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8名共著はeスポーツ現場のリアリティを伝えるため ──ゲーム/eスポーツ業界アナリスト 但木一真インタビュー【シブゲーアーカイブ】

※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2019年5月22日/執筆:ゲーマー日日新聞 Jini)

NTT出版により、2019年6月3日(月)から発売が予定されている、eスポーツ業界の8人の「中の人」が独自の目線と立場で寄稿した書籍『1億3000万人のためのeスポーツ入門』

従来のeスポーツ書籍にはないディープな切り口で書かれている面もあれば、業界のことを何も知らない人が読んでも把握しやすい編集が施されている本著ですが、SHIBUYA GAME編集部はまだまだ面白そうな話が眠っていると判断し、寄稿者たちへ怒涛の7連続インタビューを敢行することとなりました。

聞き手として、独立ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」を運営するJiniさん(@J1N1_R)に、紙面に書ききれなかった彼ら、eスポーツの”あいだ”ではたらく人々の真意を探っていただきます。

―――

ゲーマー日日新聞のJiniです。

以前SHIBUYA GAMEの編集長に「eスポーツ業界の吉田豪さんになりたい」と分不相応な夢を話したところ、何故かゴールデンウィークに呼び出されて7連続インタビューという前代未聞のサプライズを頂きました。僕の無為な休暇の使い道をご用意していただき、編集部には感謝しかありません。

第1弾は『1億3000万人のためのeスポーツ入門』の編著者である但木一真(@k_tadaki)さん。大手コンサル・Gzブレインを経て、現在はフリーのeスポーツ業界アナリストという非常に特異な方で、Discordコミュニティである「eスポーツの会」や、eスポーツ産業を研究する「eスポーツラボ」の管理人でもあります。

今回のインタビューでは、本著を書くことになった経緯、そして何故この8人を共同著者として集めたのかを、本著の魅力と共に但木さんにうかがいました。

現場のリアリティを伝えるために8名共著に

Jini:さっそくですが、今回『1億3000万人のためのeスポーツ入門』を作るきっかけを教えてください。

但木:この企画は共著者である弁護士の松本さんから持ちかけられたものです。松本さんから以前から「自分たちで本を書こう」という話はしていました。

というのも、eスポーツの情報や知識はいまウェブメディアに大量に蓄積されていっていますが、一方で書籍や雑誌といった紙媒体はかなり少ないんですよね。

そしてこういった紙媒体を愛読している方こそ、一般的に年配で経済力もある人、要するに企業の方であり、こういった方々にアプローチできる本を書きたかったんです。


Jini:なるほど。それでも但木さん1人か、松本さんと2人で本を書く選択肢もありましたよね。どうして8人も集めようと思ったんですか?

但木:これは自分がGzブレインで仕事していた頃、国内のeスポーツ業界を俯瞰できる立場にいた事が大きいですね。

そうした立場で働いた経験から、eスポーツには色々な現場があり、そこで働く人の在り方もまた様々だという事を知りました。そうした現場だから見えてくるリアリティを、どうにか伝えたかったので共著者を8人に増やした経緯があります。

ところで、Jiniさんとしてはどの章が良かったですか?

Jini:「良さ」ではどれも負けず劣らず読み応えがあったんですが、正直この本で一番ガツンと来たのはliveさん(『ぷよぷよeスポーツ』のプロプレイヤー)の章でした。他の方はビジネス目線で一歩引いた目線で色々書かれてるんですが、liveさんの章は一番「前のめり」で、とても共感できたんです。

「(中略)私たちゲーマーにとってゲームコミュニティは救いの場にもなりえた。何故かというと、私たちはそこで『素晴らしい人間』を演じる必要が一切なかったからだ。」

とかすごくいい。

但木:liveさんの章はカウンターなんですよ。

eスポーツって世間的にはキラキラしたものと受け取られてて、実際私たちもそう見せてる面はあります。私が担当した章も、統括という立場もありかなり外向けに、ポジティブなイントロを作ろうという意図はあったんです。

けれど一方で、それが全てではないのがeスポーツの面白いところで。実際には泥臭い部分も多いし、eスポーツならではの課題だってたくさんあるわけです。

liveさんはそうしたリアリティを言葉にしてくれていて、例えば自分をプロゲーマーとして周囲が評価してくれていることに、どこか卑屈に考えてしまう面があったり。ゲームを遊び続けることへの焦燥感や劣等感もあったり。

そして、それこそeスポーツの魅力の一面なんです。だから、この本を手に取った人にもぜひ、liveさんのカウンターをくらっていただきたいなと。くらった上で、面白そうじゃん! と思ってほしいな、という期待があります。


Jini:なるほど、確かにカウンターとして強烈に響きました。プロゲーマー目線で書いてもらうとして、候補は一番多かったと思うんですけど、よくここにliveさん入れましたよね。

但木:まず『ぷよぷよ』のシーンが面白いんですよね。誰もが知ってるゲームだし、何よりプレイヤーと運営の距離感がすごく面白い。

liveさんに限らず『ぷよぷよ』のプレイヤーって積極的に意見する方が多いんです。他のゲームだと、パブリッシャーとかチームに配慮して意見は自粛しようという空気も少し感じるんですが、それに対して『ぷよぷよ』のプレイヤーって仮にスポンサーがついても、賛否あるテーマにも言及する人が多い。

同時に、そうした声を運営側のセガも聞き取ろうとしていて、両者ともにすごいなと思うんですよ。

Jini:『ぷよぷよ』の有名プレイヤーの方ってゲームで強いだけではなく、そのうえでイベント運営、実況解説、liveさんのようなブログ執筆までされる方までいますよね。バイタリティが本当に高い。

残る執筆陣の正体は?

Jini:一方、「eスポーツ今昔物語――2018年までのシーンをふりかえる」を書かれたなぞべーむさんもliveさんと似て率直に発言する方ですが、内容としては割とベーシックなところで抑えていますよね。

但木:まず、eスポーツという言葉はそもそも、「ゲーム」に限らない包括的な概念を持っているからこそ面白いと考えているので、そうしたスペシャリストよりはジェネラリストの意見も掲載したかったんですね。

ですが、eスポーツ業界を語れる人って結構少ないんですよ。特定のタイトルやジャンルに詳しい方は多いんだけど、それらを統括して見られる人は限られている。

その中で、タイトルからイベント、経済など色々なものを網羅できる人として、なぞべーむさんが一番優秀だと自分は思うので今回お誘いしました。


Jini:eスポーツを包括的に語る手段は色々あったと思うのですが、今回歴史的な文脈に注目した理由は何ですか?

但木:私自身、セミナー等であちこち飛び回って、毎回「eスポーツとは」と一番最初の部分から語ることに飽き飽きしつつあるんですが、最初に述べたような普段ゲームやネットに関心を持たない企業の方にeスポーツを説明するためには、やはり根底的な部分からお話ししなければなりません。

そういう方々を読者として想定しているので、どうしてeスポーツが生まれたのかという経緯、歴史は最も重要だと思います。

Jini:確かにこの本の想定した読者を考えれば必要な部分ですね。ただ私自身、なぞべーむさんのファンで、だから彼にはもう少し掘り下げた部分から、エッジの効いた話を書いてほしかった気持ちはあります。

但木:自分の章もそうなんですけど、正直そこまで自分が心から書きたいものでなくても、eスポーツ業界を知らない方に向けて書く以上、前提として知っていただかなければならない知識があり、だからこそ我々2人はあえてフォローに回ったという形です。

他の4人の執筆者には、ガッツリと自分の得意分野で書いてもらい、濃い本に仕上げた自信はあります。

Jini:大人の事情ってやつですね。確かに2人が抑えに回った分、他の章はゲーマーや業界人でも刺激的な内容だったと思います。

例えば、Rush Gamingのオーナーである西谷うららさんの章は弾けていてよかったですね。チームオーナーだともっとベテランの方でも良かったと思うのですが、何故あえて西谷さんに?

但木:一つは年齢です。日本のチームオーナーの世代は3世代ぐらい分かれてて、40前後の先駆者世代、西谷さんがいる30前後のミドル世代、他には20代のカリスマ世代も生まれつつあります。

もちろん、開拓者として道を切り開いてきた、先駆者世代の方々は偉大で、彼らに書いてもらうことも考えましたが、彼らは成功体験を経て本や講演などで外に出て、ちゃんと自分の考えやノウハウを発信していらっしゃいますよね。

一方西谷さんの世代は、先駆者世代が開拓してきたノウハウを踏襲しつつ、例えばSNSの発信や動画コンテンツの配信など新しい取り組みにも積極的で、非常に面白いと思うのですが先駆者世代のオーナーさんほど注目されていないので、ここから引っ張りたいなと。

加えて、男性が多いチームオーナーの中で西谷さんは女性の立場を活かしてチームをプロデュースしています。例えば、いかに選手を魅力的に見せるかという工夫、そして文章にもある通りファンが何に共感したり感動するかを凄く意識してチームを運営しているんです。

Jini:日本テレビの佐々木まりなさんの章は対比と論理をガッチリ固めて、それでいて「我々のやり方はこんな強みがある」と主張していて読み応えがありました。

但木:佐々木さんもうららさんと大体同じ世代、もっというと自分もその世代なんですが、我々30歳前後の世代は基本的にテレビとネットという2つのメディアの過渡期を生きてきた世代なんです。テレビは少しずつ若年層からの支持を失って、もう数十年前の「マスメディア」ほどの「マス」ではなくなりつつある。

その時代で、佐々木さんは自らテレビの世界に飛び込んで行って、しかもeスポーツという基本的にネットで発展した文化をテレビに持ち込んで、そこに新しい価値観を作っていく。そういった姿勢は本当に尊敬しますね。


Jini:佐々木さんの章のタイトルが「テレビとeスポーツ」ですからねぇ。それは2つのメディアを知っている彼女の世代的な認識もあるし、加えてテレビとゲーム両方への敬意を持っていることもそうなんですけど。

同時に、まりなさんの言葉からは、マスメディアとしての使命感、責任感というのも感じるんですよね。弁護士の松本さんもそうだけど、公共の電波を使う事業である以上、まりなさんが携わるマスメディアには社会的な責任が特に生じるわけじゃないですか。

但木:実際のところ、eスポーツというムーブメントを今後何年も続けていく上では、ウェブ上の若年層だけで完結しているだけでは厳しいんですよね。

いずれはテレビの持つ「マス」に対する訴求力が必要になってくるわけで、まりなさんを含めたマスメディアの貢献というのは、eスポーツ業界にとってもすごく大きなものだと思います。

Jini:そうなんですよね。テレビにおけるeスポーツの報道は少し緩く加工されていて、そこに対して批判もあるんですけれど、やはりそういった広い視野が必要になる。

但木:ザックリとしたビデオゲームの競技シーンが行きつく先が、eスポーツという概念で終わりなのかという点は議論の余地があると思います。

仮にeスポーツという言葉がない時代でも、そこにゲームで切磋琢磨する人はいたわけだし、将来eスポーツが別の概念に変わったとしても、それが悲嘆すべきことかはわからない。ただ、先ほどチームオーナーの方の話にもあったように、先人の方々が切り拓いて作ってきた世界ですから、そこは大事にしたいなと。

Jini:はい、この本を読んでいて本当に多くの方に支えられている世界なんだなと実感しました。弁護士である松本さんはどうして関わられたんでしょうか。元々この本は彼の提案だったそうですが。

但木:松本さんは大変フットワークの軽い方です。この本のアイデアは彼のものだし、彼は東京大学法学部を出て弁護士になったすごいキャリアの持ち主ですが、それをひけらかすでなく悠々と仕事されてるんですね。

彼自身がプライベートで『PUBG』や『Overwatch』を遊ぶこともあって、ごく自然とこの業界で仕事されている。そういった能力と対応力から、今回は松本さんに書いてもらいました。

Jini:松本さん本当にスペック高いですね……。まだそこまで多くの法律家の方がeスポーツに関わっているわけではないですが、今後eスポーツの発展には彼らの力がもっと必要になりますよね。

 但木:これまでeスポーツ業界における法律家の仕事は、外的な法的課題をクリアすることが主だったと思うのですが、今後はガイドラインの整備など、もっと業界の内側で制度を整えるうえでも、彼らの力が必要になると思います。

Jini:確かに、外に対してだけでなく内に対しても法的な知識は必要ですよね。最後に入っている但木さん、松本さん、小澤さん、荒木さんによる座談会も興味深かったです。

但木;もともと「eスポーツの会」を立ち上げたメンバーですね。最後に、世代を超えた議論をやってみたくて座談会の機会を設けました。特に荒木さんは10代の方なので、ぜひその目線も入れたいなと。

Jini:なるほど、ビジネス向けでカッチリした内容の本著の中では、箸休め的に読めてよかったですね。荒木さんは学生の立場で起業されて、「e-mode」というサービスも作られている。小澤さんもNTTデータからこの業界に飛び込むという、すごい経歴の持ち主で。

但木:2人とも優秀な方です。こうした若くてやる気に満ちた方がeスポーツ業界に参入されていることは本当に喜ばしいことですね。

Jini;あと座談会における但木さんの発言で気になったのが「eスポーツ部は逃避の場所でもいい」という発言で。


但木:eスポーツにしてもビデオゲームにしても、既存の文化から学べることはガンガン学んでいくべきだし、だけど必ずしも既存のアナロジーに縛られる必要もないなと思っていて。

例えば、『フォートナイト』に「ザ・ボーラー」という乗り物があるんですけど、透明なカプセルの中に自分が入って、好きなだけ転げまわったり飛んだりできる。もうそれだけで楽しいんですよね、すごく非現実的なことをゲームの中でやっているということが。

ゲームを遊んでいる限り人は自分の肉体に縛られる必要もなくて、その結果として多様な人間が参加できるエンタメになっている。無論、いまだに差別や暴言等の問題もあるけれど、こういった部分がゲーム、そしてeスポーツの魅力なんだと思います。

Jini:昨今、SNSや動画配信サービスによって、純粋に価値観だけで繋がれるものが増えたと思うんです。ゲームもそこに凄くアジャストしたエンタメで、だからこれらのサービスとも相性がいい。

ではそろそろお時間ですね……。これを聞くのは時期尚早ではあるのですが、続編を書かれる予定はありますか?

但木:少なくともこの本の続きは当分書かないと思いますね。私は、本を最後のプロセスだと思ってます。最新の情報はSNSで手に入ってて、それをWebメディアがまとめて議論を起こす。それを最終的に保存するために、残ったものをまとめて本にして、業界の外にも訴求すると。

Jini:「待て、しかして希望せよ」と。本日はありがとうございました。

※ ※ ※

eスポーツ業界のアナリストとして常に「外」に目を向けて発信を続けてきた但木さん。

この『1億3000万人のためのeスポーツ入門』を編著した理由も、やはり「外」にありました。eスポーツを知らない人にeスポーツを伝えるにはどうすればよいか、そうした苦悩が彼の言葉の随所から伝わります。

だからこそ、近い世代の人間を集めて、深度、角度、なにもかもバラバラなようで、通してみると全てがつながる本著を但木さんは書いたのでしょう。常に情熱的に、そして敬意を滲ませながら、同じ最前線に立つ仲間のことを話す但木さんの言葉には淀みがなかったのです。

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