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RIZeST 古澤明仁社長インタビュー「大会運営だけではなく、スタッフの未来も見据える」<前編>ーeSportsを支える人々ー
『リーグ・オブ・レジェンド』(以下『LoL』)や『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS』(以下『PUBG』)といったタイトルの大会が盛んに開催されている昨今、応援しているチームの白熱する試合展開をTwitchやOPENREC.tvなどで欠かさずに観戦しているユーザーも多いだろう。
eSportsシーンにおいてはプロゲーミングチームやプロゲーマーばかりにスポットライトが当てられがちだが、我々が大会の会場内やネット配信で見ているゲーム画面を「カッコよく」見せるために、優秀なゲーム内カメラマンやスイッチャーといった裏方スタッフの存在と、培ってきたノウハウによる下支えがあることを忘れてはいけない。
今回ご紹介する「RIZeST(ライゼスト)」は、培ったノウハウによって大会運営とネット配信を同時に行える強みを武器とするだけではなく、国内初となるeSports専用施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」の運営を合わせてeSportsシーンを牽引し、日本国内におけるeSportsを一過性の盛り上がりだけで終わらせることなく、これからも続く文化として定着させるための目的や計画をしっかりと持っている。
連載企画『eSportsを支える人々【RIZeST 前編】』では、代表取締役社長を務める古澤明仁氏に、自身がeSportsに関わることになったきっかけや「RIZeST」設立までの経緯、そしてこれからのビジョンや目指していく方向性についてインタビューを行った。
「ゲーミング用デバイスがナイキやアディダスといったスポーツギアブランドのような売り方ではなかったので、”eSports”と言うわりにはスポーツっぽさをぜんぜん感じないなと思っていました。そこから、インフルエンサーになれるようなアンバサダーを探し求めていたときに様々なプレイヤー、チーム、コミュニティと出会ったり、イベントや大会を体感すると同時に徐々にeSportsにのめり込みましたね」
市川時代の「e-sports SQUARE」は、韓国におけるPCバンを意識したオープンスペースとなっており、企業やプレイヤーコミュニティを誘致したイベントや大会の開催・運営およびネットでのストリーミング配信を早い段階で実施していた。また、ライアットゲームズが日本に参入する前から自主的にプロリーグを立ち上げるなど、コミュニティの底上げと拡張による盛り上がりに拍車をかけた。
「オープン当初で盛り上がっていたタイトルは『スタークラフト』『LoL』『FIFA』ですね。PCゲーム以外にも家庭用ゲーム機も設置していました。当初は遊びに来るお客さんよりも『ここで働きたい』っていう人が多かったですね(笑)。なので初期のスタッフには岸大河くんや、『FIFA』の世界大会を優勝したマイキーくん、現在ではライアットゲームズさんに所属している子などが在籍してました。PCが20台ぐらいしか入らないスペースだったんですが、『Logicool G』を冠にした『LoL』のファンイベントもやりましたね。いま思うと強烈なパワースポットだったなと思います」
「秋葉原への進出で大きく変わったこととして、格闘ゲームの場合はプロゲーマーの梅原(大吾)さんにお越しいただいたり、『Fighter's Crossover -AKIBA-』の様子をふらっと見に行くと世界的なトッププレイヤーの方々が同じ空間にいる光景が見られるのは改めてすごいなと思います。いまeSportsってすごいうねりの中にありますが、原理原則でいくとプレイヤーやコミュニティがベースにあるんですよね。
我々は市川で営業をしているときからその大切さを痛感しているので、いまでもその摂理を大事にしているんです。私だけではなくスタッフ一同、基本ゲーマーなので、常にプレイヤーの目線で物事を捉えられるのは大きな力だと感じています」
自宅や友人の部屋ではなく「e-sports SQUARE」という遊び場はゲーマーたちのあいだでも定着し、ここからプロゲーマーや業界に携わる関係者を多く輩出している。成長による「巣立ち」を古澤氏は親のような心境で見守っているという。
「将来どうなりたいか、こだわりとは何か、といった会話はプレイヤーたちと昔から交わしていたのですが、これらをひとつひとつ叶えている姿を見るとすごく嬉しいんです。当時はヤンチャだった子たちがいまやアスリートとして活躍している姿を見ると、心から素直に応援したくなりますね。
ただ、僕たちも僕たちで足りないものがあるがゆえに、プレイヤーとぶつかることも過去には何度もあり、『運営としてどうなんだ』というお叱りもたくさんいただきました。いま思えばコミュニティのみなさんに育てていただいたところもありますし、我々も成長できる機会を与えてもらったんだなと実感しています」
もともとは仕事としてeSportsに関与し始めた古澤氏も、いまでは自身でも「中毒」と言えるほど、その魅力にどっぷりとハマリ込み、仕事への大きな原動力にもなっているという。そこまで夢中にさせた要因とはいったい何だったのだろうか?
「“作る側”に回ったことで、こうすれば視聴者や来場者、ひいてはうちのスタッフが喜んでくれるんじゃないか? ということを考えて、作っていく過程を楽しんでいるというのがひとつありますね。もうひとつは、eSportsの試合を見ていると無性に遊びたくなるところですね(笑)。
たとえばテレビでサッカーの試合を見たあとに仲間を集めてフットサルのコートまで借りるというのは手間も時間もお金もかかりますが、eSportsであれば試合を見て盛り上がったテンションのままSkypeで『いまから遊ぼうぜ』とやれるんですよね。勝てばもちろん嬉しいし、負けたら悔しいんだけど“もう一戦!”と、勝敗に対する向き合い方やスポーツとしての喜怒哀楽など、eSportsもサッカーも僕の中でイコールなんです」
世間的には「ゲームはゲーム」という目で見られるケースもまだまだ多いeSportsだが、デバイスを介してデジタルに変換されたプレイヤーの行動は人間の手先や目線があってこそのものであるし、瞬発的もしくは長期的な思考能力を問われる側面も要求されるなど、競技性の高さや魅力が広まるにはまだまだハードルが高い印象だ。社会的向上のため、RIZeSTが仕掛けるアプローチとはどのようなものだろう。
「まずは”認知”の向上ですね。eSportsという言葉をパッと聞いたときに想像しうるポジティブなイメージをどれだけ作れるのかというところです。たとえば、サッカーや野球という言葉を聞いたときに連想できる良いイメージってあると思いますが、それがゲームだと程遠いので、そのギャップを埋めるための認知をたくさん作り、良いイメージで引っ張っていきたいというのがあります。
大会、シーンや放送などで地盤を形成した次のフェイズで必要としているのはカリスマ性のあるプレイヤーの誕生ですね。対戦格闘ゲームの場合、梅原選手やときど選手といったスタープレイヤーがすでにいらっしゃるので、今後は各ゲームタイトル・ジャンルからそういった選手たちが生まれてくることをRIZeSTとして応援することが大事だと思っています」
「大会の運営って響きはシンプルですが、その内部や裏側はとても複雑で、たとえばミスがたったひとつあるだけでプレイヤー、ファンの満足度は地に落ちてしまうんです。割れ物に近いような取り扱い方をしなければいけないのですが、我々はそのノウハウがあるからこそ大会の運営を得意としていますし、これからもまだまだ磨き上げていく必要性を感じています。
放送については、さまざまなマーケティングの情報を見ているとeSportsにおけるファン層の過半数以上がカジュアルな視聴者なんです。それを踏まえ、放送コンテンツをエンターテイメントとしてどれだけ演出できるか、今後ますますニーズが高まっていくと思っています。
また、近年はリビングや自分の部屋に仲間を集めて見るという方式から、TwitchやOPENREC.tvなど生放送で不特定多数の人に見てもらうものに変わっているので、ゲームに観戦モードがあるかないかの問題はかなり大きいです。今後、eSports化を目指すうえでIPホルダーさんには観戦用モードを積極的に取り入れていただきたいですね」
ここで我々が目にしている大会の放送から、FPSやMoBAというジャンルについていま一度振り返ってみると、チーム対チームの試合展開が白熱する瞬間をバッチリと画面内に押さえているからこそ我々が目を離せなくなることに気づいたことはあるだろうか? この裏側にはゲーム内カメラマンが存在していることを忘れてはならない。今回のインタビューでも古澤氏がもっとも熱を入れていたのは「ゲーム内カメラマン」の存在と必要性だ。
「僕個人としてはゲーム内カメラマンというのはドキュメント番組に出てもらいたいくらいにすごい能力の持ち主で、5秒前と5秒後をつねに予測しながら映しているんですよね。見せなきゃいけないゲームのマップがあるとしたら、それを上から見せるのか、真横から見せるのか、そしてそれから5秒後になにが起こるかを予想しながらプレイヤーの視点に持っていく。
どんなに高価な機材を使っていようと、どんなにカッコいいスタジオにいようと、ゲーム内カメラマンがどれだけ優れているかによって、視聴者の満足度って雲泥の差が生まれるんですよね。ゲーム内カメラマンだけではなく、カメラを切り替えるスイッチングや選手を撮るスタジオカメラマンにしたって、ゲームや選手のことをわかってるだけでもカメラをパンするのに0.5秒の差が生まれるんです。決定的なシーンというはその0.5秒で感動的なエンターテインメントになると確信しています」
ただ、古澤氏が懸念している点として、認知による向上とスタープレイヤーの誕生によって大会の規模が増した際、下支えする現場のスタッフが圧倒的に少ないことを挙げた。それを解消するためにも、やはりeSportsの社会的ポジションの向上が絶対的に必要であるという。そのための目標として掲げたのは、プレイヤーのセカンドキャリアを含めて生計を成り立たせられるための道筋作りだ。
「プロゲーマーにしてもゲーム内カメラマンにしても、“仕事になる”ということと“どんな企業のどういう役職に就けるのか”という前例がないので、我々だけではなくいろんな企業や団体をまとめて一本の大きな道を作っていきたいんです。この業界でご飯を食べるっていうシーンを作ることが、eSportsに対する世間のサッカーや野球との認知の差を埋め、誤解を紐解く活動につながっていくはずなんです。それを僕たち大人がもっと作っていかなきゃいけないっていう使命感ですよね。
これを継続的な経済的・社会的・文化的なものにしなければ業界は発展しませんし、いまの盛り上がりが一過性になってしまうことも危惧しているので、これからも丁寧に進めていきたいです」
「日本におけるeSportsって、世界と比べるとまだまだ遅れを取っている状況だと思いますが、PCタイトル以外にも家庭用ゲーム機やスマートフォン向けアプリにおけるeSports化が今年から一気に加速し、我々がいままで携わらせていただいたeSportsのシーン、ゲームタイトルや遊ばれ方、ファンの層がだいぶ様変わりしていくと思っています。
その中における我々の立ち位置や役割は基本的に変わることなく、新しいものが生まれる過程でeSportsの認知を広く啓蒙し、カリスマプレイヤーをどのように生み出し、eSportsをいかに継続的に、経済的に、社会的に、文化的に根付かせていくかに着目・注力していきます。
ただ、eSportsと言ってもそれぞれのゲームタイトルによって紐づいているプレイヤー、ファンの性別や年齢も違うので、その都度カスタムする必要性はありますよね。海外の成功事例をそのまま持ってきても通用しないですし、日本なりのカスタマイズが必要なのと同じように、もう一段階、二段階潜ったところでそれぞれのゲームタイトルにおけるベストな大会運営と放送・演出のあり方があると思うので、それを見つけながら大きなシーンにしていきたいですし、お手伝いできる会社としてRIZeSTがあり続けたいと思います」
後編では「現場としての立場」から「e-sports SQUARE AKIHABARA」店長の高橋晃平氏と、RIZeSTが運営する大会を裏側で支えるゲーム内カメラマンの橘氏へのインタビューをお届けする。
■関連サイト
RIZeST公式サイト
http://www.rizestinc.com/
RIZeST公式Twitter
https://twitter.com/rizest_inc
eSportsシーンにおいてはプロゲーミングチームやプロゲーマーばかりにスポットライトが当てられがちだが、我々が大会の会場内やネット配信で見ているゲーム画面を「カッコよく」見せるために、優秀なゲーム内カメラマンやスイッチャーといった裏方スタッフの存在と、培ってきたノウハウによる下支えがあることを忘れてはいけない。
今回ご紹介する「RIZeST(ライゼスト)」は、培ったノウハウによって大会運営とネット配信を同時に行える強みを武器とするだけではなく、国内初となるeSports専用施設「e-sports SQUARE AKIHABARA」の運営を合わせてeSportsシーンを牽引し、日本国内におけるeSportsを一過性の盛り上がりだけで終わらせることなく、これからも続く文化として定着させるための目的や計画をしっかりと持っている。
連載企画『eSportsを支える人々【RIZeST 前編】』では、代表取締役社長を務める古澤明仁氏に、自身がeSportsに関わることになったきっかけや「RIZeST」設立までの経緯、そしてこれからのビジョンや目指していく方向性についてインタビューを行った。
市川から出発した「e-sports SQUARE」
eSports業界において新鋭企業である「RIZeST」は、eSports事業に着目した広告代理店「SANKO」が2011年に千葉県市川市で「e-sports SQUARE」をオープンしたことと、PC用周辺機器メーカー「Logicool」が展開するゲーミングブランド「Logicool G」のマーケティングを統括していた古澤明仁氏が2013年に出会ったことが設立までの礎となっているのだが、当時は古澤氏もeSportsというものをあまり理解していなかったという。「ゲーミング用デバイスがナイキやアディダスといったスポーツギアブランドのような売り方ではなかったので、”eSports”と言うわりにはスポーツっぽさをぜんぜん感じないなと思っていました。そこから、インフルエンサーになれるようなアンバサダーを探し求めていたときに様々なプレイヤー、チーム、コミュニティと出会ったり、イベントや大会を体感すると同時に徐々にeSportsにのめり込みましたね」
市川時代の「e-sports SQUARE」は、韓国におけるPCバンを意識したオープンスペースとなっており、企業やプレイヤーコミュニティを誘致したイベントや大会の開催・運営およびネットでのストリーミング配信を早い段階で実施していた。また、ライアットゲームズが日本に参入する前から自主的にプロリーグを立ち上げるなど、コミュニティの底上げと拡張による盛り上がりに拍車をかけた。
「オープン当初で盛り上がっていたタイトルは『スタークラフト』『LoL』『FIFA』ですね。PCゲーム以外にも家庭用ゲーム機も設置していました。当初は遊びに来るお客さんよりも『ここで働きたい』っていう人が多かったですね(笑)。なので初期のスタッフには岸大河くんや、『FIFA』の世界大会を優勝したマイキーくん、現在ではライアットゲームズさんに所属している子などが在籍してました。PCが20台ぐらいしか入らないスペースだったんですが、『Logicool G』を冠にした『LoL』のファンイベントもやりましたね。いま思うと強烈なパワースポットだったなと思います」
市川から秋葉原へ、そしてRIZeST設立へ
PCゲームプレイヤーたちの受け皿となった「e-sports SQUARE」は徐々に口コミで認知されはじめ、コミュニティ主導のイベントも活発に開かれるようになる。ゲームコミュニティとプレイヤーの熱量を肌身で感じながら今後はどのような方向性を目指すべきなのか、マーケットリサーチするうちに検証が確信へと変わり、秋葉原に「e-sports SQUARE AKIHABARA」として進出。これに伴って事業を拡大し、eSportsに特化したエンターテイメントの会社として2016年10月27日に「RIZeST」を設立。しかし、プレイヤーとコミュニティに対する接し方や目線はこれからも変わらないと話す。「秋葉原への進出で大きく変わったこととして、格闘ゲームの場合はプロゲーマーの梅原(大吾)さんにお越しいただいたり、『Fighter's Crossover -AKIBA-』の様子をふらっと見に行くと世界的なトッププレイヤーの方々が同じ空間にいる光景が見られるのは改めてすごいなと思います。いまeSportsってすごいうねりの中にありますが、原理原則でいくとプレイヤーやコミュニティがベースにあるんですよね。
我々は市川で営業をしているときからその大切さを痛感しているので、いまでもその摂理を大事にしているんです。私だけではなくスタッフ一同、基本ゲーマーなので、常にプレイヤーの目線で物事を捉えられるのは大きな力だと感じています」
自宅や友人の部屋ではなく「e-sports SQUARE」という遊び場はゲーマーたちのあいだでも定着し、ここからプロゲーマーや業界に携わる関係者を多く輩出している。成長による「巣立ち」を古澤氏は親のような心境で見守っているという。
「将来どうなりたいか、こだわりとは何か、といった会話はプレイヤーたちと昔から交わしていたのですが、これらをひとつひとつ叶えている姿を見るとすごく嬉しいんです。当時はヤンチャだった子たちがいまやアスリートとして活躍している姿を見ると、心から素直に応援したくなりますね。
ただ、僕たちも僕たちで足りないものがあるがゆえに、プレイヤーとぶつかることも過去には何度もあり、『運営としてどうなんだ』というお叱りもたくさんいただきました。いま思えばコミュニティのみなさんに育てていただいたところもありますし、我々も成長できる機会を与えてもらったんだなと実感しています」
もともとは仕事としてeSportsに関与し始めた古澤氏も、いまでは自身でも「中毒」と言えるほど、その魅力にどっぷりとハマリ込み、仕事への大きな原動力にもなっているという。そこまで夢中にさせた要因とはいったい何だったのだろうか?
「“作る側”に回ったことで、こうすれば視聴者や来場者、ひいてはうちのスタッフが喜んでくれるんじゃないか? ということを考えて、作っていく過程を楽しんでいるというのがひとつありますね。もうひとつは、eSportsの試合を見ていると無性に遊びたくなるところですね(笑)。
たとえばテレビでサッカーの試合を見たあとに仲間を集めてフットサルのコートまで借りるというのは手間も時間もお金もかかりますが、eSportsであれば試合を見て盛り上がったテンションのままSkypeで『いまから遊ぼうぜ』とやれるんですよね。勝てばもちろん嬉しいし、負けたら悔しいんだけど“もう一戦!”と、勝敗に対する向き合い方やスポーツとしての喜怒哀楽など、eSportsもサッカーも僕の中でイコールなんです」
世間的には「ゲームはゲーム」という目で見られるケースもまだまだ多いeSportsだが、デバイスを介してデジタルに変換されたプレイヤーの行動は人間の手先や目線があってこそのものであるし、瞬発的もしくは長期的な思考能力を問われる側面も要求されるなど、競技性の高さや魅力が広まるにはまだまだハードルが高い印象だ。社会的向上のため、RIZeSTが仕掛けるアプローチとはどのようなものだろう。
「まずは”認知”の向上ですね。eSportsという言葉をパッと聞いたときに想像しうるポジティブなイメージをどれだけ作れるのかというところです。たとえば、サッカーや野球という言葉を聞いたときに連想できる良いイメージってあると思いますが、それがゲームだと程遠いので、そのギャップを埋めるための認知をたくさん作り、良いイメージで引っ張っていきたいというのがあります。
大会、シーンや放送などで地盤を形成した次のフェイズで必要としているのはカリスマ性のあるプレイヤーの誕生ですね。対戦格闘ゲームの場合、梅原選手やときど選手といったスタープレイヤーがすでにいらっしゃるので、今後は各ゲームタイトル・ジャンルからそういった選手たちが生まれてくることをRIZeSTとして応援することが大事だと思っています」
大会の運営・配信スタッフの育成にも力を入れる
大会の運営と放送を同時に行えるという絶対的な強みを持っている「RIZeST」だが、これも「e-sports SQUARE」を市川で営業していたころからの着実な積み重ねによるものであり、一朝一夕によって成せたものではない。検証からの予測を立てることにより、放送での大会観戦に必要とされるものをすでに把握しているのも、培ったノウハウからの応用であるといえるだろう。「大会の運営って響きはシンプルですが、その内部や裏側はとても複雑で、たとえばミスがたったひとつあるだけでプレイヤー、ファンの満足度は地に落ちてしまうんです。割れ物に近いような取り扱い方をしなければいけないのですが、我々はそのノウハウがあるからこそ大会の運営を得意としていますし、これからもまだまだ磨き上げていく必要性を感じています。
放送については、さまざまなマーケティングの情報を見ているとeSportsにおけるファン層の過半数以上がカジュアルな視聴者なんです。それを踏まえ、放送コンテンツをエンターテイメントとしてどれだけ演出できるか、今後ますますニーズが高まっていくと思っています。
また、近年はリビングや自分の部屋に仲間を集めて見るという方式から、TwitchやOPENREC.tvなど生放送で不特定多数の人に見てもらうものに変わっているので、ゲームに観戦モードがあるかないかの問題はかなり大きいです。今後、eSports化を目指すうえでIPホルダーさんには観戦用モードを積極的に取り入れていただきたいですね」
ここで我々が目にしている大会の放送から、FPSやMoBAというジャンルについていま一度振り返ってみると、チーム対チームの試合展開が白熱する瞬間をバッチリと画面内に押さえているからこそ我々が目を離せなくなることに気づいたことはあるだろうか? この裏側にはゲーム内カメラマンが存在していることを忘れてはならない。今回のインタビューでも古澤氏がもっとも熱を入れていたのは「ゲーム内カメラマン」の存在と必要性だ。
「僕個人としてはゲーム内カメラマンというのはドキュメント番組に出てもらいたいくらいにすごい能力の持ち主で、5秒前と5秒後をつねに予測しながら映しているんですよね。見せなきゃいけないゲームのマップがあるとしたら、それを上から見せるのか、真横から見せるのか、そしてそれから5秒後になにが起こるかを予想しながらプレイヤーの視点に持っていく。
どんなに高価な機材を使っていようと、どんなにカッコいいスタジオにいようと、ゲーム内カメラマンがどれだけ優れているかによって、視聴者の満足度って雲泥の差が生まれるんですよね。ゲーム内カメラマンだけではなく、カメラを切り替えるスイッチングや選手を撮るスタジオカメラマンにしたって、ゲームや選手のことをわかってるだけでもカメラをパンするのに0.5秒の差が生まれるんです。決定的なシーンというはその0.5秒で感動的なエンターテインメントになると確信しています」
ただ、古澤氏が懸念している点として、認知による向上とスタープレイヤーの誕生によって大会の規模が増した際、下支えする現場のスタッフが圧倒的に少ないことを挙げた。それを解消するためにも、やはりeSportsの社会的ポジションの向上が絶対的に必要であるという。そのための目標として掲げたのは、プレイヤーのセカンドキャリアを含めて生計を成り立たせられるための道筋作りだ。
「プロゲーマーにしてもゲーム内カメラマンにしても、“仕事になる”ということと“どんな企業のどういう役職に就けるのか”という前例がないので、我々だけではなくいろんな企業や団体をまとめて一本の大きな道を作っていきたいんです。この業界でご飯を食べるっていうシーンを作ることが、eSportsに対する世間のサッカーや野球との認知の差を埋め、誤解を紐解く活動につながっていくはずなんです。それを僕たち大人がもっと作っていかなきゃいけないっていう使命感ですよね。
これを継続的な経済的・社会的・文化的なものにしなければ業界は発展しませんし、いまの盛り上がりが一過性になってしまうことも危惧しているので、これからも丁寧に進めていきたいです」
eSportsの発展にRIZeSTができること
最後に、「EVO Japan」が開催されたことや、JeSUの設立による「プロライセンス化」「高額賞金の大会開催」など、日本におけるeSports業界が盛り上がりを古澤氏はどのように感じているのか? また、RIZeSTは業界内でこれからどのような立ち位置にいるのかを伺った。「日本におけるeSportsって、世界と比べるとまだまだ遅れを取っている状況だと思いますが、PCタイトル以外にも家庭用ゲーム機やスマートフォン向けアプリにおけるeSports化が今年から一気に加速し、我々がいままで携わらせていただいたeSportsのシーン、ゲームタイトルや遊ばれ方、ファンの層がだいぶ様変わりしていくと思っています。
その中における我々の立ち位置や役割は基本的に変わることなく、新しいものが生まれる過程でeSportsの認知を広く啓蒙し、カリスマプレイヤーをどのように生み出し、eSportsをいかに継続的に、経済的に、社会的に、文化的に根付かせていくかに着目・注力していきます。
ただ、eSportsと言ってもそれぞれのゲームタイトルによって紐づいているプレイヤー、ファンの性別や年齢も違うので、その都度カスタムする必要性はありますよね。海外の成功事例をそのまま持ってきても通用しないですし、日本なりのカスタマイズが必要なのと同じように、もう一段階、二段階潜ったところでそれぞれのゲームタイトルにおけるベストな大会運営と放送・演出のあり方があると思うので、それを見つけながら大きなシーンにしていきたいですし、お手伝いできる会社としてRIZeSTがあり続けたいと思います」
後編では「現場としての立場」から「e-sports SQUARE AKIHABARA」店長の高橋晃平氏と、RIZeSTが運営する大会を裏側で支えるゲーム内カメラマンの橘氏へのインタビューをお届けする。
■関連サイト
RIZeST公式サイト
http://www.rizestinc.com/
RIZeST公式Twitter
https://twitter.com/rizest_inc
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