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自分の仕事は人を活かすこと――ハリー杉山とStanSmithが明かすMCへの想い

ゲームキャスターのStanSmithがいま気になる人に会いに行き、仕事や好きなことについてとことん語り合う「StanSmithが会いに行く」。vol.2ではタレントでeSports大会「RAGE(レイジ)」のMCも務めたハリー杉山さんと久しぶりに再会し、お互いの仕事観やMCにおける心構え、ネット番組のよさと危うさなどについて語り合った。

ハリー杉山


タレント/MC。
1985年東京生まれ。イギリスのウィンチェスター・カレッジ卒業。4カ国語(日本語、英語、中国語、フランス語)が堪能なマルチリンガル。2008年4月からスペースシャワーTV「SPACE SHOWER MUSIC UPDATE」を務め、MCやタレントとしての活動を本格的にスタートさせる。2016年に開催されたeSports大会「RAGE Vol.2」決勝大会のMCを努めて大きな話題となった。
現在はNHK「4時も!シブ5時」(毎週月曜~金曜 16:00~16:50)、J-WAVE「POP OF THE WORLD」(毎週土曜 6:00~8:00)、CX「ノンストップ!」(毎週月曜~木曜 9:55~11:25)、「バイキング」(毎週月曜~金曜 11:55~13:45 不定期出演)などに出演、MCやバラエティー番組を中心に活動している。
公式Twitter: @harrysugiyama
公式ブログ: https://lineblog.me/harrysugiyama/

StanSmith


フリーランスのゲームキャスター。
国内のeSports大会やゲームイベントの実況・MCを中心に活躍しており、世界大会の日本語実況などの経験も豊富。もともとはFPSMOBA・スポーツのジャンルで国内外の大会に出場していたトッププレイヤーでもある。
ただのアナウンサーや実況者ではなく、選手としての大会経験とゲームへの深い理解を持つことを一番の武器としている。ゲーム初心者から上級者まであらゆる視聴者が楽しめるように言葉巧みに、必要なときには噛み砕いてゲームや試合の魅力を伝える能力が高く評価されている。
公式Twitter:@StanSmith_jp

RAGEに出演して見えたeSportsの可能性


StanSmith:
僕たちが最初に出会ったのは2016年1月23日のRAGE vol.1(*1)です。あのときまで、ハリーさんのことはテレビでしか見たことがなく、どんな雰囲気の方なのか知りませんでした。

RAGEは独特で、芸能人の方をMCにするんですよ。例えばRAGE.vol.4では、武井壮さんが『Shadowverse』のMCを務めました。皆さんそれぞれ特徴がありつつ、僕はハリーさんのMCがすごく好きなんです。ゲームや会場の雰囲気にマッチしていて、盛り上げ方が格段に上手だったことを鮮明に覚えています。

ハリーさんにはそこまでゲーム好きの印象がなかったんですが、そもそもなぜRAGEのMCを引き受けたんですか?

*1 RAGE
CyberZが主催する大規模eSports大会。これまで『Vainglory』『ストリートファイターV』『Shadowverse』『ウイニングイレブン2017』といったタイトルが採用され、2017年9月にvol.5、12月に世界大会のRAGE Shadowverse World Grand Prixを開催予定。


ハリー杉山:
ゲームの知識はeSports業界の方と比較すればほぼゼロに近いです。でも、この仕事を引き受けた理由に深い意味はないんです。どんな仕事でも糧になるし勉強になるので、いただける仕事は事務所NGでない限り断らないことにしているからです。

ただ、ゲームに関しては子供の頃から遊んでいて、自分の生活の一部でした。市場としても絶対に発展していく分野でもあります。RAGEの話が来たときは即答で「やりたいです」と答えました。

イベントはお客さんの顔が見えて、自分の言葉に対する反応を直接いただくことができます。StanSmithさんも経験があると思いますが、お客さんから「やっぱりこの人だな」と認められる瞬間っていいですよね。僕にとっても、MCとして受け入れられる瞬間は生きがいなので、未知の分野であるRAGEにチャレンジできたのは嬉しい機会でした。

StanSmith:
なるほど、僕も基本的に仕事は来るもの拒まずでやっているんですよ。

ハリー杉山:
自分のステータスにマイナスにならない仕事、事務所などに迷惑にならない仕事なら断る理由がないですよね。

StanSmith:
とはいえ、自分で調整することはありますね。かつてのバスケットボールや麻雀と同じで、eSports業界はいま団体が複数あります。そのため、特定の団体に所属したり集中的に出演したりするとその団体のイメージがつき、ほかから依頼しづらい空気になってしまいます。それは避けたいんです。

ハリー杉山:
タレントでもよく出演するテレビ局ってありますよね。でも、MCの仕事はどんな現場、どんな環境でも視聴者やお客さんに対して感動を与えられることが大前提ですから。

StanSmith:
これまではテレビ番組で出演者としてお話しされているのをよく見ていたんですが、RAGEではほとんど初めてMCとしてのハリーさんを拝見しました。照明が当たってさまざまな演出がある中でどう盛り上げていくべきなのか、ハリーさんに学ぶことが多かったです。一緒に仕事ができて本当に光栄でした。

いままでeSportsやゲームの大会は観戦したことがなかったかと思うんですが、RAGEにはどんな印象を持ちましたか?

ハリー杉山:
盛り上がりが国内だけでなく、国際的なものになっているのに驚きました。RAGEには韓国やアメリカのチームも参戦していましたよね。さらに、アメリカのチームには12、3歳くらいの少年がトッププレイヤーとして所属していたんですよ。すごい世界だなと思いました。

ゲーム文化がそこまでの水準に到達していて、賞金もあって、誰かの生きがいになっている。しかも、国を出て新しい戦いに身を投じられる。選手としてプラスになるのはもちろん、人生経験としても代えがたいものです。こうした盛り上がりは予想外でした。


StanSmith:
RAGEは9月にvol.5が『Shadowverse』のみで開催されます。今後vol.6やvol.7がどうなるか分かりませんが、またご一緒できると面白そうですね。

ハリー杉山:
本当にそうですね。僕はゲームの可能性は無限大だと思うんです。ゲームはなくなりませんし、これからも社会の中でいろんな意義を持っていくはずです。

例えば、僕はカジュアルゲーマーで頭をリフレッシュするためにちょっとゲームをすることがあるんです。走るのが趣味なので、それもリフレッシュのためなんですが、ゲームはより手軽に同じような効果を得られますね。

StanSmith:
電車で暇潰し、家で気分転換、家族団欒、ストレス発散といった目的でゲームをするというのは、とても大事な視点だと思います。ハードウェアが変わっても、そういうシーンにゲームは必要とされるでしょうから。

ただ、eSportsとして取り組む、競技の世界でプレイする人たちはゲームでリラックスするという感覚があまりないかもしれません。むしろゲームでストレスを溜めている人もいるでしょうね(笑)。

ハリー杉山:
僕はそこまでの領域には達していません(笑)。かつては、年末になれば除夜の鐘が終わった瞬間にヘッドホンをつけて暗闇の中で『バイオハザード』をやっていましたが。

StanSmith:
僕はもうプレイ中に「あれ、新年明けた?」とボイスチャットで言っていますね(笑)。ALIENWARE ZONEの読者もそういう人が多そうです。

eSportsはハリーさんがおっしゃるゲームの可能性の一つだと思いますが、今後国内でeSportsがもっと発展するには何が必要だと感じますか?

ハリー杉山:
やっぱり大会の規模だと思います。それと、どれくらい国際的なコミュニケーション、異文化交流が生まれるかですね。ゲームは音楽やスポーツと同じで、政治では壊せない壁を壊せます。『Vainglory』でも、13歳の子供と大人が真剣勝負をしていたわけですから。

StanSmith:
英語が話せなくても、ゲームのことだと通じます。僕も海外大会で出会った選手とその後にご飯に行くといった経験がありますが、試合以外でもコミュニケーションが生まれると楽しいですよね。

ハリー杉山:
コアなコミュニティ内だけでなく、より広く多くの人がゲームやeSportsの面白さを感じられるようになればいいと思います。

StanSmith:
RAGE vol.1のアフターパーティにハリーさんが参加されていたことがその象徴ですよね。

MCとしてのルーツと心得


StanSmith:
僕は実況はいろんなゲームに対応できる力がついてきたんですが、MCが苦手なんです。ハリーさんのMCはこれまで出会ったことのないタイプだったんですが、そのルーツはどこにあるんですか?

ハリー杉山:
もともと父の出身であるイギリスのBBCでレポーターをやりたくて勉強していて、途中で今度は母の出身である日本の芸能界に興味を持ったんです。それで、日本でモデルの仕事を始めました。

そのうちスペースシャワーTVの「SPACE SHOWER MUSIC UPDATE」(*2)にも出演するようになって音楽の話をするようになりましたが、自分は(武井)壮さんのような圧倒的な人気タレントになれるわけではないと分かってきました。そんなとき、自分の仕事は人を活かすことだと気づいたんです。

そのプロフェッショナルがフリーアナウンサーの羽鳥慎一さんです。羽鳥さんは自分が主役になることもできます。でも、オンエア上で自分が一瞬も映っていなくても、その番組が面白ければいいと思っている方です。どんな番組でも引きの立場で、周りの人が活きるようなパスを出すことに徹しています

それは進行が頭に入っていないといけませんし、出演者の個性も熟知しておかないといけません。とても難しいことを簡単そうにやってしまうんですよ。羽鳥さんのようなことができれば、MCとしてはかなり強いと思います。

*2 SPACE SHOWER MUSIC UPDATE
スペースシャワーネットワークが運営している音楽専門チャンネル「スペースシャワーTV」で放送されていた音楽番組。ハリー杉山さんはSHELLYさんとともに2008年4月から2009年3月まで、毎週金曜日の司会を務めた。


StanSmith:
僕はTBSアナウンサーの安住紳一郎さんも好きですね。喋りのプロであるお笑い芸人すらフォローできる実力に感動します。

ハリー杉山:
芸人さんの話のオチに対して、ちょっとプラスできる方ですよね。僕はバナナマンの設楽統さんからも学ぶことが多いんです。設楽さんはゼロから笑いを作る天才なんですが、話を受ける天才でもあります。

番組で誰かが何か言って次のトピックに行くとき、MCはつい「そうですね、さて」と繋いでしまいがちです。ですが、設楽さんは「そうですね」のあとに一言、いい感じでつけ加えられるんです。僕はそれがまだできないなと反省していますね。

StanSmith:
ご自身ではどういうふうに改善しているんですか?

ハリー杉山:
手帳などによかった点や反省点、スタッフからの評価をメモしています。意識するのはスタジオ、現場での手応えですね。画面上ではうまくいっているように見えても、現場ではスタッフに「あいつはダメだな」と思われていることは往々にしてあります。

なぜなら、テレビはスイッチングが可能なので、僕が原稿を見ながら話していてもVTRなどが映っていれば、視聴者には分からないんです。でも、現場の人は僕の姿を見ています。カメラや現場の人の目を見て話せていないとしたら、それはプレゼンターとしてはレベルが低いんです。

単純に原稿を読むのは誰にでもできます。だからこそ、原稿を一切見ず、固有名詞も数字もカメラだけを見ながら言えてしまうのがすごいMCなんです。

僕が尊敬するフリーキャスターのジョン・カビラさんがまさにそうですよね。僕にはまだそこまでできるほどの技術、語彙もありませんが、目標はカビラさんです。


StanSmith:
たしかに語彙は増やし続けないと、つい口に任せて同じ表現ばかりしてしまいますよね。

ハリー杉山:
以前、芸人の小籔千豊さんに語彙力を増やすなら本を読めと言われました。もし言われたとおりに死ぬほど本を読んでいたら、いまの実力は違っていたかもしれません。いまになってやっとその大切さが分かり、たくさん読み始めたところなんです。

StanSmith:
僕も本を読んだほうがいいと言われたことがあります。ただ、読むのが苦手なんですよ。もちろん読まないといけないのは分かっているのでオーディオブックを試してみたんですが、言葉の音や意味は分かっても文字でイメージできなくて戸惑いました。

ハリー杉山:
いま向けられた言葉がどういう意味か、瞬時に理解するのは大事ですよね。MCは話す力だけでなく聞く力も重要で、誰かの話を理解せずに「ですよねー」と進行してしまうのは一番まずいんです。タレントの方にもそれは気づかれていて、普通に笑いながらも「分かってねーな、このMC」と思われているそうなんですよ。

StanSmith:
怖いですね!

ハリー杉山:
その人が言いたいことを本当に理解できたかどうかはいつも不安に思います。いまの意味で受け取ってよかったのかな、とか。

StanSmith:
もっとこう言いたかったのでは、さっきの受け答えでよかったのか、というのは僕も感じますね。

ハリー杉山:
ネット番組にもっと芸人さんが出演するようになると、MCとしての力量は上がると思います。

StanSmith:
芸人さんの空気感は全然違います。普段の会話から芸人ぽく話されますよね。コンビの方の場合、ボケとツッコミでやり取りが成立するので、自分がどう介入していいのか難しいです。無理に入ると邪魔だと思われて、入らないと誰も拾わなくてグダグダになってしまうこともありますから。

ハリー杉山:
それは信頼関係も大事ですね。共演者とうまくやるなら、楽屋あいさつが本番よりも重要なこともありえます

あと、分からないことは分からないと言わないといけません。応援したくなるキャラというか、質問しても大丈夫な存在になるべきですね。

StanSmith:
僕は最近だと分からないことを尋ねるより、スタッフから「進行はお任せします」と言われる仕事が多いんです。いつもやっている感じで、と。

ハリー杉山
信頼されている証拠ですよね。

StanSmith:
大会の実況だと毎回やっていることが同じで、演出もそれほど変わらないので、ややマンネリに感じなくもないです。もちろん仕事として楽しいですし、集中して100%を出せているんですが、それ以上を求めている感じですね。

ハリー杉山:
だったら自分から提案しましょう。MCの仕事だけでなく、番組を面白くする工夫や視聴者に受けそうな企画など、その現場をよりよくするアイデアを出すんです。「何言ってるんだよ」となるかもしれませんが、何も言わないよりはましです。

ネット番組のよさと危うさ


StanSmith:
テレビとネットの番組はけっこう違いますが、どういう違いがありますか? ネット番組はまだ歴史がない分、慣れない部分もあると思います。

ハリー杉山:
ネット番組は基本的に言いたいことを何でも言えますが、たいてい無期限にアーカイブが残るので、その発言がいつどのように使われるか分からない怖さがありますね。

でも、生放送ならリアルタイムで視聴者の反応が見られますし、コミュニケーションできるので、テレビよりラジオに近い感覚があります。テレビは視聴者が完全な第三者なんですが、ラジオは友達のように、すぐ目の前にいるかのように語りかけることができます。ネット番組は全般的にラジオ番組に近づいているとは思います。

StanSmith:
僕はテレビはローカルのゲーム番組くらいしか出演したことがないので聞きたいんですが、ネット番組はもっとこうしたほうがいい、と考えるところはありますか?

ハリー杉山:
僕はネット番組の出演経験がまだ少ないので、そこまで言える立場ではありませんね。

StanSmith:
僕が思うのは、ネット番組はテレビ番組だとテロップで済ますような出演者紹介を、ある程度の時間を設けてMCが行なうというのが慣例化しています。

レギュラー番組でも、毎回冒頭で番組の紹介、MCの自己紹介、出演者の紹介を行ないます。その流れがどの番組、どんな大会でも同じなんですよ。テロップで紹介してしまう文化がまだ浸透していなくて、ちょっとマンネリになっている気がします。

それによってテンポが悪くなるわけではないですが、そろそろ新しい演出や方法をやってみてもいいのではと考えていますね。テレビ番組に近づきすぎてはいけないとは感じていますが。


ハリー杉山:
反対に、ネット番組のいいところは生放送の費用がテレビ番組ほどかからないところですよね。言ってしまえば、スマホの画質で充分なわけです。そして視聴者は生放送でのハプニングを期待しますから、ライブの強みを最大限に使うのがいいんでしょうね。

StanSmith:
ネット番組はほぼ生放送で編集ができないので、そこに良し悪しはあります。

ハリー杉山:
テレビ番組はスポンサーが多く入っていますから、より多くの視聴者に届けることが一つ使命としてあります。なので、広く受け入れられる番組がいいものなんですよね。

一方で、ネット番組はその逆です。僕の大親友であるSHELLYが出演しているAbemaTVの「Wの悲喜劇~日本一過激なオンナのニュース~」は女子のハードコアなネタばかりを扱った番組です。性教育などかなりリアルなことを話しているんですが、これがネットの力だと思います。こういう番組がたくさん登場するようになるのが方向性としてありますね。

ただ、懸念もあります。先日、FRESH!の「人類総美女化プロジェクト~やっぱり美女が好き~」にレギュラーのJOYの代わりに出演したんです。自信を失った女の子を美しくするための番組で、ほかにはYouTuberや地下アイドルが出演していました。

配信中の会話がとにかくフランクだったのが印象的でした。「いま彼女いんの?」と普通に聞かれるんですよ。もちろん答えますが、ちょっと品がないというか、そういう危うさみたいなものを感じますよね。

StanSmith:
YouTuberが出演すると雰囲気が変わってくる気がします。YouTubeには独自のいい文化があって、ネット番組にも文化があります。

YouTubeは自発的に何かしている個性豊かな人たちが中心ですよね。僕が出演するようなネット番組は、ゲームのプロモーションや大会が多く、明確にスポンサーのいるテレビに近い部分があるんですよ。でも、YouTuber側はそういう空気に慣れていないので、進行を無視して自由に話をし始めてしまうこともあります。

それは番組を作っているプロデューサーや現場を回すMCの力量が問われるところです。しかし、まだ慣例がなく、あったとしても配信プラットフォームが違うなど領域が異なれば共通認識として通用しないので、仕方ないところではありますね。

仕事の知り合いと仲よくなりたい


StanSmith:
ところで、ハリーさんはプレッシャーやストレスとどう向き合っていますか?

ハリー杉山:
オンとオフの切り替えはしっかりやっています。ストレスが溜まったらとにかく寝るんですが、眠れないときは走りに行きます。ほかにも、先程言ったようにゲームでリフレッシュしたり、言葉の温もりがほしくなって両親に会いに行ったりすることもあります。

StanSmith:
僕は仕事でもプライベートでもゲームをしているので、その区別がなかなかできません。家でゲームをしている時間にお金が支払われるわけでもないので、自分の時間を使ってプレイして詳しくならないことにはどうしようもないんです。

しかも、実況には覚えるべき範囲がなく、言ってしまえばそのゲームのすべてを知っておかないといけないので、膨大な時間が必要です。キャラクター、スキル、流行りの戦術……それと選手やチームのこともです。いつどんな情報が必要になるか分かりませんからね。

さらに僕の場合は特定のゲームだけでなく、複数タイトルの実況を行なうので、覚えることは本当に膨大です。

時間的にはプライベートなんですが、でも仕事のために費やしている時間でもあります。だから区分がなくて、ストレスを発散する術があんまり見つからなくて悩んでいます。

ハリー杉山:
僕は公私混同をしないと自分に言い聞かせています。ですが、StanSmithさんの場合は公私混同しても仕方ないですよね。だとしたら、1回全部忘れてゲーム以外でリフレッシュするしかないですよ。


StanSmith:
以前ハリーさんをご飯にお誘いしたのは、ゲーム以外の話を聞きたいと思ってのことでした。

ハリー杉山:
それと、やっぱり運動ですね。外の空気が大事です。僕は室内でもストレッチポールを使っているんですが、これだけでゲームで使いがちな首や肩の筋肉がリラックスするんでお勧めです。

StanSmith:
運動するとゲームのパフォーマンスも上がりますよね。

それと、何でも相談できる相手がいるのも大事だと思うんです。ハリーさんの場合はそういう存在にSHELLYさんがいらっしゃいますが、仕事で知り合った方と仲よくなるにはどうしたらいいですか?

ハリー杉山:
僕の場合、そういう関係にならないと彼女と共演していた「SPACE SHOWER MUSIC UPDATE」が成立しなかったんです。2人しかいない番組でよそよそしくしていたら、視聴者やゲストも楽しくないですから。

こういう関係になるには、波長が合うという以上にもう一歩踏み込まないといけません。相手に対して興味を持つこと、生々しい部分も知る必要があります。SHELLYは同じハーフでも日本語が流暢です。それに、日本人としてのアイデンティティを持っています。では、自分はなんで持っていないのか? そんなことからも関心や話題が広がりました。

一番大きなきっかけは、北海道のRISING SUN ROCK FESTIVAL(ライジングサンロックフェスティバル)に行ったことです。深夜まで仕事して、そのあとみんなで一緒に飲んだんです。そのとき一気に距離が縮まった気がしますね。

StanSmith:
僕はなかなか心が開けなくて、仕事の知り合いにプライベートのことを話せないんです。

ハリー杉山:
最初が怖いですよね。僕も若いときは自分を大きく見せてしまう癖がありました。あの人と仕事している、あの学校に行った、と。いまはそんなことはありませんが……。

とにかくどこかできっかけを見つけて、自分から行くしかないですね!

昨日より1つでも進歩する


StanSmith:
ハリーさんはいまもいろいろな仕事をされていますが、目標や心構えについて知りたいです。

ハリー杉山:
いまの目標から言うと、2020年の東京オリンピックのときに自分の番組を持っていることです。そのために、画面の向こう側にいる視聴者の心に触れて、1人でも多くの人に自分の存在を印象づけたいと思っています。

人の心に触れられる言葉はどうすれば生まれるのかというと、毎日さまざまな場所にヒントがあります。歌舞伎町の喧嘩を見たら「この一言があれば丸く収まるのに」と想像して、電車でお年寄りに席を譲っている人がいればそのときの言葉に耳を傾けるのもいいと思います。そんな小さなことの繰り返しが大きな目標に繋がっていくはずです。

このやり方は間違っていないと信じています。というのも、昔、とあるスタッフの方に、適材適所でいいと言われて救われた気持ちになったことがあるんですよ。

僕は基本的にどんな仕事でもやりますが、はまらない仕事も当然あります。そういうとき、無理をして対応していたんですが、その方からは「自分が一番力を発揮できる場所を見つければいい、あとは自然に流れが生まれる」と言われました。「この仕事で何年も生き残っているから、ハリーさんには魅力がある」と。

事務所の社長にも、「いまブレイクしなくていい、40歳50歳がピークだと思っている」と言われたことがあります。小さなことを積み重ねているからこそ、こうした評価をいただけるんだと思います。

ただ、そうは言っても時間はあっという間に過ぎていきます。StanSmithさんはいま何歳ですか?

StanSmith:
28歳になりました。

ハリー杉山:
僕は32歳ですが、1月がつい先日の感覚になってしまいました。どんどん時間がなくなるので、1日の中で何かいいことや進歩を1つ見つけて手帳に書き留めています。あと、できないことはできないと認めて、失敗を次に繋げるよう心がけていますね。


StanSmith:
僕もいつ死ぬか分からないと思っていますし、いつ事故に遭うか、いつ地球が滅亡するか分からないと考えています。なので、毎日が楽しくて最高の1日になるように動いてはいます。

ハリー杉山:
1つでもいいので、昨日より自分が進歩したことを見つけるんですよ。

StanSmith:
ゲームがうまくなった、人と話をして何か得た、とか。

ハリー杉山:
今日はご飯がうまく炊けた、あるいは昨日より鼻クソをうまくほじれた、でも(笑)。僕はいま口内炎ができているんですが、この1週間で口内炎にものすごく詳しくなりました。イソジンの強さを再確認できたことが大発見です。正直、そんな進歩でもいいんですよ。


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