eSPORTS eスポーツに関する最新情報をチェック!
V3 Esports初制覇! バン&ピックと戦略を振り返る【LJL 2020 Summer Split GRAND FINAL解説】
「LJL 2020 Summer Split」は、V3 Esports(V3)が長年日本の『リーグ・オブ・レジェンド』(LoL)シーンをけん引してきたDetonatioN FocusMe(DFM)を破って優勝。「Worlds 2020」出場権を獲得した。
本記事では、初優勝を遂げたGRAND FINALのバン&ピックや戦略を振り返り、両チームの水面下のやり取りやどのような戦術でV3がDFMを崩したのか、という点を見ていこうと思う。
これはGame2のドラフトだが、DFMがSG戦で用意してきた作戦が端的に現れていたので、これを元に解説しよう。
この構成のコアになっているのはトップのシェンとサポートのレオナで、エンゲージできるサポートにシェンのアルティメットスキル「瞬身護法」をつけてボットサイドで強引に戦いを起こそうというピックになっている。
画像はゲーム時間10分過ぎ、5人でボットタワーにダイブするDFM。
ミッドには中盤のファイトで活躍できるCeros選手のシグネイチャーピックであるハイマーディンガー、ジャングルはファーム速度と1アイテムのパワースパイクに優れるニダリー、ADCにはスケールしてCCでファイトを補助できるセナという構成だ。
この構成にバン&ピックで対抗する案は主に2つある。シェンをバンしてそもそもの作戦を瓦解させるか、レオナをバンして最低限レベル6以前に強いサポートを消すか。
シェンをバンする場合は、日本最強のトップレーナーEvi選手にキャリーポテンシャルのあるチャンピオンを渡すリスクがあり、レオナをバンする場合は、ノーチラスなど他のエンゲージサポートが代替ピックになり、バン自体が意味をなさない場合があるので、どちらもメリットとデメリットがある選択といえるだろう。
筆者はEnty選手がレオナをカウンターしやすいスレッシュやブラウムをピックできることや、Gaeng選手のプールの広さを考えて、バンするならシェンの方かと考えていたが、V3の考えは異なったようだ。
DFMは元々プレーオフなどの舞台ではこれと決めた戦術を貫く傾向があり、この試合もほぼ準決勝と同様のピックになっている。
変わった点はミッドのニーコで、これはSG戦では全試合バンされていたチャンピオンだ。
プレーオフの第1ラウンドでCeros選手がピックしていたこのチャンピオンは、いまのミッドチャンピオンのプールの中では珍しく、中盤戦にパワースパイクが来るので、今回用意してきたDFMの作戦に最もマッチする1体である。
実際、積極的に仕掛けるV3に対してCeros選手は何度もすばらしいアルティメットでゾーニング、後ろから射程の長いYutapon選手のセナがダメージを出すという展開を作れていた。
しかし、DFMの構成には弱点があった。
それはDPSが足りないことである。
セナはCCやヒール、シールドと非常にユーティリティ性能に富んだチャンピオンで、ゲーム後半は射程やダメージもかなりスケールするため隙も少ないが、唯一通常攻撃の間隔が遅いという弱点がある。
ニーコもCCとAOEが豊富なメイジだけあって、単体ダメージという部分では見劣りする。
そこでV3はサイオンをピックすることにしたのだ。レオナをバンすることで最序盤のボット介入の圧力を弱め、サイオンで相手のDPSの低さを咎める。
Steal選手のニダリーに対してはファーム速度で対抗でき、さらにCCやダメージで中盤のファイトで存在感が大きいリリアを、AOEダメージが高いニーコに対しては単体バーストの高いアサシンであるルブランをピック。
V3のこの作戦はうまく機能していたが、やはりCeros選手のニーコは厄介な存在だったと言えるだろう。
ゲームを決めた集団戦。Archer選手のクリスタルアロー、Ace選手のルブランで、たびたびカウンターエンゲージを決めてきたCeros選手のニーコを捉えつつ、Paz選手のサイオンが別角度にエンゲージを決めている。
シェン&レオナに関してはバン&ピックで、ニーコに対しては事前の作戦というよりはゲーム内の対応で封じ込めて勝利したといったところだろう。
Game2でピックしたオーンはサイオン同様タンクタイプなので、一見代替ピックとして機能しているかのように見えるが、実はそうではない。
オーンはレベル13になって自身のアイテムを強化するまではタンク性能が低く、さらにサイオンのようにアルティメットでエンゲージをする場合、ある程度離れた場所でアルティメット発動→再発動→その後Eなどで前に出るという手順が必要で、集団戦でフロントラインとして機能するまでにタイムラグが生じてしまうのだ。
V3は今回レッドサイドなので、バン枠の関係でレオナをバンしなかった。しかしドラフトではエズリアル・レオナ対アッシュ・スレッシュというV3側有利のマッチアップをつくれた。
が、結果としてはレベル6のトップレーナーの介入力の違いで、V3はボットレーンでも有利を取られてしまう。
DFMがほぼ相手にリードを渡すことなくGame2を勝利した。
続くGame3、今度はV3はトップレーンにガングプランクを採用。これはシェンの「瞬身護法」というグローバルアルティメットに対して同じグローバルアルティメット「一斉砲撃」で対抗しようという考え方だ。
ミッドもより集団戦を意識したオリアナに変更し、チームファイトをするという意志が見えるドラフトに変更してきた。
しかしここでもCeros選手のニーコが立ちはだかる。
ゲームの流れを変えた集団戦でCeros選手が見せたスーパープレイ。このファイトをきっかけに最大3000ゴールドあった差を逆転してDFMが勝利する。
Ceros選手やEvi選手がチャンスをつくってYutapon選手が取るという、強かった時のDFMが完全に戻ってきたなという試合内容のGame3だった。
終わってみればYutapon、Gaeng両ボットレーナーは全19キル中18キルに絡み、Gaeng選手はバードでもシェンとのコンビネーションでボットレーンから試合をつくっていけることを証明した内容でもあった。
というのも、Game4はV3がレッドサイドで、いままで通りのバンでいくと、ここまで問題になっているレオナもニーコもバンすることができないのだ。
そこで彼らは大胆な戦略転換を行う。レネクトンとケイトリンをオープンにして、ニーコとレオナをバンしたのだ。
Game5の大胆なインゲーム戦略ばかりが注目されるが、このBo5の潮目が変わったのは確実にこのゲームだった。
ここまでのV3は、DFMが準決勝から用意してきたチームコンプに対して自分たちで答えを出す「解答者」の立場で、バン&ピックを進めてきた。
しかしGame4ではケイトリンを相手にピックさせることで「出題者」の立場に変わり、DFMに「解答者」のポジションを押し付けるという戦略を採ったのだ。
パッチ10.16のケイトリンは「ピックしたらほぼボットレーンは自動的に勝ち」というくらいの超強力ピックで、ボットレーンの主導権を握ったほうが勝ちやすい現在のメタと相まって、世界的に見てもほぼオープンにならないチャンピオンだ。
ただしこのケイトリンは罠でもあった。
というのもニーコ、ハイマーディンガーがバンされて、ミッドレーンにケイトリンのパワーが鈍るゲーム中盤を支えられるチャンピオンが残っていないのだ。
そんな中Ceros選手が選択したアジールは、残っているチャンピオンの中で言えば最適解に近い。終盤型のチャンピオンだが、ゲーム中盤にもアルティメットスキル「皇帝の分砂嶺」を使うことでエンゲージ・ディスエンゲージの両方をこなせ、存在感を発揮することができるためだ。
ただ、この後世ではいままでDFMがやってきた「ゲーム中盤の集団戦で勝って、そのままゲームに勝利する」というゲームプランを採ることはできない。
ケイトリンで序盤を制し、作った貯金を使いながらゲーム時間を引き延ばし、アジールやケイトリンが3アイテム完成したタイミングで戦って勝つ、という全くテンポの違うゲームを行うように、V3のバン&ピックによって誘導されたのだ。
それに対しV3のピックはレネクトン、リリア、アッシュと中盤にパワーを発揮できるチャンピオンがずらりと揃い、パワースパイクのギャップで戦っていこうという意志が読み解ける。
DFMはケイトリンを使って狙い通りボットレーンで優位を築き、19分で4000ゴールドほどリードを持っている。
しかし、アイテム欄を見ればわかる通り、両ADCが1アイテム完成+α、ミッドレーナーも1アイテム前後の時間帯は、明らかにチャンピオンのパワースパイクの有利はV3にある時間帯だ。
そしてここで、DFMは自分たちから不用意に戦いを仕掛けてしまう。
画面上部のブルーバフ付近からエンゲージしようとするEvi選手のナーは、集団戦に重要な「ぷんすこゲージ」が0の状態、かつ寄ってくる道がすべてV3側のワードによって見えてしまっている。
この戦いに勝利したV3は、2体目のドレイクを獲得しつつゴールド差を詰めることに成功。それでもまだリードがあったDFMは冷静になれば勝てた試合だったが、24分過ぎにも同様のミスをしてしまう。
またEvi選手のゲージがないのに、自分たちから無理な仕掛けをしてしまっている。
この集団戦をまたも制したV3がゴールド差をイーブンに戻し、結果Game4を勝利。勝負は最終戦Game5に移ることになる。
これは完全な憶測だが、立て続けに出てしまったDFMの判断ミスは、2日連続のBo5ということも影響していた気がする。
DFMはここまで6試合連続でミッドゲーム重視のピックで戦ってきており、しかもあと1勝で苦しかったレギュラーシーズンを乗り越えてSummer Split優勝、そして「Worlds」進出。
疲れと少しの欲、自分たち主導の集団戦に勝って楽になりたい、という気持ちが出てしまったのではないかな、というふうにも見えた。
このゲームでDFMはサイオンをバンしなかったが、これにはちゃんとした理由がある。
Game1と違いミッドレーンがニーコからアジールに変わるので、ADCがジンのようなDPSに劣るチャンピオンでも、終盤になればアジールのDPSで落とし切ることができるからだ。
それにV3のスワップ戦術自体は、プレーオフ第2ラウンドですでに一度披露しており、DFMも対策をしっかりと取れ、自信があったのだと思う。
序盤に自軍赤バフに入ってくる敵を確認するためのワードをしっかりと置けているし……
Gaeng選手はスワップした側が寄ってくるチャンピオンを確認するために置く深めのレーンワードにも対応できている。
では、このゲームを決定づけたものはなんなのか。
それはPaz選手のサイオンにゴールドを集めるという、セオリーとは違ったゴールドマネージメントにあった。
普通、スワップ戦術はアフェリオスのようなレイトゲームに強いADCを育てるために行われるので、それを補助するためにピックされているサイオンにゴールドを渡すのは一見矛盾しているかのように思える。
しかし、V3の考えは違った。タンクのサイオンにゴールドを集めてアイテムを先行させ、サイオンを倒せる唯一の存在、Ceros選手のアジールが育つ前にゲームの趨勢を決めてしまおうというものだった。
なんとこのゲームでサイオンは6枚ものタワープレートを獲得し、17分の時点で2アイテムを完成させている。
そして、サイオンが2つ目に選んだ「ジーク・コンバージェンス」というのが今回のV3の工夫。
元々サポート向けアイテムなので単価が安く早く完成すること、さらにスワップゲームでお金を集めたいはずのアフェリオスの代わりに固くなりつつ、アフェリオスのダメージをアップさせる効果があるという一石二鳥の選択だ。
ジークを買うデメリットとしては、もちろんアフェリオスが近くにいなければ効果が薄いという点だが、積極的にグループし、ファイトをしかけ、そのデメリットを感じさせないプレイを見せてくれた。
それを可能にしたのがRaina選手のレオナとBugi選手のリリアで、中盤の集団戦で存在感を発揮していた。
一度テンポを取ればAce選手のゾーイを止めることは難しく、あとは育ったArcher選手のアフェリオスが相手を掃除していくという、V3のメンバー全員が一体となったような素晴らしい内容でGame5を制し、初の「Worlds」出場を決めた。
DFMはレギュラーシーズンの不調っぷりを感じさせない内容で決勝戦を盛り上げてくれたが、終わってみればV3の手札に対して用意できた解答が少し足りなかったのかな、という印象を受けた。
決勝でもその手札の多さ、引き出しの多さが、Game4からの方針転換、そして逆転勝利を生み出したと言えるだろう。
これでV3は日本代表として初めて世界の舞台、「Worlds 2020」のプレイインステージに立つことになる。所属はグループBと決定し、中国第4シードのLGD Gaming、香港のPSG Talon、ロシアのUnicorns Of Love、そしてメキシコのRainbow7となった。LJL決勝のパフォーマンスを見ていると、日本勢悲願のグループステージ進出の可能性も十分ありえるように感じる。
世界各地の代表たちと、V3 Esportsがどんな試合を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。
Worlds 2020 Primer
https://lolesports.com/article/worlds-2020-primer/blt065c89b2c6d7b75d
LoL Esports
https://lolesports.com/
本記事では、初優勝を遂げたGRAND FINALのバン&ピックや戦略を振り返り、両チームの水面下のやり取りやどのような戦術でV3がDFMを崩したのか、という点を見ていこうと思う。
準決勝でDFMが見せた戦術
さて、決勝戦の話をする前に、前日の準決勝(DFM vs Sengoku Gaming)でDFMが用意してきた戦術について少し触れておこう。これはGame2のドラフトだが、DFMがSG戦で用意してきた作戦が端的に現れていたので、これを元に解説しよう。
この構成のコアになっているのはトップのシェンとサポートのレオナで、エンゲージできるサポートにシェンのアルティメットスキル「瞬身護法」をつけてボットサイドで強引に戦いを起こそうというピックになっている。
画像はゲーム時間10分過ぎ、5人でボットタワーにダイブするDFM。
ミッドには中盤のファイトで活躍できるCeros選手のシグネイチャーピックであるハイマーディンガー、ジャングルはファーム速度と1アイテムのパワースパイクに優れるニダリー、ADCにはスケールしてCCでファイトを補助できるセナという構成だ。
この構成にバン&ピックで対抗する案は主に2つある。シェンをバンしてそもそもの作戦を瓦解させるか、レオナをバンして最低限レベル6以前に強いサポートを消すか。
シェンをバンする場合は、日本最強のトップレーナーEvi選手にキャリーポテンシャルのあるチャンピオンを渡すリスクがあり、レオナをバンする場合は、ノーチラスなど他のエンゲージサポートが代替ピックになり、バン自体が意味をなさない場合があるので、どちらもメリットとデメリットがある選択といえるだろう。
筆者はEnty選手がレオナをカウンターしやすいスレッシュやブラウムをピックできることや、Gaeng選手のプールの広さを考えて、バンするならシェンの方かと考えていたが、V3の考えは異なったようだ。
<Game1>中盤重視のDFMに対し、V3はサイオンで対抗
DFMは元々プレーオフなどの舞台ではこれと決めた戦術を貫く傾向があり、この試合もほぼ準決勝と同様のピックになっている。
変わった点はミッドのニーコで、これはSG戦では全試合バンされていたチャンピオンだ。
プレーオフの第1ラウンドでCeros選手がピックしていたこのチャンピオンは、いまのミッドチャンピオンのプールの中では珍しく、中盤戦にパワースパイクが来るので、今回用意してきたDFMの作戦に最もマッチする1体である。
実際、積極的に仕掛けるV3に対してCeros選手は何度もすばらしいアルティメットでゾーニング、後ろから射程の長いYutapon選手のセナがダメージを出すという展開を作れていた。
しかし、DFMの構成には弱点があった。
それはDPSが足りないことである。
セナはCCやヒール、シールドと非常にユーティリティ性能に富んだチャンピオンで、ゲーム後半は射程やダメージもかなりスケールするため隙も少ないが、唯一通常攻撃の間隔が遅いという弱点がある。
ニーコもCCとAOEが豊富なメイジだけあって、単体ダメージという部分では見劣りする。
そこでV3はサイオンをピックすることにしたのだ。レオナをバンすることで最序盤のボット介入の圧力を弱め、サイオンで相手のDPSの低さを咎める。
Steal選手のニダリーに対してはファーム速度で対抗でき、さらにCCやダメージで中盤のファイトで存在感が大きいリリアを、AOEダメージが高いニーコに対しては単体バーストの高いアサシンであるルブランをピック。
V3のこの作戦はうまく機能していたが、やはりCeros選手のニーコは厄介な存在だったと言えるだろう。
ゲームを決めた集団戦。Archer選手のクリスタルアロー、Ace選手のルブランで、たびたびカウンターエンゲージを決めてきたCeros選手のニーコを捉えつつ、Paz選手のサイオンが別角度にエンゲージを決めている。
シェン&レオナに関してはバン&ピックで、ニーコに対しては事前の作戦というよりはゲーム内の対応で封じ込めて勝利したといったところだろう。
<Game2〜Game3>DFMのサイオンバンが機能
Game2、Game3がGame1と大きく違った点は、やはりDFMのサイオンへのバンだろう。Game2でピックしたオーンはサイオン同様タンクタイプなので、一見代替ピックとして機能しているかのように見えるが、実はそうではない。
オーンはレベル13になって自身のアイテムを強化するまではタンク性能が低く、さらにサイオンのようにアルティメットでエンゲージをする場合、ある程度離れた場所でアルティメット発動→再発動→その後Eなどで前に出るという手順が必要で、集団戦でフロントラインとして機能するまでにタイムラグが生じてしまうのだ。
V3は今回レッドサイドなので、バン枠の関係でレオナをバンしなかった。しかしドラフトではエズリアル・レオナ対アッシュ・スレッシュというV3側有利のマッチアップをつくれた。
が、結果としてはレベル6のトップレーナーの介入力の違いで、V3はボットレーンでも有利を取られてしまう。
DFMがほぼ相手にリードを渡すことなくGame2を勝利した。
続くGame3、今度はV3はトップレーンにガングプランクを採用。これはシェンの「瞬身護法」というグローバルアルティメットに対して同じグローバルアルティメット「一斉砲撃」で対抗しようという考え方だ。
ミッドもより集団戦を意識したオリアナに変更し、チームファイトをするという意志が見えるドラフトに変更してきた。
しかしここでもCeros選手のニーコが立ちはだかる。
ゲームの流れを変えた集団戦でCeros選手が見せたスーパープレイ。このファイトをきっかけに最大3000ゴールドあった差を逆転してDFMが勝利する。
Ceros選手やEvi選手がチャンスをつくってYutapon選手が取るという、強かった時のDFMが完全に戻ってきたなという試合内容のGame3だった。
終わってみればYutapon、Gaeng両ボットレーナーは全19キル中18キルに絡み、Gaeng選手はバードでもシェンとのコンビネーションでボットレーンから試合をつくっていけることを証明した内容でもあった。
<Game4>追い詰められたV3のドラフト戦略の転換
V3は2-1というスコア以上に追い詰められた状態で4戦目を迎えた。というのも、Game4はV3がレッドサイドで、いままで通りのバンでいくと、ここまで問題になっているレオナもニーコもバンすることができないのだ。
そこで彼らは大胆な戦略転換を行う。レネクトンとケイトリンをオープンにして、ニーコとレオナをバンしたのだ。
Game5の大胆なインゲーム戦略ばかりが注目されるが、このBo5の潮目が変わったのは確実にこのゲームだった。
ここまでのV3は、DFMが準決勝から用意してきたチームコンプに対して自分たちで答えを出す「解答者」の立場で、バン&ピックを進めてきた。
しかしGame4ではケイトリンを相手にピックさせることで「出題者」の立場に変わり、DFMに「解答者」のポジションを押し付けるという戦略を採ったのだ。
パッチ10.16のケイトリンは「ピックしたらほぼボットレーンは自動的に勝ち」というくらいの超強力ピックで、ボットレーンの主導権を握ったほうが勝ちやすい現在のメタと相まって、世界的に見てもほぼオープンにならないチャンピオンだ。
ただしこのケイトリンは罠でもあった。
というのもニーコ、ハイマーディンガーがバンされて、ミッドレーンにケイトリンのパワーが鈍るゲーム中盤を支えられるチャンピオンが残っていないのだ。
そんな中Ceros選手が選択したアジールは、残っているチャンピオンの中で言えば最適解に近い。終盤型のチャンピオンだが、ゲーム中盤にもアルティメットスキル「皇帝の分砂嶺」を使うことでエンゲージ・ディスエンゲージの両方をこなせ、存在感を発揮することができるためだ。
ただ、この後世ではいままでDFMがやってきた「ゲーム中盤の集団戦で勝って、そのままゲームに勝利する」というゲームプランを採ることはできない。
ケイトリンで序盤を制し、作った貯金を使いながらゲーム時間を引き延ばし、アジールやケイトリンが3アイテム完成したタイミングで戦って勝つ、という全くテンポの違うゲームを行うように、V3のバン&ピックによって誘導されたのだ。
それに対しV3のピックはレネクトン、リリア、アッシュと中盤にパワーを発揮できるチャンピオンがずらりと揃い、パワースパイクのギャップで戦っていこうという意志が読み解ける。
DFMはケイトリンを使って狙い通りボットレーンで優位を築き、19分で4000ゴールドほどリードを持っている。
しかし、アイテム欄を見ればわかる通り、両ADCが1アイテム完成+α、ミッドレーナーも1アイテム前後の時間帯は、明らかにチャンピオンのパワースパイクの有利はV3にある時間帯だ。
そしてここで、DFMは自分たちから不用意に戦いを仕掛けてしまう。
画面上部のブルーバフ付近からエンゲージしようとするEvi選手のナーは、集団戦に重要な「ぷんすこゲージ」が0の状態、かつ寄ってくる道がすべてV3側のワードによって見えてしまっている。
この戦いに勝利したV3は、2体目のドレイクを獲得しつつゴールド差を詰めることに成功。それでもまだリードがあったDFMは冷静になれば勝てた試合だったが、24分過ぎにも同様のミスをしてしまう。
またEvi選手のゲージがないのに、自分たちから無理な仕掛けをしてしまっている。
この集団戦をまたも制したV3がゴールド差をイーブンに戻し、結果Game4を勝利。勝負は最終戦Game5に移ることになる。
これは完全な憶測だが、立て続けに出てしまったDFMの判断ミスは、2日連続のBo5ということも影響していた気がする。
DFMはここまで6試合連続でミッドゲーム重視のピックで戦ってきており、しかもあと1勝で苦しかったレギュラーシーズンを乗り越えてSummer Split優勝、そして「Worlds」進出。
疲れと少しの欲、自分たち主導の集団戦に勝って楽になりたい、という気持ちが出てしまったのではないかな、というふうにも見えた。
<Game5>派手なスワップに隠されたV3の裏の戦略
さてGame5、ここでV3はVCS(ベトナムリーグ)のチームと練習したというレーンスワップ戦術を出してきた。このゲームでDFMはサイオンをバンしなかったが、これにはちゃんとした理由がある。
Game1と違いミッドレーンがニーコからアジールに変わるので、ADCがジンのようなDPSに劣るチャンピオンでも、終盤になればアジールのDPSで落とし切ることができるからだ。
それにV3のスワップ戦術自体は、プレーオフ第2ラウンドですでに一度披露しており、DFMも対策をしっかりと取れ、自信があったのだと思う。
序盤に自軍赤バフに入ってくる敵を確認するためのワードをしっかりと置けているし……
Gaeng選手はスワップした側が寄ってくるチャンピオンを確認するために置く深めのレーンワードにも対応できている。
では、このゲームを決定づけたものはなんなのか。
それはPaz選手のサイオンにゴールドを集めるという、セオリーとは違ったゴールドマネージメントにあった。
普通、スワップ戦術はアフェリオスのようなレイトゲームに強いADCを育てるために行われるので、それを補助するためにピックされているサイオンにゴールドを渡すのは一見矛盾しているかのように思える。
しかし、V3の考えは違った。タンクのサイオンにゴールドを集めてアイテムを先行させ、サイオンを倒せる唯一の存在、Ceros選手のアジールが育つ前にゲームの趨勢を決めてしまおうというものだった。
なんとこのゲームでサイオンは6枚ものタワープレートを獲得し、17分の時点で2アイテムを完成させている。
そして、サイオンが2つ目に選んだ「ジーク・コンバージェンス」というのが今回のV3の工夫。
元々サポート向けアイテムなので単価が安く早く完成すること、さらにスワップゲームでお金を集めたいはずのアフェリオスの代わりに固くなりつつ、アフェリオスのダメージをアップさせる効果があるという一石二鳥の選択だ。
ジークを買うデメリットとしては、もちろんアフェリオスが近くにいなければ効果が薄いという点だが、積極的にグループし、ファイトをしかけ、そのデメリットを感じさせないプレイを見せてくれた。
それを可能にしたのがRaina選手のレオナとBugi選手のリリアで、中盤の集団戦で存在感を発揮していた。
一度テンポを取ればAce選手のゾーイを止めることは難しく、あとは育ったArcher選手のアフェリオスが相手を掃除していくという、V3のメンバー全員が一体となったような素晴らしい内容でGame5を制し、初の「Worlds」出場を決めた。
DFMはレギュラーシーズンの不調っぷりを感じさせない内容で決勝戦を盛り上げてくれたが、終わってみればV3の手札に対して用意できた解答が少し足りなかったのかな、という印象を受けた。
おわりに
プレーオフ前の記事でも書いたが、V3は今シーズン様々な戦術を用い、そしてそのピックに合わせた時間帯・ゲームプランが取れている、王者にふさわしい戦いっぷりを見せてくれた。決勝でもその手札の多さ、引き出しの多さが、Game4からの方針転換、そして逆転勝利を生み出したと言えるだろう。
これでV3は日本代表として初めて世界の舞台、「Worlds 2020」のプレイインステージに立つことになる。所属はグループBと決定し、中国第4シードのLGD Gaming、香港のPSG Talon、ロシアのUnicorns Of Love、そしてメキシコのRainbow7となった。LJL決勝のパフォーマンスを見ていると、日本勢悲願のグループステージ進出の可能性も十分ありえるように感じる。
世界各地の代表たちと、V3 Esportsがどんな試合を見せてくれるのか、いまから楽しみだ。
Worlds 2020 Primer
https://lolesports.com/article/worlds-2020-primer/blt065c89b2c6d7b75d
LoL Esports
https://lolesports.com/