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【ストV】対戦相手を観察する力は『バーチャ』で培ったもの【DetonatioN Gaming 板橋ザンギエフ選手インタビュー】

2021年で40歳を迎える板橋ザンギエフ選手。2000年代は『バーチャファイター』シリーズでその名前を轟かせ、現在は『ストリートファイターV』を主戦場にしているDetonatioN Gaming所属のプロゲーマーである。

誰もが表情を硬くする大会の大舞台にあっても常に笑顔でレバーをグルグル、ゲームが好きで好きで仕方がない生粋のプレイヤー。『ストリートファイターV』の競技シーンを追っている読者であればこう聞いただけでもう“あの笑顔”と迫り来るデカキャラの圧が思い浮かぶのではないだろうか。

コロナ禍の中にあった2020年シーズンも絶好調だった板橋ザンギエフ選手にお話をうかがった。

▲板橋ザンギエフ選手

受験はどうやって効率よく勉強できるか攻略していた

──Alienware Zoneのプロ格闘ゲーマーインタビューでは、生い立ちからお話を聞いてます。まずは出身地と初めて遊んだゲームについて聞かせてください。

板橋ザンギエフ(以下、板ザン):物心ついたときにはファミコンが家にあったので、いろんなゲームで遊びました。『ドラゴンクエストIII』なんかは思い出深いですね。小学1年生のときだったのでもちろん全然意味わからないままに遊んでいたんですが、親戚のお兄ちゃんに操作を教えてもらったりして、年単位で長く触れて進めていく感じだったので。

──ゲームセンターデビューはいつごろでしょうか?

板ザン:小学4年生くらいです。通うほどではないですが、ゲーセンでは格闘ゲームもやっていて、自分で言うのもアレですけど地元ゲーセンのレベルでなら意外と勝てていましたね。やればやるだけ上手くなっていった感覚はあって、それが楽しかったのを覚えています。

その後、中学くらいからは完全にゲーセン通いな毎日でした。だからと言って家庭用ゲームを遊ぶことがなくなるわけでもなく、少ないお金でどれだけ遊ぶかを考えていましたね。ご飯代をゲームに突っ込んだり、安い中古ソフトを買って長く遊んだり。その辺りは僕らの世代のゲーム好きはみんなそんな感じだったんじゃないかと思います。

──板ザンさんは高学歴ゲーマーとしても知られていますが、勉強との両立はどうだったんですか?

板ザン:中・高はゲームが好きだったものの、当時は「ゲームだけにハマりすぎると良くないんだろうな」という感覚がどこかにあったんですよ。やっぱり当時のゲーセンに行っていると、なんというか……社会的な規範からは大きくズレた大人もたくさん見ることにもなったので(苦笑)、子供ながらに部活や受験とのバランスを取りながら、時期によって今は部活、今は受験、そして今はゲームと切り替えていました。

──そのあたりも、ある意味“攻略”なのでしょうか。

板ザン:実際、大卒だから頭が良いのか……と言ったらそんなことはなくて、ただ受験勉強が必要なときにちゃんとバランス配分できるかどうかだと思います。僕は受験というイベントを攻略するにあたって、ゲームに当てていた時間を一時的に減らしました。

『バーチャファイター』への思い入れは強い

板ザン:大学生活を送っていたところで『バーチャファイター4』がリリースされ、衝撃を受けました。自分自身もそうですし、周囲のプレイヤーにとっても『バーチャ4』は盛り上がりが別格でしたよね。池袋GiGOの5階でやっていたロケテストを見に行ったら、階段まで人で埋まっていて、背伸びしてやっと画面の端っこが見えるくらいなんですよ。しかも当時はあのカードシステムの斬新さが別格で、これはやらなきゃダメだなと思いました。それからまたゲーセンに通うようになりましたね。

※編集部注:『バーチャ4』はプレイヤー名や勝敗記録、段位やキャラコスチュームのカスタマイズなどを記録し、ゲームセンターでのゲームプレイに反映した初の格闘ゲームだった。

板ザン:『バーチャ4』ではオンライン上に「段位」という実力を示すものが生まれてしまったので、段位を上げなければならない、という使命感でひたすらプレイしていました。カードシステムのおかげで、いつもゲーセンで対戦していた相手の名前と顔を覚える……というか、一致させることができたのも嬉しかったです。

──『バーチャ4』を転機に仲間も増えていったんですね。板ザンさんは所々で『バーチャ』への思い入れの強さを話されているイメージです。

板ザン:ええ、思い入れは相当強いですよ。あんなに流行った『バーチャ』なのに新作が出なくなって久しいので、なんとか復活してほしいという気持ちがずっとあったんですよ。そんな中で去年はセガから『バーチャファイター』のeスポーツプロジェクトが発表されたので、これで息を吹き返してくれたら……というドリームは持っていて、それに関しては、もし僕の立場で何かできることがあるならいくらでも協力したいなと思ってます。(※)

※2021年5月27日にPS4およびアーケード向けに『バーチャファイターeスポーツ』が正式発表された。

──ゲーセンでも仲間ができたわけですが、大学生活の方も順調でしたか?

板ザン:自分は大学院まで含めて6年ほど大学に通ったのですが、『バーチャ4』と共に過ごしていましたね。大学が忙しいときはゲーセンに行くのは夜でしたが、毎日なるべくやりたいと思っていました。ただ、やっぱり自分としてはリソースの90%くらいを割いてはいたんですけど、100%はさすがにまずいという歯止めはありました。残りの10%で大学を何とかこなして、という感じです。

──そこから今に至るまで、ゲーム熱が上がったきっかけはなにかあったんですか?

板ザン:大学卒業後、仕事をしながらも『ストリートファイターIV』シリーズはそこそこプレイしてはいたんですが、そんな中で、当時あったゲーム雑誌『アルカディア』が主催する格闘ゲーム大会「闘劇2009」の『スーパーストリートファイターIV』2on2大会にふ~ど選手と一緒に出ることになったのがきっかけです。あれがなかったらここまで本格的に格闘ゲームに復帰はしてないかもしれないですね。他にも『バーチャ』勢で『ストIV』をやっている人はいましたが、自分とふ~ど選手がいちばんしっかりやっていたこともあり「2on2なら当然ウチらで組むでしょ」という感じでした。

──板ザンさんの対戦スタイルは、とにかく読み合いが強くて投げを通しまくる、みたいに見える一方で、当たり前の事ながら詰め方の細かさも物凄いわけですが、ご自身では二択の強さと攻略と、どちらが板ザンというプレイヤーの特徴である、みたいに考えてるんでしょう。

板ザン:どっちが、というか、読み合いは好きなんですけど、勝つにはやっぱり攻略が必要なんですよ。一試合だけなら読み勝ちが続けば勝てるんですけど、大会を勝ち抜くには投げキャラに限らず、差をつけられる攻略の部分で上回らなきゃいけないですから。

トッププレイヤー同士の対戦でお互いの攻略が高いレベルで煮詰まったときに、さらなるプラスアルファとして『バーチャ』で培ってきた力が役に立っていると思っています。

──やっぱり「バーチャ力」って存在すると思いますか?

板ザン:あると思います。自分はそれで飯食ってると思ってますよ。選択肢の迫り方や、相手を観察する力は『バーチャ』で培ったものなので、それを今『ストV』で生かすことができているのは面白い部分だと思ってます。前の経験が生きているし、他の人が持ってない力はそこなのかなと。

『バーチャ』は2D格闘ゲームと比べるとどの技も弱くて、例えば投げにしても常に逆二択をくらう状況なんです(※編集部注:『バーチャ』の投げ技は、原則的に相手が打撃を出しているあいだは必ず相手の打撃が勝つシステム)。自分が技を仕掛けたときにそれを避けられたらこっちが半分減ってしまうとか。絶対の安定行動がなくて誰もギャンブルからは逃げられない。

今の『ストリートファイターV』でも、密着状況ではギャンブルから逃げられない状況があり、その状況が来てしまったらそこと向き合わないといけない。そのときどうやってギャンブルと付き合っていくかが大事なのですが、『バーチャ』ははるかに高速でその読み合いが回るゲームなので、超高速の読み合いには一日の長があると思いますね。

▲『バーチャ』力を活かした闘い方で積極的に相手へ迫っていく

――ふ~ど選手のここ一番の駆け引きも本当にすごいと思いますが、『バーチャ』プレイヤーだからこそなんですかね。

板ザン:やっぱり格闘ゲームは、いろんなゲームを経験してきたオジたち(年配プレイヤーの総称)が経験値で勝っているという部分があると思うんですけど、そこで面白いのが出身ゲームの違いなんですよね。例えばウメハラ選手だったら25年くらい波動拳を打ってきているので、波動拳の撃ち方が別格です。かずのこ選手は『ギルティギア』の力を生かして、ユンみたいな攻め攻めのキャラで攻め勝ったり。新しいゲームが出たときに過去のゲームの力で攻略のひとつのベクトルの最前線に立てる、というのはあると思います。

だから僕の中では『ストV』は異種格闘技戦なんですよ。例えば板橋ザンギエフvsかずのこは『バーチャ』vs『ギルティ』で、お互いの培ってきたノウハウ勝負になったりするんです。そこが面白いですよね。

Razerとプロ契約
そして専業プロとしてDetonatioN Gamingへ

――そんな板ザンさんは2012年、Razerと契約してプロゲーマーデビューしましたが、きっかけは何だったんでしょうか?

板ザン:『スーパーストリートファイターIV AE』が出たあたりで、配信番組の「顔TV」や「GODSGARDEN」に出入りするようになり、そこでRazerから声をかけていただきました。最初にふ~ど選手がRazerからプロゲーマーになるというので、海外とのやりとりで英語ができる自分が手伝うようになり、そのタイミングで自分も契約していただくことになったんです。

でもその当時、本業の会社仕事がめちゃくちゃ忙しくて、あまり活動できない感じだったんです。この頃は『ソウルキャリバーV』をやっていたんですが、これは『ストIV』だとすでにタレント的なプレイヤーが多かったので自分が入り込む余地がないな、と思ったからでした。やり込めていないのに加えて、競技シーン自体が1年くらいで大会も少なくなってしまい、結局『キャリバーV』の競技シーンではそんなに活躍もできなかったんですけど。

――会社員を辞めて専業になったのはどのようなタイミングで?

板ザン:転機は『ストリートファイターV』で、今のDetonatioN Gaming (DNG)に声をかけられたことですね。DNGが格闘ゲーム部門を作るというので、お声掛けもいただきつつ自分からもアプローチしました。代表の梅崎(伸幸)さんから思いを聞き、「それなら自分にやらせてください」と。梅崎さんも速攻でOKしてくれました。

▲DetonatioN Gamingには『リーグ・オブ・レジェンド』や『PUBG』、『VALORANT』など多くのプロゲーマー・チームがある。格闘ゲーム部門は板橋ザンギエフ選手、ナウマン選手、竹内ジョン選手の3名が所属

――そんな板ザンさんもウメハラ選手と同い年なので、プロゲーマーの中では最年長クラスですよね?

板ザン:ええ、そりゃもう重鎮ですよね(笑)。

――そんな重鎮プレイヤーとして、今の若いプレイヤーに対する思いとかはありますか?

板ザン:年齢の話でいうと、我々オジたちにもどこまで(いつまでプレイヤーとして)やっていけるかというテーマがあるので、自分的にも気になる話題ですよね。まあ若い連中が伸びて来ても、むしろオジの経験値を武器にやり続けていくという構えではいたいですね。

若手が育ってほしいという気持ちもありますが、今は譲るつもりも無いんで、目の前の勝ちを拾っていきたいです。

――プレイヤーである事が第一、と。

板ザン:いえ、そこは少し違っていて、一番は自分が関わってるゲームだったり、ひいてはゲーム業界全体が盛り上がることだと思っているんですよ。なので、なんなら一時的に裏方に回るのも全然やぶさかではないと思っています。今の業界、オジがいったん離れて戻ってくることもありますから。伊予選手という『スト4』でめちゃくちゃ強いプレイヤーがいたんですけど、最近格ゲーやってないと思っていたら、『グランブルーファンタジー ヴァーサス』で戻ってきたんです。やっぱりパフォーマンスがものすごいんですよ。

――そういう意味で、格ゲーは常にチャンスがありますね。40歳で大活躍するとか、他のゲームではなかなかない状況です。

板ザン:誰にでもチャンスはあると思います。格ゲーはオジに優しいゲームかもしれません。知名度もあるし、殴り合って体力ゲージがなくなったら負けっていうのもわかりやすいですよね。

2020年という特殊な1年を振り返りつつ、
今後の展望は……

――板ザンさんにとって2020年はどうでした?

板ザン:予定されていた大会がバタバタとなくなってしまい、緊急事態宣言も出てこれからどうなっていくんだと暗中模索していました。モチベーションを維持して、パフォーマンスをキープするのが難しかったところはあります。『ストV』だけだと厳しい時期だったので、夏くらいまでは『グラブルVS』をやったりもしましたが、『ストV』にフィードバックできているので、無駄じゃなかったと思っています。

イベンターさんたちも頑張ってくれたので、みんなで何とか『ストV』をやってこれた、という感覚はありますね。

――その時期、「みんなでやっていこう」という連携などはあったのでしょうか?

板ザン:連携はむしろもっと取っても良かったと思っています。例えば大会をやるって急に言われてもなかなか準備できないですが、前もってコンセンサスをとってくれていれば、選手としてもパフォーマンスを出せるし、大会自体のクオリティも上がっていくんじゃないかと。

――板ザンさんはそういうことをちゃんと言っていくタイプのプレイヤーですよね。

板ザン:めっちゃ言いますね。直接打診したりもしました。それで業界とか環境が少しずつでも良くなるなら、言わないで黙ってる手は無いと思うんですよね。

▲板橋ザンギエフ選手の配信では、『ストV』や『リーグ・オブ・レジェンド』などさまざまなゲームを実況している

――今後、業界に望むものはありますか?

板ザン:今年は今年なりに大会が行われていくと思うので、臨機応変に対応していくのが大事そうかなと。

――コロナ禍の中で、プロゲーマーとしての意識は変わってきていますか?

板ザン:プロゲーマーはこういうものだという部分も含めて、模索中という感じです。プロゲーマー自体、まだ幅が広げられると思うんです。他のゲームをやったり、他の配信に出たり、いろんなプロゲーマーがいて、いろんなやり方があって、という方が面白いですよね。

――ストリーマーとの線引きの話にもなっていくと思いますが、板ザンさんとしてはどのような立ち位置になっていきたいと思っていますか?

板ザン:やっぱり競技者としての価値は持続していきたいと思います。それができなくなったら他のことをやる気がします。去年は大会がなかったので配信を頑張っていましたが、みんな根幹はそこじゃないでしょうか。

――いちファンとして気になっていたのが、世界一を決めるここ一番という場面でも大胆にレバーを回していたりしますよね。あの時のメンタルはどういう感じなのでしょうか。

板ザン:普段と同じことをしているだけなので、腹をくくれているんじゃないですかね。緊張していると普段やっていることができなくなってしまうじゃないですか。競技者にとって、そこと向き合うのがひとつのテーマだと思いますが、自分はそのアプローチの仕方が「腹くくって普段と同じことをする」ということなのだと思います。

こういう状況だと緊張して、こういう状況だとしないな、というのが自分でわかっているので、そこに向き合うのが大事ですね。

――フィジカルがあまり関係ない「ゲーム」による競技だからこそ、大舞台でも板ザンさんが楽しそうにプレイしているのが印象的です。

板ザン:昔、石川遼選手がインタビューで、これを入れたら勝ちとなる重要なパットの心境を聞かれて、「これを入れて周りがハッピーになるところを想像している」というようなことを答えていたんです。失敗ではなく、ハッピーなイメージをするというのがすごく良いなと思って。

人生にはいろんな場面がありますけど、そこでどれだけ自分を奮い立たせて、パフォーマンスを出すかというのは大事ですよね。

自分に対して「ここでスクリュー(パイルドライバー)が決まったら盛り上がる!」という場面で決めにいくのがまさに「バーチャ力」ですね。

――本当に投げキャラに向いていますよね。

板ザン:そこはべらぼうに向いてますね。スクリューはダメージも大きいのが良いです。ダメージが少ないと人の心は動かないので。

――最後に、今後の抱負をお聞かせください。

板ザン:まだ明確に「これがプロゲーマー」というものがないからこそ、幅を出していきたいです。プロゲーマーという業界を盛り上げたい、あるゲーム自体を盛り上げたい……。いろいろあると思いますが、若い人に「プロゲーマーってかっこいいな」「目指したいな」と思ってもらえるようになれたらいいですね。


大会でレバーを回している時とは違った、少し緊張さえ感じる真面目な表情から語られたのは出身ゲームへの、そしてeスポーツシーンへの強い愛情と思い入れ。そして純粋なプレイヤーの顔の時はなかなか口にしない、好きだからこその業界への貢献意識だった。言うべきところはちゃんと発言し、シーンのためになるなら裏方でもいいとさえ言えるその姿勢から感じたのは、状況を良くするためにバランスを取って必要な作業をきっちりきっちりこなしていく、人生レベルの攻略能力。こんなきっちりこなしてくるデカキャラ使いにプレッシャーをかけられ続けたら……今シーズンも、板橋ザンギエフの前進は止まりそうもない。

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