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イベンターに学生起業家、若き才能はeスポーツの明日をどう読むのか 小澤脩人・荒木稜介 インタビュー【シブゲーアーカイブ】

※本記事は「SHIBUYA GAME」で掲載された記事のアーカイブです。当時の内容を最大限尊重しておりますが、ALIENWARE ZONEへの表記の統一や、一部の情報を更新している部分もございます。なにとぞご了承ください。(公開日:2019年7月14日/執筆:ゲーマー日日新聞 Jini)

NTT出版により、6月3日(月)発売された、eスポーツ業界の8人の「中の人」が独自の目線と立場で寄稿した書籍『1億3000万人のためのeスポーツ入門』

従来のeスポーツ書籍にはないディープな切り口で書かれている面もあれば、業界のことを何も知らない人が読んでも把握しやすい編集が施されている本著ですが、SHIBUYA GAME編集部はまだまだ面白そうな話が眠っていると判断し、怒涛の7連続インタビューを敢行することとなりました。

聞き手として、独立ゲームメディア「ゲーマー日日新聞」を運営するJiniさん(@J1N1_R)に、紙面に書ききれなかった彼ら、eスポーツの”あいだ”ではたらく人々の真意を探っていただきます。

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ゲーマー日日新聞のJiniです。

今回は『1億3000万人のためのeスポーツ入門』巻末にある座談会に登場される、株式会社JCGの小澤脩人さん(当時)(@shoot_rex)、そしてCrosshare株式会社代表取締役の荒木稜介さん(@ryosuke_hsx)にお話をうかがいました。

小澤さんは27歳、荒木さんはなんと19歳という、執筆陣の中で最も若いお二人に、「eスポーツをスポーツとして教育に取り入れるためにはどうすべきか?」「ゲーマー同士を繋げるWebサービスを何故開発したのか?」など、今もっともアツい話題を投げかけてみました。

若くしてeスポーツの前線に立つ2人

Jini:まずお二人が今何をされているか教えていただけますか?

小澤:昨年7月からビットキャッシュのeスポーツ事業部に入社して、SHIBUYA GAMEの企画や営業を担当しながら、グループのアライアンス推進を担当していました。今年の4月からはグループ会社のJCGに出向してイベントの受託や制作、運営などを含めたマネジメント等に携わっています。

荒木:今は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)に通いながら、かつてDeNAにインターンとして働いた時に得た知見を活かしてCrosshare株式会社を設立し、そこでゲーマー同士がマッチングできるプラットフォーム「e-mode」を作りました。(※2020年3月10日よりサービス休止中)


Jini:元NTTデータに学生起業家、二人ともスペックたけぇ……。ではお二人はどうして今回『1億3000万人のためのeスポーツ入門』の座談会に参加されたんですか?

小澤:元々「Esportsの会」というDiscordのサーバーを管理するメンバーだったという繋がりからですね。私や荒木さんは元々編著者である但木さんと面識があり、但木さんが幅広い年代の意見を聞きたいと考えて書籍の最後に「座談会」を設け、そこに少し世代の若い我々が呼ばれたという形です。

Jini:お二人とも但木さんと面識があるんですね。但木さんって「eスポーツアナリスト」って非常に珍しい属性の方なので、名前は知ってるけど正体はよくわからないという人も多いと思います。

お二人にとって但木さんってどんな方なんですか?

小澤:私がまだビットキャッシュに入る前、業界のことを詳しく知ろうと情報収集しているときに、但木さんのTwitterアカウントを発見したのが彼との出会いでした。

但木さんご自身、広い人脈を持ちながら、それらを体系立てて俯瞰的に整理できる方だったので、今でもよく勉強させてもらってますね。

荒木:私も小澤さんと同じで、情報収集しようとして但木さんを知りました。それから事業を本格的に興そうと考える中で、eスポーツ業界について本格的に議論できる相手を求めていて、その中で直接但木さんとお会いし、大変有益なアドバイスをいただきました。

Jini:なるほど。皆さん立場は違えど情報交換のために但木さんと知り合い、その中で書籍の執筆という話になったと。

eスポーツを教育に導入する上で必要なもの

Jini:さて、これは率直な話なんですが、皆さんはあくまで「座談会」としてこの書籍に関わられたわけですが、本音を言うと自分自身で書いてみたかったと思ったりしませんか?

小澤:もちろん、可能であれば書きたかったですが、企画の話を伺った当初は、まだ自分で章を担当できるほどの知見と経験がありませんでした。今であれば、書いてみたいことならありますね。

私は小中高とずっと野球を続けていて、その間も水泳や剣道などフィジカルのスポーツにずっと打ち込んでいたので、教育上eスポーツをどう取り扱うべきかという観点なら独自のネタが書けると思います。

Jini:ほうほう。詳しくお聞かせください。

小澤:僕はゲームもスポーツも好きなので、「eスポーツはスポーツか」なんて議論には興味がないんですけれど、一方でeスポーツを部活など教育のカリキュラムの中で取り組むなら、一番効果的なアプローチは何かもっと考える必要があると感じています。

例えば、ただゲームを遊ぶだけなら何時間でも出来ますが、明確に目標を立てた上で、例えば今月中にはこれを達成するために、今日はこんな練習をしようと集中して取り組むゲームは数時間も連続でプレイすることは難しい。

これはプロゲーマーと呼ばれる選手の方も同じですよね。彼らは一日中ゲームを遊んでいるように思われていますが、ちゃんとしたチームであればスクリムと呼ばれる試合と、そのスクリムを踏まえた反省会、更に個人のソロ練習としっかりカリキュラムを考えて練習しているからこそ、プロとして活躍できる能力を身に着けているだけです。私自身、アマチュアですが、チームに所属してゲームをプレイしていたので、実体験としても感じたことです。

つまり、eスポーツを部活動など教育のカリキュラムに導入するのであれば、ただゲームをダラダラと遊ぶのではなくて、しっかりと目標意識を持って挑戦することで、社会に対して教育上eスポーツは価値があると証明できると私は考えています。そうした意識的な取り組みだからこそ、ゲームの技術以外にも協調性や集中力など養える能力も多いと思いますし。


Jini:小澤さんは書籍の座談会でも、「ただ、遊びでゲームをしているのか、eスポーツの競技として取り組んでいるのか、その線引きは必要だと思います」とした上で、同様の意見を発言されていましたね。

小澤:はい。実のところ、この問題はeスポーツに限った話でもありません。私も野球を中心に色々なスポーツに取り組んでいましたが、例えば朝8時に始まり夜10時に終わるような練習も珍しくなく、そうした物量作戦が美しいように考える人も少なくありません。

けれど実際のところ、練習時間が長いほど「ただやればいい」と思ってサボる人も出てきますし、そうなると目的がいかに練習時間を過ごすかということになってしまう。もちろん、基礎体力をつけたり、ある程度の練習量は必要なんですが、そこには合理性がなければならない。練習は量より質です。

そういったフィジカルスポーツで得た気付きや反省点を、eスポーツにも活かしたいと考えています。

Jini:う~ん、これ本当に大事なことなんですよね。この企画で以前、弁護士の松本さんにインタビューした時も、東京大学を目指して受験勉強している最中にゲームを遊んでたと言ってて、やっぱりしっかり勉強した上なら息抜きするのも大切、なんですよね。

小澤:そこが教育でゲームを使う上で難しい点なんですが、要するに練習もゲーム、息抜きもゲームになっちゃうので、傍から見ると集中してるのかサボってるのか伝わりにくいんですよね。

例えばプロゲーマーでも、試合のために集中して練習するけど、休憩時間には全く関係ないゲームを遊んで、その様子を配信していたりする。もちろん彼らは自己管理できていると思いますが、学生の段階でその線引きをするのは難しいだろうなと。

荒木:僕も学生の頃はサッカーに取り組んでいて、まったく同じことを実感しました。面白いことに、強豪校と呼ばれるような学校のチームであるほど、試合中と試合後のオンオフがちゃんと付けられるんです。例えば、コートの上だと真剣そのものなのに、試合が終わってホテルに引き上げると皆でワイワイ盛り上がってたり。

要するに、なんでもスイッチを切り替えられる人と、中々切り替えられない人がいて、そこをeスポーツの教育でどう教えられるのか、そもそもその問題を認識しているのか、という懸念がありますよね。


Jini:小澤さんはあくまで運動部の経験でこう仰ってますが、私も文化系の部活にいてまったく同様のことを経験しました。

例えば、読書が私の趣味なんですが、本当にダラダラと緩い小説を読むのも読書であれば、一方で高度に練られたテキスト、世間的に純文学と呼ばれるような作品を、一文一文かみしめながら読むのはめちゃくちゃ大変なわけです。僕は高校生の頃にトルストイの『戦争と平和』を読みましたが、全部読むのに半年ぐらいかかりましたね(笑)傍から見ると、単に文字を見つめてるだけなのに。

また僕はゲーマー日日新聞というメディアでゲームの批評をしてるんですが、それはただサクッとゲームを遊んで消費しようというより、ちゃんとその作品の価値を見つめなおすことに注力している。eスポーツでなくとも、ゲームを遊ぶという行為自体、小澤さんの言う真剣な取り組みとそうでない線引きは存在すると思います。

小澤:Jiniさんはゲーマー日日新聞ってアウトプットの場所がありますから、ちゃんと読者に伝わるように文章を書こうって目標を立てたり、読者からのフィードバックを活かして協調性を養うってこともできますからね。

なので、やはりeスポーツで培った技術をより普遍的な経験にまで還元するには、明確かつ大きな目標が必要だと思います。

具体的には、学校で生徒とチームを組んで練習するにしても、アマチュアリーグなのか、学校対抗なのか、プロリーグ参入なのか、こうした目標を立てた上で、その目標に到達するには何をどれだけ取り組めばいいのか考えつつ、全員で計画的に練習するなどすれば、やはり生涯忘れられない思い出になると思うんですよね。

最近では毎日新聞さんが高校生に向けた大会を作ったり、学生向けの仕組みも徐々に作られています。また、僕は現在JCGという会社でイベントの制作や企画も行っているので、学生たちのゴールも僕らで作っていきたいと思ってます。


ゲーマー同士をマッチングさせる意図

Jini:さて先ほど小澤さんに聞いたので、次は改めて荒木さんにお伺いします。この書籍で自分の章を持つとしたら、どのような文章を書いたと思いますか?

荒木:執筆陣の中では唯一の学生ですから、eスポーツ業界における学生起業家の立場で自分が成功した点や逆にうまくいかなかった点を総括するような章を書いてみたいですね。


Jini:荒木さんはe-modeというゲーマー同士がマッチングするプラットフォームを作りましたよね。どうしてe-modeを作ろうと考えたんですか?

荒木:ゲーマーのコミュニケーションをもっと円滑にしたいという意図がありました。

まずゲーマーと一言に言っても、実際のゲーマーは千差万別です。遊ぶゲームもeスポーツと呼ばれる競技性の強いゲームから、一人で遊ぶゲームまであるし、同じeスポーツのゲームでもクランを作って毎日練習する人もいれば、友達とコミュニケーションツールとして利用する人もいる。

で、これほど個性の強いゲーマーの人たちが、同じ個性を持った人と出会うことは今現在難しいと私は考えていて、e-modeは利用する人々のパーソナリティに透明性をもたらして、自分と合う人を効率よく見つけられるプラットフォームとして設計しました。

Jini:e-modeはSNS上の発言をまとめつつ、それらをフィルターで分別できるんですよね。まさに荒木さんの考える目的通りの設計だと思います。

荒木:まだまだ開発途中ですけどね。精度をもっと上げたいですし、将来的には単に発言のフィルタリングだけでなく、ユーザーのパーソナリティを自動で分析して、そこからマッチングできるようになればと考えてます。

Jini:あぁーなるほど。正直、僕と荒木さん結構歳が近いのもあるのか、僕はすごくe-modeの思想に共感できるんですよね。

昔はテレビや新聞という唯一のマスメディアが存在して、基本的にそこに全員が乗っかるもので、乗っかれないと共同体に居場所がなかった。けれど今はSNSや動画配信サービスが発達して、逆に自分だけのメディア、コミュニティを持つ時代じゃないですか。

純粋に対戦用のマッチングプラットフォームが横溢する現代で、e-modeは一見してありふれたものなんですが、価値観でゲーマーを繋げるという着眼点は、荒木さんのような若い世代にしか思いつかないものだと思うんですよね。

荒木さんの会社が運営する「e-mode」

荒木:ありがとうございます(笑)

そんな大げさなものではないんですが、確かにe-modeは自分の体験に基づいて作ってる部分は大きいです。私自身、ネット上で大好きなゲームで繋がった人間関係が、現実における人間関係と同じく大切に思っています。だからこそ、ゲームで繋がった友人が、そのゲームがサービス終了するなどして離れるのは寂しいですね。

私も今後はオンライン上のコミュニケーションがごく当たり前のものになると思います。「リア充」なんて言葉があるけれど、ネット上と現実上での人間関係に善悪はないですし。

Jini:荒木さんが次に展開するサービスにも期待するしかないですね。

とはいえ、荒木さんがやりたいという、ゲーマーのパーソナリティまで踏み込むとなると、これアレですよね。GAFAが今めっちゃお金かけてビッグデータからのAIゴニョゴニョ案件ですよね……。

荒木:いやー、そうなんですよ(笑)LINEさんがコミュニケーションツールとしてのリソースやノウハウを活かしてLINE Payを作ったように、ユーザーの分析に基づくサービスってビッグデータを含めた膨大なリソースが必要になります。

なのでe-modeだけではなく、他のゲーム関連のサービスなどと連携して展開するのが理想ですね。

ただそれ以上の懸念を一点私は抱いていて、それはこういったサービスが普及することで匿名性に居心地の良さを見出している人たちの居場所を奪いたくないって。

Jini:あぁ、確かに。

荒木:これはもう時代の流れもあると思うんですが、いまネットは匿名より実名にしようって流れがありますよね。昔は5chのような匿名掲示板が主流で、それがハンドルネームが基本であるSNSに移行しつつある。リアルで繋がることも増えて、実名を出すことも当たり前になってきた。

ただ、ゲームに限らずネットのコミュニティは匿名だから安心して利用できるという人もいて、自分のサービスがそういう人たちにとって相性が良くないこともわかってるんですよね。


Jini:いや~、本当そうなんですよ。むしろ荒木さんの歳でよくその違いに気づきますね。すごい慧眼だ。

いやでも仰る通りなんですよ。ネットの透明性が上がるのは良いことだけじゃなく、例えば言論の自由が制限されることも増える。いきなり治安維持法が生まれることはなくても、ただ匿名性が消えるほど言いたいこと言えなくなるのも事実なんですよね。ネットならではの機能が失われてしまう。

そこでどれだけ棲み分けができるのか、匿名の人も実名の人も両者をリスペクトできる環境ができれば、e-modeが誰かの居場所を減らしてしまうなんてことは起きないと思うんですがね。

荒木:僕は少なくとも匿名が全て正しいわけでなく、実名だからこそ発言に責任が生じたり、相手を信頼できるといったメリットも多いと考えていますが、それでも匿名を利用したいと考える方の意見は理解できます。

Jini:本当にこのユーザー層の違いって難しいんですよね……。

そろそろお時間ですね。お二人とも、本日はありがとうございました。

小澤&荒木:ありがとうございました。

―――

eスポーツ業界に殴りこんできた若き精鋭たちは、インタビューの中でも常に鋭い眼光を放ち、eスポーツを作るだけでなくより良い方向に「変える」ことにまで意欲的でした。

今はまだ本にするだけのノウハウを持たない彼らが、今後どのような活躍を見せてくれるのでしょうか。


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