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関西におけるeスポーツシーンの現状とは? 現役大学生ながら株式会社PACkageを設立した元プロ「山口勇」氏に聞いた【シブゲーアーカイブ】
※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2018年10月15日/執筆:Tatsuta Yuki)
ゲームにおける対戦をひとつの "競技" として捉えた言葉、「eスポーツ」。2018年に入ってからeスポーツは様々なメディアで取り上げられるようになり、その人気や規模の大きさを実感する人も増えてきたのではないだろうか。
本稿を執筆している2018年10月現在、プロゲーミングチームやeスポーツサークルなどの活動が積極的に行われ、さらには福岡や静岡をはじめ日本各地にeスポーツ関連団体や協会が相次いで設立されており、国内においてもeスポーツ認知拡大の波は留まるところを知らない。 とは言え、プロリーグ大会や大型eスポーツイベントの多くは都心で開催されているため、首都圏から離れた地域ではeスポーツシーンの成長に時間がかかっているのが現状だ。
そんな中、大阪府に拠点を構える株式会社PACkageは、関西地方からeスポーツシーンをリードする注目の企業だ。同社は、『レインボーシックス シージ』(以下『R6S』)を採用した「PAC-CUP」をはじめとするeスポーツイベントやプロゲーミングチーム「Pro esports team Next Generation」(以下、PNG)の運営、eスポーツに関わるクリエイティブ制作などに携わっている。
今回は、現役大学生ながらPACkageの代表としてeスポーツシーンの発展に尽力する山口勇氏(@yukuno2552)にインタビューを実施。PACkageの取り組みと関西eスポーツシーンの今、そして今後におけるeスポーツイベント運営の展望についてお話を伺った。
プロチームの選手からeスポーツイベント運営の道へ
――まず最初に、山口さんの簡単な自己紹介をお願いします。
山口:私は大阪電気通信大学の3回生で、eスポーツ関連のゲームメディア企画を勉強しています。もともとeスポーツとの関わりと言えば、2013年に自分でゲーミングチームを立ち上げて、『World of Tanks』の大会に出場していました。その後、PlayStation 4版の『R6S』をプレイしていた時にプロゲーミングチーム「野良連合」が設立され、同チーム所属の選手として1年半に渡って活動しました。
現在はPACkageの代表取締役として、「eスポーツのイベント事業」「ゲームチーム事業」「クリエイティブ制作等の受託業務」の3本柱でeスポーツ事業に従事しています。
――いちプレイヤーからチームやイベントの運営側に回った理由は何でしょうか?
山口:『R6S』の発売翌年の2016年頃から、自分でオンライン大会を開催したいと思うようになりまして。最初は小さな規模で開催していたんですけど、参加者が全然集まらなかったんです。
その中で私個人が行っていたゲーム制作の繋がりで企業の方とお取引する機会がありまして、まずは個人事業主という形で "PACkage" というものを設立しました。そして別の機会でスポンサー候補の企業の方とお話しした時に、「個人だと支援は難しい」と言われ、意を決して株式会社にした次第です。
"オフライン" にこだわり抜いた「PAC-CUP2018」
――PACkageでは、2018年4月から8月にかけて『R6S』の大会「PAC-CUP2018」を開催しましたよね。本大会についての山口さんの所感を教えてください。
山口:足りないことだらけですかね……。想定が足りていなかったと言いますか、私や私と一緒に弊社で働いている友人達が予想していなかったことが多発しました。あと、自分たちで用意したイベント機材の不良や、そういったトラブルへの対処法を考えていなかった準備の甘さが目立ちましたね。今後直していかないとな、と頑張っているところです。
ただ、大会に出場する選手の顔を目の前で見れて、そこで練習したりウォームアップしたりしている姿、そして何より彼らが喜んでいる姿を間近で見れたのは非常に嬉しかったです。今後もそんな光景を観客の皆さんと一緒に見られる場を作っていきたいと考えています。
――PAC-CUP2018を開催するにあたって、特にこだわり抜いたポイントはありますか?
山口:やはり小規模な大会ではありますが、「オフライン環境での開催」はどうしてもこだわりたかったポイントです。いきなりオフラインでイベントを開催したので問題は発生しましたが、意地になってオフラインで開催して良かったと思っています。
――オフラインだと、選手との距離も近いですもんね。
山口:そうですね。特にRayCyil選手たちが物凄く盛り上げてくれたので嬉しかったですね。
――ちなみに、なぜPAC-CUP2018に『R6S』を採用したのですか?
山口:一番の理由はやっぱり『R6S』が大好きだからです。今まで遊んできたゲームタイトルの中でも、おそらくダントツでプレイ時間が長いですね。文字通り寝る間を惜しんでプレイしました。
――それ程までに『R6S』に惹かれるポイントはどこでしょうか?
山口:普段からシューティングゲームが好きで『メタルギア ソリッド』や『Call of Duty』(以下『CoD』)、『Battlefield』などもよくプレイしていたのですが、『R6S』は対戦するステージが良い意味で狭いので、敵から攻撃を受けた場所が凄く分かりやすいんですよ。撃たれた瞬間に「ココから撃たれた」と分かる部分が響きました。ステージの広さや相手との距離感が自分とマッチしていて、FPSで戦う楽しさが伝わってきます。
――やられた時に納得がいくということですね。先ほどの話に戻りますが、PAC-CUP2018を次回開催する際に、具体的な改善策はありますか?
山口:とりあえず、しっかりとした配信場所を確保したいですね。実は現状、配信する前夜か当日の早朝に、私が車で機材を搬入しているんですよ。この作業に2時間ほどかかるので、まずは近場で配信場所を確保することが目標ですね。
この問題は解決しそうで、次の会場の目処もある程度立っています。その会場で決まれば、回線や画質面の問題も改善できそうです。あとはもう、「コメント対応」ですね。
――「コメント対応」と言いますと?
山口:以前なぞべーむさんがTwitterでつぶやいていたのが、大会の模様を配信しているとコメントが荒れる場合があるんですよ。それは、そうしたコメントの投稿を許してしまう運営側のミスでもありますし、単に視聴者同士の応援がヒートアップして野次や喧嘩に発展してしまう場合もあります。
その際に運営側の人間が仲裁に入るだけでも、多少コメントが改善されることがあるんです。炎上しているところに、和やかな空気を持ち込むわけです。他にも、「そもそもコメントしやすい雰囲気を作る」という効果も期待できます。PACkageで開催した大会の場合、運営者が発言した際はコメントの数が3倍近く増加したという事例もあります。今後も検証は必要ですが、効果が見込めるのであれば、この取り組みは今後も続けていきたいと思っています。
eスポーツコミュニティ成長のカギは「大学生」
――山口さんが関西地方で注目しているeスポーツコミュニティはどこでしょうか?
山口:やはり大学ですね。CEDEC 2018(※)でもお話させて頂きましたが、大学のeスポーツチームが物凄い勢いで増えているんです。
※CEDEC:「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス」の略称。山口氏は同カンファレンスで、自身の取り組みやeスポーツ関連企業に求められていることについて語った。
『League of Legends』(以下『LoL』)の1タイトルに絞って見ても、私の通っている大阪電気通信大学では70名超のメンバーを抱えるサークルに成長しています。他の大学においても、数十名規模のサークルは多く見られます。つまり、大学生のeスポーツシーンが盛り上がり始めているのです。 今後は他のタイトルでも規模が拡大しそうな流れもあります。具体的には、『CoD』や『R6S』といったタイトルを扱うサークルも増えてきていますね。
一昨年あたりに発足したサークルが多くて、初期メンバーは5名くらいしか居なかったのに、今では100名近くに達しているところもあります。 おそらく、『LoL』をはじめとしたPCゲームのサークルができたおかげで、PCゲームを楽しむメンバーが集まりやすくなったんだと思います。そのお陰で『R6S』や『PLAYERUNKOWN'S BATTLEGROUNDS』、『CoD』などをプレイしている人たちがコミュニティを形成し、複数のタイトルを扱う「マルチゲーミングサークル」へと成長している、というような状態です。
――大学と言えば、オープンキャンパスでもeスポーツイベントが開かれるようになりましたよね。
山口:そうですね。大阪電気通信大学でもオープンキャンパスで『LoL』のデモイベントをやらせてもらいました。オープンキャンパスを含めて、様々なイベントを通して大学全体でeスポーツに取り組み始めた所が多いようです。
私たちのイベントは月に1回程度オフラインで開催していますが、参加者数は大体3チーム、計50名ぐらい。主催者である我々が大学生ということもあって、参加者の半分以上は大学生ですね。 逆にeスポーツカフェやインターネットカフェなどのお店へ目を向けると、30代~40代あたりの人たちが、20~30人規模でイベントを開いたりしています。特にインターネットカフェは面白くて、仮眠をとるスペースの横がeスポーツブースになっていて、そこで「いえーい!」と盛り上がってプレイしていますね(笑)。
インターネットカフェも独自の進化を遂げていて、面白いです。
――そういった状況の中で、eスポーツシーンの更なる発展に必要なキーポイントって何だと考えていますか?
山口:私が一番望んでいるのは、「IP(※)の使用に関するライセンスの明記」です。『R6S』のような海外製のゲームの場合、ライセンス表記の多くは英語ページに乗っているんですよ。「イベントでゲームを使う際はこのように扱ってくださいね」とか。そういったものが日本のホームページににもあれば、eスポーツシーンは今後より一層発展すると思います。
※IP:intellectual property=知的財産
というのも、現状ではIP使用の許諾を取らずに大会を開催しているケースが結構多いんです。私たちコミュニティ側からすると、大会が開催されるのは喜ばしいのですが、ゲーム会社からするとあまり嬉しくない。つまり健全ではない状態なんです。
IP使用の問題が解決されれば、今後イベントを運営する側も安心できます。『オーバーウォッチ』のBlizzard Entertainmentのように、大会開催時における応募フォームやチーム登録フォームがあると、パブリッシャーと共同でコミュニティ大会が開きやすくなります。そうしたところをひとつのキーポイントとして捉えていますね。
目指せ京セラドーム!選手が輝けるeスポーツイベントを作りたい
――PACkageで今後拡大したい事業内容はありますか?
山口:eスポーツイベントはとことんやっていきたいですね。大阪で一番大きい会場を借りたいとは思っていて……。「目指せ京セラドーム」ですね!
大阪万博が開かれるかは分かりませんが、その時までに大きなeスポーツイベントが大阪で開催できれば凄く嬉しいです。生まれ育ちもずっと大阪なので、「大阪でイベントを開くこと」には結構こだわっていますね。
――関西からeスポーツイベントを盛り上げる形ですね。
山口:そうですね。ゲーミングチームの目立つ場所って大会じゃないですか。eスポーツ大会で優勝を目指して活動する姿がカッコイイ。
もちろん、私たちのプロチームの選手がプロリーグなどで優勝する姿を見たいですが、それとは別で「プロリーグやコミュニティ大会を中心に選手たちが輝ける場所を作っていきたい」というのが我々PACkageの一番の思いです。
――気になったのですが、そのバイタリティはどこから溢れ出てくるのでしょうか?
山口:昔からゲームが本当に好きで、小学生の頃からゲームクリエイターになりたいという夢を持っていました。でもいつのまにかゲームを作るよりもプレイする方の比重が大きくなって……。
ただプレイする方も楽しかったのですが、人の喜んでいる場面を見る方が楽しくなっちゃって。他の人たちが喜んでいる姿をもっと見たいと思った時に「イベントをやろう」と思いました。配信を見て喜ぶ視聴者のコメントも見ていたい。 そして、より多くの人に選手のことを知ってもらいたいし、前向きな意見をどんどん増やしていきたい、というのが自分のモチベーションの根本ですかね。
本当にイベントを開催した時は最高でしたからね。今では笑い話ですが、イベント当日はPACkage社員の弁当を会場に置いていたんです。でも私は忙しくて食べれなかったんですよ。そして帰るときに「そういえば弁当はどうしたっけ?」と話をしたら、スタッフの人たちが「食べないのかと思って全部食べました」って(笑)。
それくらい忙しくて色々と大変でしたが、その価値はありますね。オフラインって観客が喜んでいる姿を直に見れるので。
――オフラインならではの醍醐味ですね!少し意地悪な質問ですが、今「選手に戻っていいよ」と言われたら戻ってみたいですか?
山口:難しいなあ(笑)。その問題は引退するかどうか決めるときに悩みました。野良連合のCS(家庭用ゲーム機)部門が無くなった時に別チームへ行くという選択肢があったんですけど、凄く考えましたね。
でも、プレイしている時は確かに熱中して楽しいんですけど、試合を一歩下がって見ている時の方が幸せな感覚が強かったんです。「じゃあこっち(運営側)だな」って決めたところですね。
選手活動もできるなら続けてみたいですけど、そんなに甘い世界じゃないっていう(笑)。
――ぜひ、選手として活躍している姿をもう一度見てみたいですが……(笑)。では、「京セラ」をさらに超えた、人生の大きな野望はありますか?
山口:大きな野望ですか?野望というか……先ほど「京セラドーム」と言いましたが、もっと大きなところで言うと、eスポーツの世界大会を大阪で開催したいですね。
東京で『R6S』のアジア大会(世界大会の予選)が開かれますが、大阪では予選ではなく世界大会の決勝を開催したいですね。それを目標に、生涯現役で頑張りたいと思います!
――私も陰ながら応援させて頂きます。本日はどうもありがとうございました!
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