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eSportsキャスターはどこから来て、どこへ行くのか。『LoL』キャスターkatsudion氏に聞く【後編】
インタビュアー●山口佐和子
写真撮影●岡野繁弘、山口佐和子
インタビュー前編に続き、この後編では『LoL』キャスターとしてのkatsudion氏のキャリアに焦点を当てる。eyes氏に続く「2人目」の存在として現れたkatsudion氏。2人目になる道ができたということは、3人目も4人目もいけるのではないだろうか。彼がたどってきた道のりと現状、そして未来への希望を聞いた。
キャスターを志すまで
──さっそくなんですが、katsudionさんがキャスト(実況)を始めたきっかけとか経緯とか、どんな感じだったんでしょう?katsudion:一番初めは、7年前か。どっちが先だったかちょっと忘れたんですけど、自分が大会を開いたときにやったのがきっかけか、それかオフラインイベントに参加して、前に出てわちゃくちゃ喋ったのがきっかけか、ですね。そのころは実況と呼べるものではないんですけどね。
──本格的にキャスターになろうっていう転機みたいなのはあったんですか?
katsudion:2015年の10月ぐらいに東京に出てきたんですよね。僕、岡山の電力会社で働いてまして。
eyesさんとはもともと同郷の友人でした。eyesさんが初めて東京に行くとき、僕もいっしょに新幹線で行きました。キャスターになる前の話です。今は先輩後輩になりましたけども。
eyesさんが東京に出ていってキャスターになった後、僕は普通にコミュニティ活動を進めていってました。「LJL」に行って遊んだり、オールナイトのゲームイベントに行って前に出て喋ったりというのをずっとやってましたね。それでいろいろあって、日本にライアットゲームズさんが来るのがきっかけになって、会社を辞めて東京に出てきました。最初はマイルストーンさん……JCGの運営元にお世話になりました。
初めは僕は、とにかく『LoL』っていうゲームを何が何でも日本で流行らせたかったんです。「こんな面白いもんはねえ!」と。16歳のころから、「遊んでゲームをする」=「チームを作って大会に出る」っていうのが僕のベースだったんですよね。それがドンピシャにはまって、プロシーンも最高だし、絶対に日本で流行らせたいっていうのがあって。最初はマイルストーンさんでいろんな仕事をさせてもらって、すごく勉強になったんですけど、自分が本当にしたいことがわかんなくなっちゃったんですよ。
で、悩んでる時に、友人に「お前が一番やりたいのは何なのか?」っていう話をされて、すごくいろいろ考えました。前々から自分は喋るのが好きで、ゲームについて東京と名古屋のイベントでオフライン実況っぽいこともしてたっていうのがあったんですよね。
あと、自分がスタッフをやってたJCGのイベントですね。目の前でJCGの『LoL』キャスター2人が実況している姿を見て、「僕だったらこんな風に話すな」とずっと考えていました。
──野心的でしたね。
katsudion:スタッフという立場だと、キャスターとして立てないのがとても悔しかったのを覚えています。それに、eyesさんとRevolさんが完全にいっぱいいっぱいだったんですよね。2人とも友だちなのでよく知っていたわけです。次の人が出てこないじゃないですか。
今後のことを考えれば、誰かがやらなきゃいけない、一歩を踏み出す必要がある、であれば自分が挑戦してみようかと思いました。
ただ、その時点で僕には実績と呼べるものが一切、何もなかったんです。なので、とにもかくにもやってみようと。仕事はお昼からの勤務だったので、だいたい終電くらいに終わるんです。終電で家に帰ってきたらEU LCS(ヨーロッパリーグ)が始まってるので、EU LCS配信をやって、日が変わった後にNA LCS(北米リーグ)配信もやって、2~3時間くらい寝て会社に出るみたいなのを、とりあえずやりまくりました。
コミュニティに認められないとキャスターって絶対にできないんですよ。それは僕自身がプレイヤーだからわかることで、ゲームを知らない人がそのゲームをキャストしても心に響かないことが多いんです。だからまず人の目につくところから始めよう、かつ練習もしようっていうので始めました。
一番いいきっかけになったのは、JCGさんのお仕事にあったIEMの大会配信でしたね。
このときは僕自身がキャスターを采配できたこともあり、キャスターの限界に挑戦してみようかなと思いまして。結局3日間全部ひとりでやりました。1回の放送がだいたい11時間から12時間くらいあるんですけど、全部ぶっ通しでやりました。今振り返ってみると本当に大変でした。
──勢いでやりきってしまうというのはありますよね。
katsudion:2日目がきつくて。ハードなスケジュールだったので睡眠のバランスを取る日程も設定できなくて、2日目は本当に眠くて、最後ずっと立ってやってました。
──IEMってスポット的な短期大会だから、2~3日で終わっちゃうんですよね。招待大会で、最初からブラケットだから。
katsudion:そうそう、だから、出るチームを全部調べたんですけども、間違ってたら怖かったから、調べたものをRevolさんに確認してもらったのを覚えてますね。で、「大丈夫だと思うよ」とOKをもらえたので、その選手情報を喋りながら大会試合の実況解説をやりました。
コミュニティに認められれば、オフィシャルになる道が開ける
──大人の事情的な話なんですけども、こうやってコミュニティに認められるために配信等で個人が野良のキャストをするときは、試合の映像をそのままミラーリングすることは権利的に禁止されていますよね?katsudion:はい、禁止されていると聞いています。
──そういった点に留意した上でコミュニティに認められると、オフィシャルとして人前でキャストができる?
katsudion:キャスターになろうと思ったから、そういう立ち振舞いをしたわけではないです。一番きっかけになったのが、結局は原点である7年前になってしまうんですけど、僕は『LoL』を始めたときにたまたまライアットゲームズ本社の方と友達になって、彼女にゲームを教えてもらったんです。彼女といっしょに、今はなくなってしまったんですけど、「Runeterra JP」っていうサイトをやってたんですよね。日本で『LoL』を流行らせたいからそういう活動をするわけです。
僕はそのときから自分の名前のアカウントもずっと継続して使ってます。ネットのアカウントであっても個人のつながりもあるし、僕が『LoL』を大好きだっていうのもあるんですけど、日本でのファン活動を支援してくれた彼女にものすごい恩を感じています。
「2人目」になるということ
──eyesさんの後の2人目になるってことについては、どんな感じだったんですか?katsudion:プレッシャーですね。
──さっきの話とちがいませんか?「俺だってやれる」と思っていたのでは?
katsudion:やっぱりやってみると全然できないんですよ。びっくりするくらいできなかった。実際にやってみると「俺って何にも知らなかったんだなあ」と。「何にもわかってなかったな、ただやってただけだったな」って思い知らされたので、これは大変だなと。
──そこから何をしました? 足りないものを埋めるために。
katsudion:正直、何をしていいかわからなかった。本当に。自分が今やってるのが正しいのかどうかもわかんなくて、僕も下手なもんだからなかなかeyesさんにも相談できなくて。
で、ひとつの形として出たのが、毎週配信で実況練習を始めたんですよね。あれも結局僕が何をしていいかわかんなくてワーワーやってるときに、スタッフさんから手助けをもらって、eyesさんに相談して、やってみるかっていう形になったので、全然僕からっていうのじゃなかったんですけど。
やっぱりそういうふうに、回数を重ねることが自信につながるんですよね。極論になってしまうんですけど、場数は本当に重要です。去年の感じだと、今年の感じになれるとは全く思ってませんでしたから。
──今でもプレッシャーって感じてます? 先輩が偉大であることの。
katsudion:どうだろう……。プレッシャーと言えばプレッシャーですけど、悪い意味ではないですね、今は。前はプレッシャーを感じすぎて、一歩腰が引けるくらいだったんですけども、そういう感じではなくなってきたのかな。足りない部分はあると思いますけど、キャスターって楽しんでやるっていうのがすごく大事なんですよね。
本番はもちろんですけど、そこに至るまでの過程とか、準備とか、いろんなものを含めて楽しんでやるっていうのがすごく大切なんです。けど、そういうのができるようになったのは最近、今期のCSくらいからですね。それまでは乗り切るのが精一杯という感じだったので。
プレッシャーはやっぱりつねに感じてはいます。今日の会場(インタビューは「LJL 2017 Summer Split Final」が行われた幕張メッセイベントホールにて)もそうですけど、どんどん周りが大きくなっていくので。でも、去年ほど「悪いプレッシャー」ではないのかなと思ってます。
LJL 2017 Summer Split Final閉会後のロビーで、ファンに囲まれるkatsudion氏
Challenger Series のレギュラーキャスターとして
──この夏の「LJL Challenger Series(CS)」はどうでしたか?新解説者Day1さんも入りましたが。katsudion:キャスター陣ってただ喋ってるだけじゃなくて、いろんな施策を考えたりしています。ゲーム内のことは自分たちが一番詳しいっていう自信があるので、もっとこうしたら見てる人に伝わるとか、選手のパーソナルが出るとか、かなり前の段階からすごく話し込むんですよね。
今期のCSでは僕も経験を積んできたので、だいぶそういう意識ができてきました。なので今回は、前々の段階から「もっとこうしたい」というのをたくさん考えて入ることができた。だからこそ「次はもっとこうしたいな」っていうのが出てくるようになったんですよね。
これってeyesさんが前々から言ってたことだったんですけど、当時の僕はわかんなかったんですよ。それがわかってきて実現できたっていうのが、今回ひとつ個人的に手応えがあったところです。
で、元プロゲーマーということで入ってきた新しい解説者のDay1さんなんですけども……まず僕がこれだけ言っておきたいのは、解説は変えたくて変えてるんじゃないんですよ!
──(笑)。相方を変えるのは本意ではないと。
katsudion:はい。諸事情によるものであって、別にCSがそういうコンセプトというわけではないです。
──最初の解説がLillebeltさんで、その次がBonziNさんと女性パーソナリティの堀内さんとでトライキャストになって。
katsudion:僕は毎回「次もいっしょにやりませんか」っていうのは必ず声はかけてます。間違いなく。毎回いろんな事情が相手にあって、振られ続けてるわけですけど、今回Day1さんが来てくれました。僕も1年やってきたので余裕ができてきて、初めて「教える」ってことをやったのが新鮮で難しいなと思いましたけど。
実況解説する上では毎回いろんなテーマを考えながらやってるんですが、「今日はこういうゴールにしたい」みたいなのを必ず考えてやってます。CSの解説を通して、選手のことはもちろんなんですけど、解説のDay1さんがコミュニティの人たち、見てる人たちに受け入れられるようにっていうのは常に考えてました。今日も彼の前に並んでくれるお客さんもいましたから、「ある程度は良くできたのかな?」と思ってます。
──私もCSの配信をちょこちょこ見てたんですけど、Day1さんはけっこう最初から解説が好評で、なかなかいい感じでスタートしてたので、個人的にも彼にはぜひ続けて欲しいですね。
katsudion:Revolさんとは毛色も違いますしね。選手ならではのものすごく細かい、本当に見過ごしてしまいそうな、大きな川の流れを見る中だったら別に知らなくていいようなところ、そこを拾ってあげることができるのが、彼のすごくいいところなんですよね。それをもっと伸ばしていってほしい、というのはありますし、すごくいい解説になるなと僕は思ってるんですよね。調子に乗ってもらうとよくないので、これカットで。
──ええ~~~載せましょうよ~~~!
katsudion:僕はこれまで、前の仕事から後輩を持ったことがなくて。難しいなあと思いながら、立場は違うけど後輩なのかな……と思いながらやってますね。ただ彼自身、選手か解説かっていう葛藤も今あるでしょうから、今日のファイナルがいいきっかけになればいいなと思ってます。
実況解説って多くのことを放送前に準備する必要があるんですけど、Day1さんには100%の力を発揮してほしかったので、LJLでRevolさんとeyesさんが分担してやっているようなことでも、可能な限り僕の方で吸い取ってました。
──彼の負担を肩代わりするだけでなくて、準備の内容を教えることにもなっていたのではないかと思いますよ。
LJLのインタビュアーとして
──katsudionさんはLJLの一部リーグのほうでインタビューを担当されてるんですけども、試合後のインタビューをするとき、心がけていることとかありますか?katsudion:僕はけっこういろんなテーマを持っています。僕だけが考えてるわけじゃなくて、キャスター陣のミーティングをしているということも、もちろんあります。
今年の春から、初めて全試合をオフラインでやることになりました。そこで、これまで一番出なかった部分である選手のパーソナルな部分を重点的に出そうと。
ゲーム内容は1つくらいに絞って、パーソナルな部分をどんどん出していこうという基本でインタビューを行いました。彼らの感情であったり、選手間のコミュニケーションだったりというところに、可能な限りフォーカスを置いて行ったんです。
夏は逆に、パーソナルなことは春にかなり出したから、今度は彼らのゲームの部分や技術の部分っていうのをどんどん出していくっていうのでやりました。だからなのか「コツディオン」って言われるようになって(一同笑い)。
──必ずプレイのコツを聞くからコツディオン。
katsudion:ゲームのことに触れようとしてただけなんですけどね。第3週あたりでコツを連発したのがよくなかったですね。
──こないだeyesさんがインタビューを交代したら、コツズとか言われてましたね。「この試合後のインタビューでは必ずコツを聞かなきゃいけないらしい」って(一同笑い)。
katsudion:プロモーションシリーズですね。ドヤ顔で言ってましたね。私の返答を待たずにパタンとドア閉めてたんで、ああやるんだろうなって(一同笑い)。
あとは、インタビューの中では割合っていうのをけっこう意識してはいるんですけど、その時に選手の感情の一番先っちょに来てるものはなんだろうっていうのは、考えながらインタビューしようとしてます。夏はゲームの展開について触れたかったので、場合によっては省くこともあるんですけども。
あと、今のプレイヤーオブザマッチってファン投票じゃないですか。だからこそ、プレイヤーオブザマッチに選ばれるプレイヤーもいるんですけど、選ばれた選手と同等もしくは彼以上に輝くプレイを見せていたなという選手に対して、僕が個人的に思うところもあったりしたら、そこを逆にそのプレイヤーに喋ってもらったり。そしたら、僕が思っているよりずっといい形で、チームメイトを紹介してくれたりというのもあるんですよね。
あとは、勝ったチームの勝利のインタビューなので、楽しく彼らが話せるようにということと、最後に笑顔になれるような質問をいつも投げかけようというのを常に模索してます。彼らの笑顔を見せたいんですよ、僕は。その時の試合の内容とか意味合いによってそこは変わってくると思うんですけど、ひとつは彼らの感情がにじみ出るような質問ができればいいなと思って、毎回できるわけじゃないんですけど、常に探してます。
キャスターとして目指す未来
──キャスターになった経緯と、今現状について、がっつりお聞きしたんですけど、これから先目指すところとか、あったりしますか?katsudion:散々言われてるんですけど、一部リーグの実況解説もしてみたいなというのは本音ではありますね。CSから抜け出したいという意味合いではないです。CSの放送自体をもっとグレードアップさせていきたいし。今回初めて未放送試合のキャストも全部やったんですよね。あれも全部生配信でやりたかったですし。単純にステップアップという意味で言うと、やっぱり一部の試合を、3試合あるんだったらそのうち1試合はキャストしたいなっていうのはありますね。あとは……オフライン会場にお客さんが入ってるところでやってみたいですね。
──今日みたいな会場で。
katsudion:いきなりココっていうのはちょっと……。e-sports SQUAREは何度か経験があるので、もう少し大きいホールで競技シーンの試合の実況をやってみたい気はします。
あとは常々思ってるんですけど、実況解説ってひとりじゃ仕事はできなくって、解説と組んで作り上げていくからこそ、いろんなことができるようになるし、どんどん良くしていけるんですよ。相方である解説とそこをうまく固めて、自分たちの色を作っていきたいという……これが何よりも先かなと思います。それができないとやっぱり一部をやるのは早い気がするし。
──実際、今日のeyesさんとRevolさんの安定感は、2~3年前の比じゃありませんでしたね。
katsudion:そういうのっていっしょに作り上げていかないと結局できないんですよね。これも最近わかるようになったんですけど、自分がやりたい試合の伝え方でやるっていうのがやっぱりあるんですよ。エゴではないんですけど、どういうふうに試合を見せたいか、どういうふうに喋っていきたいのかというのが、作っていかないとできないので、自分の色を探していきたいですね、まずは。
未来のキャスターへの言葉、ファンへの言葉
──そろそろ締めたいと思うんですが、まずこれからキャスターや解説者を志望する人に一言メッセージをお願いします。katsudion:日本で『LoL』の職業キャスターの道は、eyesさんをはじめとした方が作ってくれました。僕はそれに乗っかって今がんばっています。道は大先輩が作ってくれたので、あとはそこに向かって進むだけなんじゃないかな。
ただ、僕は一度社会人をやって、ある程度自分の道ってものをしっかりと見据えて考えた上でこの決断を下したんですよね。限られた席しかないのは確かですが、情熱を捨てずに、いろんな視野を持ちながら、夢に向かって進んでいってほしいですね。
──いろんな経験をしろっていうことでしょうか。
katsudion:正直言って僕はラッキーだった。あとそんな中でも、僕は7年前からコミュニティのためにというのをずっと考えながらやってきたことが、今報われている、というのも特に多いと思うんですよね。席が少ない業種でやきもきすることもきっとあるとは思うんですけど、後継は必ず必要になるので、がんばっていってほしいなと思います。
──最後にいつも配信とかを見てくれているファンに一言お願いします。
katsudion:声がルシアンで顔がエコーみたいで名前がカサディンみたいな僕ですけど、応援よろしくお願いします。
──それどこから来たんでしょう。
katsudion:Twitterで視聴者の一人から、「LJLはeyesさんとRevolさんとカサディンみたいなやつでもってる」って。本当に僕の名前を覚えてなかったんだと思います。語呂遊びはセンスを感じるので、どんどん好きにしてください。面白ければそれでいいですけど、あんまりいじめないでね。
──以上でインタビューは終了です。本日はどうもありがとうございました。
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■前編はこちらから
プロシーンの観戦はこんなに面白い! 『LoL』キャスターkatsudion氏に聞く【前編】
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