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ゲームコミュニティは救いの場にもなりえた 『ぷよぷよ』プロゲーマーlive インタビュー【シブゲーアーカイブ】

※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2019年6月8日/執筆:ゲーマー日日新聞 Jini)

NTT出版により、2019年6月3日(月)から発売が予定されている、eスポーツ業界の8人の「中の人」が独自の目線と立場で寄稿した書籍『1億3000万人のためのeスポーツ入門』

従来のeスポーツ書籍にはないディープな切り口で書かれている面もあれば、業界のことを何も知らない人が読んでも把握しやすい編集が施されている本著ですが、SHIBUYA GAME編集部はまだまだ面白そうな話が眠っていると判断し、寄稿者たちへ怒涛の7連続インタビューを敢行することとなりました。

聞き手として、独立ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」を運営するJiniさん(@J1N1_R)に、紙面に書ききれなかった彼ら、eスポーツの”あいだ”ではたらく人々の真意を探っていただきます。

―――

ゲーマー日日新聞のJiniです。

7連続インタビュー「eスポーツの”あいだ”ではたらく人々」第4弾となる今回は『ぷよぷよ』のプロプレイヤーlive(@livedesu)さん。

eスポーツという業界においてその最も中心といえるプレイヤーの立場にいるliveさんですが、彼は自身のブログ「清濁のるつぼ」等を通して、あくまで中心から「外側」の人々へゲーマーの実態を訴えかけます。

何故liveさんがここまで「ゲーマーのリアル」を発信し続けているのか? コミュニティ全体を見て活動するとはどういうことか? ゲームを通じて人は何を学べるのか? こうした質問に対し、liveさんの長い経験に基づくアンサーを聞くことができました。

マスメディアの語るキレイな「eスポーツ」は一側面でしかない

Jini:まずは今回『1億3000万人のためのeスポーツ入門』に執筆するようになったきっかけを教えていただけますか。

live:但木さんに声をかけてもらったのがきっかけです。

元々、私は「清濁のるつぼ」というブログを運営していて、そこで「AnimEVO2018で優勝したが、僕の誇りは粉々に破壊された」という記事を書いたんです。内容はAnimEVO2018という大会で「世界大会優勝」という実績を得たのに、他タイトルの規模に圧倒され無力感を感じたという内容でした。

この記事がTwitterで結構拡散されたのですが、その中でたまたま但木さんの目に留まったらしく、そこから彼とは知り合いになりました。


Jini:その記事は私も拝読しました。とても胸を打つ内容だったと記憶しております。

しかし、AnimEVOの記事を含めて、liveさんがこれまで「清濁のるつぼ」で書かれていた文章や、実際『1億3000万人のためのeスポーツ入門』で書かれた文章は、かなりディープなゲーマーに向けた内容だったと私個人の印象として捉えています。ともすれば、ハイコンテクストでさえあった。

例えば、
「社会に認められず弾圧され続けてきたゲーム。そこにしか意欲を、居場所を見出せない自分という存在。彼らは、とにかく自己肯定をすることが苦手だった。」
という一文はゲーマーとして本当にグッときたけれど、この本の主な読者である、あまりゲームを知らない人に理解されるかどうかは、かなりの賭けだと思うんです。

live:元々、本を書いてみたかったのもありますが、何よりゲーマーという人間の実態について外に向けて発信したかったという気持ちがあったので執筆に協力しました。

私はゲーマーが実際はどういう存在なのかを伝えることを考えて、徹底して自分の体験に基づいた内容を書きました。わざとわかりにくいことを書こうと思ったのでなく、そこに嘘偽りを入れたくなかったという純粋な気持ちですね。

Jini:そもそもどうして、そこまで実直に書こうと思われたのですか? 誤魔化してしまっても良いと考える人も多いと思います。

live:eスポーツはマスメディアのフィルターを通してみれば、「綺麗」なものに見えると思います。それが悪いわけではないんですけど、けどそれはeスポーツの一側面に過ぎないことを理解してほかったんです。

プロゲーマーにせよ、そうでない人にせよ、ゲーマーと呼ばれる人は純粋にゲームというものが好きで、そして勝ちたいとだけ考えている。彼らの生き方は清廉潔白な精神論のようなものではなく、歩んできた過程はもっとドロドロしていて、「綺麗」なものではありません。けどだからこそ、私は価値あるものだと思います。

私は、この本を読むであろう普段eスポーツにそこまで興味を持たれていない方が、そういった「綺麗」なフィルターを通したイメージを持ったまま、急にドロドロしたゲーム由来であるeスポーツの実態に触れることで、ガッカリしてほしくなかったんです。だから、できるだけ実態としてのゲーマーの姿を伝えたいと考え、このような文章になりました。


ブログではストレートに主観を伝えたい

Jini:liveさんのお考えはすごく正しいと思います。興味を持ってもらう上で「綺麗」なイメージも必要だけど、結局そこから実態との落差があると後が続かない。

誰かが書くべき内容を、この本に掲載できたのはすごく意味があると思うし、それはliveさんぐらい筆力がある人にしかできない事だと思います。

live:持ち上げすぎですよ(笑)。

Jini:いえ、ブログも何度か拝読させていただいてますが、よく考えればブログのタイトルも「清濁のるつぼ」なんですよね。

live:はい。その「清濁のるつぼ」、清らかさと濁りが混ざりあったるつぼこそ、私が見てきたeスポーツであり、そして私がずっと伝えたいと考えてたものですね。

Jini:今回の記事も、「清濁のるつぼ」も、かなり徹底してliveさんの一人称視点で語られているじゃないですか。読んでいる側としても、その方が迫力があって読みやすいんですけど、どうしてこのスタイルに行き着いたんでしょうか?

live:ストレートに自分の体験を主観的に伝えた方が、より多くの人に説得力を感じてもらえるんじゃないかと考えたんです。

自分は『ぷよぷよ』を5歳頃から触り始めて、それからずっとプレイし続けているんですが、ただ必ずしも「一番強くなろう」という高い志をもって『ぷよぷよ』に取り組んでいたわけではありません。どちらかというと、『ぷよぷよ』をプレイせずにはいられないという気持ちの方が強かった。

それが、2018年にJeSUからプロライセンスをいただいた時に、自分の立場を客観的に認識し、もっと『ぷよぷよ』のシーンを盛り上げようと考えて、今のような姿勢で発信を行うようになりました。

けれど、それでいきなり綺麗なことだけ言うのは違うよなと思って、プロになる以前の感性や視線も持ち合わせた状態での執筆を心掛けています。その結果、主観的で少し卑屈とも取られるような、今の文章になっています。



liveがコミュニティに懸ける想いとは何か

Jini:面白いなと思ったのは、liveさんの文章は主観的でありながら、常に自分の他にコミュニティを支えたいという気持ちが表れているところです。

現に、「清濁のるつぼ」でも自分が強いと思った選手を何人も紹介したり、『1億3000万人のためのeスポーツ入門』では「ゲーマー」や「コミュニティ」が主語にあるわけじゃないですか。

プロになった今だからこそ、プロではない、光の当たらないゲーマーの姿勢も尊重してほしいといったような気持ちを持たれて活動されている方は、本当にliveさんぐらいじゃないかなって。

live:そんな大げさなものじゃないですよ(笑)。

やはりスター的な活躍をされている選手の方が、いかに自身をブランディングするかって考えるのはごく当然のことだと思います。誰だって夢見るのは、我が身の立身出世です。

ただそもそも、スター選手が相応の評価を得られるのも、それだけコミュニティに熱量があって、育っているという前提ありきですよね。『ぷよぷよ』は確かに歴史も長く、プレイヤーもコミュニティもある程度盛り上がってはいるんですが、それでもメジャーなeスポーツタイトルと比べればまだ少し足りない。

だからこそ、他の人気タイトルと同じ程に、スター選手がスターとして輝けるような環境を作るため、私は他のプレイヤーを紹介したり、総合的に見てコミュニティを盛り上げる活動を行っています。そうすれば自分もより幅広い分野から興味を持った方々に評価されるかもしれませんし、ある意味では打算的な行動ですよ(笑)。


Jini:確かにその理屈はわかるんですが、それでも中々コミュニティのために全体を見て行動できる方は少ないと思うんですよ。

liveさんだけでなく、『ぷよぷよ』の有名プレイヤーは大会を主催したり、その大会で実況解説したり、大会の様子を動画配信していたりする方が多くて。すごく「自分たちで盛り上げよう」という意識が強いように思えます。

live:これもさっきの答えと少し似ているんですが、コミュニティの志が高かったというより、自分たちで作らなきゃいけなかったという状況から、必然的にそういった能力を身に着けていった感じですね。

大会を開いてもらえない? じゃあ自分たちで開こう。実況解説できるキャスターさんがいない? じゃあ自分たちでやろう。そんな自給自足の精神でやってます(笑)。

今では公式を含めた大会も充実しつつあるんですが、そういった経験を積んだ方が多いので、「誰かに頼むぐらいなら、自分たちでやった方が早いかな?」と考えるのだと思います。

もちろん、自分の生活がある以上、基本的に無償でどこまで『ぷよぷよ』を支えられるのかという葛藤は、私だけでなく今『ぷよぷよ』シーンを支えてる人の多くが抱いていたと思います。

けどそれ以上に、私の場合はやっぱり『ぷよぷよ』と『ぷよぷよ』のシーンがどうしようもなく好きなので、もっと『ぷよぷよ』を見られるように自分にできることはやっていきたいなと考えています。

▲とにかく発信するliveさん

『ぷよぷよ』は人生で

Jini:当たり前なんですが、プロゲーマーの方と話すと、やっぱりみんな自分が遊んでいるゲームが一番面白いと考えてるんですよね。そりゃ、特定のタイトルを何千時間、何万時間と遊び続けているわけですから。

それでも、『ぷよぷよ』というゲームと、そのコミュニティは特殊だと感じるんです。ただ情熱があるんじゃなくて、「今後もコミュニティや競技シーンを続けよう」という意志があって、実際それで何十年と続いてきた。これは何故だと思いますか?

live:そうですね。やっぱり『ぷよぷよ』は替えの利かないゲームだからだと思います。他のゲームであれば、ゲームタイトルそれ自体の競技人口が少なくなっても、同じジャンルの新しいゲームにプレイヤーが移動してまた盛り上がるということも可能ですよね。

『ぷよぷよ』の場合はなかなかそうもいきません。30年近く続いているシリーズですが、やはり『ぷよぷよ』を遊びたいと思ったら、選択肢は『ぷよぷよ』しかないんです。

もちろん、同じパズルジャンルでもタイトル毎の魅力があり、その魅力に惹かれて集まってくるプレイヤーはかけがえのないものだと思いますが、それでも『ぷよぷよ』の場合は「自分たちにはこのゲームしかないんだ」という気持ちがプレイヤーの間にあるんだと思います。

ただこれも美談だけではなく……。

Jini:どういうことですか?

live:長く続いたコミュニティはやはり人の入れ替わりが少ないので、新しい人が入りづらい雰囲気になってしまうんですよね。元々『ぷよぷよ』というゲーム自体が突き詰めていくほど難しくなる部類ですし、その上で込み入った人間関係が生まれると一種の村社会になってしまう。

それが先ほども挙げたような居場所としての魅力でもあるんですが、やはり新しいプレイヤーが増えないと最終的にはコミュニティが衰退してしまいますから、自分は積極的に新しいプレイヤーを「清濁のるつぼ」で紹介したり、また『ぷよぷよ』を知らない人にもその魅力を理解していただけるような記事を書いてますね。


Jini:WELLPLAYED JOURNALさんでも解説記事を書かれていましたよね。

live:はい。先ほど紹介した、但木さんと知り合うきっかけになった「AnimEVO2018で優勝したが、僕の誇りは粉々に破壊された」という記事も、『ぷよぷよ』を知らない人も視野に入れて書いた記事ですし、今回本に寄稿したのもそうした意図です。

ゲームが強いことだけがプロの評価基準にならないために

Jini:なるほど。やはりliveさんは限りなく「内」にいながらも、「外」を見て色々行動されているんですよね。

そうしたコミュニティの継続や発展を望むliveさんですが、最終的にはどのような『ぷよぷよ』シーンを望んでいますか?

live:もちろん、『ぷよぷよ』というシーンで活躍するだけでご飯を食べていけるような環境を作れたらと思います。

けど同時に、プレイヤーの立場としては『ぷよぷよ』以外のことにも目を向けてほしいと考えていて。

Jini:それは何に対してですか?

live:「ゲームが強い」ということだけがプロゲーマーを評価する唯一の基準になってもいいのか、という疑問があるんです。SNSの発言に配慮する協調性や、動画や記事を通してファンと交流する力も評価されてほしい。

もちろん、『ぷよぷよ』で勝ち続けるだけで生活が成り立つようなレベルまでコミュニティが盛り上がる、というのは私の理想です。

ただ、私自身『ぷよぷよ』というゲームを通じてゲームの腕以外にも色々なことを学びました。ブログ「清濁のるつぼ」で色々な文章を書くこともそうですし、多くのファンの方が見ている中でどう振る舞うべきかとか、大会を運営する中での工夫もそうです。更に『ぷよぷよ』を通じてたくさんの友人にも恵まれました。

私はこれからもずっと『ぷよぷよ』を続けていくと思いますが、同時に『ぷよぷよ』は自分の人生において色々なものを学んで、得ることができた経過点でもあると思っているんです。


Jini:『ぷよぷよ』というゲームを極める過程で、人としても成長できたと。本の中でliveさんは、

「私たちゲーマーにとってゲームコミュニティは救いの場にもなりえた。何故かというと、私たちはそこで「素晴らしい人間」を演じる必要が一切なかったからだ。」

と述べられていますが、すごく共感できる一節だったと同時に、これを自力で気付ける人はいないと思うんですよ。ただダラッとコミュニティの中で過ごしていることが、実社会では中々得られない体験で。

だから、liveさんにとって『ぷよぷよ』が人生における通過点だったんだろうなってすごく納得できますね。

live:人間ってやっぱりコミュニティの中で生きなきゃいけないわけですよ。学校に通えば同級生がいて、後輩や先輩もできる。会社に行けば上司や取引先もいる。そんな中で、やっぱりうまく折り合いがつけられない人って絶対にいるんですよね。私もあまりたくさんの友達に囲まれてきた人間ではないので。

でもそういう人たちが集まって新たにコミュニティを作って、自分たちがやりたいことに集中できているというのは、本当にすごいことだと思うんです。だから「救いの場」という表現はオーバーでもないと思っていますし、そのコミュニティがずっと続いてほしいですよね。

Jini:ありがとうございます。eスポーツのコミュニティって本当に儚いもので、自分も記事に書いたんですけど一種の夢なんですよね。必ずいつも集まれる場所もなくて、タイトルだっていつまで続くかわからない。

けれどそんな場所で、そんな場所の価値を紡ぎ続けるliveさんは本当に尊敬しますし、『ぷよぷよ』以外の自分たちが好きなeスポーツのシーンを続けていくためにも、見習いたいと考えています。

では最後にうかがいたいんですが、liveさんはどうしてそんなに文章がお上手なんですか?もしかしてこっそり小説とか書いてます?

live:僕は全然上手いとは思ってませんよ(笑)。あまり本も読んだことないですし。

ただ、そうですね。昔から自分のことを客観的に内省することが多くて、それを文字に起こしていたら今に至っています。そこに書くべきことがあるなら、誰でも良い文章が書けると思います。


―――

書籍の中でも「ゲームコミュニティは救いの場にもなりえた」と話すliveさん。

ゲームをどこまで愛するからこそ、そこから生じる体験や人間関係さえ愛してやまないliveさんは、まさしくプロのゲーマーと呼ぶべき姿勢で仕事に取り組み続けています。

逆に言えば、『ぷよぷよ』というゲームには、一人の人生にここまで影響を与えるほど面白すぎるゲームというわけですから、その深淵を自分もぜひ覗いてみたいと感じました。

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