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【インタビュー】(前編)プロゲーミングチーム・DeToNator代表 江尻 勝が語る「日本のe-sportsの行方」
日本有数のプロゲーミングチームとして『オーバーウォッチ』や『Alliance of Valiant Arms (以下:AVA)』『Counter-Strike:Global Offensive』などのタイトルで活躍する「DeToNator」。2009年9月に設立されて以来、現在は世界でも著名な液晶ディスプレイメーカーやPCメーカーもスポンサー企業として名を連ねており、数々の輝かしい戦歴を重ねてきた。
さらに4月8日より台湾「ブリザードEスタジアム」で開催されるオーバーウォッチの大会「Asia Pacific Championship 2017」にも出場が決定しており、世界的にも今後の動向に注目を集めているチームだ。その「DeToNator」の代表を務める江尻 勝氏に、チーム運営の苦労や日本のe-sportsは今後どうあるべきか?という点についてインタビューを行った。
――まず、現状の「e-sports」という言葉についてどのように感じておられますでしょうか?
江尻氏:これまで自分たちの感覚では、2014年から急に「e-sports」という言葉がメディアなどで盛んに言われるようになりました。なので、ここ数年でe-sportsが流行りだした、という印象があるかもしれません。しかし、自分たちはとうの昔から大きなムーブメントの中にいたので、正直そんな感覚は無かったですね。例えば、2011年に後楽園ホールで行われた『AVA』の大会「AVAれ祭2011 後楽園ホール―冬の陣―」は会場が満員になって、入れなかった人が900人も並んでしかも全員帰したっていう。そこまでの規模、それを上回るイベントは、まだ日本では開催されていません。自分は2011年の段階でそれを体感し、主役でど真ん中にいたので、ここ数年の動きはそれほどビックリしません。現状は色々な団体や企業、周りが盛り上げようと努力はしていますが、その足並みが色んな意味で揃ってなくて、ばらばらなイメージです。それは色々な方が、e-sportsという業界に入って来ているという証拠なので、素晴らしいことだと思っています。僕は自分たちの立ち位置をしっかり意識しているので、そこを見て現状を冷静に判断すると、あの自分自身が感動した『AVA』の大会を超えるイベントが開ける流れにするには、どうすれば良いかと考えています。
江尻氏:僕の2017年は、とにかくチームの人材をいかに育成するかで今後の全てが決まってきます。今年できないともう厳しい。ちゃんと意識して2017年に選手を教育する必要があります。
現状でe-sportsの環境は、スポンサー契約をする企業の増加や大きな大会が数多く開催されるなど、とても良くなってきています。これはとても素晴らしいことです。しかし、重要なのは選手です。選手が主役で、選手が全ての業界の発展の中心なんです。選手が魅力的だから人が感動して応援する、ファンが増える、というピラミッドが作られるんです。では、自分のチーム含め、e-sports業界でそれを見たときに「大会にこの人が出る」、「このチームとこのチームが出るから」といって、何千人何万人って人を呼べるかというと、それは多分厳しいと思います。興行としてビジネスになりづらいのが現状です。どれだけ環境が良くなってきても、それがちゃんとしたビジネスになるから企業も来る、という図式を作らないといけない。その中心はやっぱり選手なんです。これはどのプロスポーツでもそうですよね。
例えばチケットを手売りするようなミュージシャンの人たちは、人を呼ばないと会場がガラガラになるため必死でチケット売りする話も聞きます。でも、今のe-sportsの選手はそういう事はしていません。とはいえ、人を呼ぶためにネットの動画配信などが、選手たちの人となりがわかるようなアピールを代わりにやってたりします。人となりがわからないと応援できませんからね。ファンを増やして人を呼ぶためには、いかに選手をファンの人たちにお披露目するか、理解してもらうかが大切です。
e-sportsの環境が改善され、多くの人たちがビジネスとして入って来たときに、蓋を開けてみたら人も呼べないってなったら、一斉に引いちゃいますよね。だって価値ないですもん。どれだけ日本で海外のような、凄い設備を整えて何万人も入る会場を借りてe-sportsの大会をやったところで、観客が動員できなければ意味がありません。観客として来る人は、ゲームのタイトルではなくて「人を見に来る」ものだと思います。だから人を呼べる選手の育成こそが2017年の課題です。
さらに、自分たちに必要なのは「人を育てながら世界に行くこと」です。世界で活躍した結果をもとに、皆さんが「世界でも活躍するチームがあるんだ、じゃあ見たい」っていうふうに持ってかないと。日本だけでグルグルとまわっていても、世界規模から見たら日本はまだそこまで注目されてはないです。世界に注目される試合が見せられるかどうか、「世界で活躍してるスターが日本でまたやるんだよ、見に行かなきゃね」っていうところまで、きちんと落とし込む必要がありますね。
――2009年にチームを設立してから今まで「この時は辛かった」と思うエピソードを教えてください
江尻氏:正直いって毎日しんどいです。安泰のときなんかないですよ。皆さん、外から見ると順調にやってるんだろうなって思いますけど、中から見ると、やっぱり選手もその時々でモチベーションの上下があったり、ほんとに安心したことがないです。
この8年間ずっと選手と対話してきました。基本的に僕はチームの全員と話すタイプなので、何かあったら声をかけます。とにかく、ひとりひとりと対話するのに時間をかけます。「あぁ、この選手はこのいい状態があと何年続いてくれるのかな?」とか不安になったりしますし、ちょっと話して選手やチームがいい感じになったなと思っても、また1カ月か2カ月後にはコンディションが崩れてげんなりしてきたり・・・・・・。で、また自分が介入して調整をしたりとか。それの繰り返しですね。そして何よりしんどいタイミングは、選手が辞めるときです。
――これまで「これは最高の瞬間だった」と思うエピソードを教えてください。
江尻氏:それはもちろん、選手たちがずっと苦労してきた大会に勝って喜んだときですね。どんな大会でもそうです。あと、自分のチームメンバーに「ここでゲームをやれてよかった」って言ってもらえることが一番嬉しいですよ。ウチのチームを卒業していくメンバーもたくさん居ます。その人たちに、きちんと次のステップに進んで「ゲームきちんとやれてよかった。それで生活できてよかった」と思って貰うことが嬉しいです。僕は選手や卒業したメンバーが、稼いでいくのを見ることが楽しくて、嬉しくてしょうがないです。卒業したメンバーはゲーム関係の会社とかに就職することが多いです。特にプロゲーマーとして結果を残したメンバーは、みな優良な企業に就職しています。もちろん、社会人を続けながらプロゲーマーをしているメンバーもいますよ。
――チームとしてどのように選手を育てていますでしょうか?また「勝てる選手」とはどのような選手でしょうか?
江尻氏:まず、選手には「自分に勝つしかない」と腹をくくって貰う必要があります。勝つために「一切言い訳も寝言も言わない覚悟」をしてもらい、そのうえで勝つことに集中できるような環境とケアをしています。もし勝てない場合、その選手には何かが足りません。もちろんアドバイスはします。しかし、アドバイスは自分が経験してみて初めて実感できるものも多いのです。そのためには、多くの経験と失敗が必要です。失敗してすぐに辞めてしまうような選手は勝てるようにはなりません。「失敗を糧にして食らいついて、歯を食いしばってでも俺はプロゲーマーに絶対なるんだ」という意思が必要です。「どんな過酷な状況でもどんなことでも自分の目的のためだったら絶対にやる」、そんな0を1に変えられるくらいのパワーを持ってないと世界に行ったとしても長くは続きません。「世界で戦うのが目的」ではなく、「世界で戦うことが当たり前」になるためには、自分のモチベーションを常に高い位置で保てるかどうかがすごく重要です。それが他人任せだったり環境依存だったりすると厳しいでしょうね。自分の中でしっかり決断できて、諦めずに食らいついてこれる程の覚悟がある選手は勝てるようになります。
――「DeToNator」の部門などの規模について2017年はどうなるでしょうか?
江尻氏:実は今は部門を減らしています。今のやり方では大人数を育てるのが難しいからです。とにかく今は、本当に覚悟をもってゲームが出来る人たちと僕はやりたいんです。「ちょっとお金貰えるからやりたいです」って人たちとはやりたくないんですよ。ウチのチームの理念を理解して、世界で一緒に立ち向かえるメンバーじゃないと厳しい。先ほども言いましたが、ほんとに選手を育てていかないと先がないと思っています。そうするためには、1人ずつ選手をちゃんと育てて、意思のある人たちと部門を作っていかないといけません。
具体的な施策として『Counter-Strike:Global Offensive(以下:CS:GO)』の選手の見直しを行いました。その代わりに、トライアルとしてヨーロッパの『CS:GO』のメンバーをスタートさせました。このメンバーは、「自分たちをDeToNator.EUとしてやらせてほしい」と申し入れがあった人々です。「こっちが何かしてあげるよ。だからやってみる?」ではなく「本当にやりたいのですか?その代わり厳しいですよ。ダメなら即終了ですよ?それでもやりますか?」と言っても、「やりたい」という人たちと一緒にやっていきたいです。あと、2017年に注力する部門としては『オーバーウォッチ』ですね。
江尻氏:海外と日本ではゲームの流行が違います。海外で流行したゲームでも、日本では今一歩で止まってしまうというケースも多いですね。例えば「Red Bull 5G 2016」のFREE ジャンルで『ロケットリーグ』が採用されましたが、あの3対3でラジコンカーがぶつかり合い、サッカーするのは面白いですね。スポーツ的な要素もあって、ハラハラドキドキで時間もそんな長くないのが良いと思いました。
あと、ちょっとe-sportsというよりも僕が個人的にプロの戦いを見たいと思うのが、ウォーゲーミングの『World of Warships』です。僕もプレイしていますが、高度な戦略的な判断と高い操艦のスキルが展開される大会や試合が見てみたいですね。『艦隊これくしょん -艦これ-』なんかも流行りましたが、戦艦の登場するゲームって日本人は割と好きですし、年齢層も幅広いです。ゲームとして戦略を楽しむという形は、ある意味将棋とかにも似ていますね。
――日本ならではのe-sportsを発展させるのはどうしたら良いでしょうか?
江尻氏:日本のe-sportsが世界に遅れてるのは事実です。だからといって、僕は海外を真似たいとは思いません。しかし、海外で流行していて「流行の土壌」があるものは、日本でやるより先に今の盛り上がってるとこに乗り込むしかありません。いち早く世界で盛り上がっている所へ行く努力を、僕たちはしなければなりません。ただ、やはり日本は日本で独自の、それこそスマホだったり、独自のゲームでe-sportsとして盛り上がるんだったら、それはそれで日本の文化として盛り上がれば良いと思っています。日本流に流行らせるにはどうすればいいか、考えを持ってやる必要があります。もう、ここまで来たら世界の尻ばっかり追いかけても意味がなくて、「世界に行きたいんだったら自分たちが行く」「日本で作りたいんだったら日本で作れる何かをやればいい」と思うんです。
日本でe-sportsが流行らない原因として、海外に少し行った人は口を揃えて「日本はゲーム人口が少ない」とか、「日本はゲームに対する理解度が低い」とか言います。しかし、この認識が既に間違っています。日本は総人口の割合に比してゲームをしている人は多いです。少子化と言っても今すぐ人口が劇的に減る訳じゃなくて、ゲームできる層も何千万人と居ます。実はe-sportsが盛んな台湾やドイツよりも人数は多いです。また、「ゲームに対する理解度が低い」というのも日本だけではありません。台湾では「プロゲーマーになるより、ゲーム会社に入った方がいい」と言われるぐらいです。さらに日本より人口の少ないスウェーデンはe-sports大国と言える存在です。例えば、Twitch の配信で視聴者数を見ると、人口の少ない台湾の方が日本より視聴者数が多いです。要するに日本はまだ眠っているだけなんです。しかし多くの人が、眠りを覚ます努力ではなく、ネガティブに「日本がダメだ」と言ってそこで止まってしまうのが発展しないひとつの原因です。ゲームのイメージだって、昔に比べてだいぶ変わってきています。ひと昔前は「e-sportsのチーム」と聞いて「それ、そんなに儲かるの?」というのは合い言葉みたいなものでした。しかし、最近はこれらが改善しe-sportsの理解度も上がってきています。そして「眠れる日本」を覚ますためには、世界で勝って結果を持ち帰って、盛り上げていくしかないと思います。
――日本のe-sportsの振興で足りない部分と、社会がどのように変わっていく必要があるのか教えてください。
江尻氏:皆さん、個々では自分なりに一生懸命に頑張っています。ただ、目指そうとする答えが違うので、まとまった力にならないのです。例えば日本では、選手やチームを企業からお金を集めるための道具として見ている人も居ます。逆に、本当に選手をフォーカスして、しっかりやりたいという団体もあります。もちろん、その中間もあります。しかし、海外の大会ではどこに行っても「プレイヤー・ファースト」。つまり選手が中心です。日本ではそれがひっくり返って、枠組みだけを作ってお金を動かそうという人がいます。しかし、あくまでチームや選手が育って魅力的でなければ、e-sportsは成り立ちません。だから僕は「魅力的な人を育てる」というのが、今一番大切なことだと思っています。色々な人に「スターが必要だよね」と言ったりします。プロスポーツは、選手たちが一生懸命やって、それを見る人に感動を与えてこそ成り立つ物です。その部分をもっと考えないといけません。
■江尻 勝氏のプロフィール
2009年にDeToNatorを設立し、現在は「DeToNator」の運営会社である、株式会社「GamingD」の代表取締役として活動しながら、ネットショップのサイト経営や宅建取得なども行っている。
以前は美容師として働いており、33歳でPCゲームに出会う。35歳の時に『Alliance of Valiant Arms』の大会で日本一にもなっている。
■関連リンク
DeToNator
https://detonator-gg.com/column/
江尻 勝氏のTwitter
https://twitter.com/det_maxjam?lang=ja
さらに4月8日より台湾「ブリザードEスタジアム」で開催されるオーバーウォッチの大会「Asia Pacific Championship 2017」にも出場が決定しており、世界的にも今後の動向に注目を集めているチームだ。その「DeToNator」の代表を務める江尻 勝氏に、チーム運営の苦労や日本のe-sportsは今後どうあるべきか?という点についてインタビューを行った。
――まず、現状の「e-sports」という言葉についてどのように感じておられますでしょうか?
江尻氏:これまで自分たちの感覚では、2014年から急に「e-sports」という言葉がメディアなどで盛んに言われるようになりました。なので、ここ数年でe-sportsが流行りだした、という印象があるかもしれません。しかし、自分たちはとうの昔から大きなムーブメントの中にいたので、正直そんな感覚は無かったですね。例えば、2011年に後楽園ホールで行われた『AVA』の大会「AVAれ祭2011 後楽園ホール―冬の陣―」は会場が満員になって、入れなかった人が900人も並んでしかも全員帰したっていう。そこまでの規模、それを上回るイベントは、まだ日本では開催されていません。自分は2011年の段階でそれを体感し、主役でど真ん中にいたので、ここ数年の動きはそれほどビックリしません。現状は色々な団体や企業、周りが盛り上げようと努力はしていますが、その足並みが色んな意味で揃ってなくて、ばらばらなイメージです。それは色々な方が、e-sportsという業界に入って来ているという証拠なので、素晴らしいことだと思っています。僕は自分たちの立ち位置をしっかり意識しているので、そこを見て現状を冷静に判断すると、あの自分自身が感動した『AVA』の大会を超えるイベントが開ける流れにするには、どうすれば良いかと考えています。
チーム運営について
――2017年はどのような目標を持ってチームを運営していきますか?江尻氏:僕の2017年は、とにかくチームの人材をいかに育成するかで今後の全てが決まってきます。今年できないともう厳しい。ちゃんと意識して2017年に選手を教育する必要があります。
現状でe-sportsの環境は、スポンサー契約をする企業の増加や大きな大会が数多く開催されるなど、とても良くなってきています。これはとても素晴らしいことです。しかし、重要なのは選手です。選手が主役で、選手が全ての業界の発展の中心なんです。選手が魅力的だから人が感動して応援する、ファンが増える、というピラミッドが作られるんです。では、自分のチーム含め、e-sports業界でそれを見たときに「大会にこの人が出る」、「このチームとこのチームが出るから」といって、何千人何万人って人を呼べるかというと、それは多分厳しいと思います。興行としてビジネスになりづらいのが現状です。どれだけ環境が良くなってきても、それがちゃんとしたビジネスになるから企業も来る、という図式を作らないといけない。その中心はやっぱり選手なんです。これはどのプロスポーツでもそうですよね。
例えばチケットを手売りするようなミュージシャンの人たちは、人を呼ばないと会場がガラガラになるため必死でチケット売りする話も聞きます。でも、今のe-sportsの選手はそういう事はしていません。とはいえ、人を呼ぶためにネットの動画配信などが、選手たちの人となりがわかるようなアピールを代わりにやってたりします。人となりがわからないと応援できませんからね。ファンを増やして人を呼ぶためには、いかに選手をファンの人たちにお披露目するか、理解してもらうかが大切です。
e-sportsの環境が改善され、多くの人たちがビジネスとして入って来たときに、蓋を開けてみたら人も呼べないってなったら、一斉に引いちゃいますよね。だって価値ないですもん。どれだけ日本で海外のような、凄い設備を整えて何万人も入る会場を借りてe-sportsの大会をやったところで、観客が動員できなければ意味がありません。観客として来る人は、ゲームのタイトルではなくて「人を見に来る」ものだと思います。だから人を呼べる選手の育成こそが2017年の課題です。
さらに、自分たちに必要なのは「人を育てながら世界に行くこと」です。世界で活躍した結果をもとに、皆さんが「世界でも活躍するチームがあるんだ、じゃあ見たい」っていうふうに持ってかないと。日本だけでグルグルとまわっていても、世界規模から見たら日本はまだそこまで注目されてはないです。世界に注目される試合が見せられるかどうか、「世界で活躍してるスターが日本でまたやるんだよ、見に行かなきゃね」っていうところまで、きちんと落とし込む必要がありますね。
――2009年にチームを設立してから今まで「この時は辛かった」と思うエピソードを教えてください
江尻氏:正直いって毎日しんどいです。安泰のときなんかないですよ。皆さん、外から見ると順調にやってるんだろうなって思いますけど、中から見ると、やっぱり選手もその時々でモチベーションの上下があったり、ほんとに安心したことがないです。
この8年間ずっと選手と対話してきました。基本的に僕はチームの全員と話すタイプなので、何かあったら声をかけます。とにかく、ひとりひとりと対話するのに時間をかけます。「あぁ、この選手はこのいい状態があと何年続いてくれるのかな?」とか不安になったりしますし、ちょっと話して選手やチームがいい感じになったなと思っても、また1カ月か2カ月後にはコンディションが崩れてげんなりしてきたり・・・・・・。で、また自分が介入して調整をしたりとか。それの繰り返しですね。そして何よりしんどいタイミングは、選手が辞めるときです。
――これまで「これは最高の瞬間だった」と思うエピソードを教えてください。
江尻氏:それはもちろん、選手たちがずっと苦労してきた大会に勝って喜んだときですね。どんな大会でもそうです。あと、自分のチームメンバーに「ここでゲームをやれてよかった」って言ってもらえることが一番嬉しいですよ。ウチのチームを卒業していくメンバーもたくさん居ます。その人たちに、きちんと次のステップに進んで「ゲームきちんとやれてよかった。それで生活できてよかった」と思って貰うことが嬉しいです。僕は選手や卒業したメンバーが、稼いでいくのを見ることが楽しくて、嬉しくてしょうがないです。卒業したメンバーはゲーム関係の会社とかに就職することが多いです。特にプロゲーマーとして結果を残したメンバーは、みな優良な企業に就職しています。もちろん、社会人を続けながらプロゲーマーをしているメンバーもいますよ。
――チームとしてどのように選手を育てていますでしょうか?また「勝てる選手」とはどのような選手でしょうか?
江尻氏:まず、選手には「自分に勝つしかない」と腹をくくって貰う必要があります。勝つために「一切言い訳も寝言も言わない覚悟」をしてもらい、そのうえで勝つことに集中できるような環境とケアをしています。もし勝てない場合、その選手には何かが足りません。もちろんアドバイスはします。しかし、アドバイスは自分が経験してみて初めて実感できるものも多いのです。そのためには、多くの経験と失敗が必要です。失敗してすぐに辞めてしまうような選手は勝てるようにはなりません。「失敗を糧にして食らいついて、歯を食いしばってでも俺はプロゲーマーに絶対なるんだ」という意思が必要です。「どんな過酷な状況でもどんなことでも自分の目的のためだったら絶対にやる」、そんな0を1に変えられるくらいのパワーを持ってないと世界に行ったとしても長くは続きません。「世界で戦うのが目的」ではなく、「世界で戦うことが当たり前」になるためには、自分のモチベーションを常に高い位置で保てるかどうかがすごく重要です。それが他人任せだったり環境依存だったりすると厳しいでしょうね。自分の中でしっかり決断できて、諦めずに食らいついてこれる程の覚悟がある選手は勝てるようになります。
――「DeToNator」の部門などの規模について2017年はどうなるでしょうか?
江尻氏:実は今は部門を減らしています。今のやり方では大人数を育てるのが難しいからです。とにかく今は、本当に覚悟をもってゲームが出来る人たちと僕はやりたいんです。「ちょっとお金貰えるからやりたいです」って人たちとはやりたくないんですよ。ウチのチームの理念を理解して、世界で一緒に立ち向かえるメンバーじゃないと厳しい。先ほども言いましたが、ほんとに選手を育てていかないと先がないと思っています。そうするためには、1人ずつ選手をちゃんと育てて、意思のある人たちと部門を作っていかないといけません。
具体的な施策として『Counter-Strike:Global Offensive(以下:CS:GO)』の選手の見直しを行いました。その代わりに、トライアルとしてヨーロッパの『CS:GO』のメンバーをスタートさせました。このメンバーは、「自分たちをDeToNator.EUとしてやらせてほしい」と申し入れがあった人々です。「こっちが何かしてあげるよ。だからやってみる?」ではなく「本当にやりたいのですか?その代わり厳しいですよ。ダメなら即終了ですよ?それでもやりますか?」と言っても、「やりたい」という人たちと一緒にやっていきたいです。あと、2017年に注力する部門としては『オーバーウォッチ』ですね。
日本のe-sportsの将来について
――江尻さんが今後、e-sportsの競技に採用されると思われる注目のゲームタイトルを教えてください。江尻氏:海外と日本ではゲームの流行が違います。海外で流行したゲームでも、日本では今一歩で止まってしまうというケースも多いですね。例えば「Red Bull 5G 2016」のFREE ジャンルで『ロケットリーグ』が採用されましたが、あの3対3でラジコンカーがぶつかり合い、サッカーするのは面白いですね。スポーツ的な要素もあって、ハラハラドキドキで時間もそんな長くないのが良いと思いました。
ラジコンカーでサッカーをする『ロケットリーグ』
あと、ちょっとe-sportsというよりも僕が個人的にプロの戦いを見たいと思うのが、ウォーゲーミングの『World of Warships』です。僕もプレイしていますが、高度な戦略的な判断と高い操艦のスキルが展開される大会や試合が見てみたいですね。『艦隊これくしょん -艦これ-』なんかも流行りましたが、戦艦の登場するゲームって日本人は割と好きですし、年齢層も幅広いです。ゲームとして戦略を楽しむという形は、ある意味将棋とかにも似ていますね。
第二次大戦に登場した戦艦を操縦して戦うウォーゲーミングの『World of Warships』
――日本ならではのe-sportsを発展させるのはどうしたら良いでしょうか?
江尻氏:日本のe-sportsが世界に遅れてるのは事実です。だからといって、僕は海外を真似たいとは思いません。しかし、海外で流行していて「流行の土壌」があるものは、日本でやるより先に今の盛り上がってるとこに乗り込むしかありません。いち早く世界で盛り上がっている所へ行く努力を、僕たちはしなければなりません。ただ、やはり日本は日本で独自の、それこそスマホだったり、独自のゲームでe-sportsとして盛り上がるんだったら、それはそれで日本の文化として盛り上がれば良いと思っています。日本流に流行らせるにはどうすればいいか、考えを持ってやる必要があります。もう、ここまで来たら世界の尻ばっかり追いかけても意味がなくて、「世界に行きたいんだったら自分たちが行く」「日本で作りたいんだったら日本で作れる何かをやればいい」と思うんです。
日本でe-sportsが流行らない原因として、海外に少し行った人は口を揃えて「日本はゲーム人口が少ない」とか、「日本はゲームに対する理解度が低い」とか言います。しかし、この認識が既に間違っています。日本は総人口の割合に比してゲームをしている人は多いです。少子化と言っても今すぐ人口が劇的に減る訳じゃなくて、ゲームできる層も何千万人と居ます。実はe-sportsが盛んな台湾やドイツよりも人数は多いです。また、「ゲームに対する理解度が低い」というのも日本だけではありません。台湾では「プロゲーマーになるより、ゲーム会社に入った方がいい」と言われるぐらいです。さらに日本より人口の少ないスウェーデンはe-sports大国と言える存在です。例えば、Twitch の配信で視聴者数を見ると、人口の少ない台湾の方が日本より視聴者数が多いです。要するに日本はまだ眠っているだけなんです。しかし多くの人が、眠りを覚ます努力ではなく、ネガティブに「日本がダメだ」と言ってそこで止まってしまうのが発展しないひとつの原因です。ゲームのイメージだって、昔に比べてだいぶ変わってきています。ひと昔前は「e-sportsのチーム」と聞いて「それ、そんなに儲かるの?」というのは合い言葉みたいなものでした。しかし、最近はこれらが改善しe-sportsの理解度も上がってきています。そして「眠れる日本」を覚ますためには、世界で勝って結果を持ち帰って、盛り上げていくしかないと思います。
――日本のe-sportsの振興で足りない部分と、社会がどのように変わっていく必要があるのか教えてください。
江尻氏:皆さん、個々では自分なりに一生懸命に頑張っています。ただ、目指そうとする答えが違うので、まとまった力にならないのです。例えば日本では、選手やチームを企業からお金を集めるための道具として見ている人も居ます。逆に、本当に選手をフォーカスして、しっかりやりたいという団体もあります。もちろん、その中間もあります。しかし、海外の大会ではどこに行っても「プレイヤー・ファースト」。つまり選手が中心です。日本ではそれがひっくり返って、枠組みだけを作ってお金を動かそうという人がいます。しかし、あくまでチームや選手が育って魅力的でなければ、e-sportsは成り立ちません。だから僕は「魅力的な人を育てる」というのが、今一番大切なことだと思っています。色々な人に「スターが必要だよね」と言ったりします。プロスポーツは、選手たちが一生懸命やって、それを見る人に感動を与えてこそ成り立つ物です。その部分をもっと考えないといけません。
■江尻 勝氏のプロフィール
2009年にDeToNatorを設立し、現在は「DeToNator」の運営会社である、株式会社「GamingD」の代表取締役として活動しながら、ネットショップのサイト経営や宅建取得なども行っている。
以前は美容師として働いており、33歳でPCゲームに出会う。35歳の時に『Alliance of Valiant Arms』の大会で日本一にもなっている。
■関連リンク
DeToNator
https://detonator-gg.com/column/
江尻 勝氏のTwitter
https://twitter.com/det_maxjam?lang=ja
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