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大会やプレイの記録を残すことがレジェンドを生む――16年間見つめ続けてきた目に映るeSportsの現在【Negitaku Yossy×ゲームキャスター 岸大河】

文●なぞべーむ


ゲームキャスターの岸大河がいま気になる人に会いに行き、仕事や好きなことについてとことん語り合う「StanSmithが会いに行く」改め「岸大河が会いに行く」。vol.3ではeSportsの個人ニュースサイト、Neigtaku.orgを約16年も運営しているYossyさんを訪ね、いまの活動やeSportsシーンについて語ってもらった。

Yossy


国内外のeSports情報を中心にゲーム情報を紹介する個人運営サイト「Negitaku.org」の管理人。2002年8月24日にサイトを開設。
本業は別にあり、あくまで趣味としてサイト運営を続けており、FPSMOBA、ゲーミングデバイス情報をほぼ毎日アップし続けている。
サイト:https://www.negitaku.org/
Twitter:https://twitter.com/negitaku/
Twitter(個人):https://twitter.com/YossyFPS

岸 大河


フリーランスのゲームキャスター。
国内のeスポーツ大会やゲームイベントの実況・MCを中心に活躍しており、世界大会の日本語実況などの経験も豊富。もともとはFPS・MOBA・スポーツのジャンルで国内外の大会に出場していたトッププレイヤーでもある。
ただのアナウンサーや実況者ではなく、選手としての大会経験とゲームへの深い理解を持つことを一番の武器としている。ゲーム初心者から上級者まであらゆる視聴者が楽しめるように言葉巧みに、必要なときには噛み砕いてゲームや試合の魅力を伝える能力が高く評価されている。
2017年10月1日より「StanSmith」から本名「岸 大河」に変更した。
公式Twitter:https://twitter.com/stansmith_jp

 何度目かのeスポーツ元年を経験して


岸:

いきなりですが、Yossyさんはいまのeスポーツをどう捉えていますか?

Yossy:
僕はeスポーツ元年を何周も経験しているので、もはや「こうなってほしい」という気持ちはないんですよ。もちろん、昔は自分が好きなeスポーツとは異なるような新しい動きが起きると「なんか違うんじゃない?」と思うことはあったんですが、それも何回経験したか分かりません。

いまのeスポーツは僕が興味を持ち始めた頃に比べて非常に大きな規模になっています。関わる人も増えたので、僕が「eスポーツとはこうあるべき」と言ったところで通じないですよね。なので、「それぞれのeスポーツを楽しめばいい」と考えています(笑)。

岸:
そうした中で、Yossyさんの理想とするeスポーツ像はあるんですか?

Yossy:
理想というより自分の好きなことですが、真剣に対戦する、世界一や日本一を目指すといった目標を掲げて戦っている選手を見るのが一番楽しいです。最近は『Counter-Strike: Global Offensive』や『Dota 2』のシーンを見ていますね。

岸:
選手の背景や試合展開、会場の盛り上がりなど、そういうシーン全体を見るのが楽しいということですよね。僕もそうなんですけど、Yossyさんと同じで、それを誰かに押しつける気持ちはないんです。

Yossy:
日本でもeスポーツ周りでいろんな動きが増えていますが、僕が興味のないものもあります。でも、それを見たい人もいるでしょうから、いろんな楽しみ方ができるようになったのかなと思いますね。

岸:
eSportsと言ってもガチで挑戦する人がいる一方で、カジュアルに楽しむ人もいます。海外では『Counter-Strike: Global Offensive』や『Dota 2』などPCゲームが主流ですが、日本ではスマホのタイトルが盛り上がっていますし。

Yossy:
岸くんからはいまのeSportsはどう見えているんですか? 毎週の何かしらの大会がある状態で、しかもキャスターとして出演していますよね。僕はPCゲームが中心でモバイルゲームにはあまり詳しくないんで、そっちがいまどうなっているのか知りたいです。

岸:
お金の動きが違いますね。見ていて分かると思うんですが、モバイルゲームのほうが大金が動いているのは確かです。あと、PCゲームは日本にパブリッシャーや支社がないことが多く、大会をやろうにもコミュニティやスポンサーに頼りっきりになっています。大規模な大会をやりづらい状況で、チームも増えづらいですよね。

Yossy:
大会の参加者層も違いますか?

岸:
例えば、『Clash Royale』は10代が多いですね。クラロワリーグ アジアに出場しているGameWithには16歳が2人いますし、しかもこの2人が勝ちまくっています。

Yossy:
若い人のほうが強いんですか。

岸:
さらにGameWithはクラロワリーグ アジアで現状1位です(※1)。韓国チームより強い。なんで強いのかというと、デバイスの違いが大きいのかなと。韓国ではスマホはもちろん、PCも普及していて誰でも利用しています。日本だとPCはいまいちですが、スマホなら誰でも使っています。『Clash Royale』は基本無料のゲームで若年層が始めやすいというのもありますね。

モバイルゲームは、日本と韓国で初めてeSportsとしてのスタートラインが同じ状況になっているのかなと思います。ゲーム会社もモバイルゲームやPCゲームのモバイル版を作っていますし、これからはどんどん日本が強いタイトルも出てくるかもしれません。

※1
2018年6月7日時点(対談実施日)。

Yossy:
日本はPCゲームの人口が少ないですよね。『Counter-Strike: Global Offensive』も国内にチームはあっても、プレイヤー人口が少ないのでなかなか全体のレベルが上がりづらい。プレイヤーが多ければ多いほど全体のレベルは上がるので、モバイルゲームは期待が持てるかもしれませんね。



eSportsにまつわる記録を残さないといけない


岸:

Yossyさんは海外のシーンもよく見られていると思うんですが、日本でも取り入れられそうなことややってほしいことってありますか?

Yossy:
うーん、僕は大会を開催したいわけではないですし、こういう仕組みでやってほしいという気持ちはありません。大会をより楽しむためにやってほしいことはありますが。

岸:
それはどういったことですか?

Yossy:
今後ものすごく大切になると思うんですが、大会や選手の記録を残してほしいんです。

例えば、岸くんが選手としてプレイしていた『WarRock』。このゲームはサービス終了とともにほとんどの記録が失われてしまいました。でも、そうしたものが資料として残っていかないと、eSportsの歴史が分からなくなってしまうだけでなく、選手の実績も証明できなくなってしまいます。

多くのゲームで大会やシーンの記録が残っていないので、「日本初のプロゲーマー」が何人もいる状態になっちゃう(笑)。どんどん歪んだ歴史が蓄積されていくんです。だからこそ、eSportsの歴史を残す意味でも大会などの記録を残していってほしいんですね。

僕がNegitaku.orgを運営している理由の1つには、小さな大会であっても記録を残しておくことが大事だという考えがあります。ピンポイントで知りたい情報があるとき、検索したら自分の記事だけがヒットすることもありますから。

岸:
YouTubeにはジーコなどブラジルサッカー界のレジェンドたちのスーパープレイが動画として残っていますよね。いま見てもすばらしくて、こうした記録がレジェンドをレジェンドにしているのかなと。

Yossy:
スポーツはだいたい残っているのがすごいですね。eSportsでも同じようにできないかと思うんですが……海外にはLiquipediaというサイトがあって、世界中の大会の記録を残しています。日本の大会も、ここにしか情報がないものが多いですよ。これが歴史なんですよね。

例えば、NoppoさんはいまFPS界のレジェンドと呼ばれていますが、スーパープレイの動画が残っていなければそう呼ばれていなかったかもしれません(※2)。それはウメハラさんの「背水の逆転劇」も同じで、これを撮影して残した人がいたからこそ伝説として語り継がれてきたわけです(※3)。

映像や写真など、とにかく記録を残していくことが日本のこれからのeSportsにおいて大事なんじゃないかと思います。

僕が改めてそう思ったのは、最近Negitaku.orgをリニューアルしたからなんです。昔の記事を確認すると、本文に張ってある動画はなくなっていることが多かったんですよ。

※2
Noppoは『Counter-Strike』シリーズで世界大会に何度も出場した伝説的な元プロゲーマー。現在はNVIDIAのeSports部門に所属。対戦イベントなどで実力を披露することもある。
※3
「背水の逆転劇」はプロゲーマーのウメハラを一躍有名にした『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』のスーパープレイ動画。「Evolution Championship Series 2004」で行なわれたアメリカのレジェンドプレイヤーであるジャスティン・ウォンとの試合で、2005年にYouTubeにアップされた動画が拡散された(なおYouTubeのサービス開始は2005年)。

岸:
昔はYouTubeにアップロードする習慣もなかったですよね。フラグムービーを作ったら、ファイルをどこかのアップローダーに上げて、それを各自が落として見るという。アップローダーがなくなったら動画も消えちゃうと。

Yossy:
そうなんですよ、だからこそ記録を残すという目的も大事だと思うんです。あと、記録という意味では、僕は岸くんも歴史を残す仕事をしていると思っていますよ。

岸:
たしかにそうかもしれません。いままで考えたこともなかったので、その視点は新鮮に感じます。

Yossy:
岸くん自身もプレイヤーとしてeSportsの歴史を作ったわけですが、ただ、僕は昔の岸くんとは接点が少なくて、自分が撮った写真を見直しても岸くんの現役の頃のものが全然ないんです(笑)。これも記録がないということで、いまとなっては出場している大会をチェックしておけばよかったなと思います。



自分がeSportsを楽しむために更新している


岸:

記録を残すというある種の使命感がNegitaku.org運営のモチベーションになっているんですか?

Yossy:
というよりは、僕はeSportsやゲームを楽しむためにサイトを運営していると言えます。記事を更新するためにシーンを追っていくと、どんどん自分の中にストーリーができていくんですよ。前の大会ではこのチームが強かった、今回はどうか、みたいな。その積み重ねの有無で、大会や選手の見方は全然違ってきます。

1、2回でも大会を観戦できないと、いまどこのチームが強くて、どの選手が注目なのか分からなくなります。そうすると観戦の楽しみが減ってしまいますよね。それは僕以外でも起こりうるので、その穴を埋めるためにNegitaku.orgを見てもらえればと思っています。

岸:
Yossyさんがやっていることって、本当にYossyさんしかやっていないですよね。しかも16年近く続けていらっしゃる。いままで辞めようと思ったことはないんですか?

Yossy:
「今日は更新しないでおこう」という日はありますが、サイトを閉じようと思ったことはないですね。続けるための極意としては、歯磨きのように習慣化することでしょうか。最近やっているウエイトトレーニングもそうなんですが、生活の一部になっているので辞める辞めないの話ではないんです。

岸:
習慣にするためにはエネルギーが必要だったと思うんですが、最初はどういう心持ちで取り組んでいたんですか?

Yossy:
気になるから、楽しいからというのがやっぱり大きいですね。朝起きて、興味があるニュースを拾うことを繰り返してきました。

岸:
アクセス数は気になりますか?

Yossy:
初期は気にしていて、一番多かったのは2005年から2009年の間。『Counter-Strike』が日本で一番人気があった頃で、一時期100万PVを達成しました。でも、そこから大きく伸びることはなく、「まあこれくらいが上限なのかな」とそこからは気にすることがなくなりましたね。

いまはあのときよりだいぶ落ち着いて、でも毎月少しずつ増えているという感じですが、数字を見ていても面白くありません。PVを稼ぐために更新してもしょうがないです。

岸:
当時はサイトにプレイヤーがアカウントを作って、デバイスやその設定まで登録できましたよね。トッププレイヤーはそれをするのが当たり前でした。リニューアルしてその機能はなくなりましたが、変わらず多くの人が見ているというのはすごいと思います。

ただ、若い人はあまりNegitaku.orgを知らないのではとも感じています。Yossyさん自身は読者層についてどう考えていますか?

Yossy:
正直あんまり分かりません。直接感想をもらうことは滅多にないですし……。

岸:
そうなんですね。でも、誰もが思っていると思うんですが、eSports業界で絶対死んじゃいけない人はYossyさんとスイニャンさんなんですよ。

Yossy:
スイニャンさんがいなくなったらまずいですね(笑)。

岸:
Yossyさんもです。できれば複数人いてほしい(笑)。そう思うのは、やはりYossyさんの立場で活動されている方があまりいないからなんです。Yossyさん自身はこれからどうしていきたいですか? あるいは、Negitaku.orgの理想像ってありますか?

Yossy:
サイトはライフワークとして続けていきたいというくらいです。1000万PVにしたいといった気持ちも、サイトを通して稼ぎたいという考えも特にありません。

岸:
サーバー費用などがかかると思いますが、そのへんはどうなんですか?

Yossy:
Google AdSense広告を入れていたのですが、突如ブロックされていまもそのままなんですよ。なぜかというと、プレイヤーがアカウントを登録できる機能があったとき、プロフィールアイコンにGoogleの規約に反する画像を登録している人がいたからです。それがGoogle AdSenseにとってアウトだったんです。

その画像のせいで収益のチャンスを何年も失ってきました。広告からの収益があったらもっと海外に取材に行けたかもとは思いますが……「まあいっか」と水に流しました(笑)。

だからというわけではないですが、サイトはお金のためではなく、僕が楽しむために都合がいい存在だと考えています。あと、将来自分の子供がゲームの大会に出場して、それを取り上げることができたら面白そうです。

岸:
お子さんは『Fortnite』をやっているそうですね。

Yossy:
それもありますが、いまはYouTubeにめちゃくちゃハマっています。たくっちさんの動画が大好きみたいで、「この人を応援したいからお父さんも観てほしい」と言われるんです(※4)。これって僕が好きなゲームを人にお勧めするのと同じで、受け継がれているんだなと(笑)。

eSportsをやりたいと思うかは分かりませんが、ゲームに興味を持ってくれるのは嬉しいですね。僕自身、ゲームがなかったらここにはいませんし、仕事すらなかったかもしれませんから。

※4
たくっちはYouTubeで『Minecraft』などのゆっくり実況動画(テキスト読み上げソフトを使用した動画)をアップしているUUUM所属のクリエイター。



もう1つの楽しみ方を見つけてほしい


岸:

僕としてはそんなYossyさんのことを若い人にもっと知ってほしくて、今回対談をお願いしたんです。せっかくなんで、自分のメディアで語れないことをここでは語ってほしいですね。

Yossy:
なるほど、なんで僕なのかは訊きたかったんです。で、僕も岸くんに質問を用意してきました。最近YouTubeで始めたラジオバラエティ番組の「岸大河・OooDaのスタングレネード」。昨日もこれを聴きながら記事を更新していたんですが、始めたきっかけは何だったんですか?

岸:
もともとラジオをやりたいと思っていたら、作ってみたいという人がちょうどいたんですね。相方はOooDaさんしかいないと思って、あっという間に収録が始まりました。制作周りはプロの人が手伝ってくれているんですが、全員が手弁当です。みんなで楽しんでやっていますね。

Yossy:
好きで集まってやるというのはいいですよね。

岸:
自分たちが発言する場がなかったので、「大会をこうしてほしい」「イベントはこうあったらいいな」「この人を取り上げてみたい」「このニュースどう思う?」みたいなことをリスナーに提案してみたかったんです。

Yossy:
けっこう突っ込むなぁと思いながら聴いています(笑)。カットが入るのも面白い。

岸:
実は意外とカットしていないんですよ。話が長くなりすぎたときや、ちょっと特定の人や企業に迷惑がかかるかなと感じられるところくらいで。

僕らもYossyさんと同じで、楽しむためにやっているというのが本音ですね。こういう形で、自分から何かを仕掛けていくのは大事だと思います。特にキャスターはそうかも知れませんが、ゲーム会社や大会主催者に頼りきりになっているんです。そこを変えていければいいなと。

Yossy:
eSportsを楽しんでいる人って観ているだけのことが多いと思うんですが、もう少し関わってみようと行動をするともっと楽しめるんじゃないですかね? 僕はNegitaku.orgだし、岸くんはキャスターや自分の番組です。イラストでもいいし、感想をツイートするだけでもいい。いまとは違う、もう1つの楽しみ方を見つけてほしいですね。

岸:
ツイートとかイラストとか、そういうことが選手には大きなモチベーションになるんですよ。僕もそうです。

Yossy:
ある意味で自分を客観的に見るきっかけにもなりますからね。例えば、僕自身は大会のレポートを特に何も意識せず書いていても、誰かに切り口や語り口を分析されると、それを意識してもっとよくしたいなと思うようになりますし。

岸:
僕はYossyさんの書かれるレポートが好きですね。ほかのメディアにない、自分に刺さってくる内容なんです。選手の視点や声にぐっと踏み込んでいて、好きだからこその深みがあると感じます。

それに対して、多くのゲームメディアは突っ込んだ書き方をしないですよね。公式サイトと配信を観ていれば書けてしまうと言いますか。

Yossy:
そこは難しいところでもあります。さっき話した記録の面では、やっぱりそういうレポートも絶対に必要なんです。それに、僕はそうしたきっちり情報を押さえた記事を作れません。それを大手のゲームメディアがやってくれるからこそ、僕は自分の好きなように書けるんです。

――横からちょっとうかがいたいんですが、Yossyさんが取り上げるネタの基準って何なのでしょうか。

Yossy:
基本的には自分が好きなことで、あまりほかのメディアが取り上げないことや、商業メディアでは記事にならないけどコミュニティにとっては重要なことなどですね。

逆に取り上げづらい例としては、デバイスメーカーからの「デバイスが発売します」「1680万色に光ります」「クリック耐久性が3000万回あります、以上」といったプレスリリースなどです。ほかにも、プレスリリースで「eSports」と謳っている場合でも、自分が「これはちょっと違うな」と感じたら載せないという判断をすることが多いです。

僕は趣味に使えるわずかな時間で更新しているので、ほかのメディアに掲載されそうなネタや、情熱が感じられないプレスリリースは取り上げる余裕がないんですね。コピペすればすぐ記事にはできますが、やっぱり取り組んでいる人たちの想いの強さは重視しています。PVのために掲載しても、読者に満足してもらえるものを提示できないと思いますし。

――今回、Yossyさんとお会いできると聞いてどうしても尋ねたかったんですが、なぜNegitaku.orgでPENTAGRAMやDaraさんの件を取り上げたんですか?(※5)

※5
League of Legends Japan League」に出場しているPENTAGRAMがかつての所属選手であるDaraの在留カードを取り上げた問題。Negitaku.orgでは問題が公表された2月と、Daraが引退発表をした5月に個別の記事を掲載。さらに5月末のSummer Splitの告知ニュース内でも取り上げている。

Yossy:
この件だからという理由はないんですが、「なんかおかしくない?」と感じることは取り上げたいと思っています。過去にも議論が起きた問題は掲載してきました。そのせいで界隈の方から煙たがられているかもしれませんが、広く伝えるべきことは伝えないといけないと考えていますね。

岸:
普通に生きていたら起きえないことでしたからね。

Yossy:
国内のeSportsシーンは発展途上ということもあり、これまでも多くの問題が起きてきました。情報は持っていても書けないネタはいっぱいあります。ただ、そんな中でも取り上げるのは、業界がもっとよくなってほしいという気持ちがあるからこそです。クリーンにやってほしいんですよ。

岸:
クリーンeSports、すばらしいですね。Yossyさんはシーンをよくするために誰にどうしてほしいと思っていますか? メディアから見て選手やキャスターにどうしてほしいか、などあれば教えてもらいたいです。

Yossy:
そうですね……選手に対して思うことはあります。大会で縮こまっていたり、下を向いてしまっていたりする選手が多いですよね。慣れていなくて恥ずかしいかもしれませんが、せっかくオフラインの大会に出場するくらいの実力があるなら、自分をアピールする方法を考えてもらいたいです。

僕は写真を撮る立場なので、やはり自信にあふれている選手、目立つ選手は撮影しやすいし写真映えします。あと、自分で動画を作ったり配信をしたりするのもいいんですが、ゲームメディアで取り上げられる工夫もしてみてほしいです。SNSで暴言を吐いたり、アニメのアイコンを使ったりしている場合ではないですね。海外のトッププロでもそういう人がいたりするのが現状ですが(笑)。

岸:
SNSのアイコンはありがちですね(笑)。特にプロを称するならチームなどで撮影してもらったものがあるはずですから、それを使うべきです。僕らや視聴者からすると、SNSのアイコンが選手自身の顔じゃないと、名前と顔がなかなか一致しません。ファンを作るならそこが大事です。

Yossy:
オンライン大会だと優勝しても顔が出ませんし、オフライン大会は滅多にない。しかも勝ち進まないと会場に行けないわけです。顔が分からないと応援しようがないですよね。

岸:
僕も顔を知っていれば会場でも声をかけやすいですし、メディアの人からしてもそうですよね。



プロゲーマーかキャスターか


Yossy:

そういえばもう1つ、僕から質問したいことがあります。岸くんがプロゲーマーではなくキャスターになったのはなぜなんですか? 『スペシャルフォース2』でアジアチャンピオンになる実力がありながら、その道に進まなかった理由が気になります。

いくつかインタビューを読むと、自分が目立つのではなくうまい選手を引き立たせたり、魅力を引き出したりする実況をしたいと言っていますよね。一番目立つ選手というポジションだったのに、そう考えるようになったきっかけは何だったんですか?

岸:
そもそも実況をやり始めたのは、FPSを中心に実況をされていたyukishiroさんという方の影響です(※6)。初めて実況したのは『WarRock』の大会でした。その時点ではキャスターを仕事にしようとは思っていなくて、プレイヤーとしていろんなタイトルをプレイし続けていました。

昔からプロゲーマーという職業があるのは知っていて、実は2008年頃に「なりたい」と考えてはいたんです。ですが、当時『WarRock』の大会で優勝しても何も変わらなかったんですよ。もっと自分に人気が出ると思ったし、もっといろんな人と交流できるようになったり、モテたりするのかなと思っていたのに。だから、プロゲーマーになってもしょうがないんじゃないかと。

あと、多少ゲームがうまいだけで海外に行くツテはないし、これ以上努力してもプロゲーマーとして食べていくのは難しいと感じました。ただ、もっと自分の価値を高めたかったし、ゲームを通してさまざまな経験をしたいとは思っていたんです。そんなときに実況に出会って、実況なら仕事もあるし、しかも楽しかったので、この道もいいなと思い始めたわけです。

で、2013年くらいから『World of Tanks』などのキャスターの仕事が増えてきて、当時プレイしていた『スペシャルフォース2』と両立するのが難しくなってきたんですね。そこで決心して、2014年にフリーとしてゲームキャスター業を始めることにしました。

2014年の仕事を思い出すと恥ずかしいんですが、まだまだエゴが出ていたと思います。『スペシャルフォース2』の実況をしていても出場選手より僕のほうがうまかったので、「なんでこんなプレイをするの?」みたいな目で見ちゃうんです。

自分ではキャスターとして実力を上げたいと考える中で、改善点を探していきました。その中で、自分はあくまで過去の選手で、キャスターとしては目の前の選手を引き立てないといけないと思うようになっていったんです。

※6
yukishiroは『CROSSFIRE』でVaultというゲーミングチームに所属していた元プロゲーマーで、ゲームキャスターとしても活躍。

Yossy:
時期的に重なるか分かりませんが、岸くんの実況が劇的によくなったなと感じたのは、2016年に開催された「RAGE Vol.2」の『Vainglory』で聞いたときでした。解説者の言葉は専門用語が多く、僕にはちょっと難しかったんですが、それを岸くんがうまい具合に言いかえて話していたんです。視聴者を意識してやっていることを実感しました。

岸:
僕は基本的にはクライアントの意向に沿う形で実況しています。「現役のプレイヤーに向けて」と言われればそうしますし、「初心者に向けて」と言われればそうします。「RAGE Vol.2」のときは「できるだけ多くの人が楽しめるように」という意向だったので、なるべく噛み砕いて伝えるようにしましたね。あと、当時のプレイヤーはまだジャンルとしてのMOBAを知らないプレイヤーが多かったので、MOBA用語を使っても分かりにくいかと考えたんです。

Yossy:
岸くんの実況は分かりやすくて丁寧という印象があります。クライアント側も信頼していることが伝わってきますよね。そんな中でライバルと考えている人はいますか?

岸:
ゲームキャスターというとプレイヤー出身が多いイメージがあるかもしれませんが、最近は放送局のアナウンサーが大会の実況をすることもあるんです。その中でも朝日放送テレビ出身の平岩康佑さんはゲームキャスターに新しい風を吹かせたと思っています。

先日の「RAGE Shadowverse Dawnbreak, Nightedge」でその実況を聞いて……10秒でその実力を痛感しました。平岩さんはFPSやカードゲームが好きで日頃から接しているそうですが、それでもプロのアナウンサーは最初からこのクオリティが出せるんだと。平岩さんの実況はものすごく刺激になりました。

『eSports Revolution』という朝日放送テレビのTV番組に出演したのもいい経験になりましたね。漫才コンビ・ますだおかだの増田さんがMCだったんですが、収録中はもちろん、現場入りした瞬間からもう僕とは違うんです。

特に印象に残っているのが、本番前のあいさつです。わざわざ僕のところに来られて、「よろしくお願いします、今日はお任せします」とはるかに年下で経験も浅い僕に対して深々とお辞儀をしてくださったんです。僕も現場入りしたときは関係者の皆さんにあいさつをしますが、本当にただのあいさつで、増田さんのあいさつと比べてすごく軽かったなと思わされました。

平岩さんや増田さんと比べたら、自分はまだまだです。Yossyさんにそう言っていただけるのは嬉しい半面、もっと実力をつけたいと思いますね。

Yossy:
なるほど、周りから見ればすごくても、本人にとってはまだ足りない部分が多いと。でも、Twitterを見ていると毎日何かしらゲームをしていて、『Clash Royale』なんて何千試合もプレイしているそうじゃないですか。そういう姿が信頼に繋がっていると思いますよ。実際、実況するタイトルってどれくらいプレイしているんですか?

岸:
プレイするのもそうですが、人に聞いたり、情報サイトや動画を見たりもしています。どのタイトルでも合計60時間くらい接すると、脳で考えたことがそのまま口から出ていく感じになりますね。それ以下だと「あれ、何だったっけ」と詰まってしまいます。100時間も注げば自然と実況できるようになるので、継続して実況する機会のあるタイトルはそれくらい接しています。

あと、これは僕の特技というか能力というか、どんなタイトルでも中級者レベルにはすぐなれます。どういうふうに上達すればいいのかが分かるので、スタートダッシュが効きやすいんです。

Yossy:
それは岸くんの特殊能力と言えますね。

岸:
ただ、4月に開催された「コール オブ デューティ ワールドウォーII プロ対抗戦」第1回での解説はきつかった。「全国大学生対抗戦」では実況を務めているんですが、実況と解説で必要とされるゲーム理解度は全然違います。しかも解説は初めてで、充分な知識があるとは言えませんでした。

ただ、時間が足りない中でもプレイして、海外大会の動画を観て、自分でメタの仮説を立てて現役プレイヤーに答え合わせをしてもらうということを繰り返しました。FPSは試合中に解説を挟む時間が少ないので、本番では短く濃く伝えるよう意識していましたね。

それと、解説に臨むにあたって眼鏡をかけました。心理学ではハロー効果と言われますが、眼鏡をかけていることで知的に見られやすいんです。そうした見た目と、データを披露すること、そして声のトーンを少し抑えることで解説者らしさを出そうとしました。

Yossy:
ゲームキャスターで見た目や印象、言葉の受け止められ方まで意識している人は多くないかもしれませんね。そういう工夫が聞けて嬉しいです(笑)。

継続は最も簡単に評価を得られる方法


――最後に質問させてください。よくゲームキャスターが足りないと言われますが、YossyさんのようにeSportsシーンを書いて伝える人も足りないと言われています。それは商業メディアであれ個人ブログであれ同様です。そこでぜひ、これからYossyさんのようになりたいと考えている人にアドバイスをいただけませんか?

Yossy:
僕も最初は日記程度の意識で始めました。自分用のメモですね。当時は自分でサーバーを借りてサイトを一から作らなければなりませんでしたが、いまは無料のブログサービスがありますし、記事の更新もスマホでできます。高画質な写真もスマホで撮影できます。誰にとっても気軽に更新できる環境が整っていますよね。

なので、大会を観戦しに行ったら「こう思った」くらいでいいので気楽に感想を書いてみるといいと思います。それを続けていくと、「あの人、けっこう詳しそうだから話を聞いてみようかな、仕事を頼んでみようかな」と認識されるようになるんじゃないでしょうか。

岸:
個人でブログやメディアを作ったとして、大会やイベントの取材に行きたいとなったらどうしたらいいんでしょうか。主催者に取材を申し込めばいいんですかね?

Yossy:
僕は特殊なケースなんですよ。長らくサイトを運営しているので、たいていの大会は知り合いが主催側や運営側にいます。そういった繋がりで取材に呼んでもらえることが多いですね。。個人メディアなので取材ブースにいるのはちょっと肩身が狭いんですが、そういう機会は活用させてもらっています。

そうした繋がりがない場合でも、興味がある大会には「個人サイトですが、2002年からシーンを追っていてこういう記事を書いています」というように説明を添えて取材をお願いしています。

ただ一般論を言うと、取材してほしい側からすれば、来てもらいたいのは専門性があったり長く継続していたりなど、人気や信頼のある人です。大会に採用されているタイトルの詳しい考察や大会の感想などを継続的に書いている人なら、個人メディアであっても取材に来てほしいはず。でも、それが最低条件なので、ブログを始めたてでまだ全然更新していない人から取材希望が来てもお断りされてしまうと思いますが。

実績がないと活動の幅は広がりません。例えば、ゲームキャスターになりたいと言っている人が自分でまったく配信をしていなかったらどう思いますか?

岸:
ない、ですね(笑)。

Yossy:
そういうのってありがちじゃないですか(笑)。なので、最初は注目もされないかもしれませんが、小さいところから始めるのが一番。そして継続することです。

岸:
習慣化することが大事と。最初の話に繋がりますね。

Yossy:
継続は最も簡単に評価を得られる方法です。個人メディアを「16年やっています」と言われると、何かそこに重みのようなものを感じるじゃないですか。

キャスターにしても、個人配信であれ「100個の大会を実況した」と言えばすごみがあります。数を積み重ねるには続ければいいだけなので、誰でもできますよね。その中で実力も磨かれますし。

岸:
そのとおりだと思います。僕もいまの仕事をYossyさんより長く続けたいです(笑)。



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