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「EVO Japan」運営委員長 ハメコ。氏に聞く<後編> プロライセンスとゲームコミュニティの今後【シブゲーアーカイブ】
※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2018年2月2日/執筆:コイチ)
寒気ことのほか厳しい毎日を迎え、こたつから出られない日々が続くコイチです。さて今回は「ハメコ。」氏インタビュー第2弾ということで、前回の記事で載せきれなかった「EVO Japan以外の話」について聞いてみました。ゲーム業界を揺るがしているホットな話題、「プロライセンス」について、業界の事情通であるハメコ。氏の意見を聞いてみたので、御覧ください。 様々な意見がある「プロライセンス」コイチ:ちょっと踏み込んだ話なんですけど、最近話題のプロライセンス発行(※)についてどう思います?
※プロライセンス化とは:一般社団法人日本eスポーツ協会(JeSPA)、一般社団法人e-sports促進機構、一般社団法人日本eスポーツ連盟(JeSF)のeスポーツ3団体を統合し、一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)及び一般社団法人日本オンラインゲーム協会(JOGA)の協力のもと新たに設立されたJeSUによる取り組み。詳細については、JeSU公式サイトにて。
ハメコ。:色んな目線があるから一概には言えないけど、選手たちが「ゲームしてお金を貰えるの、熱くね?」っていう雰囲気になるんなら、それ自体は良いことだと思ってます。そもそも、大会が増えるってこと自体、選手にとっては嬉しいわけだから。コイチ:実際はプロとしてお金が貰えるか保証はないですよね。高額賞金制の大会にエントリーできる資格みたいな印象。
ハメコ。:今出ている情報だけでしか判断できないけど、これまで賞金制大会に絡んでこられなかった選手たちだったり、その機会が限られていたタイトルの選手たちにチャンスが与えられるのであれば、それ自体はすごく良いんじゃないかと。もちろん、このスキームの余波によって選手たちやほかの大会が何かの制限を受けるとなれば、話は変わってきますけどね。 自分は格闘ゲーマーだからその目線でしか話はできないけれど、とくにこれまで海外の賞金制大会の数があまり多くなかった鉄拳シリーズの選手たちにとっては、「乗るしかない」って感じだと思いますよ。
コイチ:なるほど。やるタイトルによっても変わりますね
ハメコ。:ももち選手のブログの件(※)辺りは大きく話題になったけど、むしろ『ストリートファイター』の選手たちは日本のプロゲーマーの中で一番豊富に選択肢を持っているんだよね。 だって、"国内大会の賞金や名誉が「Capcom Cup」を超える" というのはちょっと想像しにくいじゃないですか。そうであるならば、一線級の選手たちは海外大会を念頭において練習した方が費用対効果が高い。つまり、海外大会と国内の公認大会がバッティングしたときは「やーめた」と言われてしまう可能性があるし、彼らにはそれをする理由と立場があるわけです。
※ももち選手のブログはこちらを参照
コイチ:確かにそれはありますね。国内大会の賞金が100万で海外のプロツアーと日程が被ってたら、海外の方がメリットがある。
ハメコ。:でも、いわゆるeスポーツ的なシーンを持続させるには視聴数を稼がなきゃいけない。だからこそ、一線級の選手たちや彼らの価値を声高に叫んでくれるコミュニティとちゃんとコンセンサスをとって進めれば良かったのに、とは思ってしまいますね。
ハメコ。:面白かったよ?(笑)
コイチ:結果は残念だったけど、日本は最高に盛り上がったんですよね、あの大会。
ハメコ。:最終日はちゃんとショーアップされたイベントになっていたけど、とくに初日の前日予選は向こうのコミュニティの人たちが運営していて、「これ本当に世界大会の予選なの?」っていうぐらいにゆるい感じでしたよ。俺も取材で行ってるはずなのに、選手の呼び出しを手伝ったり(笑)。
コイチ:見てて思ったのは、仮にときど選手があそこで優勝したら日本のゲームに対する見方も変わってたよなーと。ときど選手が作ってきたこれまでの功績に、約2,000万円の賞金が加わったらメディアもほっとかないだろうな、っていうもうひとつの未来だけは気になりました。
ハメコ。:なるほど。個人的には「今年大活躍したときどを倒しちゃう若手が出てくる世界なんだよ。深いでしょ?」っていう風に捉えたし、見ていた人にもそう捉えてもらえたら嬉しいなと思いましたね。短期的に見れば、確かにときどが優勝していたらさらに盛り上がっていたかもしれないけど、そういうのは一過性のものだから。皆に注目されていた中で、ああやって新たなストーリーが紡がれたのは、今後にも意味があるんじゃないかと。
コイチ:そういう意味ではEVO Japanも日本人が優勝しないタイトルがあれば盛り上がりますよね
ハメコ。:そうなってくれれば嬉しいね。
コイチ:ときど選手vsMenaRD選手の、あと1ラウンド取れば勝ちっていう状況のあのリバーサルEX豪昇龍拳。あれだけは今思い返しても、らしくないなーって思ってしまう(笑)。
ハメコ。:あれは本人もものすごく後悔してたね。ガードさえさせればVトリガーでキャンセルできて、反撃は受けるけどK.O.にまでは至らないってことで、とりあえず出したら避けられたうえに一番痛い反撃をもらってしまった。いわゆる、"甘えた選択肢"だったんだよね。
▲ときど選手がMenaRD選手を追い詰めたが……。(9:35 から)
コイチ:あれ阿修羅が化けた訳じゃなかったんですね(笑)。ハメコ。:出したこと自体はミスではないみたいだね。本人も「1年の締めくくりに、ものすごく反省させられるようなことをしてしまった」と嘆いていたのが印象的だった。
コイチ:勝ちたい気持ちというよりも、「もう早く終わらせたい!」っていう昇竜でしたね。
ハメコ。:結果論かもしれないけど、 「勝ちたい!」じゃなくて、「負けたくない……」っていう技の打ち方だったね。
コイチ:MenaRD選手は常に逆でしたよね。「ぶっ◯すぞ!」みたいな。
ハメコ。:「Capcom Cup 2017」で一番印象に残ったのは、あんなに技術も知識もあって、大会経験も豊富な人たちばかりが出場していたにも関わらず、誰も彼もが「負けたくない……」ってなった瞬間に、ようやく攻め方を覚えた中級者ぐらいの雑な仕掛け方をしてしまうんだってことだね。つまるところ、そういう精神状態に追い込まれてしまうゲームであり、そしてそれほどの舞台だったんだなと。
コイチ:1年の集大成になる大会でしたよね。EVO Japanもそういう大会になってほしい。闘劇とかってそうでしたよね。これ負けたら人生終わりなんだよ。みたいな。
ハメコ。:そういう大会の価値っていうのは、もちろん今であれば賞金もその一要素なのかもしれないけど、結局は参加選手たちの「勝ちたさ」の合計値によって創出されているものなんだと思う。そこを増やすためにも、ちゃんと継続していかなきゃと思いますね。
コミュニティとの関係を築くことが重要
コイチ:EVO Japan開催にあたって扱いづらいタイトルもあったと思うのですが、見事にタイトル揃いましたよね。ハメコ。:EVO Japanに関わって良くわかったこととしては、企業母体だからこそ話が進むという部分も大いにあるってことですね。コミュニティによる運営だと難しいことも、企業運営であればなんとかなったりするわけです。
▲EVO Japanの開催風景
コイチ:個人のコミュニティが動かすのは大変ですよね。ハメコ。:むしろ、コミュニティとメーカーの間の調整をこそ、「国内eスポーツの発展」をお題目に掲げた組織が行うべきことなんじゃないか、というのは最近とみに思うことですね。
コイチ:それは確かにそうですね(笑)。
ハメコ。:さっきも言いましたけど、eスポーツって視聴数だったり観戦者を稼がなきゃいけないわけですよね。で、沢山の視聴数を生み出すような価値の源泉がどこにあるかというと、もちろん賞金もその一要素ではあるだろうけど、やっぱりコミュニティの人たちにちゃんと認めてもらえるかどうかにかかっていると思うんですよ。幾ら賞金制大会を優勝したところで、そのシーンが好きな人たちから認めてもらえない状況だったら、単発の賞金をもらって終わりになっちゃうかもしれないし、それはメーカーとコミュニティ双方にとって良いことだとはとても思えない。……だから、IPホルダーの推薦枠よりコミュニティの推薦枠があるべきだろうって(笑)。
コイチ:コミュニティに判断してほしいですよね。団体から「じゃあ今日から君はプロゲーマーね」って言われても周りからは「そうなの?」ってなる。
ハメコ。:プロゲーマーライセンスっていう名前も、いらぬ誤解を生むよね。"賞金獲得権利"とか"賞金制大会出場権"とかにすればよかったのに。
コイチ:わかりやすい(笑)。
ハメコ。:そんなわけで、プロライセンス認定団体に限らずですけど、今後はもっと企業とコミュニティ間が上手く連携をとって事を進めてくれることを願っています。といっても、企業がコミュニティにお伺いを立てるってことではなくて、もっとちゃんと利用して欲しいっていうこと。で、コミュニティ側も企業を上手いこと利用した方がいい。お互いに利益がある状態が一番望ましいはずです。
コイチ:綺麗にまとめてくれてありがとうございます。いずれによ、2018年のゲーム業界の動きが楽しみですね。