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【カラッパゲームス】身体はカニを求める。『カニノケンカ -Fight Crab-』リリースまでに至る道【インディーゲームインタビュー】

「どんな人がどんなインディーゲームを作っているのか」に注目したインタビュー連載企画の5回目は、「カラッパゲームス」の「ぬっそ」さんを取り上げます。

ぬっそさんは大学在学時に個人の同人サークル「Nussoft(ヌッソフト)」を起ち上げ、『NEO AQUARIUM -甲殻王-』をリリース。2016年4月には『ACE OF SEAFOOD』を、2020年7月には『カニノケンカ -Fight Crab-』をリリースして話題を呼んでいます。海の生き物が登場するゲームを作り続けているぬっそさん自身のこと、そして最新作『カニノケンカ』を中心にいろいろと聞いてきました。

▲カラッパゲームスのロゴ(左側)とマスコットキャラの「海老塚伊瀬」ちゃん(中央)と「蟹山楚(カニヤマ スワエ)」ちゃん(右側)

カラッパゲームスのメンバーは以下の通り(名前・担当・好きなゲームの順に記載)。
ぬっそ:メイン開発・代表(一人で運営)/『アーマード・コア2』『DARK SOULS Ⅲ』『The Elder Scrolls V: Skyrim』

※8月初旬、ビデオ会議ツールを用いて取材。

同人活動から独立へ

──ゲームを作りはじめたのはいつごろでしょうか。

ぬっそ:20歳を過ぎたあたりで、それまではCGアニメ作りに挑戦していました。当時はDoGAのCGアニメコンテストや新海誠など、自主制作アニメが流行っていたこともあって3DCGアニメを作っていました。ですが、あまり肌に合わなかったのでゲーム開発に流れてきました(苦笑)。

▲ぬっそさんが当時作った3DCGアニメ『金剛菩薩デラカンノン』

──CGアニメからゲームって急な方針の転換に見えますが、ゲームを作ろうと思ったのはなぜですか。

ぬっそ:ニコニコ動画で東方Projectなどの自作ゲームをたまたま見かけて、ゲームって個人でも作れるものなのかと気づいたから。だった気がします(笑)。

──学生時代に作っていたゲーム『NEO AQUARIUM』を就職活動で提出していたと聞きました。

ぬっそ:そうですね。最後の詰めが終わっていない状態でしたが使っていました。完成したのは2010年の冬コミ出展前ですね。

▲甲殻類になって甲殻類と戦うアクションSTG(シューティングゲーム)『NEO AQUARIUM』のPV

──そのとき、開発ツールは何を使っていましたか。

ぬっそ:今はUnityを使っていますが、当時は影も形もなかったので、DirectXとC++でゴリゴリ書いていました。

──いきなり本格的に開発していますね。プログラミングの経験もあったのですか?

ぬっそ:まったくなかったです。セガのプログラマーさんが書いた、コロコロコミックみたいに分厚い「ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術」という本を読んで勉強しました。あれは私にとってバイブルですね。

──今はUnityを使っていますが、使用する開発ツールを変更したのはなぜでしょうか。

ぬっそ:単純にツールとして便利なのもありますが、コンシューマー機への移植のしやすさが魅力に感じて変えました。以前、PlayStation Mobileで『NEO AQUARIUM』をリリースしないかと提案を受けたことがあったのですが、DirectXとC++では難しいとわかり、断念しました。こんな経験もあってか、移植のしやすさは重視していますね。

──その『NEO AQUARIUM』も使った就職活動の末、2011年にセガに入社。プログラマーとして働いています。ぬっそさんが手がけた『ACE OF SEAFOOD』はセガ在籍中にリリースしていますが、いつごろから開発しはじめたのでしょうか。

ぬっそ:入社3年目あたりでしょうか。1年目は『BINARY DOMAIN』、2年目は『龍が如く5』に携わっており、その2作の開発で忙しくて『ACE OF SEAFOOD』に割く時間がありませんでした(苦笑)。

▲海産物になって海産物と戦うアクションSTG『ACE OF SEAFOOD』

──このときは仕事の合間に同人活動としてゲームを開発していましたが、個人開発をしていて良かったことはありますか。

ぬっそ:Unityを勉強しながら開発した『ACE OF SEAFOOD』の知見が、仕事でも役立ったこと。ちょうどそのころはUnityが注目され、セガでもスマホゲームを作るときにUnityを採用する話が挙がりました。Unityがわかる人間としてプロジェクトに参加できたので、自主的に続けていたゲーム開発経験が仕事でも通じることの証明にもなったと感じています。

──本業があると、ゲーム開発に時間をかけづらいのではないかと感じてしまいます。

ぬっそ:帰宅してから深夜3時くらいまで開発して、朝10時くらいに起床して会社へ向かうルーティーンでした。20代で体力があったからできたことで、今はできないかな……。

──2016年末にセガを退職されました。個人開発の時間が取りづらかったことが理由でしょうか。

ぬっそ:それもありますが、タイミングが良かったからですね。

まず、完成した『ACE OF SEAFOOD』をデジゲー博に出展したとき、任天堂の方からWii Uでもリリースしないかと提案されたことが大きいです。セガに在籍しながらコンシューマー機のプラットフォームでゲームをリリースするのはさすがにどうなんだと思いまして(笑)。また、移植作業に時間にかかることが見込まれ、当時の体制だとキツそうでした。

本業も、携わっているプロジェクトが中止になって少々暇していたことや、『ACE OF SEAFOOD』の売上が本業の年収と同じくらいになったことも後押しとなり、退職・独立することにしました。

▲Wii U版『ACE OF SEAFOOD』の紹介映像

海の生き物は見た目も味も好き

──ぬっそさんの手がけてきた作品は『NEO AQUARIUM』『ACE OF SEAFOOD』『カニノケンカ』と、すべて海の生物が主役です。いつから海の生物が好きになったのでしょうか。

ぬっそ:昔からザリガニや亀を飼っていたので、元から水生生物は好きでした。そして『NEO AQUARIUM』を作ることになってからは、一層深く好きになりました。

また、大学では動物をテーマにした作品を作る機会があり、そのときに海の生物の触れやすさ・身近さに気づいたのも影響しているかもしれません。当時は福岡に住んでいて、魚屋はラインナップが豊富でモクズガニとかシャコとかアナジャコとか生きたまま売っていました。物珍しさもあって、よく買っていましたね。

──甲殻類はとくに好きだとか。

ぬっそ:はい。伊勢海老とかも好きですが、カニが一番好きですね。見た目のゴツゴツとしたカッコ良さと、ガッチリとした脚が好きです。脚はおいしいですしね!

──一番おいしい甲殻類はなんでしょうか。

ぬっそ:ハナサキガニかなと思っています。トゲトゲした見た目とおいしさのバランスが素晴らしく、ゆでると花が咲いたように鮮やかに赤くなるのも美しくて良いですね。

▲モデリングと食を兼ねて北海道から取り寄せたハナサキガニ

──モデリングする際は、実物を入手しているとか。

ぬっそ:そうですね。デジカメで実物をたくさん撮影して、取り込んだ複数の画像から3Dデータを生成するソフトでモデリングしています。

▲サンマくらい薄い生物であれば、コピー機を使うこともあった

──フォトグラメトリってやつですね。1体あたりどのくらいの時間でモデリングが終わるのでしょうか?

ぬっそ:ソフトがポリゴンを自動生成してくれるので、だいぶ助けられています。生成後はポリゴン数が多く、フォルムも粗いので、どこまでこだわって形を整えるかによって完了までにかかる時間は変動するかと。私はそのあたりは気にしないほうなので、ほかのこともしながら2週間くらいでしょうか。

▲ゲーム内で利用できるように、生成後のポリゴンを整えている様子

──『カニノケンカ』ではモデリングを一部外注しています。

ぬっそ:実物が入手・撮影しづらいタカアシガニなどのカニは、基本的にモデリングに慣れた方に外注しています。モデリング以外の開発に注力したかったのも、外注した理由の一つですね。

同人ショップでゲームが売れた時代もありました

──ぬっそさんはSteamやコンシューマー機だけでなく、BOOTHやitch.ioなどでもゲームを販売しています。

ぬっそ:アーリーアクセス版のような位置づけで出しています。いきなりSteamのような大きなプラットフォームで出そうとすると、何かと手間がかかってしまいます。そのうえ、ユーザーの目も厳しめなので完成度を上げてからにしないと、という心持ちになります。アーリーアクセス版は、サッと気軽に出せるプラットフォームを利用するのが好きですね。

ただ、BOOTHやitch.ioはダウンロード数が増えづらいので、メインの販路としてはオススメしにくいかな……。BOOTHはゲーム向けのランチャーも用意されていませんし。

▲『カニノケンカ』のシステムを流用し、巨人や人型ロボット(どちらも体幹が弱い)で戦えるミニゲーム『ケンカシムG』もBOOTHで販売している

──それであれば、Steamのアーリーアクセスを利用する道もありそうですが。

ぬっそ:Steamでもっとも注目を浴びるタイミングは、ゲームをリリースしたときだと考えています。きちんと仕上げたものをリリースすれば売れると思うので、そのときまでSteamへの露出は温存しておきたいです。アーリーアクセスの時点で人気が出て、その状態を維持しながら正式にリリースできればうれしいですが、長期的な戦略が必要になってきそうですよね……。

今まではコミケなどで体験版を都度出しながら完成したら製品版を販売、という同人ゲームでよくある動き方をしてきました。ですが、ゲームで食べていくには戦略を練る必要があると実感しています。ゲームをどこでどうやって見せれば効果的にアピールできるのか、日々模索しています。

──『NEO AQUARIUM』などはディスクで販売していたこともありました。

ぬっそ:コミケや同人ショップで販売していたのですが、とくに同人ショップでインディーゲーム・同人ゲームを買う文化は衰退してきている事情もあり、Web上での販売に切り替えています。三月兎さんとか、同人ゲームに力を入れているお店も閉店されてしまいましたね……。

『NEO AQUARIUM』をディスク販売していたときは、同人ゲームがショップで売れていた時代でした。コーナーを用意してもらえたこともあり、収入面でかなり助かりました。

──現時点で一番売れている作品は『ACE OF SEAFOOD』だと思いますが、どのくらい売れましたか。

ぬっそ:全プラットフォームを合わせると8万本くらい売れたと思います。Steam版とPlayStation 4版は、セールで販売本数が伸びましたね。同人ショップでの委託販売とスマートフォン版を合わせると数千本って具合です。RTAイベントの「RTA in Japan」で走ってもらえるくらい評価してもらえたのはうれしかったです。Steam版とPlayStation 4版をパブリッシングしていただいたPLAYISMさんも「予想以上に売れた」と言ってましたし(笑)。

──AndroidとiOS版もリリースしていましたが、こちらはいかがでしたか。

ぬっそ:両方とも売れませんでした。OSのメジャーアップデートやディスプレイのアスペクト比に関する問題が発生し、売上に対するメンテナンスの手間を考えると積極的にリリースしづらいかなぁ。

オンラインイベントはPR効果がありそうだし、オフラインイベントは楽しい

──ぬっそさんはインディーゲーム関連のイベントへたくさん出展していますが、どのイベントが一番好きですか。

ぬっそ:デジゲー博です。会場にアクセスしやすいうえにブースでは電源を扱えて、しかも開始時刻が遅めなのが良いですね(笑)。ゲームを気楽に体験してもらえる場は貴重ですので、新作に着手したらまた出展したいです。

▲デジゲー博での様子

──オフライン・オンラインイベントに出展して感じるメリットを教えてください。

ぬっそ:オフラインイベントだと、遊んでくれる方の反応が間近でわかるのが良いですね。イベントの空気を楽しめるので、気分転換にもなります。

オンラインイベントだと動画などの素材を用意するのが大変ですが、オフラインイベントよりも多くの人の目に留まやすい。プロモーション効果は、こちらのほうが見込めるかもしれません。また、オンラインイベント向けに用意した素材は、ゲームリリース時などでも使えるものもあります。ゲームリリース前はいろいろと忙しくなるので、早めに素材を用意しておけると考えれば、これも良い点といえそうです。

──オンラインイベントといえば、ぬっそさんは「BitSummit Gaiden」内の「京都eスポーツゲーム大賞」に『カニノケンカ』で応募し、最終ノミネート作品に選ばれました。

ぬっそ:本来は来場者にゲームを遊んでもらって投票してもらうイベントだったのですが、新型コロナウイルスの影響により、それができなくなりました。で、オンライン審査会が開かれることに。その審査用に動画を作ることになり、ちょっと慌ててしまいました(苦笑)。

──裏側ではそんなことが起きていたのですね。このイベントに応募した理由を教えてください。

ぬっそ:インディーゲームはストーリーやアートに力を入れた作品が多く、注目されやすい傾向にあります。一方、対戦重視のインディーゲームは数が少なく、『Overcooked』『Fall Guys: Ultimate Knockout』など例外はありますが、スポットが当たりづらいと感じています。「京都eスポーツゲーム大賞」はそこに焦点を当てた珍しいイベントだったので興味を持ち、応募しました。

──同イベントでは「カップヌードル賞」を受賞し、カップヌードル1年分(360個。シーフード味ではない)が贈られました。その後、カップヌードルは食べていますか?

ぬっそ:ありがたく食べていますが、やはり360個は多いですね……。賞味期限は1年もないので、おいしいうちに食べきれなさそうという問題もあります(笑)。

▲18箱ものカップヌードルが一度に届いた

誰でもわちゃわちゃ楽しめる『カニノケンカ -Fight Crab-』

──『カニノケンカ』の紹介をお願いします。

ぬっそ:『カニノケンカ』はカニ同士でケンカして、カニをひっくり返すゲームで、SteamとNintendo Switch版をメインにリリースしています。このゲームはなんと! カニのハサミがJoy-Conやアナログスティックでめちゃくちゃ自由に動かせるんですね。つまり、あなたがカニになれるゲームと言っても過言ではありません。

▲『カニノケンカ』のPV

一般的な格ゲーだとコマンド入力で技が出せますが、本作にはありません。相手をどうやってひっくり返すか、自分で動きを考えて実行することが勝敗を分けるカギです。コマンドを覚える必要もないですし、反射神経も不要。自分の思い通りに、相手をボコボコにできちゃいます。操作は難しいのですが、完璧に操ろうと神経質にならなくても大丈夫。あまりこまかいことは気にせず、武器とカニの組み合わせやアクションを堪能してください!

▲武装するカニたち

カニはある程度ダメージが蓄積していないとひっくり返せませんが、蓄積ダメージ差が2倍以上あっても、最後まで勝負はわかりません。有利な側も気が抜けませんし、不利な側も諦めずに戦えます。プレイヤー同士にある程度の腕前の差が生じていても、わちゃわちゃと楽しめる内容だと思っています。ただ、練習を積んでカニとのシンクロ率が上がると、圧倒的強者にもなれます。

──タイトルはどういった理由で付けたのでしょうか。

ぬっそ:『カニノケンカ』の部分は、カニたちがケンカするゲームだから。カタカナなのは字面が面白く感じたから。ふんわりした理由ですね(苦笑)。

『Fight Crab』の部分は、ほかのWebメディアさんでも話していますが、izmさんという方に付けてもらいました。なお、『カニノケンカ -Fight Crab-』で一つのタイトルです。『Fight Crab』は、『武力 〜BURIKI ONE〜』でいうところの「BURIKI ONE」の部分みたいなものですかね。

▲『Fight Crab』命名の瞬間

──参考にしたゲームはありますか。

ぬっそ:攻撃によってパーセンテージが溜まるのは、『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズから影響を受けています。両手に武器を装備する発想は、子どものころによく遊んでいた『アーマード・コア』から来ているかもしれません。また、左右のスティック操作とそれぞれの腕が連動する部分は『ギガンティック ドライブ』など、巨大ロボットを操作するゲームも参考にしています。

──登場するカニの選定基準は?

ぬっそ:本作はズワイガニを基準にして作っていて、大きさが似ているカニを中心に選んでいます。ゲーム内ではサイズ差は少しごまかしていて、本来だったらズワイガニに比べてタカアシガニやヤシガニはもっとデカいのですが、少し体格がデカいなと思う程度に抑えています。それでも、サワガニとズワイガニが取っ組み合いができてしまうのはおかしいので、そういった小さすぎるカニは選んでいません。

──オリジナルのカニ「メタルクラブ」もいますね。このカニは一から作ったのですか?

ぬっそ:動くカニの看板を模したモデルがアセットストアにあったので入手し、動かせるように関節を仕込んで改造しました。

▲ぬっそさんの手によって魔改造されたカニ

──すごいことしますね。STGではなく対戦アクションにした理由はなんでしょうか。

ぬっそ:初期段階では、『ACE OF SEAFOOD』にもっとカニを登場させるゲームにすることも考えていました。ですが、STGでいろんなカニを出しても変化が付けづらくて止めました。カニによって発射する弾の種類を変えても、それは私が勝手に付けた個性です。「このカニだからこの弾が出るんです!」と言っても納得できないでしょう。

格ゲー・対戦アクションであれば、フォルムや体格、リーチが違うだけで操作感が変わってきます。カニごとの個性がより発揮されやすいので、このジャンルにしています。

──音楽は作曲家のDEKUさんにおまかせしているのでしょうか。

ぬっそ:ニコニコ動画で『NEO AQUARIUM』の動画を投稿したらDEKUさんから声がかかり、それ以降はずっとお願いしています。

──曲はどのようにオーダーしているのですか?

ぬっそ:DEKUさんとチャットでやり取りして、YouTubeで参考になるような動画を送るなどしながらイメージを伝えています。初期段階では試作してもらって方向性を確認しながら進めます。試作版を聞いてから要望を伝えると、数時間後に「できました」と連絡がくることもあります。そのスピード感と出来栄えには毎回びっくりします。

曲作りを楽しんでもらえてるみたいで、依頼していない曲を送ってもらえることもあります(笑)。ボーカル曲に関しても、私がボーカルを入れてほしいと頼むことはないんですが、いつの間にか入っていて、これにも毎回びっくりしますね。

──『カニノケンカ』を象徴する曲「Knight Crab」もボーカル曲ですね。

ぬっそ:騎士のカニが登場するステージ用の曲で、北欧のメタルバンドを意識して作ってもらいました。北欧のメタルバンドはエメラルドソードやドラゴンなどファンタジーな単語が出てくる印象が強く、騎士のカニと相性が良いだろうと思い、そのようにオーダーしています。これもボーカルを付けてほしいと頼んでなかったですね(笑)。

▲カニはおいしいというメッセージが伝わってくる「Knight Crab」

▲クリスマスアカガニは多分おいしいというメッセージが
伝わってくる「Crab Pulsar」なるボーカル曲もある

──物理演算を用いていることもあってか、武器とカニの相性・バランス調整が難しそうに思えます。Steam版のリリース後からはシャコ+ダブルセイバーが猛威を振るっており、ナーフが行われました。

ぬっそ:ダブルセイバーは両手で持つ武器であることと、シャコのフォルムが影響しています。カニであれば左右の腕の間隔が広く、腕を大きく動かさないとダブルセイバーを振り回せませんし、振り回す速度もそれほどではありません。しかし、シャコは左右の腕の間隔が狭いので、小さな動きでダブルセイバーを素早く振り回せてしまうのです。速度が速いほど(運動エネルギーが高いほど)ダメージが大きくなるよう実装しているので、シャコがダブルセイバーを使うと想定以上のダメージが出せてしまいました。ナーフ後は、シャコが両手武器を使うとダメージが小さくなるよう無理やり補正しています。

──刀も強めだと聞きました。

ぬっそ:刀は刀身が長く、重心のバランスも良いので速く振りやすい武器です。ただ、長ければ長いほど良いわけではありません。例えばランスはすごくリーチが長いのですが、地形に引っかかりやすく、接近を許すと役立ちません。扱いにくい武器になっています(苦笑)。

▲アザラシに乗っているときに映えるのがランスの魅力、とのこと

▲ぬっそさんの好きな武器は、鎖鎌やガーダ。鎖部分の動きも含めて面白い武器になったと話す

──個人的に好きなのがフォトモードです。搭載したきっかけはなんだったのでしょうか。

ぬっそ:『Horizon Zero Dawn』や『God of War』など、フォトモードが充実しているゲームが続々と登場し、実際に使ってみると面白かったので導入してみました。自分でも使っていて、Webサイトなどに載せるスクリーンショットが撮りやすくなりましたし、フォトモードでゲームを一時停止しながらデバッグもしています。

──開発者から見ても便利な機能なのですね。3DCGのキャラを登録し、さまざまなコンテンツと連動できるサービス「VRoid Hub」に対応し、カニにキャラを乗せられるようにした点も、本作のポイントの一つだと思っています。この機能ははじめから採用する予定でしたか?

ぬっそ:アーリーアクセスをリリースした段階でVTuberの方々が配信してくれたのを見て、VTuberの皆さんにとって配信したくなるような機能を追加したいと考えるようになりました。そのときに探し、見つけた機能ですね。

また、カニに帽子などのアクセサリーを着けられるような要素を実装してほしいとの声も届いていました。これは手間がかかりそうだったので、VRoid Hubが代わりになるかと思い、対応することにしました。

VRoid Hubに対応したら、ニュースに載せていただけたり、対戦時に相手のアバターも表示する「マルチプレイSDK」を提供してくれたりと、Pixivさんが協力してくれたのもありがたかったです。

──ぬっそさん自身もVRoid Hubを利用し、『NEO AQUARIUM』で登場した蟹山楚(カニヤマ スワエ)ちゃんと海老塚伊瀬ちゃんを登録しています。

ぬっそ:当時のデータを少しいじったうえで、こちらにアップロードしています。『カニノケンカ』で何か乗せたい方はぜひご利用ください。

▲蟹山楚ちゃんとカニ

──パブリッシャーさんのお話も聞かせてください。ぬっそさんは『NEO AQUARIUM』からずっとPLAYISMさんにおまかせしています。

ぬっそ:『NEO AQUARIUM』をコミケで出展していたときに声をかけていただいたのがきっかけです。海外へもっとアピールするため、海外のパブリッシャーさんに頼むことも考えたこともあります。しかし、当然ですがやり取りが全部英語になるのがハードル高めで……。文章が失礼な表現になってしまっていないかなど、気を遣ってしまいます。

▲なお、Nintendo Switchのパッケージ版はマスティフさんが担当し、CMなども作っている

──『ACE OF SEAFOOD』までは国内での売上がほとんどだと聞きましたが、『カニノケンカ』は海外でも話題になっているように感じます。実際のところ、海外での反響はいかがですか。

ぬっそ:海外のオンラインイベントに取り上げてもらった影響もあったからか、『カニノケンカ』Steam版の売上でいえば、海外でも好調ですね。今まで海外で売れなかったのはジャンルの問題もあるのかもしれません。

──Steamでリリースした日のランキングでは、『ライザのアトリエ』とトップを争うほど好調でした。

ぬっそ:『ACE OF SEAFOOD』は、Steamのリリース時にそこまでPRに力を入れていなかったため初動はかなり鈍かったのですが、それと比べるととても良い滑り出しです。プロモーションの準備は本当に大変だけど効果は出るものなんだなぁと、今さらながらに思っています。

──目標の売上本数は?

ぬっそ:とくに決めてなかったですね(笑)。うーん、『ACE OF SEAFOOD』がだいたい8万本だったので、それは超えたいですね。では、キリよく10万本とさせてください。

──PlayStation 4版はリリースする予定はありますか?

ぬっそ:出したいとは思っていますが、まだなにも準備していません。Nintendo Switch版が落ち着いてきたら改めて考えたいです。

まとめ

──独立してからは、専業かつ一人で開発しています。一人でモチベーションを維持し続けるのは難しいのでは?

ぬっそ:ゲームをリリースしようとするとさまざまな人と関わるので、モチベーションは保ちやすいです。たとえば、Nintendo Switch版の『カニノケンカ』をリリースするにあたり、任天堂のインディーゲーム番組「Indie World(インディーワールド)」に取り上げていただきました。このとき、番組に出すからには大雑把でもいいから発売時期を決めないといけませんでしたし(2019年に出すと言ったのに守れませんでしたが……)、番組が流れると「早く出してほしい」と、ユーザーのうれしい声も聞こえてきます。

パブリッシャーさんにも、「〇〇のイベント向けに、〇日までに宣伝材料を用意してほしい」といったお願いもされます。また、今年はこんな状況ですので、オンラインイベントが増えて、それに向けた新しい映像や、顔を出したビデオメッセージなどを求められます。オフラインイベントよりも大変でしたね……。

──取引先とのやり取りを経るうちにスケジュールが自然と決まり、結果としてモチベーションにもつながると。開発の指針で迷われたときなど、人を頼りたくなったときはどうしていますか。

ぬっそ:BOOTHやコミケなどでアーリーアクセス版を売って、プレイヤーさんの声や配信などをこっそり見て参考にしていますね。『カニノケンカ』では「Indie World」の副島さんに打撃の気持ち良さについてアドバイスを受け、修正したこともあります。

──ゲーム開発の魅力を教えてください。

ぬっそ:ゲームは面白ければ、自由に創作しても評価されます。ストーリーがなくても、グラフィックの質が低くても、面白ければOKという懐の広さに魅力を感じます。『カニノケンカ』も、ゲーム作品だからこそ賞をもらえたと思っています。カニがケンカするだけの作品を漫画や映像などのメディアで発表したら、多くの人の目に留まらなかったのではないでしょうか。

──これからどんなゲームを作っていきたいですか。

ぬっそ:根幹部分はぜんぜん決めていませんが、導入したい要素として考えていることはあります。『カニノケンカ』では、カラーの変更とアバターを乗せることでしかキャラの見た目を変えられません。今度は、プレイヤーが作ったモノを操作キャラの好きな場所に装着できるとか、デザイン面のカスタムの幅を広げたいですね。プレイヤーの皆さんが自由にデザインできる場を設けて、よりゲームを楽しんでもらえたらと思っています。

©2020 Calappa Games

『カニノケンカ -Fight Crab-』Steam版
https://store.steampowered.com/app/1213750/_Fight_Crab/

ジャンル:3Dアクション
プラットフォーム:Steam(Windows)、Nintendo Switch
ゲームモード:キャンペーンモード、バーサスモード(ランクマッチも搭載)
プレイヤー数:1~4人
価格:1980円(Steam)/2400円(Nintendo Switch ダウンロード版)/4378円(Nintendo Switch パッケージ版)


カラッパゲームス Webサイト
https://www.neoaq.net/
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ぬっそ Twitter
https://twitter.com/NeoNusso

【連載】インディーゲーム開発者インタビュー

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