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アフターコロナのeスポーツに夢は持てるのか? RIZeST 古澤明仁氏に聞く<後編>

設立当時から本業としてきたイベント制作や施設運営をベースとしつつ、特定のタイトルに依存しない新規事業に舵を切り始めた株式会社RIZeST

しかし、そこから新型コロナウイルスの世界的な流行により、ゲーム/eスポーツの世界は様変わりしてしまった。eスポーツが日本でも定着しつつある中で、これから日本のeスポーツはどうなっていくのか。

後編では、アフターコロナの日本と世界のeスポーツについて、引き続き古澤氏にうかがった。

「eスポーツ」は日本の課題解決の手段になれる

――イベント運営からそれ以外の事業へとシフトしているというお話でしたが、なにか大きなきっかけはあったのでしょうか?

古澤:新規事業の取り組みの中で、自身を含め社内のマインドが徐々に変わっていきました。

というのも、2016~2018年頃は、欧米式のeスポーツ大会を日本で実施するのが制作会社としてのRIZeSTのミッションでしたし、それが日本のeスポーツを盛り上げる最適な方法だと考えていました。

ですが、メーカー、学校、自治体までいろいろなクライアントの依頼を受けて一緒に考えていくうちに、「eスポーツというのは世の中の課題を解決するためのひとつのツールなんじゃないか」と感じるようになったんです。

――「eスポーツで課題を解決」ですか?

古澤:はい。クライアントが求めているのは、欧米式の大きい大会を開くこと自体ではなく、eスポーツを通して多くの若年層にメッセージを発信したい(商品訴求やプロモーションも含む)ということなんですよね。

仮にクライアントから「eスポーツって日本じゃダメだよな」と声があがるとすれば、もしくは、誤解が生まれてしまうとすれば、その多くのケースが、その課題を無視して(解決策なしに)大会を開くことのみを目的にしていたからだったと思います。

広い話になりますが、いま日本の社会では、地方創生、雇用創出、地域活性化、教育など、さまざまな社会的な課題があります。それらを、元々ゲームが持っている楽しさとか、レクリエーション能力、人を笑顔にする力、競技としての切磋琢磨における喜怒哀楽といった要素によって解決に寄与できるのではないかと。

そうやって、我々のマインドも、単にイベントを制作することではなく、クライアントの要望、そして課題をeスポーツを通してソリューション提供していくことに変わってきました。

――eスポーツがクライアントの要望、ソリューションツールだと気づいた、具体的なきっかけはなんだったのですか?

古澤:僕らが東京を飛び出して全国さまざまな案件を通じて仕事を頂けるようになってからですね。

地域貢献や活性化に本気で取り組んでいる方々には、東京の外へ行くほどに出会います。そこで気付かされることが本当に多くありました。

例えば、大阪に100年続いている「スポーツタカハシ」という老舗スポーツ用品店があるんですが、若年層、特に10代からのブランド認知度が低いそうです。

長い歴史の中でさまざまなスポーツムーブメントに携わられてきた企業ですから、eスポーツを通じて未来の100年を創造し、自社の認知度向上、マーケティング課題との向き合いだけでなく、地域が持つ社会課題の解決やスポーツでの地域貢献と還元、そして新たな価値観を生み出し作り続けるという強い意志を持ってeスポーツ事業を立ち上げたそうです。

地元の文化の一翼を担うくらい、本当に地域に根付いたブランドなので、地域を巻き込んでイベントを開催したり、eスポーツ研究会の発足にも従事され、、産官学連携面も含めて地場に根を下ろしたスポーツタカハシだから実現できる独自のeスポーツを形成しています。

そんな「スポタカ」さんが大阪からeスポーツを盛り上げたいということで、その事業立ち上げのお手伝いをさせていただいたんですが、こうした熱量に触れるたびに、eスポーツが持つポテンシャルは私の頭の中だけでおさめてはいけないって思い知らされました。「僕らも負けていられない!」という気持ちになりましたね。

スポーツタカハシが立ち上げたeスポーツ事業SPOTAKA EX

大阪eスポーツ研究会

SPOTAKA CUP

――東京が中心と思われがちですが、福岡での「EVO Japan」など、地方でのeスポーツの取り組みも増えていますよね。

古澤:地方の企業の方の危機感の高さや、やると決めた時のスピード感、推進力はすごいです。やはり東京は良くも悪くも恵まれすぎていますからね、目が曇ってしまう。

地方が持つ地域性がeスポーツを「文化」に変えるカギ

――一方で、地方にはeスポーツの専門家なども少なく、eスポーツ施設やイベントに取り組みたいと思ってもどうしていいかわからない方も多いと思います。地方でeスポーツに取り組む上で大切なことはなんでしょうか?

古澤:大勢の参加者や視聴者が集まる「TOKYO GAME SHOW」のような大規模イベントや、最大100名を集めてのバトロワのような大型大会の開催を検討していたら、僕だったら「本当にいいんですか?」と尋ねてしまいますね。地方の強みはそこじゃないと思うんです。

eスポーツをその地域で定着させたいと考えているのなら、もっと地場に根付いたものでないと「文化」になりません。高額賞金付きの大規模な大会ではなく、地域のメディア、学校、企業、自治体、学校の方々と協力するとか、土地土地の色を濃く出したイベントにするべきだと思うんです。賞品をその土地の名産品にすることや、協賛をその地域から募ることもその第一歩だと思います。

eスポーツのいいところはオンラインを通じて全国の人と遊べる、楽しめるという点ではあるのですが、野球、サッカー、バスケなどのメジャースポーツには地域(密着)性があります。出身校や地元の高校が甲子園に出ていたら思わず応援してしまいますよね。そういう地域の帰属性の力がないと、本当の意味でeスポーツは文化になっていかないと思います。

その意味でいい例なのが、富山県eスポーツ連合です。過去には地元の酒蔵でゲームイベントをやったりもしています。地元で作られた日本酒を飲みながらゲームをして、県外からも多くの参加者がいたそうです。イベントの翌日には富山の観光をしたりと、ゲームが地域活性化に貢献している好事例です。

富山県eスポーツ連合
https://twitter.com/tgdggwp


「ToyamaGamersDay」、2019年時点で8回目の開催を迎え、「地域覚醒」をモットーに地域を巻き込んだeスポーツ施策を実現



御旅屋セリオに整備されたeスポーツ施設「Takaoka ePark」にて。石井知事(写真左)、富山県eスポーツ連合会長 堺谷氏(写真右)

こういう地域性って、東京ではどれだけお金を積んでも出せないと思うんです。この「富山モデル」に続いてeスポーツを活用してくれる地域が出てきてほしい。そのために、私たちRIZeSTにできることもあると思っています。

コロナ禍で気づいた、オンラインの魅力と落とし穴

――RIZeSTとしての事業やマインドの変化はわかったのですが、やはり気になるのは今回の新型コロナによる影響です。eスポーツ業界は相当な痛手を被っていますが、RIZeSTとしてはどうでしたか?

古澤:やっぱり厳しかったですね……。

ライブエンタテインメント業界全体に言えると思うんですが、これまでイベントといえばオフラインというイメージがありましたから。この不測の事態に備えてオンラインでも大会やイベントができるように保険をかけていたイベンター、オーガナイザーはほぼ皆無だったと思います。

――チームやコミュニティレベルで行われるオンライン大会も、とても増えた印象がありますね。

古澤:いい方向としては、国内外のeスポーツチームや関連団体からは、「ステイホームだからこそ家でもできるゲームをしよう、eスポーツを見よう」といったポジティブな雰囲気がありましたね。

ただ、国際大会のような大きなイベントとなると、オンラインにはまだ大きな課題が残っています。

国際大会では、各国・各地域のチームまたは選手同士が対戦します。そうするとどこかのサーバーを使ってゲームをすることになり、サーバーからの物理的な距離によってping値(プレイヤーの操作がゲーム内に反応されるまでの時間)なども変わってきます。すると選手の参加する国ごとにプレイ環境に差がでてしまい公平な試合が担保できず、競技性が損なわれてしまう。

RIZeSTとしても以前、アジア地域をつないでオンラインでの大会を運営したのでよくわかるのですが、試合として成立しないこともありました。

なので、国際大会レベルのものをオンラインでやるというのは非常にリスキーで実現が難しい面もあります。サーバーや大会運営の問題も含めて、オンラインでの国際大会についてはこれから考える時が来たんじゃないかなとも思っています。

アフターコロナのeスポーツはどうなる?

――緊急事態宣言が解除されて、これからはコロナありきの「新しい生活様式」としてのeスポーツが始まりますが、RIZeSTとしてこれからのeスポーツはどうなるとお考えですか?

古澤:表現が難しいのですが、新型コロナの影響は社会的に本当にダメージが大きいものとわかった上で、今後のeスポーツやゲームのあり方を考えるひとつのきっかけにもなったと思います。

リモートワークなどによって、アナログのままでいいと言っていた人も、デジタルを強制的に自分ごととして取り入れなくてはならない状況になりましたよね。

それと同時に、どんなにテクノロジーが発展してもどうしてもデジタル化が現状できない部分があるということもわかり、アナログの良さを見直すきっかけにもなっています。

eスポーツの中のアナログな部分を三密を避けてどう担保するかが、我々イベンターをはじめeスポーツに関わる人間の使命になっていくと思います。

――具体的にはどういう方法が考えられますか?

古澤:たとえば、無観客イベントが前提で、選手はオンラインだけど演者、MCはスタジオを含むオフラインから出演、逆に選手はオフラインで演者、MCなどはオンラインから出演で行うといったハイブリッド方式は考えられますね。我々が手掛けているライブ配信番組「RIZeSTV」でもこの形式を採用しています。

ライブ配信制作のクラウド対応も現在実証実験中で、近い将来製作スタッフ、特に映像制作、進行のリモート化はスタンダードになります。現場が北海道であろうと、沖縄であろうと制作現場は東京の自宅やスタジオから対応ができる。当然制作のスピードは圧倒的に早くなり、さらに、物理的なスタッフ移動や機材運搬が不必要となり、高額な機材自体がクラウドベースのソフトウェア、アプリケーションに置き換わるので、コスト削減にも即効性があります。


――もうひとつ気になっているのが、eスポーツに夢を持っている若者たちの今後です。以前のインタビューでも印象的だったのが、古澤さんの「eスポーツに関わる若者を育成したい」という言葉でした。これからのeスポーツ業界に夢は持てそうでしょうか?

古澤:ご存じのとおり、ゲームそのもののマーケットはこのコロナの期間中に拡大していますよね。

ただ、eスポーツを従来の「ゲームのオフラインイベント」と狭くとらえてしまうと、不安になってしまうのもわかります。イベントそのものがキャンセルになってしまったり、プロゲーマーが国内外の大会に行けなくなったりして、見方によってはeスポーツの世界が閉ざされてしまったように見える。

ですが、イベントに行けないとか友達と遊べない、集えないといった「ストレス」を解決する方法を考えることこそが、eスポーツが産業としてさらに飛躍するチャンスでもあるんです。

私は課題を解決するのがビジネスの原則だと思っているので、若い人にもそんなふうにとらえてほしいですね。

私たちがずっと続けているe-sports SQUARE AKIHABARAでアルバイトしている若い子たちは、イベント運営、設備、配信などさまざまなことを経験しています。その一部はRIZeSTに就職したり、そこから巣立ってゲーム会社、eスポーツ関連会社で働いており、e-sports SQUAREで培った経験が生きていると自負しています。

なので、もし行き場がないとか、プロにはなれないけどeスポーツに関わりたいという思いがある人は、ぜひアルバイトとして来てほしいです。現在も募集していますので、よかったら求人募集の案内も紹介してください(笑)。

e-sports SQUAREの採用情報はこちら
https://e-sports-square.com/recruit

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新型コロナによる甚大な影響を受けながらも、さまざまな新規事業を立ち上げ、発展を続けているRIZeST。一極集中の大規模な大会から、オンラインもうまく活用し地域の特色を生かしたeスポーツ文化を根付かせていくことは、アフターコロナの状況下でeスポーツを発展させるためのヒントとも言えるかもしれない。

彼らの活躍は、いわば日本のeスポーツが着実に前に進んでいることを示すバロメーターだ。RIZeSTがオフラインイベントの壊滅的な減少に負けず、新たな事業を模索し続けている姿には、同じeスポーツ業界に携わる者として勇気をもらえたようにも思う。

インタビューを終えて感じたことは、「アフターコロナの日本のeスポーツには、まだまだ夢が詰まっている」ということ。

ここからのRIZeSTの活躍が、それを確信に変えてくれるだろう。


株式会社RIZeST
https://www.rizestinc.com/

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