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ガラスのハートだからこそ「視聴者ファースト」を忘れない【eスポーツキャスター OooDa氏インタビュー 後編】

10年以上のキャリアを誇るeスポーツキャスター・OooDa氏インタビュー。ゲームと出会った思い出やeスポーツ業界に飛び込んだきっかけを伺うインタビュー。

今回のインタビュー後編では、コロナ禍におけるeスポーツ業界の変化をはじめ、キャスター業の魅力やキャスター志望者へのアドバイス、そして氏が語った今後の展望についてお届けする。



コロナ禍で変容した世界、それでもeスポーツ界隈は「リカバリーが早かった」


――2020年初頭から業界を問わずコロナ禍の影響が続いていますが、OooDaさん自身の活動に支障はありましたか?

OooDa:キツかった人はキツかったと思うけど、ゲーム業界の一部はリカバリーが早かったと思います。もちろん、コロナの影響で無くなった仕事はたくさんありますけど、その分オフライン形式からオンラインに場を移すことで切り替えることもできたので。だから仕事が本当に減ったのは2020年4月から1カ月ぐらい、その後は多少なりともスケジュールは埋まっていました。ただ、経済的な苦しさはそこまで感じなかったけど、お客さんと一緒に楽しめるオフラインイベントを開けなくなったのは痛手でしたよね。

――オンラインイベントが多くなったことで、実況時の伝え方に変化は生まれましたか?

OooDa:自宅からの配信は改めて難しいと思いました。リモート配信は機材もそうだし、声質や声の出し方もオフライン会場で培ったものとだいぶ変わってくる。「家からだったらこんな風に聞こえちゃうんだ」ということを学びました。でも業界のリカバリー自体は早かった方だし、eスポーツ関連の視聴者(配信など)は間違いなく伸びましたね。

――確かに視聴者は増えましたよね。個人的には「ファンの方々はこの1年間オンラインイベントのみで耐えられたのだろうか」という疑問もあります。

OooDa:これからオフラインイベントを開催できるような状況になれば、今まで以上の爆発を見せるんじゃないでしょうか。例えば僕も担当している『VALORANT』の競技シーンもオンライン形式で育ってきたので、観客を動員できるオフラインイベントがあれば今まで以上に熱気を帯びると思います。試合を間近で応援できる観客を含め、選手たちも魂が震えるはず。だから早くそういった環境に戻って欲しいですね。



とにかく「視聴者ファースト」を重要視する意義とは


――改めてお伺いしたいのですが、eスポーツキャスター業の魅力は何でしょうか?

OooDa:やっぱりうれしいのは「お客さんや視聴者から良い感想をもらえるとき」です。試合後に「良い大会だったね」だったり、別の現場で「あの時の試合盛り上がっていたね」と言ってもらえたりすると、うれしくなる。自己評価は高いほうではないけれど、その熱い大会の一部分になれたと思うとテンションも上がりますよね(笑)。

あとは試合後のアーカイブやリプレイを見た際、「選手たちのベストプレイに自分の実況がつき、それを見たお客さんが喜んでくれている」……という風に、上手くマッチしている瞬間がとにかく気持ち良い。その上で選手たちの表情がお客さんへ明確に伝わればうれしいです。

――試合を実況する際にもっとも心がけていることは何でしょうか?

OooDa:昔は試合に出場するチームや選手の経歴、チーム同士の因縁などの背景を詰め込んで解説していましたが、最近はあまり重視していないです。今は各チームの発信力も高まっているし、選手一人ひとりのフォロワーも大勢いる。だったら僕のやるべきことって、「実況時にお客さんを不快な気持ちにさせない」ことだと思っていて。イベントの一体感を損なわないためにも、とにかくフレーズや言い回しに細心の注意を払っています。

例えば『PUBG』だと車で相手を倒すことができるのですが、その際に「車で相手を跳ね飛ばしました」と言うのか、それとも「車でワンキル取りました」または「車で相手を倒した!」に変えるのか、そのあたりの言い回しをチェックします。加えて「大会ごとの雰囲気」も見ますし、現場の空気に合わせて実況のスタンスをガラッと変えることもあります。



――今は何よりも「視聴者ファースト」を考えているのですね。

OooDa:そうですね、第一に視聴者の目線を重視しています。僕よりも発信力に優れた選手やチームがたくさん目立っているし、わざわざ歴史を語るフェーズは終わったのかなと。まあ他の競技シーンでも言えることですよね。野球でも大谷翔平さんやイチローさんはもはや説明不要じゃないですか。あの感覚に似ていると思います。

――10年以上にわたって競技シーンを支えてきた中で、大変だった瞬間や苦労したエピソードがあれば教えてください。

OooDa:苦労は……ないですね。強いて言えば「朝の現場がつらい」ぐらいで、苦労や嫌だって思ったことは無いです。もちろんキャスター業を通して失敗もたくさん経験しましたけど、だからといって苦にはならないですよ。でもプレッシャーは常に感じていて。仕事をこなすたびに自分で点数をつけているのですが、その数字を自分なりに意識し過ぎて引きずることは多々あります。だから多分ハートが弱いんでしょうね(笑)。

そこを気にせずに割り切って仕事ができる人を羨ましく思いますけど、僕自身は「完璧だ!」と感じたことは無いかもしれません。だからファンの方々から激励のメッセージを頂いたときは、その思いを真剣に受け止めて返事を送ったりもします。

――eスポーツキャスター業を続けるうえで、特定の誰かやモデルケースを参考にすることはありますか?

OooDa:基本的に僕なりの考えで実況をしているので、何かを参考にすることはないですね。ただ、eスポーツの試合を実況する時は「エンタメ風に見せる努力」をしています。

ゲームはリアルスポーツと違い、モニター内で起こっている非現実世界の出来事を皆さんに見てもらうじゃないですか。なので淡々と伝えるよりかは、僕自身も楽しんでエンタメチックに見せるほうが盛り上がりやすいと思うんです。バランスで言えばゲーム実況者とアナウンサーのあいだぐらい、その絶妙な位置を意識してポジショニングしています。

eスポーツキャスター業に正解は無いけれど、僕は今のスタイルが楽しいし性に合っている。それでいてお客さんも一体となって盛り上がってくれている。だから今のところは変えずに頑張っていますね。

「リズムゲーム」がもたらす一体感に驚嘆


――では試合を実況する前の下準備やルーティーンについて教えてください。

OooDa:各タイトルで共通しているのは「選手名の確認」(読み方含む)と「各チームにおける選手の移籍情報」。あとは直近の「アップデート状況」を踏まえつつ、大会に影響しそうな要素をピックアップしておさらいします。もっと余裕があれば選手のTwitterや配信まで追いかけます。そのほかはタイトルごとに臨機応変に動く……という感じです。

――OooDaさんは担当タイトルが多いので下準備も相当な労力がかかっているのではないでしょうか。

OooDa:確かにそうですけど、1つのタイトルでご飯を食べていける専属キャスターの方々も羨ましいです。1年間しっかりキャスター陣が決まっているゲームって、見ている人も安心するだろうし、雇っている側も安心するでしょうし、選手たちのドラマをしっかり追いつつ、そこに信頼関係も生まれます。もちろんキャスターとしてもポジションが守られるからいろんな面でプラスになるはずです。

僕は逆に、キャスターで食べていくためにいろんなタイトルを追いかけるようになりましたが、今は結果的にすごく充実しています。新しいコミュニティに立ち会えたり、毎日が刺激で溢れていたり。スケジュール等でやむを得ずお断りする場合を除き、基本的にはマルチに活動したい派ですね。

――さまざまなゲームタイトルの競技シーンに立ち会っていますが、直近で印象深いイベントはありましたか?

OooDa:自分も感動したし、周りの人にも事あるごとに言っているのは「東京eスポーツフェスタ」(都が主催するイベント)で開催された『太鼓の達人』の決勝戦。小学校低学年の子たちが壇上に上がり、めちゃくちゃ難しい課題曲に物怖じせず、ドドドドッてリズムよく筐体を叩いていたんです。都フェスの一大イベントだからお客さんも老若男女がそろっている。若者はもちろん、親御さんやスーツ姿のおじさんたちも大会の様子を見守っているわけです。それでいて課題曲も「前前前世」などの有名楽曲が多いからみんな耳馴染みがある。そして小学生がプレッシャーに負けず、必死に画面を見ながら戦っている。音楽と太鼓って本当に人の心を動かすと感じましたね。あの一体感には驚きました。「こんな世界があるのか!」と。他のゲーム大会ではなかなか見ない光景でしたね。



FPSMOBAもそうですけど、基本的にeスポーツタイトルってルールを把握しないと観戦も難しい側面があるじゃないですか。その点、リズムゲームの分かりやすさは一種の強みですよ。

eスポーツキャスターは試練の連続、「コミュニティを盛り上げたい熱意」を持てるかどうか


――これからeスポーツキャスターになりたい若い人に向けてアドバイスはありますか?

OooDa:まずは自分が好きなタイトルの競技シーンに関わってみて、「自分がこのコミュニティを盛り上げたい!」と思えるところがスタートではないでしょうか。僕も最初の3~4年は『カウンターストライク』シリーズが大好きだったし、他のタイトルにプレイヤーが流れていくのを嫉妬するぐらい、ずっと無給で関わり続けてたまたま仕事になった……という経緯があるので、やっぱり熱意は大事ですよね。今は自然とマルチに活動できていますけど、最初の取っ掛かりは大好きなタイトルにがっつりのめり込んで欲しい。そこから仕事へ繋がると思うし、数をこなすうちにいろいろな事情が見えるようになると思います。

――「まずは王道ルートでコミュニティの盛り上げに寄与して欲しい」ということでしょうか。

OooDa:いろんなことに当てはまりますけど、やっぱり始めた当初って気持ちがたくさん乗っているじゃないですか。自分が好きだからできることだし、多少尖っててもいいから初心を忘れずに貫き通して欲しい。

……ただですね、eスポーツキャスターは止めたほうがいいです! 「アドバイスが欲しい」と聞かれた際にいつも答えていますが、「熱意が大事」とか言ったあとに「でもキツい業界だから止めたほうがいいよ」って絶対に言います。もし自分に子どもが生まれたとしても「止めろ」って言います。


まあ、そうはいっても本当に興味がある人はやると思いますけどね(笑)。現在も社会人として働きつつ、コミュニティ大会の実況をボランティアでやっている人も多い。その方たちに負けず、熱量を出してほしいですね!

その代わり、給料や報酬面では本当に夢のある業界ですし、今は生活で苦しむことも少ないはずです。上手く仕事を回せばeスポーツキャスター業だけで十二分に食べていけるので、若い人たちにはいっぱいビッグマネーを掴んで欲しいですね。

eスポーツキャスターの次は「OooDaのたこ焼き屋」を開きたい


――すでにeスポーツキャスターとして一定以上の実績を残されていますが、「可能性を広げたい」という意味で気になっていることはありますか?

OooDa:自分のYouTubeチャンネルでもっと動画コンテンツを充実させたいです。だけど昔から自分をアピールするのが本当に苦手で。今でもeスポーツキャスターは大会を盛り上げる一部というかパーツというか、そういう認識でやっています。

もちろん動画を出したことが無いわけではなく、7年ぐらい前にゲーム実況者やストリーマーみたいなこともしていたんですよ。でも、「どうもOooDaです!  今日は○○をやってみたいと思います!」みたいなテンションで喋るのがすごく恥ずかしい。仮に何かの番組でOooDa特集みたいな企画があったら出るのも難しいですね(笑)。


なので、動画を出すなら誰かを主体として作りたいです。例えばいろんな選手を呼んでインタビューをするチャンネルはいつかやってみたいと考えています。あくまで僕ではなく、選手にフォーカスするつもりです。

――現場で戦い続けるプロゲーマーにフォーカスした番組、見てみたいです。現状はフリーで活動されていますが、ここから事務所に入る or 設立するといった方向は考えていますか?

OooDa:じつは……いろいろ迷っているんですよ。誰かを雇って事務所を立てるべきなのか、それとも自分が事務所に入ったほうが良いのか。でも誰かの分まで人生を背負うのは気が引けるし……といった具合に。以前の会社もそうでしたけど、僕は2番手~3番手でいるのが一番楽だったりするから、誰かを引っ張っていくのは気持ち的に難しい。だったら雇うのではなく、「横並びで頑張ればいいのかな?」なんて風に考えたりもしますね。

あとは先ほどのとおり、競技シーンの選手を知ってもらえて、なおかつ僕も知ってもらえるような環境作りは本気で取り組んでみたいです。話を少し戻しますけど、eスポーツ業界が成長しているとはいっても、やっぱり日の目を見ないで引退していく選手や結果が振るわずに活動を止めてしまう選手もたくさんいます。だからこそ、そういった方々にスポットライトが当たったり、別の角度から皆さんに知ってもらえるような環境を作ったりしても良いんじゃないかと思っているんです。

当然、「数字で選手の人気を可視化するのはどうなんだ?」とか、「動画の再生数に偏りが出ると選手やチームに迷惑がかかるのでは?」といった問題もあるし、考え出すと止まらなくなります。だけど、そのハードルを乗り越えてでもやる意義は絶対にある。実況時と同じく、お客さん目線を考慮しつつ、トライしてみたい課題です。

――5~10年後に「こうなっていて欲しい!」と思える理想像はありますか?

OooDa:うーん……認知が増えればうれしいですけど、現状は今のままで大丈夫かな。「こういう人間でありたい」という理想像は特に無いです。5年後、10年後も仕事を続けていればそれで良いし、自分というよりはeスポーツ業界と周りの人たちが元気に過ごせていれば一番かなと。みんな元気に生き残ってもらいたいです。


――とことんeスポーツキャスターとして業界に骨を埋める覚悟なんですね。

OooDa:それもそうですが、じつは1個だけチャレンジしたいことがありました! たこ焼き屋です。早めにお金を貯めて人生をゴールできたら、地元密着型のたこ焼き屋をやりたいんです。その名も「OooDaのたこ焼き」。Webカメラを回しながらたこ焼きを作って、その模様をTwitchかYoutubeで配信したい(笑)。関東圏に一軒家を借りて、その1階をお店に改築してご近所にたこ焼きを振る舞いたい。だから人間的な理想像は無いけど、家計の心配をせずにたこ焼き屋を開けるぐらいまでお金を貯めたいです。

――たこ焼き屋を始めたいというのは意外でした(笑)。では最後にファンの方々へメッセージをお願いします。

OooDa:今までと変わらず、さまざまなタイトルの競技シーンに寄り添って実況を頑張りますので、引き続き応援いただけますと幸いです。そして僕自身ガラスのハートですので、そのゲームタイトルを嫌いになったとしても、僕のことはどうか嫌いにならないでください!

――そこは普通逆じゃないですか(笑)。本日はお忙しい中ありがとうございました!

OooDa Twitter
https://twitter.com/OooDa
OooDa Twitchチャンネル
https://www.twitch.tv/oooda?lang=ja
Youtube OooDaチャンネル
https://www.youtube.com/c/OooDa%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%8D%E3%83%AB

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