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【スイニャンの心ゆくまでeSports】第2回 韓国プロゲーマー引退後の道は?eSports界を取り巻く光と影

eSports業界でよく耳にする言葉のひとつに、「プロゲーマーの選手寿命は25歳」というものがあります。実際には30代プロゲーマーも存在しますが、プロとして活躍できる期間は決して長くないのが現実。だとすれば、引退後は一体どうなってしまうのでしょうか。実はeSportsの歴史が長い韓国には、すでに引退した選手が大勢います。

10年前に活躍した韓国プロゲーマーの今

韓国の『StarCraft: Brood War』には、常に300名ほどのプロゲーマーがいたと記憶しています。半年ごとにドラフトが行われるため、新人選手が入る代わりに引退を余儀なくされる選手も。では、私の追っかけ時代に活躍していたプロゲーマーたちは、今どんな生活を送っているのでしょうか。

実は今でも現役プレイヤーという人が意外に多いです。正確にはストリーマーをしつつ、大会にも出るという感じでしょうか。また、『League of Legends』や『StarCraft2』などのプロチームのコーチや監督、ゲーム解説者、大会においてゲーム画面を映し出すオブザーバーなど、今もeSports界で活躍している人たちが目立ちます。

(左から)現在本名のホンジノとしてタレント活動中のYellow選手と、「CJ Entus」『League of Legends』チームの監督になったReach選手(itemBay StarLeague 2013)

変わり種だと芸能人やeSportsマネジメント会社の経営者になったケースもあって、彼らは世間にeSportsを広めるなど、業界の活性化に大きな役割を果たしています。もちろんeSports関連企業やゲーム会社に就職し、裏方として業界を支える道を選んだ人もいます。しかし、大半は業界を離れざるを得ないのが現実。家業を継いだ人、公務員になった人、一般企業に就職した人などさまざまです。

元プロゲーマーHorang2が語る引退後の生活

写真は「OnGameNet SPARKYZ」所属時代。Horang2の読み方は「ホランイ」、韓国語で「虎」の意味

私が親しくしている韓国eSports関係者のなかに、Horang2という『StarCraft: Brood War』の元プロゲーマーがいます。彼は名門「CJ Entus」のメンバーとして活躍したこともある人気選手でした。しかしプロシーンの『StarCraft2』移行をきっかけに引退し、軍隊へ。除隊後に『League of Legends』のプロチーム「Samsung GALAXY」のコーチを務めたあと、日本へ留学。帰国後は、ストリーマーとして活動しています。今回、彼から引退後の生活ついて話を聞くことができました。

今振り返ると、プロゲーマーをやっていて良かったと感じたことはコーチ時代に多かったそうです。「自分の経験を踏まえて選手の考えを理解することができたし、ゲームが上手くいかないときにどうすれば良いか、今選手に何が必要かということも分かった」とのこと。ストリーマーとなった今では「名前が知られているからこそ配信を見てくれる人が多い」のだそうで、やはりこういった職業こそプロゲーマーという経歴を存分に生かせる道と言えるでしょう。

アフリカTVでストリーマーとしてゲーム配信をするHorang2選手

しかし厳しい現実もあるようで、Horang2曰く「プロゲーマーは一般の会社に就職した人と比べて辞めたあとの道が限られている」とのこと。だからこそ、「自分を客観的に見て、才能がないと思ったら早々にあきらめる勇気も必要だ」と言います。

それでも彼は、「プロゲーマーとしてやっていくと決めたなら、辞めたあとのことは考えずゲームだけに集中するべきだ」と主張しています。なぜなら「プロゲーマーとして結果を残した一握りの人間だけが、引退後も経歴を生かすことができるから」だそう。「プロゲーマーとして夢を叶えたという自負心、プロゲーマーに必要不可欠なマインドコントロール能力や自己管理能力をもってすれば、将来何をしてもうまくやれるという自信につながる」と力強く語ってくれました。やはり経験者の発言には重みがありますね。

韓国eSports史上最悪の大事件から学ぶこと

ところで、韓国の『StarCraft: Brood War』プロシーンを語るうえで避けられないものに、2010年の「八百長事件」があります。違法賭博サイトが蔓延し、プロゲーマーが金銭を受け取って試合にわざと負けるという事件が発生。9名もの選手が芋づる式に検挙されました。この影響でeSports業界から手を引く企業が続出し、3チームが解散。新規スポンサーの獲得も困難な状況に陥り、『StarCraft: Brood War』のプロリーグは2012年に幕を下ろしました。

2011年に解散したプロゲーミングチーム「WeMade FOX」の選手たち

この事件をきっかけに、プロシーンがあるのは当たり前ではなく、努力するすべてのeSports関係者によって続けられているということに気づかされました。そしてほんの一部のプロゲーマーの過ちで、シーンは簡単に潰れてしまうということも思い知らされたのです。プロゲーマーはeSportsの主役である以上、経済的に支えてくれるスポンサーと精神的に支えてくれるファンからの信頼を得るために、自覚を持って節度ある行動を心がけねばならない職業であると実感しました。

根強い人気を誇る『StarCraft』のリーグ(2016 afreeca StarLeague Season2)

こうしてプロリーグが終了してしまった『StarCraft: Brood War』ですが、その人気の根強さから、多くのeSports関係者がふたたび競技シーンを盛り上げようと尽力しています。選手たちも、ストリーマーとしてファンの後押しを受けながら実力を磨いています。ひょっとしたらプロゲーマーやeSports関係者を奮い立たせているのは、ファンの情熱なのかもしれません。私は間違いなくeSportsファンですが、関係者としての顔を持っているのも事実です。これからもeSports観戦を楽しみつつ、多くの人たちと共に業界発展に貢献していけたらと思っています。

■【スイニャンの心ゆくまでeSports】
第1回 スイニャンって何者?に答えつつ、eSports観戦の醍醐味を語る

■スイニャン氏のプロフィール
韓国在住時の2007年ごろからeSports記事の翻訳を始め、帰国後の2009年ごろから国内外のeSports取材を開始。さまざまなメディアで執筆経験を持ち、現在もeSportsライターとして活動を続けている。2016年からは日本eスポーツ連盟の事務局も担当。また、語学力を活かして韓国人プレイヤーのインタビュー通訳・翻訳や、国際大会の引率通訳なども行っている。自らはゲームをほとんどプレイせず、おもにプロゲーマーの試合を楽しむ観戦勢。
twitter:https://twitter.com/shuiniao?lang=ja

【連載】スイニャンの心ゆくまでeスポーツ

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