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ゲームの世界の暴言と偏見を乗り越える。性別を超えて共に楽しみ、強くなるために必要なこと【シブゲーアーカイブ】
※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2019年6月2日/執筆:ゆき)
「eスポーツは多様性に富んだスポーツだ」と言われることがある。
確かにeスポーツ(ひいてはゲーム全般)は、コントローラーやキーボード・マウスさえ持てれば誰でもプレイできる、という点で多様性を秘めていると言えるだろう。
だが果たして現在のeスポーツシーンは、多様性という魅力を十分に引き出せているのだろうか?
この記事では、筆者がこうした疑問を提起する原因のほんの一端である「ゲームと性別」に関する暴言・偏見について述べていく。これらの綻びがeスポーツ業界に及ぼすであろう影響も考えていきたい。
そして、性別という観点に限らず全ての人が安心してゲームへの情熱を分かち合い、プレイヤーとして共に強くなるための施策について考察する。
暴言の定義:ゲームプレイの技量に関する罵りというよりは、その範囲を超えるほど害のあるもの。ほかのプレイヤーを孤立させ遠ざける発言。この記事では主に性別に関するものだが、容姿・国籍・人種など特定的かつ理不尽な理由を掲げて相手を貶める発言。
第1章 ゲームの世界の暴言と偏見-性別に関して
多くのプレイヤーが経験したことがあると思うが、オンラインプレイでは様々な暴言や偏見が横行している。性別に関するものもその一つだ。
eスポーツシーンでもこれは無視できない問題になっており、性差別を受けたというエピソードは枚挙に暇がない。
例えば『Overwatch』プロシーンで活躍する「Shanghai Dragons」のGeguri選手は、練習の為にボイスチェンジャーの購入を検討していた。なぜなら、男性のプレイヤーは声で女性だと分かった途端に、非協力的になることがあったからだ。
▲「Shanghai Dragons」所属のGeguri選手(画像引用:Overwatch pro Geguri hilariously taunts Dafran as he struggles with Widowmaker|DEXERTO)
また、「第2回 PUBG GIRLS BATTLE」DUO部門優勝を果たし、Team ZERO PUBG部門(2019年に解散)で活躍したEto選手(@Codezero_re)も「ある大会に出た時に『女がいるチームがあるから倒しに行こうぜ』と言っていたチームがあったらしくて。それくらい、”女の人=弱い”というイメージは染み付いていると思います」という。
このような現象の原因として、性別とゲームに関する認識の齟齬が挙げられるが、それはまた後に言及する。
第2章 暴言と偏見がeスポーツに与える影響
前章では、eスポーツシーンに暴言や偏見が散見されることについて述べた。この章では、それらが業界に与える影響について考察する。摘まれるプロゲーマーの芽
特定の集団への暴言や偏見は、彼らがゲームに熱中する気持ちや、プロシーンへ進む可能性さえも潰していく。現状のeスポーツシーンは、より多くの才能と出会う機会を損失しているとも言える。例えばTHE KANSAS CITY STARによると、先述したGeguri選手がOverwatch League - Inaugural Seasonにて報道陣に「Overwatch Leagueに出場するにふさわしいスキルのある女性は存在する。しかし彼女らは、(暴言や偏見のある)そのコミュニティに属したがらないし、私も彼女たちを否定しない」と語ったという。
また、質の良い練習機会の喪失という問題も挙げられる。理不尽な言葉を恐れてユーザー間で交流できず、理不尽な理由で実力がまともに評価されないゆえに、練習相手が見つかりづらい。FPSなど上達の為にチームを組むことが必要不可欠なジャンルにおいてこれは死活問題であり、女性限定チームを作らざるを得ない理由の一つにもなっているのだ。
▲BBCによると、『CS:GO』で活躍するStephanie “missharvey” Harvey は過去に複数の女性限定チームに所属していたが、その理由として「女性というだけで練習相手から見下され、彼らからリスペクトを得るには時間がかかりすぎるから」と述べている。(画像引用:ASTRO GAMING BLOG)
eスポーツ市場の成長が止まる?
また、動画配信サイトでの暴言は、スポンサー離れを引き起こす。例えば、米ネットワーク機器大手のシスコシステムズは「不適切なコンテンツを含む動画」と自社の広告がともに表示されるのを懸念し、YouTubeから全ての広告を撤退させた。
これはTwitchやMixerなども例に漏れず、配信者やコメント欄のファンたちが不適切な発言をした場合も上記のような最悪の事態を引き起こす可能性がある。
eスポーツ業界では、動画配信サイト上での配信者(例えばプロゲーマー、ストリーマー)とファン、そしてファン同士の強い繋がりやそこから生まれる熱狂が広告枠として魅力的なものとなっている。
しかし、「あの大会のコメント欄は治安が悪い」と認識され、視聴者数の減少などでそこが上手く機能しない場合、スポンサーは寄り付かないだろう。
これは、「スポンサー収入」を重要な収入源とするeスポーツ業界にとっては大きな痛手となる。
SUPER DATAによると、eスポーツ業界の市場規模の35%を占めるのが、スポンサー・広告収入だ。現状では、スポンサー無しにはeスポーツビジネスは成り立たないと言っても過言ではない。
eスポーツビジネスの成長を止めないためにも、暴言や偏見にどう対処するかという課題は避けて通れないだろう。
第3章 共に楽しみ、共に強くなるために
ここまで、ゲームの世界における暴言と偏見、そしてそれらが引き起こす問題について述べた。最終章では、それらの問題の解決策を「可視化する」「規制する」「予防する」の3つのポイントに分けて模索していきたい。
1. 可視化する
・正しいデータを可視化する
第1章にて、性別とゲームに関する暴言や偏見について述べた。これらの原因として考えられるのは、「男性の方が多くゲームをプレイしている」というステレオタイプ的な認識だ。しかし、その認識に異議を唱えるデータは存在する。
ゲームをする女性は少ない?
例えば、アメリカのシンクタンクであるピュー研究所によると、ゲームをプレイする女性も含め、60%の人が「ゲーマーのほとんどが男性である」と認識している。
しかし実際は、ゲームをプレイする人の男女比はほぼ5:5であり、認識と実態に齟齬がある事が分かる。
ゲームの上手さは性別で変わる?
前述したように、プロシーンで活躍する女性の少なさからか、相手の性別によってゲームの上手さを判断する人がしばしば見受けられる。
果たして、性別によってゲームの上手さは変わるのだろうか?
オックスフォード大学から出版されている「Journal of Computer-Mediated Communication」に掲載された実験結果によると、答えはノーだ。
この実験では『EverQuest II』『Chevaliers' Romance III』という2つのMMOタイトルを用い、男女のプレイの上達速度を比較した。
結果として、「女性と男性の上達速度はほぼ同じ」であるということが分かったのだ。
以上のように、「ゲームをプレイすること」自体に男女差は無いことがデータとして示されている。メディアなどが"一般的な認識"ではなく"実証されたデータ"をより可視化して偏見を払拭していけば、偏見に苦しむ人たちの不安を和らげることができるだろう。
・親切な人を可視化する
第2章で「質の良い練習機会の喪失」という問題に触れた。
その解決策になるのが「親切な人を可視化する」ことである。その良い例が「AnyKey Affiliates」だ。
▲AnyKeyは、全ての人々を歓迎するeスポーツの世界を作ることを目的とした組織で、ESLやIntelと協力して運営されている。 画像引用:Affiliates | AnyKey Organization
これはオンラインコミュニティにおけるガイドライン「Keystone Code」に賛同した人のみで構成される集団だ。
「Keystone Code」は「相手の気持ちを考える」「誠実であれ」「相手に敬意を持つ」「勇敢であれ」という非常にシンプルな4つの柱に従って規定されている。
公式サイト上では様々なプレイヤーやゲーミングチームの名前が並んでおり、有名どころではCounter Logic Gamingの名前もある。
このような取り組みは、全てのゲーマー・プロゲーマーにとって練習相手やゲーム仲間を探すのに役立ったり、快適なコミュニティを築くことに役立つだろう。
日本では最近「e-mode」というゲーマー同士のマッチングプラットフォームが正式リリースされたが、このようなサービスに「AnyKey Affiliate」のような仕組みを導入することも非常に効果的だと筆者は考える。
▲画像引用:Crosshare株式会社
「e-mode」にもガイドラインは存在するが、同意したユーザーが可視化されているわけではない。ガイドラインを遵守するプレイヤーが一目で分かるような仕組みがあれば、より多くのゲーマーが安心して切磋琢磨できる環境を作りやすくなるだろう。
2. 規制する
第2章では、動画配信サイト上での暴言が引き起こすスポンサー離れについても触れた。動画配信サイト上でのチャット欄は、本来ならばユーザー同士の交流や情報交換の場となり、コミュニティの発展に繋がる重要な場所である。特に小さいコミュニティであればなおさらだ。
快適なチャット欄を保つためには、いったい何が必要なのだろうか?
・チャットモデレーション
先ほど紹介したAnyKeyのレポートによると、チャット欄の環境を保つために必要なのは、しっかりとモデレーションを行うことだ。モデレーションとはコメント欄の監視・管理行為である。
AnyKeyは「もしあなたが配信されるイベントや大会の主催者であれば、そのコメント欄がどうなるかはあなたの責任です」と明言している。
大会は善意で交流の場を設けていることが多いだろうが、コメント欄で暴言が飛び交えば善意の意味がなくなってしまう。運営側もそれくらいの意識を持って取り組むべき問題だ、ということだろう。
・モデレーションプランを立てる
Anykeyによると、快適なコメント欄を保つために必要なのは「規定」「スタッフィング」「モデレーションツール」の3つが揃ったモデレーションプランだ。それぞれ簡単に紹介しよう。
●規定を作る
まず必要なのは、コメント欄での注意事項・禁止行為・罰則等をまとめた規定を作ることだ。コメント欄だけではなく、大会やイベントの参加者・観客・スタッフ全員にまで対象を広げたものでも良いだろう。
ただ重要なのは、その規定を誰の目にもつくようなところに設置することだ。コメント欄を開いたとき、公式サイトを開いたときなどにポップアップ形式で出るのがおすすめだ。
AnyKeyによれば、既定の無い大会やイベントは、安全な場所ではないと公言しているようなものだという。
●スタッフィング
次に必要なのは、モデレーションを専門に行うモデレーターを用意することだ。
兼任としてではなく、モデレーションのみに集中できる環境を作ることがより効果的なモデレーションに繋がる。
モデレーションツールや多言語に精通しているモデレーターが好ましいが、厳しい場合は協力的なボランティアなどに任せるのも良いだろう。
●モデレーションツール
最後に、どんなツールを使ってモデレーションを行うかを決める必要がある。まずはYouTubeやTwitchに既存のモデレションツールをしっかりと活用していくことも重要だが、サードパーティツールと併用することでより効果的なモデレーションが行える場合もある。
サードパーティツールとしては、moobotやOhbotが挙げられる。
3. 予防する
最後に、暴言や偏見の予防策にも繋がることについて述べる。それは、暴言や偏見を持たないような環境・人間を育てるということだ。教育の場におけるeスポーツ活動はその良い例だ。
▲Robert Morris University Illinoisは学内にeスポーツチームを所持しており、アメリカで初めてのeスポーツプレイヤーへの奨学金制度も始めた。誰もが安心してeスポーツを楽しめる場所づくりにも取り組んでいるチームだ。 画像引用:Collegiate Starleaguettps|Twitter
学校内にeスポーツチームを設置することで、若いうちから他人と協力して試行錯誤し、スポーツマンシップを育てることが出来る。実際に顔を合わせてプレイすることで、画面の向こうにいるのは生身の人間だという想像力を持つことができる。
もちろん学校にただチームを作ればいいという訳ではなく、適切なルールや指導者が必要だ。第1回全国高校eスポーツ選手権LoL部門で準優勝となった岡山共生高校eスポーツ部は、そのお手本としてふさわしいので、ぜひ彼らのインタビューを読んで頂きたい。
▲岡山共生高校eスポーツ部のメンバー
終わりに
この記事では、「ゲームと性別」に関する暴言・偏見とそれらが及ぼす影響、そして全ての人が安心してゲームへの情熱を分かち合うための施策について述べた。もしあなたがこれからeスポーツ業界で何かしようとしている人、もしくは今eスポーツ業界で活動している人ならば、ここで述べた施策をぜひ参考にして、実行してほしい。「全ての人のため」の施策には時間と手間がかかるが、現状では強いアドバンテージにもなるはずだ。そして、そのアドバンテージがいつか普通のことになっていけばいい。
そして、もしあなたが理不尽に傷つけられたことのある人ならば、この記事がその理不尽に対抗する一助となることを願っている。