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基本無料TPS『SYNCED』開発者 クラーク・ヤン氏インタビュー 「PvPでの成功は険しい道。何シーズンも続くようなPvEを目指したい」
目次
テンセントのグループであるNExT Studiosが開発した、基本プレイ無料&マルチプレイも可能な新作TPS『SYNCED』(シンクド)。荒廃した近未来が舞台のSF作品で、「東京ゲームショウ2022」の会場で初お披露目され、オープンベータテストを経て、「DREAMHACK JAPAN 2023 Supported by GALLERIA」でもインフルエンサーによるエキシビションや、チュートリアルのフリープレイも実施されていた。
今回、その「DreamHack JAPAN 2023」のタイミングでクリエイティブ・ディレクター兼プロデューサーであるクラーク・ヤン氏が来日。これまで『レインボーシックス シージ』や『ファークライ5』といったAAAタイトルのレベルデザインを数多く手がけてきた同氏が、Next Studiosに参加してから満を持して発表する最初の作品となる。
『SYNCED』の独特なゲームアイデアや世界観の源泉、さらにeスポーツ全盛のいま、PvE/PvPタイトルで表現したいものとは何かをうかがった。
「遊び方」と「世界観」の両軸から発想
──まずはクラークさんの自己紹介と、NExT Studiosという会社のご紹介からお願いします。
クラーク:クラーク・ヤンです。テンセント入社前は14年以上にわたってAAAゲームの制作に携わり、ディレクターやデザイナーとして活動してきました。主なタイトルとしては『レインボーシックス』『プリンス・オブ・ペルシャ』『ファークライ5』『バットマン・アーカム』シリーズなどです。
──どれもとても好きなゲームばかりです!
クラーク:ありがとうございます。NExT Studiosは2017年に設立された開発会社で、テンセントグループ内のミッションは「新しいものを作るクリエイティブ」。メンバーもそれを目指して集められた人材ばかりです。『SYNCED』プロジェクトは、2018年から立ち上がって今年で5年目になります。
──クラークさん自身も2018年から参加されたということですが、同社がこれまで作ってきたゲームは『アイリスポール』も『アンヒアード』もインディーズっぽいタイトルばかりでしたよね。テンセント、そしてNExT Studiosとして『SYNCED』のようなゲームを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
クラーク:おっしゃる通り、NExT Studiosは以前はインディーっぽいゲームを作っていました。当時はやはり経験が浅かったということが大きいですね。最初はまずリスクが低く小さなプロジェクトで、面白いポイント、あるいは新しいポイントを持ったものを作ってきました。
それから、だんだんと大きなタイトルの制作経験を持っているメンバーが増えてきたので、「じゃあ、挑戦しましょう、そしてスタジオももっと成長しましょう」というミッションで、このチャレンジが始まりました。
──経歴を拝見すると主にシューティングタイトルを手がけておられますが、『SYNCED』は敵でもあり味方にもなる「ナノマシン」というコンセプトが斬新です。どういうふうに今のような設定やコンセプトになっていったのでしょうか?
クラーク:『SYNCED』のように複雑なゲームの場合、おっしゃる通り、当初のコンセプトからどう発展させていくか、という流れは確かにありますね。
私の開発理念は、ずっとブラッシュアップし続けるというものなんです。今のような設定が最初からあったわけではなく、「遊び方」と「世界観」の両軸から、ブラッシュアップしたり融合したりしながら開発を進めてきました。
──具体的にどんな工夫をされたのかを教えてください。
クラーク:まずは「遊び方」、つまりプレイング面ですが、当初は開発サイドから、基本的なTPSシューティングゲームのベースとなる射撃などの動きを作りながら、新しい要素は何かという部分をひたすら考えていきました。
そこで重要なポイントになったのが、「コンパニオンが同行するシューティング」という遊び方です。要するに「ナノコンパニオン」というプレイヤーに付き従うキャラクターと一緒にシューティングすること。そこをチーム内の全員が最重要ポイントとして定めたところから、いろいろ見えてきました。
──世界観については、ナノテクノロジーが進んだ近未来のワシントンが舞台で、人類の新たな資源である液体のような気体のような「ナーヴァ」、時間が経つとプレイヤーたちを蝕んでいく「サージ」などの設定もあまり見たことがないですね。
クラーク:「世界観」については、リアル世界で何かヒントをもらえないかという出発点から考えました。その中で、身の回りのいろいろなものがインターネットに接続する時代になるんじゃないか、という発想から、「どんなものでもインターネットに接続できるのであれば、インターネットやサーバーを経由して、敵をコントロールしてもいいんじゃないか」というのが、『SYNCED』世界のナノテクノロジーの発想につながっています。こうした軸に沿って「遊び方」の発想も融合して、ゲームを設計していったという経緯です。
──私も事前に『SYNCED』のチュートリアルと序盤のボス戦まで遊ばせていただいたんですが、「ナノコンパニオン」と一緒に戦えるというところは、クラークさんも携わった『ファークライ5』の「ブーマー」(イヌ)や「チーズバーガー」(クマ)などに似ている気もしてしまいました。
クラーク:たしかに、最初はユーザーにもわかりやすいものを考えていったのですが、重要なのは『SYNCED』の世界観の中でコンパニオンキャラクターをどう表現するか、という部分でした。
プレイしていただけるとわかると思いますが、『SYNCED』では戦略の種類に応じて4種類の「ナノコンパニオン」があり、「ナノコンパニオン」自体もさらに装備やスキルを追加していろいろな戦い方を実現できます。「ナノ」という概念の表現もこの世界観のグラフィックにマッチするものにしたい。そういった部分を工夫して、我々のものにしていきました。
より特徴を強めるためにも工夫をしていまして、「ナノ」のテクノロジーの裏側として、実際にどう動いているかといった原理なども、メンバー内で議論しています。実は、この世界にある「ナノ」もプレイヤーが倒す柱(ゲーム内では「サージ形成体」と呼ばれている)も同じ原理で説明できるようにしっかり考え抜いているんです。最終的に、デザイン的にも他のどのゲームにもなく、『SYNCED』だとパッと見てわかるようにするまで、ブラッシュアップを繰り返して来ました。
──そのあたりの“謎”もこれから徐々に明らかになっていくんですね。ところで、クラークさん自身が公式動画の中で、バトルロイヤルゲームの『PUBG: BATTLEGROUNDS』を話題にして、飛行機から落下する、フィールドが狭くなっていく、というステレオタイプな演出ではないシステムを作りたかったとおっしゃっていましたね。
クラーク:実は『PUBG』のユーザーでもすぐに慣れてもらえる要素として、参考したところはあるんです。ただし、やはり新しい体験を重視しているので、全く同じルールだと面白くない。ルールを設定する上で、ユーザーが自分なりのやり方ができるようにしたいという発想をしました。それが時間が経つと濃度が上がってダメージが増えていく「サージ」という概念です。
攻略に時間がかかりすぎると「サージ」によるダメージが増加。「サージ形成体」を破壊する必要がある
『PUBG』はPvPのみなので、最終目的は最後のひとりまで生き残ることですが、そうなると相手を一切倒さなくてもいいし、敵を倒して稼ぐこともできる。選択肢を与えることによって、自由度と多様性の遊び方が期待できます。
一方、『SYNCED』はPvPとPvEの両方を実装しています。その意味で『PUBG』とは違って、全く新しいシューティング体験を作りやすい環境にあるので、バランスはそこまで考慮せず、純粋にユーザーが楽しめることを期待しています。
ミッションで試した装備をドロップできる
──デモプレイでは『SYNCED』のPvEしか遊べていませんが、本作はPvPもありながら、基本はPvE寄りの作り方をされていますよね。
クラーク:そうですね、『SYNCED』がPvEも大切にしているということは、クエストをクリアするたびにレアアイテムなどをゲットできる、ハック&スラッシュの要素にも表れています。PvPがあるゲームだとあまりPvEに力を入れないことも多い気がしますが、その点は結構気を使っています。
──TPSでハクスラというのはつまり、レアアイテムなどをゲットできることもあるということですね。
クラーク:はい、プレイヤーの方々に「いいものを拾った!」と思ってもらいたいんですね。探索の中でよりいいアイテムや装備を手に入れた時って、素直にうれしいじゃないですか。
実はもっと深い設計もありまして、PvEのひとつのクエストの中にはさらに小さな3つのクエストがあるのですが、実は1クエスト目はレアアイテムがドロップしにくくて、2回目、3回目のクエストから出る確率は少しずつ上がっていきます。とはいえ、1クエスト目でも低確率ですが出る可能性もあるので、もしドロップすればよりうれしいですよね。そういう宝探しみたいに楽しめるようにしたいというのも、裏の設定としてあります。
──最近人気のシューティングゲームとしては、『VALORANT』『Apex Legends』『フォートナイト』などがありますし、PvEタイトルで似たSF的な世界観で言えば『Destiny 2』だったり『Warframe』もあります。こういったライバルの中で、『SYNCED』の一番の特徴は何でしょうか?
クラーク:現在の市場については、『PUBG』『フォートナイト』『Apex Legends』など長期にわたって運用されていていますが、PvPタイトルの市場としてユーザーに新しいものが求められていると思っています。
PvEも同様に、『Destiny 2』や『Division』など、長い間で運用されたタイトルもありますが、最近は本当の意味で新しい体験をユーザーに提供できているタイトルはなかなか見つかりません。
その点で『SYNCED』は、やはり「ナノコンパニオン」付きのシューティングという新しい遊び方が最大の売りポイントです。
ただし、当然新しいタイトルを作ることにはリスクもあります。十分に練れていない部分が出てくると思うので、そこを補完していくには、チームのブラッシュアップに対する精神と粘り強さが必要です。そういった部分でも、これまでの5年間、新しいものに挑戦できているので、これから長期にわたってどんどんよくなるはず、という部分を信じていただければありがたいですね。
──『SYNCED』のプレイヤー体験としては、何を一番大切にしていますか? 相手をヘッドショットで撃ち抜いた時の爽快感なのか、戦う時のムーブなのか、 能力を使った時のアクションとかグラフィックなのか……。
クラーク:『SYNCED』はTPSなので、FPSよりも銃を打つ瞬間のアクションの表現力は弱いです。TPSでインパクトを表現する場所はキャラの目の前ではなくて撃った先、実際に倒した敵あるいはエリアに対してのインパクトと爽快感を表現したいというのが主軸ですね。
特にPvEの中では、爆発だったり敵の連鎖的な攻撃だったりを幅広く表現して、「銃を打つだけでこんなに爆発するなんてすげえ!」といった感覚での爽快感をイメージしています。
ただ、PvPの場合は過度に演出しすぎるとプレイに影響する要素もあるので、数値的にもグラフィック的にもより慎重的に調整しています。それも、単なるエフェクトとグラフィックだけでなく、UIの変化だったり音の変化だったりで、総合的に表現するようにしています。
──なるほど、つまりPvEとPvPではグラフィック表現が少し違うんですね。
クラーク:はい。例えば、スナイパーライフルの中にブラックホールを出せる銃とかもあるのですが、PvPでそれが使えると無敵になってしまうので、そういった特別な銃のスキルとステータスの成長はPvPには反映しません。PvPはペイトゥーウインにならないように、公平性を保てる状態にしています。
また、PvPは常に焦点が敵1人になることが多いので、1人向けの表現をやらないといけません。一方、PvEの場合は多数の敵に向かうことが多いので、表現を変えることを考慮しています。
──『SYNCED』の魅力はこれから少しずつ公開されていくと思いますが、話せる範囲で、実はこんな展開が待っているんだよといった、まだ公開されていない要素があればぜひ教えてください。
クラーク:そういった意味では、このゲームの装備の部分にはローグライクの要素もあるんですが、過去のローグライクではやっていなかった要素として、ミッション内でしか使えない装備などをクリア時に入手できる可能性がある部分ですね。
具体的には、毎回の試合の中で「エクスチェンジャー」というものでスキルやナノコンパニオンを強化できるのですが、それらは基本的に試合が終わったら一度なくなってしまう、今回の戦いのみで使えるものなんです。
そういった強化要素が、確率が高いものもあれば低いものあるんですけど、最終的に試合後にドロップされるんです。要するに、ユーザーが自分が狙っている武器を事前に味わって試したり、試して気に入ったものがドロップするまで頑張れるというわけです。
ローグライクの要素として、最終的に全部自分が望む装備にできるというところは、他のローグライクのゲームにはなかったと思います。要は、遊ぶ時だけの瞬間の価値ではなく、最終的に自分の望む姿に装備を整えていく、RPGみたいに遊べるっていうイメージですね。
PvPでの成功のハードルは高い
──テンセントがTPSを作ると聞けば、絶対人気が出るタイトルに決まっているって思うわけですが、eスポーツとかPvPの部分をどれくらい発展させていくのかという辺りが少し気になっています。今回のインタビューでPvEに力を入れていることはわかったのですが、力の入れ具合としてはPvPとPvE、どっちが大きいのでしょうか?
クラーク:これは、テンセントうんぬんというよりは、シューティングのPvPのジャンル、あるいは業界的な話かなと思います。
私は、PvPで成功すること自体がすごくリスクが高いことで、どのゲーム開発会社も必ず大流行になるPvPシューティングゲームを作れると言えるチームはいないと思うんです。それくらいPvPというのは成功率が低い攻め方なんですね。
『SYNCED』はPvEがあることによって、ちゃんとユーザーを少しずつ集められます。例えるならば、一発勝負で大きな花を咲かせるというよりは、木としてちゃんと成長させてその上にPvPとしての試行錯誤もして、いろいろな可能性の花を咲かせる、ということを狙っています。根幹にはPvEがあるので、すぐには失敗しません。
──ちなみに、個人的にMMORPGみたいにエンディングがなくて終わりが見えなさすぎるゲームも結構増えているような気がします。そのあたり、クラークさんとしては『SYNCED』に関してどうしたいとお考えですか?
クラーク:開発者としては1シーズンで終わるようなドラマを作ることはしたくないんです。イメージはアメリカのドラマのようなかたちで、本当にいいドラマだったらユーザーもすぐ終わらせたくないということもありますよね。そういう何シーズンも続くような名作ゲームになったらうれしいです。
ただ、いざPvPとして人気が出てそちらで続くことになれば、状況は変わるかもしれません。今はどちらの可能性も考えています。
──eスポーツとしての展開なども楽しみです。本日はありがとうございました!
6月20日(火)よりPvPも試せる「デモ版」が
今回お話を伺った『SYNCED』のデモ版が、日本時間の6月20日(火)2:00〜27日(火)2:00にかけて開催される「Steam Next フェス」にて公開予定だ。「ナノコンパニオン」の使い勝手、美麗なグラフィックや世界観、ハクスラ要素などに加えて、PvP/PvEともに協力プレイや対戦プレイなども味わえる。
百聞は一見に如かず。この機会にぜひ、『SYNCED』の斬新なシステムやストーリーの一部を体験してみてほしい。
Steam Next フェス
https://store.steampowered.com/sale/nextfest?l=japanese
『SYNCED』公式サイト
https://www.syncedthegame.com/?lang=ja
Steam公式サイト
http://shorturl.at/aqN29
SYNCED 公式Twitter
https://twitter.com/SYNCED_JP
今回、その「DreamHack JAPAN 2023」のタイミングでクリエイティブ・ディレクター兼プロデューサーであるクラーク・ヤン氏が来日。これまで『レインボーシックス シージ』や『ファークライ5』といったAAAタイトルのレベルデザインを数多く手がけてきた同氏が、Next Studiosに参加してから満を持して発表する最初の作品となる。
『SYNCED』の独特なゲームアイデアや世界観の源泉、さらにeスポーツ全盛のいま、PvE/PvPタイトルで表現したいものとは何かをうかがった。
クラーク・ヤン(Clark Jiayang Yang)プロフィール
テンセントのゲーム開発スタジオ、NExT Studiosに所属するクリエイティブ・ディレクター兼プロデューサー。新規IPである『SYNCED』では、クリエイティブとプロデュースを担当。テンセント入社以前は、14年以上にわたってAAAゲームの制作に携わり、ディレクターやデザイナーとして活躍。
テンセントのゲーム開発スタジオ、NExT Studiosに所属するクリエイティブ・ディレクター兼プロデューサー。新規IPである『SYNCED』では、クリエイティブとプロデュースを担当。テンセント入社以前は、14年以上にわたってAAAゲームの制作に携わり、ディレクターやデザイナーとして活躍。
「遊び方」と「世界観」の両軸から発想
コンパニオンと一緒に戦う新体験
──まずはクラークさんの自己紹介と、NExT Studiosという会社のご紹介からお願いします。
クラーク:クラーク・ヤンです。テンセント入社前は14年以上にわたってAAAゲームの制作に携わり、ディレクターやデザイナーとして活動してきました。主なタイトルとしては『レインボーシックス』『プリンス・オブ・ペルシャ』『ファークライ5』『バットマン・アーカム』シリーズなどです。
──どれもとても好きなゲームばかりです!
クラーク:ありがとうございます。NExT Studiosは2017年に設立された開発会社で、テンセントグループ内のミッションは「新しいものを作るクリエイティブ」。メンバーもそれを目指して集められた人材ばかりです。『SYNCED』プロジェクトは、2018年から立ち上がって今年で5年目になります。
──クラークさん自身も2018年から参加されたということですが、同社がこれまで作ってきたゲームは『アイリスポール』も『アンヒアード』もインディーズっぽいタイトルばかりでしたよね。テンセント、そしてNExT Studiosとして『SYNCED』のようなゲームを作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
クラーク:おっしゃる通り、NExT Studiosは以前はインディーっぽいゲームを作っていました。当時はやはり経験が浅かったということが大きいですね。最初はまずリスクが低く小さなプロジェクトで、面白いポイント、あるいは新しいポイントを持ったものを作ってきました。
それから、だんだんと大きなタイトルの制作経験を持っているメンバーが増えてきたので、「じゃあ、挑戦しましょう、そしてスタジオももっと成長しましょう」というミッションで、このチャレンジが始まりました。
──経歴を拝見すると主にシューティングタイトルを手がけておられますが、『SYNCED』は敵でもあり味方にもなる「ナノマシン」というコンセプトが斬新です。どういうふうに今のような設定やコンセプトになっていったのでしょうか?
クラーク:『SYNCED』のように複雑なゲームの場合、おっしゃる通り、当初のコンセプトからどう発展させていくか、という流れは確かにありますね。
私の開発理念は、ずっとブラッシュアップし続けるというものなんです。今のような設定が最初からあったわけではなく、「遊び方」と「世界観」の両軸から、ブラッシュアップしたり融合したりしながら開発を進めてきました。
──具体的にどんな工夫をされたのかを教えてください。
クラーク:まずは「遊び方」、つまりプレイング面ですが、当初は開発サイドから、基本的なTPSシューティングゲームのベースとなる射撃などの動きを作りながら、新しい要素は何かという部分をひたすら考えていきました。
そこで重要なポイントになったのが、「コンパニオンが同行するシューティング」という遊び方です。要するに「ナノコンパニオン」というプレイヤーに付き従うキャラクターと一緒にシューティングすること。そこをチーム内の全員が最重要ポイントとして定めたところから、いろいろ見えてきました。
──世界観については、ナノテクノロジーが進んだ近未来のワシントンが舞台で、人類の新たな資源である液体のような気体のような「ナーヴァ」、時間が経つとプレイヤーたちを蝕んでいく「サージ」などの設定もあまり見たことがないですね。
クラーク:「世界観」については、リアル世界で何かヒントをもらえないかという出発点から考えました。その中で、身の回りのいろいろなものがインターネットに接続する時代になるんじゃないか、という発想から、「どんなものでもインターネットに接続できるのであれば、インターネットやサーバーを経由して、敵をコントロールしてもいいんじゃないか」というのが、『SYNCED』世界のナノテクノロジーの発想につながっています。こうした軸に沿って「遊び方」の発想も融合して、ゲームを設計していったという経緯です。
──私も事前に『SYNCED』のチュートリアルと序盤のボス戦まで遊ばせていただいたんですが、「ナノコンパニオン」と一緒に戦えるというところは、クラークさんも携わった『ファークライ5』の「ブーマー」(イヌ)や「チーズバーガー」(クマ)などに似ている気もしてしまいました。
クラーク:たしかに、最初はユーザーにもわかりやすいものを考えていったのですが、重要なのは『SYNCED』の世界観の中でコンパニオンキャラクターをどう表現するか、という部分でした。
プレイしていただけるとわかると思いますが、『SYNCED』では戦略の種類に応じて4種類の「ナノコンパニオン」があり、「ナノコンパニオン」自体もさらに装備やスキルを追加していろいろな戦い方を実現できます。「ナノ」という概念の表現もこの世界観のグラフィックにマッチするものにしたい。そういった部分を工夫して、我々のものにしていきました。
より特徴を強めるためにも工夫をしていまして、「ナノ」のテクノロジーの裏側として、実際にどう動いているかといった原理なども、メンバー内で議論しています。実は、この世界にある「ナノ」もプレイヤーが倒す柱(ゲーム内では「サージ形成体」と呼ばれている)も同じ原理で説明できるようにしっかり考え抜いているんです。最終的に、デザイン的にも他のどのゲームにもなく、『SYNCED』だとパッと見てわかるようにするまで、ブラッシュアップを繰り返して来ました。
──そのあたりの“謎”もこれから徐々に明らかになっていくんですね。ところで、クラークさん自身が公式動画の中で、バトルロイヤルゲームの『PUBG: BATTLEGROUNDS』を話題にして、飛行機から落下する、フィールドが狭くなっていく、というステレオタイプな演出ではないシステムを作りたかったとおっしゃっていましたね。
クラーク:実は『PUBG』のユーザーでもすぐに慣れてもらえる要素として、参考したところはあるんです。ただし、やはり新しい体験を重視しているので、全く同じルールだと面白くない。ルールを設定する上で、ユーザーが自分なりのやり方ができるようにしたいという発想をしました。それが時間が経つと濃度が上がってダメージが増えていく「サージ」という概念です。
攻略に時間がかかりすぎると「サージ」によるダメージが増加。「サージ形成体」を破壊する必要がある
『PUBG』はPvPのみなので、最終目的は最後のひとりまで生き残ることですが、そうなると相手を一切倒さなくてもいいし、敵を倒して稼ぐこともできる。選択肢を与えることによって、自由度と多様性の遊び方が期待できます。
一方、『SYNCED』はPvPとPvEの両方を実装しています。その意味で『PUBG』とは違って、全く新しいシューティング体験を作りやすい環境にあるので、バランスはそこまで考慮せず、純粋にユーザーが楽しめることを期待しています。
ミッションで試した装備をドロップできる
ハクスラ要素の作り込み
──デモプレイでは『SYNCED』のPvEしか遊べていませんが、本作はPvPもありながら、基本はPvE寄りの作り方をされていますよね。
クラーク:そうですね、『SYNCED』がPvEも大切にしているということは、クエストをクリアするたびにレアアイテムなどをゲットできる、ハック&スラッシュの要素にも表れています。PvPがあるゲームだとあまりPvEに力を入れないことも多い気がしますが、その点は結構気を使っています。
──TPSでハクスラというのはつまり、レアアイテムなどをゲットできることもあるということですね。
クラーク:はい、プレイヤーの方々に「いいものを拾った!」と思ってもらいたいんですね。探索の中でよりいいアイテムや装備を手に入れた時って、素直にうれしいじゃないですか。
実はもっと深い設計もありまして、PvEのひとつのクエストの中にはさらに小さな3つのクエストがあるのですが、実は1クエスト目はレアアイテムがドロップしにくくて、2回目、3回目のクエストから出る確率は少しずつ上がっていきます。とはいえ、1クエスト目でも低確率ですが出る可能性もあるので、もしドロップすればよりうれしいですよね。そういう宝探しみたいに楽しめるようにしたいというのも、裏の設定としてあります。
──最近人気のシューティングゲームとしては、『VALORANT』『Apex Legends』『フォートナイト』などがありますし、PvEタイトルで似たSF的な世界観で言えば『Destiny 2』だったり『Warframe』もあります。こういったライバルの中で、『SYNCED』の一番の特徴は何でしょうか?
クラーク:現在の市場については、『PUBG』『フォートナイト』『Apex Legends』など長期にわたって運用されていていますが、PvPタイトルの市場としてユーザーに新しいものが求められていると思っています。
PvEも同様に、『Destiny 2』や『Division』など、長い間で運用されたタイトルもありますが、最近は本当の意味で新しい体験をユーザーに提供できているタイトルはなかなか見つかりません。
その点で『SYNCED』は、やはり「ナノコンパニオン」付きのシューティングという新しい遊び方が最大の売りポイントです。
ただし、当然新しいタイトルを作ることにはリスクもあります。十分に練れていない部分が出てくると思うので、そこを補完していくには、チームのブラッシュアップに対する精神と粘り強さが必要です。そういった部分でも、これまでの5年間、新しいものに挑戦できているので、これから長期にわたってどんどんよくなるはず、という部分を信じていただければありがたいですね。
──『SYNCED』のプレイヤー体験としては、何を一番大切にしていますか? 相手をヘッドショットで撃ち抜いた時の爽快感なのか、戦う時のムーブなのか、 能力を使った時のアクションとかグラフィックなのか……。
クラーク:『SYNCED』はTPSなので、FPSよりも銃を打つ瞬間のアクションの表現力は弱いです。TPSでインパクトを表現する場所はキャラの目の前ではなくて撃った先、実際に倒した敵あるいはエリアに対してのインパクトと爽快感を表現したいというのが主軸ですね。
特にPvEの中では、爆発だったり敵の連鎖的な攻撃だったりを幅広く表現して、「銃を打つだけでこんなに爆発するなんてすげえ!」といった感覚での爽快感をイメージしています。
ただ、PvPの場合は過度に演出しすぎるとプレイに影響する要素もあるので、数値的にもグラフィック的にもより慎重的に調整しています。それも、単なるエフェクトとグラフィックだけでなく、UIの変化だったり音の変化だったりで、総合的に表現するようにしています。
──なるほど、つまりPvEとPvPではグラフィック表現が少し違うんですね。
クラーク:はい。例えば、スナイパーライフルの中にブラックホールを出せる銃とかもあるのですが、PvPでそれが使えると無敵になってしまうので、そういった特別な銃のスキルとステータスの成長はPvPには反映しません。PvPはペイトゥーウインにならないように、公平性を保てる状態にしています。
また、PvPは常に焦点が敵1人になることが多いので、1人向けの表現をやらないといけません。一方、PvEの場合は多数の敵に向かうことが多いので、表現を変えることを考慮しています。
──『SYNCED』の魅力はこれから少しずつ公開されていくと思いますが、話せる範囲で、実はこんな展開が待っているんだよといった、まだ公開されていない要素があればぜひ教えてください。
クラーク:そういった意味では、このゲームの装備の部分にはローグライクの要素もあるんですが、過去のローグライクではやっていなかった要素として、ミッション内でしか使えない装備などをクリア時に入手できる可能性がある部分ですね。
具体的には、毎回の試合の中で「エクスチェンジャー」というものでスキルやナノコンパニオンを強化できるのですが、それらは基本的に試合が終わったら一度なくなってしまう、今回の戦いのみで使えるものなんです。
そういった強化要素が、確率が高いものもあれば低いものあるんですけど、最終的に試合後にドロップされるんです。要するに、ユーザーが自分が狙っている武器を事前に味わって試したり、試して気に入ったものがドロップするまで頑張れるというわけです。
ローグライクの要素として、最終的に全部自分が望む装備にできるというところは、他のローグライクのゲームにはなかったと思います。要は、遊ぶ時だけの瞬間の価値ではなく、最終的に自分の望む姿に装備を整えていく、RPGみたいに遊べるっていうイメージですね。
PvPでの成功のハードルは高い
PvEをしっかり作ることでPvPへの発展にも期待
──テンセントがTPSを作ると聞けば、絶対人気が出るタイトルに決まっているって思うわけですが、eスポーツとかPvPの部分をどれくらい発展させていくのかという辺りが少し気になっています。今回のインタビューでPvEに力を入れていることはわかったのですが、力の入れ具合としてはPvPとPvE、どっちが大きいのでしょうか?
クラーク:これは、テンセントうんぬんというよりは、シューティングのPvPのジャンル、あるいは業界的な話かなと思います。
私は、PvPで成功すること自体がすごくリスクが高いことで、どのゲーム開発会社も必ず大流行になるPvPシューティングゲームを作れると言えるチームはいないと思うんです。それくらいPvPというのは成功率が低い攻め方なんですね。
『SYNCED』はPvEがあることによって、ちゃんとユーザーを少しずつ集められます。例えるならば、一発勝負で大きな花を咲かせるというよりは、木としてちゃんと成長させてその上にPvPとしての試行錯誤もして、いろいろな可能性の花を咲かせる、ということを狙っています。根幹にはPvEがあるので、すぐには失敗しません。
──ちなみに、個人的にMMORPGみたいにエンディングがなくて終わりが見えなさすぎるゲームも結構増えているような気がします。そのあたり、クラークさんとしては『SYNCED』に関してどうしたいとお考えですか?
クラーク:開発者としては1シーズンで終わるようなドラマを作ることはしたくないんです。イメージはアメリカのドラマのようなかたちで、本当にいいドラマだったらユーザーもすぐ終わらせたくないということもありますよね。そういう何シーズンも続くような名作ゲームになったらうれしいです。
ただ、いざPvPとして人気が出てそちらで続くことになれば、状況は変わるかもしれません。今はどちらの可能性も考えています。
──eスポーツとしての展開なども楽しみです。本日はありがとうございました!
6月20日(火)よりPvPも試せる「デモ版」が
「Steam Next フェス」にて1週間限定でプレイ可能!
今回お話を伺った『SYNCED』のデモ版が、日本時間の6月20日(火)2:00〜27日(火)2:00にかけて開催される「Steam Next フェス」にて公開予定だ。「ナノコンパニオン」の使い勝手、美麗なグラフィックや世界観、ハクスラ要素などに加えて、PvP/PvEともに協力プレイや対戦プレイなども味わえる。
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— 【公式】SYNCED (シンクド) (@SYNCED_JP) June 10, 2023
Steam Next Festにてデモ配信実施!
\#SYNCED がSteam Next Festに参加決定🎉
◾️期間
6/20(火)AM2:00 ~ 6/27(火)AM2:00
*6/19(月)AM2:00~ 事前DL可
プレイヤーは、PvEとPvPの両方を、単独またはチームで試遊できます。
▼今すぐウィッシュリストに追加!
🔗https://t.co/3B0iWgy8W4 pic.twitter.com/zB9UgVLvf1
百聞は一見に如かず。この機会にぜひ、『SYNCED』の斬新なシステムやストーリーの一部を体験してみてほしい。
Steam Next フェス
https://store.steampowered.com/sale/nextfest?l=japanese
『SYNCED』公式サイト
https://www.syncedthegame.com/?lang=ja
Steam公式サイト
http://shorturl.at/aqN29
SYNCED 公式Twitter
https://twitter.com/SYNCED_JP