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【デスクワークス】待ちに待ちに待った『RPGタイム!~ライトの伝説~』がついにリリース! とにかくいろいろ聞いてきた(前編)【インディーゲームインタビュー】
目次
「どんな人がどんなインディーゲームを作っているのか」に注目したインタビュー連載企画の12回目は、『RPGタイム! 〜ライトの伝説』(正式名称は「RPG」が全角文字。以下、『RPGタイム!』)を手掛けた「デスクワークス」社を取り上げます。同社の中心メンバーは「藤井トム」さんと「南場ナム」さんですが、インタビュー実施時は開発が佳境という事情から南場ナムさんは残念ながら欠席。
インタビュー前編となる本記事では、藤井トムさんにデスクワークス結成前の話からパブリッシングの話まで聞いてきました。
なお、後編の『RPGタイム!』にまつわる話はこちらに、プレイインプレッションはこちらに掲載。どちらもぜひチェックしてください。
▲デスクワークスの藤井トムさん(左側)と南場ナムさん(右側)
デスクワークスの中心メンバーは以下の通り(名前・担当の順に記載)。
藤井トム:代表取締役 プログラムが少し書けるプランナー
南場ナム:絵が少し描けるプランナー
※2022年2月中旬、ビデオ会議ツールを用いて取材。
※『RPGタイム!~ライトの伝説~』の画面は、すべて開発中のものです。
藤井トム(以下、藤井):南場も私も高校卒業後、専門学校であるHAL大阪の「ゲーム制作学科」(※2019年4月より「ゲーム4年制学科 ゲーム制作コース」に名称変更)に入学しました。1年次から同じクラスに割り振られたので、出会ったのはそのころですね。
──入学してすぐに仲良くなりました?
藤井:1年は他のコースも一緒くたにしてクラス分けされ、誰が何のコースに入っているのか知りませんでした。そういった事情もあり、はじめは同じクラスメイトの一人という認識でした。
プランナーを目指すにあたってゲームの企画書を学校で提出する機会が増えていくなか、同じくプランナー志望の南場の企画書を見る機会も増えました。南場の企画書はどれも面白く、気になるようになりました。南場を意識するようになったのはこのあたりです。
南場の特徴は「ちょっと絵が描ける」ことで、当時の企画書からその魅力がいかんなく発揮されていたのを覚えています。プランナーとしての武器を持っている南場を羨ましいと思うと同時に、自分にも武器が必要だと気付かせてくれました。
──HAL大阪のゲーム制作学科を選んだ理由は?
藤井:専門学校は2年制コースが多いなか、HAL大阪は4年制コースが選択できたことが決め手でした。しっかり学ぶのであれば2年では足りない予感はありましたし、実際に2年生のときに作ったゲームと卒業制作で作ったものとでは、傍から見ても出来はずいぶん違いました。まぁ、生活圏内にHAL大阪があったっていうのも大きいんですが(笑)。
──ゲーム会社のインターンシップにも参加できそうですね。
藤井:3年生くらいのときに、クローバースタジオのインターンシップに参加しました。PlayStation 2のアクションゲーム『大神』の制作をお手伝いしたことをきっかけに、スタッフロールに載せていただきました。
──岡本吉起さん(※)の授業も受けたとか。
藤井:生徒間で「岡本専科」と呼ばれていた授業がありましたね! 通常の授業とは別枠で、放課後から深夜まで登壇してくれました。この授業を受けたおかげか、南場は4年生のときに岡本さんの会社に就職し、働きはじめていました。
▲岡本さんのYouTubeチャンネルにも出演した二人。久しく会っておらず、緊張しきりだったという
※岡本吉起:『ストリートファイターII』『モンスターストライク』などの開発にかかわり、現在は株式会社でらゲーのゲームプロデューサー。2022年2月現在、公益財団法人日本ゲーム文化振興財団の理事長も勤めている。
──4年生時点で働いていると、卒業制作はしづらそうに見えます。
藤井:南場が学校に通う頻度は下がりましたが、合間を見つけて一緒に『バトルクエスト』という作品を作りました。
──藤井さんは就職活動で忙しかったのでは?
藤井:ゲームとは無縁の会社ですが、専門学校4年目の3月くらいには就職が決まっていました。ゲーム業界は狭き門で、ゲームを作るのはこれが最後かもしれないという意気込みで取り組んでいたと思います。
──その『バトルクエスト』はどういったゲームなのでしょうか。
藤井:小学生のケンタくんが手作りしたRPGを、プレイヤーが遊ぶゲームです。敵も主役もノート上に鉛筆で描かれ、ケンタくんが消しゴムで地形を書き換えたりアイテムを追加したりと、ノートを活用した表現も特徴です。こうした設定やコンセプトなどの根本的な部分は、いま作っている『RPGタイム!』とほぼ変わっていません。
──『バトルクエスト』は「日本ゲーム大賞2007 アマチュア部門」で大賞を受賞しました。エントリーに至った経緯を教えてください。
藤井:学校では、学校を代表するような精鋭チームが結成されていましたし、競争力も非常に高い賞でして、エントリーする予定はありませんでした。しかしそのチームのプロジェクトが頓挫してしまったようで、エントリーしてみてはどうだろうかと学校側から強く推薦され、応募することにしました。
──賞を取る自信はありましたか?
藤井:学生の間で作品を見せ合う場では評価されていましたが、グラフィックやシステムで高度なことはまったくできておらず、自信はありませんでした。
──当時の日本ゲーム大賞は、『悪魔城ドラキュラ』シリーズで有名な五十嵐孝司さんがプレゼンターと審査員を務めていました。
藤井:当時はKONAMIで働いていた五十嵐さんも独立し、インディーゲーム界で活躍しているのを見ると、少し運命めいたものを感じます(笑)。インディーゲームイベントで会うたびに話してもらえるのはうれしいですね。
花屋に就いた藤井トム
──卒業後のお二人はどういった進路を歩まれたのでしょうか。
藤井:私はお花屋さんに就職しました。
──ど、どうして花屋?
藤井:まさに「若気の至り」と言うほかないです(苦笑)。家庭用ゲームのスタッフロールに自分の名前が載ることは夢の一つでしたが、先ほどお話した『大神』で達成できてしまい、気が緩んでいたのかもしれません。
お花は好きで、お花屋さんで働いている間も楽しかったです。楽しくはあったんですけど、それ以上にゲームを作りたい気持ちが強いことに気づかされ、1年ほどでゲーム業界へ転職しました。
転職活動中はどのゲーム会社にも「どうして花屋に?」と聞かれちゃいました(笑)。
──転職においては、プランナーですと第二新卒でも中途採用でも経験や実績を求められそうです。
藤井:日本ゲーム大賞を受賞したのが卒業後でして、それを実績として活用させていただきました。ちょっとズルい手かもしれません……(苦笑)。
──その後は無事にゲーム会社へ転職したのでしょうか。
藤井:はい。RPG制作に携わり、RPG作りの基礎を学びながらプランナー・ディレクターとしての経験も積めました。その後はSCE(現在はSIE)に移り、姿が透明になってしまった少年たちを描いたアクションアドベンチャー『rain』のリードプランナーを務めました。
▲『rain』の開発動画に登場した藤井さん
──当初はダウンロード専用タイトルとして、比較的低価格で発売されていた作品ですね(後にBlu-ray Disc版も発売)。
藤井:そうですね。ダウンロード専売のタイトルは当時としては珍しい部類であることや小規模な開発体制だったこと、社内でも最初か二番手くらいの段階でゲームエンジンにUnityを採用していたこともあって、刺激的な環境だったと感じています。
──『RPGタイム!』もUnityで作っていますが、このころには触れていたのですね。
藤井:企画の初期段階でもざっくりゲームを作って感触をたしかめられますし、ゲーム開発のハードルが自分の手元まで下がってくれた印象で、非常に気に入っているゲームエンジンです。
──南場さんは専門学校4年生の時からずっと同じ会社で働いていたのでしょうか。
藤井:岡本さんの会社で数年働いたあと、別の会社に移って働いていました。
恩師のオフィスの一角を間借りして
──その後、二人が『RPGタイム!』作りに至るまでの経緯を教えてください。
藤井:当時のSCEは『rain』のように小粒な新規タイトルをリリースする流れがありました。『RPGタイム!』も採用されるチャンスが多そうに思ったのが、SCEに入った理由の一つです。SCEの前の会社でも同じく機会があれば『RPGタイム!』をアピールしていましたが、採用には至りませんでした。
今後もゲーム会社で採用される可能性は非常に薄そうに見えましたし、自分たちでゲームを完成させられそうなUnityもある。ちょうど同時期には「東京ゲームショウ(以下、TGS)」でもインディーゲーム専用のコーナーが設けられるようになり、インディーゲームへの注目度が高まりつつありました。
こんな状況が揃ったのなら二人で頑張ってみようかと一念発起し、2012年に「デスクワークス」というチームで『RPGタイム!』作りをスタートしました。
──スタートを切るタイミングで会社も辞めたのでしょうか。
藤井:スタート時点では会社に勤めながら、毎週土日に企画を練っていました。私は東京、南場は大阪で働いていて、オンラインで進行していましたね。2013年・2014年ごろには企画がひと通りまとまり、私も南場も会社を辞めて専業で開発しています。
──専業化してからは各々の自宅で開発を?
藤井:『RPGタイム!』は実際にノートを広げたり鉛筆を使ったりして作っており、オンライン上だと伝わりづらい部分が多く発生します。お互いが集まって作業する場所が必要でしたが、場所を借りるお金がありませんでした。
困っていたところ、ゲーム会社の社長であり、学生時代にお世話になった先生から「事務所の一角が余っているから使っていいよ」とご提案いただきました。そのご厚意に甘えて、開発完了予定期間の2年ほど席を置かせてくださいと頼み、チームの作業場所として使っていました。
しかしながら2年ではまったく終わらず、デスクワークスが法人化する2019年までの8年ほど間借りしてしまいました(苦笑)。本来の利用者であるゲーム会社の方々からは「彼らは一体何をしているんだ?」と囁かれながら作業していました(苦笑)。
──すごい。開発期間が当初の約束から大幅に延びたことについて、先生から話はありました?
藤井:自由というか、良い意味で野放しにしてくれました。先生はゲーム内容や進捗を知ってしまうと(先生として)口を出したくなるらしいのですが、それは良くないと思われていて、ゲーム内容にあえて触れずにいてくれました。
実際に、2018年の「BitSummit vol.6」に出展するまで先生はゲーム内容を一切知りませんでした。
──先生が身近にいると思うとアドバイスをもらいたくなることも?
藤井:あるにはありました。しかし自分たちはもう学生ではなくゲームクリエイターとして歩き出している立場で、自分たちが培ってきたものもあり、教えを乞うことなく開発しました。
「先生」ともあえて呼ばず、「さん」付けで接していました。でも、先生が近くにいると心が引き締まり、開発に集中できたとは思います(笑)。
──間借りした場所は自宅から遠いといった問題はありませんでしたか。
藤井:お互い通える範囲内でした。ですが、すべての区間の定期代は用意できなかったため、自宅の最寄り駅から乗り換え区間までは電車、残りの十数キロは自転車をこいだり歩いたりして通っていました。
そんなことを続けていると、私も南場も日焼けしたりやせたりしちゃいましたね(笑)。通勤は大変でしたが、集まって作業する場所があるメリットが上回っていたと思います。
──2019年(令和元年)8月にデスクワークス社を設立しました。もともと法人化する予定でした?
藤井:どちらかというと法人化したくないなと思っていました(苦笑)。法人化しているインディーゲーム開発者さんは比較的少なく、先輩方にお話を聞いてみても法人化しないほうが良い面もあると伺ったので、余計にそう思っていたかもしれません。
私たちは家庭用ゲーム機でのリリースを目指していまして、そういったプラットフォームはインディーゲームに対して門戸が開かれつつはあるものの、まだフリーの方々がリリースしようとすると厳しい部分もあります。
また、いろいろな話が進むなかで法人化していないと不都合なケースも出てきて、ここはもう腹の決めどころかなと思って法人化しました。やりたくないなぁとは思っていましたが、いざ法人化してみると面白さも感じ、法人化するタイミングも良かったと思っています。
──法人化後、間借りしていたオフィスはどうなったのですか。
藤井:ずっと間借りしているのは申し訳なく思っていまして、法人化を機にやっと場所を移せました。
──法人化してからは人員も増やしたのでしょうか。
藤井:ボリュームが多いゲームなので、2人だけで完成に持っていこうとするとゾッとするぐらいの年数がかかってしまいます。
法人化するころには面白さは確立できていて、イベントの出展が落ち着いた時期に詰めの部分を手伝ってくれる方を募集しました。多いと8人くらいの体制になり、開発スピードがものすごく上がって助かりました。
フリーだと依頼しづらく、信用もされづらくてうまくいかなかったかも。ここも法人化して良かったと思うポイントですね。
──話は少し戻りますが、2018年までは誰にも見せずに開発し続けたのですか?
藤井:ユーザーテストとかすれば良かったとは思うんですが、第三者に触れてもらう段階に達していないと自分たちは考えていました。見せても良いと思える機会として掲げていた目標は、TGSのインディーゲームコーナーにおける「選考ブース」への出展でした。
インディーゲームコーナーは、出展料が無料ではあるものの選考を通過する必要がある「選考ブース」と有料ブースに分かれており、私たちは選考ブースでの出展を狙っていました。そこで合格すれば、いろいろな方の意見を聞いても良い品質のゲームになっているだろうと踏んで申請していましたが通らずでして……。
藤井:開発開始から3年後くらいだったような気がします。TGSには計3回申請していまして、はじめて申請して通過できなかったときは「粘ってみるか!」と意気込んで2年ほど開発しました。「よしよし! よくなったぞ!」って思えるものができたのでチャレンジしたものの、またも通りませんでした。三度目の正直で通過したのが2018年ですね。
──TGS出展に挑戦し続けた理由を教えてください。
藤井:TGSは学生時代から憧れているイベントです。大阪に住んでいるとなかなか東京へ行きづらく、それだけTGSへの特別感も増していたように思います。
日本ゲーム大賞の授賞式もTGSで実施され、登壇したときの喜びもひとしおでした。そういった憧れのあるTGSに、自分たちの作品をもう一度披露したい思いがありました。
──そういった熱意が実ったTGS出展ですが、2018年はTGSより先にBitSummitに出展しています。
藤井:2回目の申請に落ちたあと、落ちた理由を自分たちなりに考えて「TGSは難度が高すぎたのではないか」「実績がないと通らないのかも」という結論に至り、別のイベントへの申請も検討することにしました。
申請したらほぼ確実に通るイベントだと、『RPGタイム!』が第三者に触れてもらえる品質かどうかわかりません。そこで、競争率が高く、審査も厳しそうで、私たちが住んでいる大阪から近い京都で開催しているBitSummitに申請した、という事情ですね。
──それまでにBitSummitは行ったことはありましたか。
藤井:インディゲームを作るにあたって、インディゲームクリエイターがどういった作品を作っているのかを調査するために二人で行ったことがあります。どの作品も目を見張るクオリティで、とくに『Hyper Light Drifter』はセンスの良いドット絵が滑らかに動くうえにとにかく面白く、圧倒されました。そのレベルの高さから、BitSummitは出展したいイベントの一つになりました。
▲アメリカの「Heart Machine」が開発した高難易度の2DアクションRPG『Hyper Light Drifter』
──2018年5月の「BitSummit vol.6」に出展し、初めて『RPGタイム!』を披露しました。
藤井:実際に出展するまでは不安でした。二度もTGSの選考に落ちていて、人に見せないで作ったので、どういった反応が来るのか予想できません。
有名な開発者さんも多く、どの作品の質も高い。そんな状況で自分たちのタイトルは埋もれてしまうのではないか、見劣りするのではないかという心持ちでした。
──傍から見るとBitSummitにおける『RPGタイム!』の注目度は高かったように思います。
藤井:インディーゲーム開発者の先輩がゲームメディアさんに『RPGタイム!』を紹介していただけたのも幸運でした。来場者の皆さんの目にも留まったおかげか、イベント初日から列が途切れることなく多くの方に遊んでいただけて、手ごたえを感じました。
──展示も凝っていて、ひときわ目立っていましたね。
藤井:精いっぱい作ったつもりですが、手作り感満載になってしまいました(笑)。結果的には目立って良かったのかもしれません。展示方法やグッズ作りで試行錯誤する体験はなかなか貴重で楽しかったですね。
──そしてBitSummit後、念願のTGS2018出展を果たします。TGS内のインディーゲーム向け企画「センス・オブ・ワンダー ナイト」では、『RPGタイム!』は3部門で受賞。なかでも、プレゼンを評価する「Best Presentation Award」を受賞していたのが気になりました。
藤井:インディーゲーム開発者さんの多くはプログラマーで、プレゼンを得意とする方は決して多くないと思います。一方、私はプランナーでプレゼンは主な仕事の一つ。プランナーとしての意地を見せたくて頑張りました。プレゼン内容は本番ギリギリまで二人で議論しながら修正に修正を重ね、その結果としてうまく皆さんに伝わったのかなと思います。
▲「センス・オブ・ワンダー ナイト」でプレゼンを披露する藤井さん(1時間7分50秒あたりから)
──プレゼンで工夫した点を教えてください。
藤井:センス・オブ・ワンダーナイトは、公式サイトによると”見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚”=「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲームのアイデアを発掘する企画、と定義づけています。
ですので、本企画のプレゼンでは『RPGタイム!』のどこが「センス・オブ・ワンダー」なのかをわかりやすく伝えることに注力しました。本作は『ゲームセンターCX 有野の挑戦状』のような「ゲームinゲーム」というジャンルでありながら、ケンタくんが登場することで「ゲームinゲームクリエイター」でもあることを強調しました。
さらにケンタくんは大人のゲームクリエイターではなく、「ゲームクリエイターになりたい少年」でもあります。この「ゲームinゲームクリエイターになりたい少年」であるケンタくんの存在がセンス・オブ・ワンダーであり本作の要だと皆さんに伝わった結果、賞をいただけたのだと思います。
──さらに中国の「厦門(アモイ)国際アニメマンガフェスティバル」、台湾の「台北國際電玩展」など海外でも出展しました。出展した狙いは?
藤井:どこにも見せずに開発していた期間中、プロモーションについても調べていました。プロモーションはパブリッシャーさんがついたら全部おまかせできるかなぁと楽観的に考えていた時期もありましたが、その前の段階としてパブリッシャーさんを含めてさまざまな方々に存在を知ってもらわないとパブリッシャーさんも反応してくれないと気付き……。
調べていると「海外も見据えて展開すべき」「BitSummitは海外のお客さんも多いから対応できるようにしておいたほうがいい」といった情報が出てきました。こういったことは可能な限りすべて試し、出られるイベントも出まくるようにしました。その一環としての海外出展ですね。
──海外の方々からの反応は?
藤井:子どものころ、ノートに鉛筆で落書きして遊ぶ体験は世界共通らしく、海外の方も懐かしいとか、日本でもこういった遊びをするのか、といったことを話していました。
落書きの種類によって海外の反応が変わるのは面白かったです。たとえば自分で迷路を描いて遊ぶことは中国でも知られていましたし、描いたこともある方が大半でした。しかし、アメリカだとマイナーなのか、迷路の存在を知らず戸惑う方が多かったです。○×ゲームだと反応は逆で、アメリカの方はよく知っていて中国の方には知られていませんでした。
地域や州によっても反応は変わりそうで一概には言えませんが、国ごとの文化の違いを実感しました。
▲『RPGタイム!』で迷路が登場するシーン
──海外でもリリースすることを踏まえ、国の文化に合わせて表現を変更するカルチャライズは行うのでしょうか。
藤井:気になるところに触れるとケンタくんが説明をしてくれるのですが、国によって説明の粒度を変えるなどして対応する予定です。
あとは開発初期から海外リリースも視野に入れていたため、なるべく日本独特のギャグは入れないようにしていました。それでも、日本でしか通じないであろうネタをすべて排除するのも惜しく感じ、お気に入りのネタは入っていますね。そういった部分は海外版では別バージョンが作れたらと思いますが、リリース時に入れられているかは不明ですね……。
▲日本ならではのネタを完全に排除したわけではない
──国内外へイベント出展し続けた効果は?
藤井:出展するたびにインディーゲーム開発者さんの仲間もできましたし、情報交換もできました。また、各地で試遊していただいた方々のフィードバックはありがたかったです。
遊んでもらった方の声は説得力が違いますし、自分たちの作り込み不足で困っている方を見ると申し訳なくなってすぐに直したくなります。フィードバックを参考に改良して次のイベントに出展し、新たにいただいたフィードバックからまた改良する、ということを繰り返しました。このブラッシュアップの繰り返しによって質は確実に高くなりました。
藤井:これまで大きな出費というとゲーム開発をはじめるときに揃えた機材くらいで、あとはやりくりできていました。が、イベント出展するようになってからが大変でした。交通費・宿泊費、出展料もかかりますし出展したイベント数も多かったので、お金がどんどんなくなっていきました。もうすっからかんです。
──2019年には、日本ゲーム文化振興財団のゲームクリエイター助成制度で採択され、助成金を受け取ることができました。
藤井:ちょうどお金が尽きかけたところで、本当に助かりました。助成金はサウンドの発注に使いました。前に何曲かは発注しましたが、すべてオリジナルにはできませんでした。
一般販売されている高品質なBGMを購入する選択肢もありましたが、我々が思い描く音楽を流したい思いに負け、すべてサウンドの外注費に消えました。
──試遊したときに感じましたが、制作したのはノイジークロークさんですか?
藤井:そうです。ノイジークロークの坂本さんとTGSで久しぶりにお会いして、それをきっかけに依頼につながりました。メインテーマも含めて何曲も作っていただきました。
──BGMの面でもリリースが楽しみです。イベントへの露出も多く、賞も受賞していて評判も良いとなると、パブリッシャーさんからのお誘いも多かったと思います。
藤井:幸いなことに、国内外を問わず多くのパブリッシャーさんにお声がけいただきました。
──海外からも注目されていたのですね。
藤井:海外でも出展した効果からか海外のほうが多く、日本の3倍くらいはお誘いいただきました。ですが、このときにいただいたお誘いは国内外すべてお断りしました。
──それはどうしてでしょうか。
藤井:誘っていただいたパブリッシャーさんはいずれも素晴らしくて選ぶのに迷っていたところ、そもそもパブリッシャーは付けるべきなのか? というところでも迷ってしまいました。
リリース経験のあるインディーゲーム開発者さんに話を聞くと、パブリッシャーを付けたほうが良いと思う方、自分たちでパブリッシングしたほうが良いと思う方、どちらの話も説得力があってますます迷い……。
さんざん迷った結果、完成の目途が立っている環境だから、自分たちでパブリッシングまでやってしまうかと二人で話し合って決めました。
──それでも最終的にはアニプレックスさんがパブリッシングしているのはなぜですか。
藤井:完成までそんなに時間はかからないだろうと思っていたのですが、「もうすぐ完成」から「完成」に至るまでが思ったよりも遠く、延びに延びまして……。リリースに関わる作業やらなんやらをする時間もお金も余裕もなくなりました。
やっぱりパブリッシャーに頼りたいと思っていたんですが、一度お断りしてしまったのでどうしようと途方に暮れていたところにお声がけいただいたのがアニプレックスさんです。話し合って、条件としても『RPGタイム!』にとってプラスになるだろうと判断し、パブリッシングしていただいています。
──パブリッシャーさんがサポートしてくれる内容は会社によって異なるとは思いますが、アニプレックスさんのサポート内容を教えてください。
藤井:翻訳、プロモーション、プレスリリース関連だとかひと通り対応いただけました。世界を狙って配信するにあたっていろいろとおまかせしている状態です。
──リリースするプラットフォームの話も聞かせてください。リリース時点ではXbox Series X|SやMicrosoft Storeがメインで、マイクロソフトさんの支援が入っていそうに見えます。
藤井:マイクロソフトさんにはさまざまな面で支援いただいております。たとえば2019年のE3カンファレンス「Xbox E3 2019 Briefing」では、『RPGタイム!』を発表させていただきました。日本から欧米などにリーチする方法が乏しかったのですが、ああいった大舞台で取り上げていただいたことで、反響もありました。
ずっと開発に使っているWindows機はXboxやMicrosoft Storeと親和性が高く、最初に出すプラットフォームとして適しているとも考えています。一般的なインディーゲームのリリースプラットフォームとは異なっているとは認識していますが、いきなり家庭用ゲーム機でもリリースできますし、良い選択だと感じます。
前編はここまで。後編では『PRGタイム!~ライトの伝説~』のゲーム内容について、より具体的に迫っています。
(C)DeskWorks / Aniplex
『RPGタイム!~ライトの伝説~』
ジャンル:手作りノートアドベンチャー
発売日:2022年3月10日発売
プラットフォーム:Xbox Series X|S、Xbox One、Windowsストア
プレイヤー数:1人
価格:3650円[税込]
『RPGタイム!~ライトの伝説~』 Webサイト
https://rpgtime.jp/
『RPGタイム!~ライトの伝説~』 Twitter
https://twitter.com/RPGTimeJP
デスクワークス Webサイト
http://deskworks.jp/ja/
デスクワークス Twitter
https://twitter.com/DESKWORKS_JP
藤井トム Twitter
https://twitter.com/DESKWORKS_TOM
ダウンロードサイトURL:https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/rpg-time-the-legend-of-wright/9p0px95zxbxb
インタビュー前編となる本記事では、藤井トムさんにデスクワークス結成前の話からパブリッシングの話まで聞いてきました。
なお、後編の『RPGタイム!』にまつわる話はこちらに、プレイインプレッションはこちらに掲載。どちらもぜひチェックしてください。
▲デスクワークスの藤井トムさん(左側)と南場ナムさん(右側)
デスクワークスの中心メンバーは以下の通り(名前・担当の順に記載)。
藤井トム:代表取締役 プログラムが少し書けるプランナー
南場ナム:絵が少し描けるプランナー
※2022年2月中旬、ビデオ会議ツールを用いて取材。
※『RPGタイム!~ライトの伝説~』の画面は、すべて開発中のものです。
急きょ決まった「日本ゲーム大賞2007 アマチュア部門」へのエントリー
──デスクワークスのお二人が出会ったのはいつごろでしょうか。藤井トム(以下、藤井):南場も私も高校卒業後、専門学校であるHAL大阪の「ゲーム制作学科」(※2019年4月より「ゲーム4年制学科 ゲーム制作コース」に名称変更)に入学しました。1年次から同じクラスに割り振られたので、出会ったのはそのころですね。
──入学してすぐに仲良くなりました?
藤井:1年は他のコースも一緒くたにしてクラス分けされ、誰が何のコースに入っているのか知りませんでした。そういった事情もあり、はじめは同じクラスメイトの一人という認識でした。
プランナーを目指すにあたってゲームの企画書を学校で提出する機会が増えていくなか、同じくプランナー志望の南場の企画書を見る機会も増えました。南場の企画書はどれも面白く、気になるようになりました。南場を意識するようになったのはこのあたりです。
南場の特徴は「ちょっと絵が描ける」ことで、当時の企画書からその魅力がいかんなく発揮されていたのを覚えています。プランナーとしての武器を持っている南場を羨ましいと思うと同時に、自分にも武器が必要だと気付かせてくれました。
──HAL大阪のゲーム制作学科を選んだ理由は?
藤井:専門学校は2年制コースが多いなか、HAL大阪は4年制コースが選択できたことが決め手でした。しっかり学ぶのであれば2年では足りない予感はありましたし、実際に2年生のときに作ったゲームと卒業制作で作ったものとでは、傍から見ても出来はずいぶん違いました。まぁ、生活圏内にHAL大阪があったっていうのも大きいんですが(笑)。
──ゲーム会社のインターンシップにも参加できそうですね。
藤井:3年生くらいのときに、クローバースタジオのインターンシップに参加しました。PlayStation 2のアクションゲーム『大神』の制作をお手伝いしたことをきっかけに、スタッフロールに載せていただきました。
──岡本吉起さん(※)の授業も受けたとか。
藤井:生徒間で「岡本専科」と呼ばれていた授業がありましたね! 通常の授業とは別枠で、放課後から深夜まで登壇してくれました。この授業を受けたおかげか、南場は4年生のときに岡本さんの会社に就職し、働きはじめていました。
▲岡本さんのYouTubeチャンネルにも出演した二人。久しく会っておらず、緊張しきりだったという
※岡本吉起:『ストリートファイターII』『モンスターストライク』などの開発にかかわり、現在は株式会社でらゲーのゲームプロデューサー。2022年2月現在、公益財団法人日本ゲーム文化振興財団の理事長も勤めている。
──4年生時点で働いていると、卒業制作はしづらそうに見えます。
藤井:南場が学校に通う頻度は下がりましたが、合間を見つけて一緒に『バトルクエスト』という作品を作りました。
──藤井さんは就職活動で忙しかったのでは?
藤井:ゲームとは無縁の会社ですが、専門学校4年目の3月くらいには就職が決まっていました。ゲーム業界は狭き門で、ゲームを作るのはこれが最後かもしれないという意気込みで取り組んでいたと思います。
──その『バトルクエスト』はどういったゲームなのでしょうか。
藤井:小学生のケンタくんが手作りしたRPGを、プレイヤーが遊ぶゲームです。敵も主役もノート上に鉛筆で描かれ、ケンタくんが消しゴムで地形を書き換えたりアイテムを追加したりと、ノートを活用した表現も特徴です。こうした設定やコンセプトなどの根本的な部分は、いま作っている『RPGタイム!』とほぼ変わっていません。
──『バトルクエスト』は「日本ゲーム大賞2007 アマチュア部門」で大賞を受賞しました。エントリーに至った経緯を教えてください。
藤井:学校では、学校を代表するような精鋭チームが結成されていましたし、競争力も非常に高い賞でして、エントリーする予定はありませんでした。しかしそのチームのプロジェクトが頓挫してしまったようで、エントリーしてみてはどうだろうかと学校側から強く推薦され、応募することにしました。
──賞を取る自信はありましたか?
藤井:学生の間で作品を見せ合う場では評価されていましたが、グラフィックやシステムで高度なことはまったくできておらず、自信はありませんでした。
──当時の日本ゲーム大賞は、『悪魔城ドラキュラ』シリーズで有名な五十嵐孝司さんがプレゼンターと審査員を務めていました。
藤井:当時はKONAMIで働いていた五十嵐さんも独立し、インディーゲーム界で活躍しているのを見ると、少し運命めいたものを感じます(笑)。インディーゲームイベントで会うたびに話してもらえるのはうれしいですね。
花屋に就いた藤井トム
在学中にゲーム会社で働く南場ナム
──卒業後のお二人はどういった進路を歩まれたのでしょうか。藤井:私はお花屋さんに就職しました。
──ど、どうして花屋?
藤井:まさに「若気の至り」と言うほかないです(苦笑)。家庭用ゲームのスタッフロールに自分の名前が載ることは夢の一つでしたが、先ほどお話した『大神』で達成できてしまい、気が緩んでいたのかもしれません。
お花は好きで、お花屋さんで働いている間も楽しかったです。楽しくはあったんですけど、それ以上にゲームを作りたい気持ちが強いことに気づかされ、1年ほどでゲーム業界へ転職しました。
転職活動中はどのゲーム会社にも「どうして花屋に?」と聞かれちゃいました(笑)。
──転職においては、プランナーですと第二新卒でも中途採用でも経験や実績を求められそうです。
藤井:日本ゲーム大賞を受賞したのが卒業後でして、それを実績として活用させていただきました。ちょっとズルい手かもしれません……(苦笑)。
──その後は無事にゲーム会社へ転職したのでしょうか。
藤井:はい。RPG制作に携わり、RPG作りの基礎を学びながらプランナー・ディレクターとしての経験も積めました。その後はSCE(現在はSIE)に移り、姿が透明になってしまった少年たちを描いたアクションアドベンチャー『rain』のリードプランナーを務めました。
▲『rain』の開発動画に登場した藤井さん
──当初はダウンロード専用タイトルとして、比較的低価格で発売されていた作品ですね(後にBlu-ray Disc版も発売)。
藤井:そうですね。ダウンロード専売のタイトルは当時としては珍しい部類であることや小規模な開発体制だったこと、社内でも最初か二番手くらいの段階でゲームエンジンにUnityを採用していたこともあって、刺激的な環境だったと感じています。
──『RPGタイム!』もUnityで作っていますが、このころには触れていたのですね。
藤井:企画の初期段階でもざっくりゲームを作って感触をたしかめられますし、ゲーム開発のハードルが自分の手元まで下がってくれた印象で、非常に気に入っているゲームエンジンです。
──南場さんは専門学校4年生の時からずっと同じ会社で働いていたのでしょうか。
藤井:岡本さんの会社で数年働いたあと、別の会社に移って働いていました。
恩師のオフィスの一角を間借りして
誰にも見せず開発に没頭した日々
──その後、二人が『RPGタイム!』作りに至るまでの経緯を教えてください。藤井:当時のSCEは『rain』のように小粒な新規タイトルをリリースする流れがありました。『RPGタイム!』も採用されるチャンスが多そうに思ったのが、SCEに入った理由の一つです。SCEの前の会社でも同じく機会があれば『RPGタイム!』をアピールしていましたが、採用には至りませんでした。
今後もゲーム会社で採用される可能性は非常に薄そうに見えましたし、自分たちでゲームを完成させられそうなUnityもある。ちょうど同時期には「東京ゲームショウ(以下、TGS)」でもインディーゲーム専用のコーナーが設けられるようになり、インディーゲームへの注目度が高まりつつありました。
こんな状況が揃ったのなら二人で頑張ってみようかと一念発起し、2012年に「デスクワークス」というチームで『RPGタイム!』作りをスタートしました。
──スタートを切るタイミングで会社も辞めたのでしょうか。
藤井:スタート時点では会社に勤めながら、毎週土日に企画を練っていました。私は東京、南場は大阪で働いていて、オンラインで進行していましたね。2013年・2014年ごろには企画がひと通りまとまり、私も南場も会社を辞めて専業で開発しています。
──専業化してからは各々の自宅で開発を?
藤井:『RPGタイム!』は実際にノートを広げたり鉛筆を使ったりして作っており、オンライン上だと伝わりづらい部分が多く発生します。お互いが集まって作業する場所が必要でしたが、場所を借りるお金がありませんでした。
困っていたところ、ゲーム会社の社長であり、学生時代にお世話になった先生から「事務所の一角が余っているから使っていいよ」とご提案いただきました。そのご厚意に甘えて、開発完了予定期間の2年ほど席を置かせてくださいと頼み、チームの作業場所として使っていました。
しかしながら2年ではまったく終わらず、デスクワークスが法人化する2019年までの8年ほど間借りしてしまいました(苦笑)。本来の利用者であるゲーム会社の方々からは「彼らは一体何をしているんだ?」と囁かれながら作業していました(苦笑)。
──すごい。開発期間が当初の約束から大幅に延びたことについて、先生から話はありました?
藤井:自由というか、良い意味で野放しにしてくれました。先生はゲーム内容や進捗を知ってしまうと(先生として)口を出したくなるらしいのですが、それは良くないと思われていて、ゲーム内容にあえて触れずにいてくれました。
実際に、2018年の「BitSummit vol.6」に出展するまで先生はゲーム内容を一切知りませんでした。
──先生が身近にいると思うとアドバイスをもらいたくなることも?
藤井:あるにはありました。しかし自分たちはもう学生ではなくゲームクリエイターとして歩き出している立場で、自分たちが培ってきたものもあり、教えを乞うことなく開発しました。
「先生」ともあえて呼ばず、「さん」付けで接していました。でも、先生が近くにいると心が引き締まり、開発に集中できたとは思います(笑)。
──間借りした場所は自宅から遠いといった問題はありませんでしたか。
藤井:お互い通える範囲内でした。ですが、すべての区間の定期代は用意できなかったため、自宅の最寄り駅から乗り換え区間までは電車、残りの十数キロは自転車をこいだり歩いたりして通っていました。
そんなことを続けていると、私も南場も日焼けしたりやせたりしちゃいましたね(笑)。通勤は大変でしたが、集まって作業する場所があるメリットが上回っていたと思います。
──2019年(令和元年)8月にデスクワークス社を設立しました。もともと法人化する予定でした?
藤井:どちらかというと法人化したくないなと思っていました(苦笑)。法人化しているインディーゲーム開発者さんは比較的少なく、先輩方にお話を聞いてみても法人化しないほうが良い面もあると伺ったので、余計にそう思っていたかもしれません。
私たちは家庭用ゲーム機でのリリースを目指していまして、そういったプラットフォームはインディーゲームに対して門戸が開かれつつはあるものの、まだフリーの方々がリリースしようとすると厳しい部分もあります。
また、いろいろな話が進むなかで法人化していないと不都合なケースも出てきて、ここはもう腹の決めどころかなと思って法人化しました。やりたくないなぁとは思っていましたが、いざ法人化してみると面白さも感じ、法人化するタイミングも良かったと思っています。
──法人化後、間借りしていたオフィスはどうなったのですか。
藤井:ずっと間借りしているのは申し訳なく思っていまして、法人化を機にやっと場所を移せました。
──法人化してからは人員も増やしたのでしょうか。
藤井:ボリュームが多いゲームなので、2人だけで完成に持っていこうとするとゾッとするぐらいの年数がかかってしまいます。
法人化するころには面白さは確立できていて、イベントの出展が落ち着いた時期に詰めの部分を手伝ってくれる方を募集しました。多いと8人くらいの体制になり、開発スピードがものすごく上がって助かりました。
フリーだと依頼しづらく、信用もされづらくてうまくいかなかったかも。ここも法人化して良かったと思うポイントですね。
──話は少し戻りますが、2018年までは誰にも見せずに開発し続けたのですか?
藤井:ユーザーテストとかすれば良かったとは思うんですが、第三者に触れてもらう段階に達していないと自分たちは考えていました。見せても良いと思える機会として掲げていた目標は、TGSのインディーゲームコーナーにおける「選考ブース」への出展でした。
インディーゲームコーナーは、出展料が無料ではあるものの選考を通過する必要がある「選考ブース」と有料ブースに分かれており、私たちは選考ブースでの出展を狙っていました。そこで合格すれば、いろいろな方の意見を聞いても良い品質のゲームになっているだろうと踏んで申請していましたが通らずでして……。
TGSにかけた思いとイベント出展ラッシュ
──TGSの選考ブースに申請したのはいつごろでしょうか。藤井:開発開始から3年後くらいだったような気がします。TGSには計3回申請していまして、はじめて申請して通過できなかったときは「粘ってみるか!」と意気込んで2年ほど開発しました。「よしよし! よくなったぞ!」って思えるものができたのでチャレンジしたものの、またも通りませんでした。三度目の正直で通過したのが2018年ですね。
──TGS出展に挑戦し続けた理由を教えてください。
藤井:TGSは学生時代から憧れているイベントです。大阪に住んでいるとなかなか東京へ行きづらく、それだけTGSへの特別感も増していたように思います。
日本ゲーム大賞の授賞式もTGSで実施され、登壇したときの喜びもひとしおでした。そういった憧れのあるTGSに、自分たちの作品をもう一度披露したい思いがありました。
──そういった熱意が実ったTGS出展ですが、2018年はTGSより先にBitSummitに出展しています。
藤井:2回目の申請に落ちたあと、落ちた理由を自分たちなりに考えて「TGSは難度が高すぎたのではないか」「実績がないと通らないのかも」という結論に至り、別のイベントへの申請も検討することにしました。
申請したらほぼ確実に通るイベントだと、『RPGタイム!』が第三者に触れてもらえる品質かどうかわかりません。そこで、競争率が高く、審査も厳しそうで、私たちが住んでいる大阪から近い京都で開催しているBitSummitに申請した、という事情ですね。
──それまでにBitSummitは行ったことはありましたか。
藤井:インディゲームを作るにあたって、インディゲームクリエイターがどういった作品を作っているのかを調査するために二人で行ったことがあります。どの作品も目を見張るクオリティで、とくに『Hyper Light Drifter』はセンスの良いドット絵が滑らかに動くうえにとにかく面白く、圧倒されました。そのレベルの高さから、BitSummitは出展したいイベントの一つになりました。
▲アメリカの「Heart Machine」が開発した高難易度の2DアクションRPG『Hyper Light Drifter』
──2018年5月の「BitSummit vol.6」に出展し、初めて『RPGタイム!』を披露しました。
藤井:実際に出展するまでは不安でした。二度もTGSの選考に落ちていて、人に見せないで作ったので、どういった反応が来るのか予想できません。
有名な開発者さんも多く、どの作品の質も高い。そんな状況で自分たちのタイトルは埋もれてしまうのではないか、見劣りするのではないかという心持ちでした。
──傍から見るとBitSummitにおける『RPGタイム!』の注目度は高かったように思います。
藤井:インディーゲーム開発者の先輩がゲームメディアさんに『RPGタイム!』を紹介していただけたのも幸運でした。来場者の皆さんの目にも留まったおかげか、イベント初日から列が途切れることなく多くの方に遊んでいただけて、手ごたえを感じました。
──展示も凝っていて、ひときわ目立っていましたね。
藤井:精いっぱい作ったつもりですが、手作り感満載になってしまいました(笑)。結果的には目立って良かったのかもしれません。展示方法やグッズ作りで試行錯誤する体験はなかなか貴重で楽しかったですね。
──そしてBitSummit後、念願のTGS2018出展を果たします。TGS内のインディーゲーム向け企画「センス・オブ・ワンダー ナイト」では、『RPGタイム!』は3部門で受賞。なかでも、プレゼンを評価する「Best Presentation Award」を受賞していたのが気になりました。
藤井:インディーゲーム開発者さんの多くはプログラマーで、プレゼンを得意とする方は決して多くないと思います。一方、私はプランナーでプレゼンは主な仕事の一つ。プランナーとしての意地を見せたくて頑張りました。プレゼン内容は本番ギリギリまで二人で議論しながら修正に修正を重ね、その結果としてうまく皆さんに伝わったのかなと思います。
▲「センス・オブ・ワンダー ナイト」でプレゼンを披露する藤井さん(1時間7分50秒あたりから)
──プレゼンで工夫した点を教えてください。
藤井:センス・オブ・ワンダーナイトは、公式サイトによると”見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚”=「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲームのアイデアを発掘する企画、と定義づけています。
ですので、本企画のプレゼンでは『RPGタイム!』のどこが「センス・オブ・ワンダー」なのかをわかりやすく伝えることに注力しました。本作は『ゲームセンターCX 有野の挑戦状』のような「ゲームinゲーム」というジャンルでありながら、ケンタくんが登場することで「ゲームinゲームクリエイター」でもあることを強調しました。
さらにケンタくんは大人のゲームクリエイターではなく、「ゲームクリエイターになりたい少年」でもあります。この「ゲームinゲームクリエイターになりたい少年」であるケンタくんの存在がセンス・オブ・ワンダーであり本作の要だと皆さんに伝わった結果、賞をいただけたのだと思います。
──さらに中国の「厦門(アモイ)国際アニメマンガフェスティバル」、台湾の「台北國際電玩展」など海外でも出展しました。出展した狙いは?
藤井:どこにも見せずに開発していた期間中、プロモーションについても調べていました。プロモーションはパブリッシャーさんがついたら全部おまかせできるかなぁと楽観的に考えていた時期もありましたが、その前の段階としてパブリッシャーさんを含めてさまざまな方々に存在を知ってもらわないとパブリッシャーさんも反応してくれないと気付き……。
調べていると「海外も見据えて展開すべき」「BitSummitは海外のお客さんも多いから対応できるようにしておいたほうがいい」といった情報が出てきました。こういったことは可能な限りすべて試し、出られるイベントも出まくるようにしました。その一環としての海外出展ですね。
──海外の方々からの反応は?
藤井:子どものころ、ノートに鉛筆で落書きして遊ぶ体験は世界共通らしく、海外の方も懐かしいとか、日本でもこういった遊びをするのか、といったことを話していました。
落書きの種類によって海外の反応が変わるのは面白かったです。たとえば自分で迷路を描いて遊ぶことは中国でも知られていましたし、描いたこともある方が大半でした。しかし、アメリカだとマイナーなのか、迷路の存在を知らず戸惑う方が多かったです。○×ゲームだと反応は逆で、アメリカの方はよく知っていて中国の方には知られていませんでした。
地域や州によっても反応は変わりそうで一概には言えませんが、国ごとの文化の違いを実感しました。
▲『RPGタイム!』で迷路が登場するシーン
明けましておめでとうございます!▲迷路を活用した年賀イラスト
2022年「RPGタイム!〜ライトの伝説〜」リリースの年になります!
マスターアップ直前までと仕様追加したりと道草しましたが、やっとゴールに辿り着けそうです。
本年もどうぞよろしくお願いいたします!https://t.co/IXZsll3n7V
←2022年賀状 2020年賀状→ pic.twitter.com/kpKyeYkSXE— 藤井トム@インディーゲーム開発者 (@DESKWORKS_TOM) January 1, 2022
──海外でもリリースすることを踏まえ、国の文化に合わせて表現を変更するカルチャライズは行うのでしょうか。
藤井:気になるところに触れるとケンタくんが説明をしてくれるのですが、国によって説明の粒度を変えるなどして対応する予定です。
あとは開発初期から海外リリースも視野に入れていたため、なるべく日本独特のギャグは入れないようにしていました。それでも、日本でしか通じないであろうネタをすべて排除するのも惜しく感じ、お気に入りのネタは入っていますね。そういった部分は海外版では別バージョンが作れたらと思いますが、リリース時に入れられているかは不明ですね……。
▲日本ならではのネタを完全に排除したわけではない
──国内外へイベント出展し続けた効果は?
藤井:出展するたびにインディーゲーム開発者さんの仲間もできましたし、情報交換もできました。また、各地で試遊していただいた方々のフィードバックはありがたかったです。
遊んでもらった方の声は説得力が違いますし、自分たちの作り込み不足で困っている方を見ると申し訳なくなってすぐに直したくなります。フィードバックを参考に改良して次のイベントに出展し、新たにいただいたフィードバックからまた改良する、ということを繰り返しました。このブラッシュアップの繰り返しによって質は確実に高くなりました。
東京ゲームショウで『RPGタイム〜ライトの伝説〜』遊べます!幕張メッセ ホール3 南側のデル/ALIENWARE様ブースです:D▲2019年のTGSではAlienwareブースで出展していた
うっかり120fpsで動作してしまったほどの、つよつよゲーミングPCで、いつもよりヌルっと動く体験版をぜひ!#TGS2019 #TGS pic.twitter.com/X76oyrKsS7— 藤井トム@インディーゲーム開発者 (@DESKWORKS_TOM) September 12, 2019
お金の話、パブリッシャーの話
──長い間、専業で開発していると出費が気になります……。藤井:これまで大きな出費というとゲーム開発をはじめるときに揃えた機材くらいで、あとはやりくりできていました。が、イベント出展するようになってからが大変でした。交通費・宿泊費、出展料もかかりますし出展したイベント数も多かったので、お金がどんどんなくなっていきました。もうすっからかんです。
──2019年には、日本ゲーム文化振興財団のゲームクリエイター助成制度で採択され、助成金を受け取ることができました。
藤井:ちょうどお金が尽きかけたところで、本当に助かりました。助成金はサウンドの発注に使いました。前に何曲かは発注しましたが、すべてオリジナルにはできませんでした。
一般販売されている高品質なBGMを購入する選択肢もありましたが、我々が思い描く音楽を流したい思いに負け、すべてサウンドの外注費に消えました。
──試遊したときに感じましたが、制作したのはノイジークロークさんですか?
藤井:そうです。ノイジークロークの坂本さんとTGSで久しぶりにお会いして、それをきっかけに依頼につながりました。メインテーマも含めて何曲も作っていただきました。
──BGMの面でもリリースが楽しみです。イベントへの露出も多く、賞も受賞していて評判も良いとなると、パブリッシャーさんからのお誘いも多かったと思います。
藤井:幸いなことに、国内外を問わず多くのパブリッシャーさんにお声がけいただきました。
──海外からも注目されていたのですね。
藤井:海外でも出展した効果からか海外のほうが多く、日本の3倍くらいはお誘いいただきました。ですが、このときにいただいたお誘いは国内外すべてお断りしました。
──それはどうしてでしょうか。
藤井:誘っていただいたパブリッシャーさんはいずれも素晴らしくて選ぶのに迷っていたところ、そもそもパブリッシャーは付けるべきなのか? というところでも迷ってしまいました。
リリース経験のあるインディーゲーム開発者さんに話を聞くと、パブリッシャーを付けたほうが良いと思う方、自分たちでパブリッシングしたほうが良いと思う方、どちらの話も説得力があってますます迷い……。
さんざん迷った結果、完成の目途が立っている環境だから、自分たちでパブリッシングまでやってしまうかと二人で話し合って決めました。
──それでも最終的にはアニプレックスさんがパブリッシングしているのはなぜですか。
藤井:完成までそんなに時間はかからないだろうと思っていたのですが、「もうすぐ完成」から「完成」に至るまでが思ったよりも遠く、延びに延びまして……。リリースに関わる作業やらなんやらをする時間もお金も余裕もなくなりました。
やっぱりパブリッシャーに頼りたいと思っていたんですが、一度お断りしてしまったのでどうしようと途方に暮れていたところにお声がけいただいたのがアニプレックスさんです。話し合って、条件としても『RPGタイム!』にとってプラスになるだろうと判断し、パブリッシングしていただいています。
──パブリッシャーさんがサポートしてくれる内容は会社によって異なるとは思いますが、アニプレックスさんのサポート内容を教えてください。
藤井:翻訳、プロモーション、プレスリリース関連だとかひと通り対応いただけました。世界を狙って配信するにあたっていろいろとおまかせしている状態です。
──リリースするプラットフォームの話も聞かせてください。リリース時点ではXbox Series X|SやMicrosoft Storeがメインで、マイクロソフトさんの支援が入っていそうに見えます。
藤井:マイクロソフトさんにはさまざまな面で支援いただいております。たとえば2019年のE3カンファレンス「Xbox E3 2019 Briefing」では、『RPGタイム!』を発表させていただきました。日本から欧米などにリーチする方法が乏しかったのですが、ああいった大舞台で取り上げていただいたことで、反響もありました。
ずっと開発に使っているWindows機はXboxやMicrosoft Storeと親和性が高く、最初に出すプラットフォームとして適しているとも考えています。一般的なインディーゲームのリリースプラットフォームとは異なっているとは認識していますが、いきなり家庭用ゲーム機でもリリースできますし、良い選択だと感じます。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
前編はここまで。後編では『PRGタイム!~ライトの伝説~』のゲーム内容について、より具体的に迫っています。
(C)DeskWorks / Aniplex
『RPGタイム!~ライトの伝説~』
ジャンル:手作りノートアドベンチャー
発売日:2022年3月10日発売
プラットフォーム:Xbox Series X|S、Xbox One、Windowsストア
プレイヤー数:1人
価格:3650円[税込]
『RPGタイム!~ライトの伝説~』 Webサイト
https://rpgtime.jp/
『RPGタイム!~ライトの伝説~』 Twitter
https://twitter.com/RPGTimeJP
デスクワークス Webサイト
http://deskworks.jp/ja/
デスクワークス Twitter
https://twitter.com/DESKWORKS_JP
藤井トム Twitter
https://twitter.com/DESKWORKS_TOM
ダウンロードサイトURL:https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/rpg-time-the-legend-of-wright/9p0px95zxbxb
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