当に向上して、ゲームがうまいことへの付加価値がさらに高くなることで一気に世代交代が来ますよ。
――たしかにまだ完全に世代交代が起きてはいませんね。
ふ~ど:そりゃそうですよ。よく料理人とか職人の世界で、包丁持つまでに何年かかるとか、一人前になるのに20年とかかかるとかって言われたりするじゃないですか。でも今格ゲーやってるおじなんてもう30年ですよ。職人の世界をとっくに超えちゃってるんです。これが簡単にひっくり返るんだったら、板前の世界のありがたみだってわからなくなる。
――MOBAやFPSの世界は若手が強いんですけどね。
ふ~ど:若い処理速度が求められないゲーム性の違いもありますよね。格ゲーって処理しなきゃいけない情報が、それらのゲームと比較すると少ないんですよ。画面に1キャラずつしかいないわけですから。MOBAを見ていると、敵味方に複数のキャラがいて、行くべきか、退くべきか、スキルはどう使う? という選択肢が常に無数にある。これは少なくともしばらくの間は若い人が強いんだろうなあ、って思いますね。
でも格ゲーは情報量が少ないんで、先の出来事を想定しやすい。ラウンドの開幕に前ジャンプする、落とされました、じゃあ起き攻めになります、全部ここまでやる前に予想できるじゃないですか。そうなったときに相手の頭に残る印象まで想定できます。
――将棋や囲碁などの先読みに少し近いところがあるんですね。
ふ~ど:ただ、やっぱりゲームは基本的には若者のシーンじゃないですか。格ゲーの歴史を見たって、僕らの世代は若いときにみんな年寄りたちをなぎ倒して来たんですよね。それは僕らが若いころに格ゲーがブームがあったからであって、ここしばらくは若い人たちがあんまり格ゲーにやって来なかったのかなと勝手に解釈しています。
――じゃあ、今若い人が勝ちきれないのは、単純に若い力の総力が足りていないという面もあるんでしょうか。
ふ~ど:若くて格ゲーやってる子はある意味変わり者なんですよ。
僕らの世代っていうのは、格闘ゲームが一番流行ってたから格闘ゲームをやってきた。でも現状を公平な目線で見たら、格ゲーじゃなくてMOBAやFPSが主流なんです。単純に人口が多い。
わざわざ人口が少ないゲームを選んだ彼らの絶対数はやっぱり少なくて、僕が攻略に重要だって言っている情報交換をするのだって、上の世代の知識や経験に依存するところが大きくなってしまう。なので、そりゃ簡単には世代を超えることはできないですよ。おじのほうが多いんだから。
プレイ人口がいるゲームで若い世代が勝てていなかったら、今僕が言っていることはおかしいんですけど、やっぱり『League of Legends』では若い子が強い。
ふ~ど:最近はもしかしたらまた盛り上がるかも、とは思いはじめています。eスポーツだなんだって騒がれるようになってから、地味ではあるものの格闘ゲームの注目度が上がっている感じがあるんですよね。プレイヤーってことではなく、観戦専門のファンも含めて、増えては来ている。
――たしかに、格ゲー全盛世代の我々は一時期、一般の人が格ゲーに目を向けるのを諦めかけていましたね。でも最近は、格ゲーの内容をそこまでわかっていないファンまでもがついて来ている感じはあります。
ふ~ど:たぶんeスポーツの弱点になっている、「専門知識がないと何が起きてるかわからない」という点がある程度クリアできてるんだと思います。キャラクターも画面上に二人だけ、お互いの体力を表すゲージがあって、あれを減らせば勝ちなんだなとか。派手な画面演出の技が当たったらめちゃくちゃ減るんだなとか。格闘ゲームをやったことのない人でも、どこで盛り上がってどこで喜んだらいいのかがわかりやすい。
もっと流行るかもしれないですよ。だって観やすいんですもん。ゲームの知識がなくても楽しめる。
――ここ数年のeスポーツブームでプロゲーマーってすごく増えましたけど、ゲームのプロって何をする人だって捉えてますか?
ふ~ど:「プロ」って言葉は明確化されていないと思いますが、厳格化して狭めるより、広くしてみんなが使って周知する方が実質的には良いんじゃないかなと。それを厳格化して「プロゲーマーは大会で賞金を稼いでいないといけない」とか「2年以上プロゲーマーで生活していなかったらプロゲーマーじゃない」とか、そういうのは野暮だなと。
昔からゲームを好きだった人たちの間では「eスポーツ」って言葉自体、なんとなく触れにくい空気もありますけど、むしろ僕はどんどん使っていって、業界を盛り上げてしまったほうがいいと思う。
――今は定義がかなりフワッとしてますが。
ふ~ど:そうですね。そんなにまだ光がない、街灯がないのをいいほうに解釈して、いろんな形がある方がみんなが参加しやすいし人口も増えやすいんじゃないかと考えています。
――実際、いろんなプレイヤーが各々の切り口で配信なりの活動を始めていますよね。
ふ~ど:僕は大会を縄文時代で、配信を弥生時代だって言ってるんです。
要するに大会って「狩り」なんですよ。大会で勝って賞金を獲るのって、マンモス狩って来るみたいでカッコいいんで、男はみんな憧れるんですよ。
でもマンモス狩って来れるのって、たった一人ですよ。それじゃ食っていける人が少なすぎるんで、ベースを安定させるためにそこから稲作文化が始まった。それが配信なり、スポンサーからの収入なんですよね。
それって周りからするとカッコよくないんですよ。明らかに槍突き刺してるほうがカッコよくて。ただ、中に入って今後の先を見据えて生きていくってなると、安定するものが絶対に必要なんです。それがたぶん今のフェーズなんだと思います。
――面白い例えです!
ふ~ど:マンモスを狩って来ないで何がプロだ、って言う人もいるんですけど、この文化を維持しようと思ったら物理的にマンモスの頭数が足りない。
――プロって仕事ですもんね。それで生きていかないといけない。
ふ~ど:そうなんですよね、だからみんな頑張って配信とか動画編集とかを覚えて、形を変えて生きていくっていうのは、すごくいい流れかな、と。人類の歴史ですからね。
――中の人が小難しいこと言っていると、一般には伝わらなくなっちゃいますからね。
ふ~ど:そうですよ。「プロ格闘ゲーマーのふ~どです」っていうより「プロゲーマーふ~ど」ですって言うほうが今は絶対いいです。もっと業界がデカくなったら、そこから狭めていけばいいと思います。
――eスポーツが今より浸透して大きくなる展望はありますか?
ふ~ど:eスポーツっていうか、ゲームはもう普通にそこにあるものですよね、子供の頃から。だからこれ以上普及するというよりは、ゲームはプレイしててもいいものなんだよって、世間に認めていってもらう作業なのかなって思います。
例えば、子供が小学生のころに野球の才能があるってわかったら、親御さんは喜びますよね? 野球自体にはいいも悪いもない。
――そうですね。野球だってゲームだって、それだけに打ち込んだら勉強はおろそかになるんで、特に野球が教育にいい、なんてことはないとは思います。
ふ~ど:違うのは、高校野球なり、プロ野球なり、その先が世間に認知されてるかどうかじゃないかなと。その説得力を「eスポーツ」っていう言葉が広めてくれるのが理想だと思うんですよね。子供のころに親とキャッチボールやるのと同じで、親御さんも子供にゲームをやらせられるようになれば嬉しいです。
――「プロ野球選手になりたい」とか「音楽で食って行きたい」みたいな夢と同じくらいの温度で、「プロゲーマーになりたい」という夢が認められてもいい気はしますね。
ふ~ど:じゃあ今後、親御さんが納得させるためにどうしていくのか、それが何なのかって僕にはわからない。「eスポーツ」という言葉をどう定義して、どう広めていくか。少なくとも今はプレイヤーでありたいので、僕はまだそこに時間を割いてはいないんですが。
――ふ~ど選手の個人的な目標はどんなところにあるんでしょうか
ふ~ど:一応、夢はゲームと死んでいくことです。ゲームに携わってずっと生きていけたらいいなと思って、そのための努力はしていこうかなと思います。まあ、すごく現実的で、夢ではないですよね。ゲーム業界ってすごく広いので、何かしら関われると思います。もっと目標高くしたほうがいいですかね? 「生涯現役プロゲーマー」とか(笑)。
――プロゲーマーのあるべき姿を広げていけば、そう言える日は来るかもしれないですね。
ふ~ど:街灯がまだ全然灯っていないんでわからないですけどね。
ただ、ありがたいですよね。ずっとゲームのことが好きで来たらここにいるっていうのは。せっかくだから頑張ってますよ。
いかなることについても、自分には見えない所までを考えすぎず、たどり着ける解の中から最適と思える行動をしていく。子供の頃からふ~ど選手のスタンスは変わっていない。
ラーメンを食べ歩き、酒を飲み、旅をして人と会い、ゲームに打ち込み世界で戦う。この人はさぞ人生をエンジョイする達人なのだろう、という印象を抱いてインタビューに臨んだが、実際に会って話してみたふ~ど選手は、まさに人生をゲームのように捉え、自分のやり方で攻略し、楽しんで生きる生粋のゲーマーだった。
今は一介のプレイヤーでありたいと氏は言う。eスポーツ業界が今後どうなっていくのか今は誰にもわからないが、これから起きる盤面をふ~ど氏がどんなプレイで攻略していくのか、その活躍に期待していきたい。
■関連リンク
ふ~ど選手 Twitter
https://twitter.com/TheFuudo
プロゲーマー ふ~どの日常
――ふ~ど選手の日常の生活ってどんな感じなんですか?ふ~ど:大会とかイベントのない日は、だいたい練習場とか対戦会とかに行っていますね。海外の大会に出ることが多くて時差ボケの時期も多いんですけど、日本時間に合っているときだとだいたい昼に起きて、家にはこもらないで対戦会に出かけています。
――活動時間は昼からなんですね。
ふ~ど:仕事によって起きる時間は変えるのが当然だと思っていて、それがプロゲーマーなんだったらやっぱり夜型がいいと思います。ゲーセンもオンラインもゲームが活発になるのは夜なので、むしろ午後13時に起きて、15時くらいから対戦を始めて、夜中までしっかり集中力を持って練習するサイクルを組めたら、強くなると思います。
――起きているあいだはどこかの対戦会に?
ふ~ど:基本はそうしています。そっちのほうが楽しいですね。別の事をやっているときでも、対戦会の現場でしていることが多いです。空間にいるのが好きなんですよ。空間にいることが結果的に情報が集まって、自分が強くなるので。
――現場にいながらにしてプレイしていない時間も多いんですね。
ふ~ど:ゲームをたくさんやるから強くなるっていう考え方には疑問があって。プレイ以前に情報があったほうが絶対に効率がいいし、やってないときだから考えられることもありますからね。そのうえでたくさんプレイする。そして何よりもまずは現場に行く。
――練習の仕方としては話をする、考える、対戦の繰り返し?
ふ~ど:そうですね。数年まではトッププレイヤーの対戦練習って延々プレイする感じだったんですけど、最近は5先(5試合先取)とか3先で区切るんですよ。区切ってやめる。それで内容を考えたり、思うところがあったら言い合ったり。みんなそうなってます。
そのほうが内容が良いんですよ。あまり長くやってると疲れて来て動きが雑になってしまいますし。負けをちゃんと負けと受け止めるための5先というか。それをみんなが共有できているのが、今の日本の強さなのかな。
――『ストリートファイターⅤ』(以下『ストV』)のシーズン1なんて、かなり海外勢に押されましたもんね。
ふ~ど:あれは『ストリートファイターIV』がゲーセンのゲームで、『ストⅤ』が家庭用ゲーム専用のゲームになったから起きた、海外勢の巻き返しでしたね。
海外って国土が広くて、盛り場の治安も危ないところがあるんで、毎日集まるようなゲーセンっていう文化がなかったんです。『ストIV』は日本勢がかなり抜けて強かったんですけど、家庭用ゲームになった『ストⅤ』ではそれが完全に逆転してしまって。ゲーセンに集まれなかった海外勢は、誰かの家なり、会場を借りるなりして、家庭用ゲームを持ち寄って対戦するのにもともと慣れていたんです。
『ストⅤ』が出てすぐのころ、日本勢でオフラインに集まって対戦してたのなんて、ほんのひと握りのプレイヤーでした。そもそも日本勢の頭の中では国内のプレイヤーはみんな敵としか思ってなかったんですよ(笑)。
そうやって国内で牽制し合ってたら海外勢に抜かれてしまって「これはマズいぞ」となりました。日本国内のレベルを上げるために、シーズン2からは集まるようになったんです。それが今でも続いているから、最近の日本プレイヤーの強さだったり若手の成長だったりに直結しているなと思いますね。
――最近は『ストリートファイターⅤ アーケードエディション』(以下『ストV AE』)に集中していて、他のゲームはそんなにやってない感じですか?
ふ~ど:少し空いた時間にもスマホで遊べる『シャドウバース』と『TEPPEN』はやっていますけど、そんなにいろいろは手を出せないですね。
新しいゲームもすごくやりたいんですけど、やっぱり今は世界中の『ストⅤ AE』プレイヤーがみんな本当に真面目にやっているんで、他のものに行っている余裕がないんですよ。その瞬間にたぶん置いて行かれるくらいレベルが上がっていて。『ストIV』のときは正直、もう少しゆるくてもなんとかなったんですよ。今は本当にレベルが高くなり過ぎましたね。
――まだまだレベルは上がっていますか。
ふ~ど:対人戦の成長って相対的に伸びないと意味がなくて、ただ「ゲームがうまくなる」ことに比重を置くと危険なんです。「相手よりうまく」ならないと相対的にはうまくなっていない。それがすごく重要で。僕が上達に効率を求めるのはそこなんです。
だから家でちょっとしかやらないとかは、実質やってないのと変わらないと思っていますね。個人で見ればうまくなっているとは思うんですけど、相対的に見ればむしろ下手になっている。
――置いていかれるのは下手になっているのと同じということですね。
ふ~ど:そうです。なのでウメハラさんが著書で「1日ひとつだけ強くなる」なんて書いてますけど、絶対1つと言わずもっとうまくなってるんですよねぇ、あの人(笑)。実際みんな一日ひとつ強くなることってできていないんです。ほとんどの人は1日に1歩も進んでいないですよ。「1日1歩でも進めていれば結果的に一番前になっているでしょ」って意味ではウメハラさんの言うことが合ってるんだろうな(笑)。
1日2歩進んでいるやつがいれば、ウメハラさんはぜったい3歩は練習すると思うんですよね。そういう意味では、今トップ戦線で戦えてる人ってのは、みんな相対的に捉えて練習しているから競争できているんだと思います。
――競争とか勝負の世界はそうなりますよね。
ふ~ど:周りを見て、相対的に自分をどう上げるかのやり方は自由ですけども。ももち選手なんかは、対戦会に出てこないでひたすら自分で練習してるけど、めちゃくちゃ独自のスタイルで強いですし。
――異様なスタイルですもんね。他の誰かに似てないというか。
ふ~ど:あの圧倒的な勝ち方がなんで起きるかっていうと、攻略がひとりだけ上に行っている瞬間なんですよ。相対的に見て、攻略が抜けている瞬間はみんなと対戦しないほうが大勝ちできるんです。みんなに追いつかれないから。
――逆にウメハラ選手なんかは、自分だけが知っている技術もどんどん公開するって、配信などで言っていますよね。
ふ~ど:そこはあえて公開することで相手に対策を講じてもらって、また自分がそれに対応して、って全体の実力を上げるためのやり方ですよね。自分が一番良いものを持ってるときに人に与えない、だから結果的に自分が上、っていうのは相対的な強さの維持としていい手段なんですけど、強さっていう意味では伸びは遅れるんです。
でも今って、敵が日本だけじゃなくて海外だったりするんですよ。自分が国内で抜きん出た考え方とか攻略とか持っているときにそれを共有するかしないかは、どこを見ているかによって変わるんだなと思います。
なので、世界レベルで見て自分が一番抜けているなと思ったら隠す考え方もアリだと思いますよ。まあ、僕は楽しくなっちゃって結構見せちゃうんですけど。
実際、練習場に来ている人の中にもそういう利用の仕方をしている人もいます。自分が勝っているなと思うときは対戦会に来ないで、攻略で負けているなというときは対戦会に来る、みたいな。
――若い人たちにもそういうゲーセンマインドは伝わっているものなのですか?
ふ~ど:どうなんだろう……。若い子たちは、なんで僕らおじ(おじさん)世代がなんでこんなにやっているのかっていうのはわかっていないんじゃないかな。若い子たちには、ゲームやって仕事になる、みたいな奇跡的な状態をなくしたくないっていうモチベーションはわからないですよ。
逆に今の若いゲーマーって、少しゲームにハマって調べたら「プロゲーマーって職業があるらしい」「ゲーム強くなると付加価値があるぞ」みたいな感じで参加して来れるんですよね。単純に、人生の選択肢のひとつになり得るというか。
僕らはぜんぜんそんな展望もない頃から人生かけちゃってたら、こんなまさかの状況になって、これを終わらせまいと必死になってて。若い子たちからしたら謎のモチベーションだと思われてるはずです。
でもこれは、今のままじゃ良くないんです。このまま業界がもっと大きくなって、プロゲーマーの地位が本当に向上して、ゲームがうまいことへの付加価値がさらに高くなることで一気に世代交代が来ますよ。
――たしかにまだ完全に世代交代が起きてはいませんね。
ふ~ど:そりゃそうですよ。よく料理人とか職人の世界で、包丁持つまでに何年かかるとか、一人前になるのに20年とかかかるとかって言われたりするじゃないですか。でも今格ゲーやってるおじなんてもう30年ですよ。職人の世界をとっくに超えちゃってるんです。これが簡単にひっくり返るんだったら、板前の世界のありがたみだってわからなくなる。
――MOBAやFPSの世界は若手が強いんですけどね。
ふ~ど:若い処理速度が求められないゲーム性の違いもありますよね。格ゲーって処理しなきゃいけない情報が、それらのゲームと比較すると少ないんですよ。画面に1キャラずつしかいないわけですから。MOBAを見ていると、敵味方に複数のキャラがいて、行くべきか、退くべきか、スキルはどう使う? という選択肢が常に無数にある。これは少なくともしばらくの間は若い人が強いんだろうなあ、って思いますね。
でも格ゲーは情報量が少ないんで、先の出来事を想定しやすい。ラウンドの開幕に前ジャンプする、落とされました、じゃあ起き攻めになります、全部ここまでやる前に予想できるじゃないですか。そうなったときに相手の頭に残る印象まで想定できます。
――将棋や囲碁などの先読みに少し近いところがあるんですね。
ふ~ど:ただ、やっぱりゲームは基本的には若者のシーンじゃないですか。格ゲーの歴史を見たって、僕らの世代は若いときにみんな年寄りたちをなぎ倒して来たんですよね。それは僕らが若いころに格ゲーがブームがあったからであって、ここしばらくは若い人たちがあんまり格ゲーにやって来なかったのかなと勝手に解釈しています。
――じゃあ、今若い人が勝ちきれないのは、単純に若い力の総力が足りていないという面もあるんでしょうか。
ふ~ど:若くて格ゲーやってる子はある意味変わり者なんですよ。
僕らの世代っていうのは、格闘ゲームが一番流行ってたから格闘ゲームをやってきた。でも現状を公平な目線で見たら、格ゲーじゃなくてMOBAやFPSが主流なんです。単純に人口が多い。
わざわざ人口が少ないゲームを選んだ彼らの絶対数はやっぱり少なくて、僕が攻略に重要だって言っている情報交換をするのだって、上の世代の知識や経験に依存するところが大きくなってしまう。なので、そりゃ簡単には世代を超えることはできないですよ。おじのほうが多いんだから。
プレイ人口がいるゲームで若い世代が勝てていなかったら、今僕が言っていることはおかしいんですけど、やっぱり『League of Legends』では若い子が強い。
「eスポーツ」について
――格闘ゲームの人口が増えるのは難しいんでしょうか。ふ~ど:最近はもしかしたらまた盛り上がるかも、とは思いはじめています。eスポーツだなんだって騒がれるようになってから、地味ではあるものの格闘ゲームの注目度が上がっている感じがあるんですよね。プレイヤーってことではなく、観戦専門のファンも含めて、増えては来ている。
――たしかに、格ゲー全盛世代の我々は一時期、一般の人が格ゲーに目を向けるのを諦めかけていましたね。でも最近は、格ゲーの内容をそこまでわかっていないファンまでもがついて来ている感じはあります。
ふ~ど:たぶんeスポーツの弱点になっている、「専門知識がないと何が起きてるかわからない」という点がある程度クリアできてるんだと思います。キャラクターも画面上に二人だけ、お互いの体力を表すゲージがあって、あれを減らせば勝ちなんだなとか。派手な画面演出の技が当たったらめちゃくちゃ減るんだなとか。格闘ゲームをやったことのない人でも、どこで盛り上がってどこで喜んだらいいのかがわかりやすい。
もっと流行るかもしれないですよ。だって観やすいんですもん。ゲームの知識がなくても楽しめる。
――ここ数年のeスポーツブームでプロゲーマーってすごく増えましたけど、ゲームのプロって何をする人だって捉えてますか?
ふ~ど:「プロ」って言葉は明確化されていないと思いますが、厳格化して狭めるより、広くしてみんなが使って周知する方が実質的には良いんじゃないかなと。それを厳格化して「プロゲーマーは大会で賞金を稼いでいないといけない」とか「2年以上プロゲーマーで生活していなかったらプロゲーマーじゃない」とか、そういうのは野暮だなと。
昔からゲームを好きだった人たちの間では「eスポーツ」って言葉自体、なんとなく触れにくい空気もありますけど、むしろ僕はどんどん使っていって、業界を盛り上げてしまったほうがいいと思う。
――今は定義がかなりフワッとしてますが。
ふ~ど:そうですね。そんなにまだ光がない、街灯がないのをいいほうに解釈して、いろんな形がある方がみんなが参加しやすいし人口も増えやすいんじゃないかと考えています。
――実際、いろんなプレイヤーが各々の切り口で配信なりの活動を始めていますよね。
ふ~ど:僕は大会を縄文時代で、配信を弥生時代だって言ってるんです。
要するに大会って「狩り」なんですよ。大会で勝って賞金を獲るのって、マンモス狩って来るみたいでカッコいいんで、男はみんな憧れるんですよ。
でもマンモス狩って来れるのって、たった一人ですよ。それじゃ食っていける人が少なすぎるんで、ベースを安定させるためにそこから稲作文化が始まった。それが配信なり、スポンサーからの収入なんですよね。
それって周りからするとカッコよくないんですよ。明らかに槍突き刺してるほうがカッコよくて。ただ、中に入って今後の先を見据えて生きていくってなると、安定するものが絶対に必要なんです。それがたぶん今のフェーズなんだと思います。
――面白い例えです!
ふ~ど:マンモスを狩って来ないで何がプロだ、って言う人もいるんですけど、この文化を維持しようと思ったら物理的にマンモスの頭数が足りない。
――プロって仕事ですもんね。それで生きていかないといけない。
ふ~ど:そうなんですよね、だからみんな頑張って配信とか動画編集とかを覚えて、形を変えて生きていくっていうのは、すごくいい流れかな、と。人類の歴史ですからね。
――中の人が小難しいこと言っていると、一般には伝わらなくなっちゃいますからね。
ふ~ど:そうですよ。「プロ格闘ゲーマーのふ~どです」っていうより「プロゲーマーふ~ど」ですって言うほうが今は絶対いいです。もっと業界がデカくなったら、そこから狭めていけばいいと思います。
――eスポーツが今より浸透して大きくなる展望はありますか?
ふ~ど:eスポーツっていうか、ゲームはもう普通にそこにあるものですよね、子供の頃から。だからこれ以上普及するというよりは、ゲームはプレイしててもいいものなんだよって、世間に認めていってもらう作業なのかなって思います。
例えば、子供が小学生のころに野球の才能があるってわかったら、親御さんは喜びますよね? 野球自体にはいいも悪いもない。
――そうですね。野球だってゲームだって、それだけに打ち込んだら勉強はおろそかになるんで、特に野球が教育にいい、なんてことはないとは思います。
ふ~ど:違うのは、高校野球なり、プロ野球なり、その先が世間に認知されてるかどうかじゃないかなと。その説得力を「eスポーツ」っていう言葉が広めてくれるのが理想だと思うんですよね。子供のころに親とキャッチボールやるのと同じで、親御さんも子供にゲームをやらせられるようになれば嬉しいです。
――「プロ野球選手になりたい」とか「音楽で食って行きたい」みたいな夢と同じくらいの温度で、「プロゲーマーになりたい」という夢が認められてもいい気はしますね。
ふ~ど:じゃあ今後、親御さんが納得させるためにどうしていくのか、それが何なのかって僕にはわからない。「eスポーツ」という言葉をどう定義して、どう広めていくか。少なくとも今はプレイヤーでありたいので、僕はまだそこに時間を割いてはいないんですが。
――ふ~ど選手の個人的な目標はどんなところにあるんでしょうか
ふ~ど:一応、夢はゲームと死んでいくことです。ゲームに携わってずっと生きていけたらいいなと思って、そのための努力はしていこうかなと思います。まあ、すごく現実的で、夢ではないですよね。ゲーム業界ってすごく広いので、何かしら関われると思います。もっと目標高くしたほうがいいですかね? 「生涯現役プロゲーマー」とか(笑)。
――プロゲーマーのあるべき姿を広げていけば、そう言える日は来るかもしれないですね。
ふ~ど:街灯がまだ全然灯っていないんでわからないですけどね。
ただ、ありがたいですよね。ずっとゲームのことが好きで来たらここにいるっていうのは。せっかくだから頑張ってますよ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いかなることについても、自分には見えない所までを考えすぎず、たどり着ける解の中から最適と思える行動をしていく。子供の頃からふ~ど選手のスタンスは変わっていない。
ラーメンを食べ歩き、酒を飲み、旅をして人と会い、ゲームに打ち込み世界で戦う。この人はさぞ人生をエンジョイする達人なのだろう、という印象を抱いてインタビューに臨んだが、実際に会って話してみたふ~ど選手は、まさに人生をゲームのように捉え、自分のやり方で攻略し、楽しんで生きる生粋のゲーマーだった。
今は一介のプレイヤーでありたいと氏は言う。eスポーツ業界が今後どうなっていくのか今は誰にもわからないが、これから起きる盤面をふ~ど氏がどんなプレイで攻略していくのか、その活躍に期待していきたい。
■関連リンク
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