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【team ladybug】『Touhou Luna Nights』『ロードス島戦記』のメトロイドヴァニアゲームを手がける職人チームの裏側【インディーゲームインタビュー】

「どんな人がどんなインディーゲームを作っているのか」に注目したインタビュー連載企画の4回目は、「team ladybug」を取り上げます。

同チームは『アクションモグラ』『ファラオリバース』など、フリーの2D横スクロールアクションゲームを手がけてきた方を中心に据えた超少数のチーム。彼らがSteamでリリースした『Touhou Luna Nights』は15万本を超えるヒットを記録し、現在は大きな話題となった『ロードス島戦記ーディードリット・イン・ワンダーラビリンスー』(以下、ロードス島戦記DiW)のアーリーアクセスを展開しています。

team ladybugは基本的に取材NGとのことでしたが、『ファラオリバース』以降すべての彼らのゲームのプロデューサーである「ワイソーシリアス」代表の斉藤さんにインタビューに応じていただけました。斉藤さんとteam ladybugの関係や、斉藤さんの目に映るteam ladybugの姿を中心にお話してもらいました。

▲team ladybugのロゴ(左側)と、ワイソーシリアスのロゴ(右側)

今回のインタビューに登場する方の基本情報は以下の通り(名前・所属、代表作・略歴、好きなゲームの順に記載)。

team ladybug:『Touhou Luna Nights』/『リズム天国』『逆転裁判』『ポリスノーツ』シリーズ
斉藤 大地(ワイソーシリアス):「電ファミニコゲーマー」元副編集長/『太閤立志伝V』

※6月下旬、ビデオ会議ツールを用いて取材。

斉藤さんとteam ladybugの関係

──team ladybugが取材NGなのはなぜですか。

斉藤:絶対にNGなんてことはないのですが、積極的ではありません。取材依頼があったときは、僕が代わりに出ています。彼らは「作品で語るタイプ」と言えばいいのでしょうか、「作品をプレイすれば自分たちが言いたいことはわかってもらえるので、取材に出ても語ることはほとんどないです」と話しています。こう言ってしまうと気難しそうに思われるかもしれませんが、全然そんなことないですよ(笑)。

team ladybugのプロデュースをしている僕としても、彼らがあまりメディアに出すぎないことで適度に神秘性を保てているので、この姿勢は尊重しています。

──斉藤さんは、自身を「ゲーム編集者」と称されています。この理由も含めて、どんな仕事をしているのか、改めて教えてください。

斉藤:一般的な言い方をすれば、僕はプロデューサーと言える立場ですね。ただ、僕が担当しているのは個人もしくは超少数のチームがほとんどで、大人数を相手にすることが多いプロデューサーと名乗るには違和感を覚えました。どちらかというと、漫画家・小説家などの作家さんを担当する編集者のほうが近いと思い、そう名乗っています。

主な仕事内容は、ゲーム開発者さんの苦手分野を代替したり解決策を探したりすることです。要はゲーム作りをお手伝いならなんでもやる、雑用に近い仕事です。もう少し具体的に言えば、ゲームのストーリー原案を練ることもありますし、受託の案件を紹介することもあります。パブリッシャーさん選びや、版権元さんとゲーム開発者さんの間に立って、ゲーム開発者さんのやりたいことを通せるように調整もします。もちろん、よくないと思ったことがあれば命をかけてゲーム開発者さんを説得します。team ladybugさんは非常に賢い方たちなので、バチバチにやり合うことはないですが。

また、一般論として「こうしたほうが売れる」などの提案はしますが、「こうしないと絶対リリースさせません!」とは言いません。最終的な決定権は、ゲーム開発者さんに委ねています。

──パブリッシャー選びも斉藤さんが担っているんですね。team ladybug作品のパブリッシャーは「PLAYISM」さんが担当していますが、これはどうしてですか?

斉藤:PLAYISMさんは作品の魅力をストレートに伝えてくれる、国内で圧倒的に信頼できるパブリッシャーです。PLAYISMを運営する水谷俊次さんは安心して作品をお預けできる数少ない方でもありますし。

刀鍛冶のようなteam ladybug

──team ladybugのチーム起ち上げの経緯を教えてください。

斉藤:僕がドワンゴに在籍していたころ、自作ゲームコンテストの「ニコニコ自作ゲームフェス」を担当していた時期がありました。そのコンテスト受賞者の一人がteam ladybugの中心人物で、それをきっかけに交流するように。あるとき「自作ゲームの開発で生きていく、いわば「プロ」のゲームクリエイターになりたい」と相談を受け、受託の仕事を提案・紹介しました。その際、商業ベースでゲームを作るなら個人名チームとして動いていきたい思いがあったようで、team ladybugを起ち上げたと聞いています。

──彼がゲーム開発に興味を持ったきっかけは?

斉藤:元ケイブの浅見隼一氏が主宰していた、「Clickteam(当時はClick&Create)」(ゲーム開発ツール)コミュニティを見つけたのがはじまりと聞いています。そこでゲームの作り方を学んだと。

──斉藤さんから見た彼はどんな方ですか。

斉藤:刀鍛冶みたいな人ですよ。自分の腕前にプライドを持っていて、自分の作りたいものに対して真摯に向き合い、ストイックに開発しています。

また、2Dスクロールアクションへの愛が尋常じゃないです。愛を注ぐために研鑽を積むことも欠かさないですね。ステージごとに新しいことを試し、元から早い開発速度をさらに高めようともしています。

──毎日どのくらいの時間をかけて開発しているのか教えてください。

斉藤:一般的な社会人と同じくらいとは聞いています。「眠くなくなるまでは寝る」という健康的な暮らしを送っているからこそ、コンスタントにゲームをリリースし続けられているのだと思います。追加要素を思いついたら無理して作業することもあるっぽいですけど……。僕が聞いてない要素・コンテンツがいつの間にか増えていることもあるんですが、毎回出来がすごくて何も言うことがないですね(笑)。

──開発ツールは何を使っているのでしょうか。

斉藤:もともとはClickteam Fusion 2.5を使っていましたが、家庭用ゲーム機への移植が困難という理由から、GameMaker Studio 2に移行しています。その後、アクションゲームへの最適化を図った自作フレームワークをGameMaker Studio 2に組み込み、mogura engineと名付けて利用しています。

すべては面白いゲームを作るために

──team ladybugのデビュー作は、2017年3月に発売した「この素晴らしい世界に祝福を!2」のBlu-ray・DVD限定版第1巻の特典ゲーム『この素晴らしい世界に祝福を!復活のベルディア』です。このときのお話を教えてください。

斉藤:先ほどお話に挙がった、受託して作ったゲームですね。特典として付属するゲームなので大きな金額が動くお仕事ではなく、30分もプレイできれば十分ですよとteam ladybugさんに話しました。

で、上がってきた作品を見たら数時間分ありまして……。僕の立場から言えば、納期を守っているのは良いのですが、いただくお金に対していい意味ですごく見合っていないことを伝えました。「分かってはいたんですが、少なくとも自分たちが面白いと思えるようなものを提供したかった」という返答でした。コンシューマー機で買いたいという声がが上がるほどの作品に仕上がっていることからも、彼らがゲームへかける熱意が改めて伝わってきました。

▲『この素晴らしい世界に祝福を!復活のベルディア』のPV

──受託だから、安価だから、は手を抜く理由にならないと。その後も、『真・女神転生 SYNCHRONICITY PROLOGUE』『RUN!RUN!ランサー』と受託案件が続きました。この3作のリリース間隔は7か月ほどと短めです。短期間でリリースできた秘訣はなんでしょうか。

斉藤:メインの開発は一人で進めており、何事も一人で決められる環境にある点でしょうか。メンバーが増えれば増えるほど分業化が進んで効率は上がるのですが、精神的に摩耗してスケジュールに悪影響を及ぼします。

そうなると実作業も一人で行うことがメインになるわけですが、ドット絵の描画スピードに関しては、彼は天才だと思っています。早くドット絵が描ける理由をたずねたことがあるのですが、「自分の体の動きを見てドット絵にどう起こすかなど考えていたり、他のドット絵を見て研究はしたりしています。でも、コツは言語化できないです」と言っていました。たゆまぬ努力の結晶がなせる技だとは思いますが、それだけでは説明できないレベルで早くて、天才としか言いようがないんですよね……。

▲『真・女神転生 DEEP STRANGE JOURNEY』を題材にした『真・女神転生 SYNCHRONICITY PROLOGUE』

──斉藤さんは、ボリュームを小さめにオーダーしていると聞きました。この点も開発期間の短さにつながっていると思います。

斉藤:ボリュームは、プレイ時間が5時間から10時間くらいにしてほしいと話しています。そのくらいの規模のアクションゲームであれば1年以内で作り切れると思い、そう設定しています。

1年以内という期間を重視しているのは、たいていの人が一つのプロジェクトに対してモチベーションが続くがこのくらいだから。万が一、作品の売上が思ったより良くなくても開発期間が1年以内であれば、精神的ダメージはそこまで深刻になりづらく、次の作品へ気持ちを切り替えやすくなるのも利点です。もちろん、そんなことにならないような企画は立てますし、プロデュースもするのですが。

なお、team ladybugさんにとってこのボリューム感は「新しいことに挑戦していきたいので、ショートスパンで新作が作りやすい今の環境は性に合っている」とのことで、納得してもらえています。

──その3作をリリースした後はSteamでの販売に切り替えています。今後、受託する予定は?

斉藤:本人たちが面白いと感じたものなら受けると思いますが、基本的に現在のteam ladybugに受託させるのはもったいないので、ほぼないと考えております。ファンに届けやすいプラットフォームを適宜選びながら、自分たちの手で販売していきます。

でも、『ロックマン』か『悪魔城ドラキュラ』シリーズの新作の製作者として指名されるのが夢、とは言ってますね。その可能性が少しでも上がるよう、お手伝いをしていきます。

『Touhou Luna Nights』の販売本数15万本は通過点

──2018年8月にSteamで『Touhou Luna Nights』のアーリーアクセスを開始しました。team ladybugのオリジナル一作目に東方Projectを選んだ理由は?

斉藤:あらゆるIPの中でも懐が最も深いIPであり、僕自身もZUNさんなど東方Projectの中心人物たちと近しい立場にあったからですね。team ladybugも、インディーゲーム開発者として大先輩である東方Projectをリスペクトしていたということもあり、スムーズに決まりました。

▲アーリーアクセス版『Touhou Luna Nights』のPV

──アーリーアクセスから始めた目的は?

斉藤:ゲーム開発者とユーザーが交流する場が設けられることで二者間の繋がりが深くなり、ユーザーと一緒にゲームを作れることです。また、team lady bugは開発速度が非常に早いチームなので、ユーザーへのフィードバックも早く、アーリーアクセスとの相性も良かったのだと思います。

作品のブラッシュアップにつながるだけでなく、アーリーアクセス版を購入してくれたユーザーはフルリリース時に友人・知人にプッシュしてくれます。「アーリーアクセスで面白いゲームを見つけたんだが、こんな要望を出したら採用され、フルリリースした今は完成度がさらに上がっている。買ったほうがいいぞ」といったように。Valveがアーリーアクセスを推奨している理由が実感できました。

──ユーザーのフィードバックを反映させながら開発しているにも関わらず、3か月程度の間隔でステージの追加アップデートを重ねて2019年2月には正式リリース、同年6月にはファイナルアップデートを実施しています。

斉藤:team ladybugさんがメトロイドヴァニアと呼ばれるジャンルを愛していて、メトロイドヴァニアファンと好みがかなり近いからだと思っています。細かい方向性の違いはあると思いますが、team ladybugさんのやりたいことと、メトロイドヴァニアファンから出される要望の方向性が逆だったことはありませんでした。だから、開発を進めやすかったのだと考えています。自分のやりたいことを曲げて、言うことを聞くということもしていないですしね。

──『Touhou Luna Nights』の主人公に十六夜咲夜を起用したのはなぜですか。

斉藤:本作に限りませんが、ゲームを作るときはteam ladybugさんにどんなことをやりたいかをはじめにヒアリングします。そこで出てきた言葉が「時を止めるシステムを作ってみたい」でした。となると、これはもう咲夜さんしかいないだろうと。

▲咲夜さん(『Touhou Luna Nights』企画書より)

──斉藤さんが思う『Touhou Luna Nights』ならではの特徴を教えてください。

斉藤:東方Projectのグレイズ(自機に敵の弾をかすらせるシステム)をアクションゲームに落とし込めたことでしょうか。本作のメインウエポンはMPを消費して放つ飛び道具で、遠距離攻撃で被ダメを抑えながら戦っているとMPが尽きてしまいます(時間経過でMPは回復するものの、回復量はごくわずか)。そうならないよう、敵に近づく(グレイズする)リスクを冒すことで、手っ取り早くMPを回復できるというリターンを得られます。

このリスク・リターンがうまく機能し、ほど良い緊張感が生まれることで、ゲームとしての面白さを引き上げています。東方Projectが持つ世界観とゲームデザインの出会いにより、ある種の調和が生まれました。IP作品でここまでうまく調和するのは珍しく、感動しましたね。

また、本作ならではというわけではないのですが、team ladybugのアクションゲームは手触りの良さも特徴です。僕のアクションゲーム偏差値は53くらいだと思っていて、得意ジャンルではないです。という事情もあり、彼らのゲームは難しく感じるのですが、そんな僕でもアクションゲームの気持ち良さは理解できるよう作られている。ゲーム初心者でも理不尽さは感じず、超えたくなる壁と言えるほどの難易度であることも相まって、素晴らしいデザインだと思っています。

▲『Touhou Luna Nights』企画書の一部

──『Touhou Luna Nights』はファイナルアップデート5日後に総販売本数10万本を突破し、今では15万本も超えています。ここまで売れた要因をどう分析していますか。

斉藤:IPのパワーをお借りできた点は、要因として絶対に存在します。一定以上の知名度を誇るIPであれば、ゲームリリースの初動をブーストし、最低でも数千本には届きます。この数千人に遊んでもらえることが、IPの素晴らしい点です。中身の伴った良質なゲームであれば、遊んでいただいた方の口コミで評判が広まっていきます。『Touhou Luna Nights』に関しては、特にゲームに対して目が肥えた東方Projectファンから評価してもらえたことも要因の一つです。

あとは、メトロイドヴァニアのコアなファンが海外にも居たこと。メトロイドヴァニアのコアなファンは情報に敏感で、彼らは本作をちゃんと見つけてくれました。「team ladybugに期待するメトロイドヴァニアファン」も増加し、フルリリース時に本作をオススメしてくれた効果が非常に強く表れています。

『ロードス島戦記DiW』をアーリーアクセスでリリースしたタイミングでも、売上がグッと伸びました。『ロードス島戦記DiW』を遊んだ方が、アーリーアクセスだけでは物足りなくなったから前作である『Touhou Luna Nights』に興味を持っていただいたのではないでしょうか。

▲ファイナルアップデート版『Touhou Luna Nights』のPV

──この販売本数を見て、斉藤さんから見た評価はいかがでしょうか。

斉藤:team ladybugさんの腕と、彼らの作り上げたものに対して見合う数字が出たと思っています。15万本はインディーゲーム業界では価値のある数字だとは重々理解はしていますが、team ladybugとしては通過点。そう言ってしまっても傲慢と取られないほどのクリエイティビティを彼らは持っていると、遊んでいただいた方々には感じてもらえると思います。

──『Touhou Luna Nights』はNintendo Switchでもリリースする話がありました。

斉藤:だいぶお待たせしてしまっていますが、動いてはいます。近くお知らせできると思います。リリース時期の調整などもありますので、申し訳ございませんがもうしばらくお待ちいただけると助かります。

▲Nintendo Switch版『Touhou Luna Nights』のPV

『ロードス島戦記ーディードリット・イン・ワンダーラビリンスー』はteam ladybugの総決算

──2020年3月にアーリーアクセスを開始した『ロードス島戦記ーディードリット・イン・ワンダーラビリンスー』について教えてください。

斉藤:今までのteam ladybugの総決算のようなゲームです。まず、彼らが愛しているであろうゲームの影響がモーションなどにも強く出ています。あと『真・女神転生SYNCHRONICITY PROLOGUE』で採用した属性相性要素や、team ladybug結成前に作っていたゲームで採用していた武器や魔法を切り替えながら戦う仕組みも入っています。もちろん、キレイなドット絵が滑らかに動く様子も映えますし、今回はロードス島戦記の世界観に合わせて等身も高め。また、6月のアップデートで追加したステージ2は、「探索」する楽しみが増しているように見えました。彼らの今までのすべてを出し切っているゲームでありながら、成長・挑戦している姿も見て取れます。

▲ファーストアップデート版『ロードス島戦記DiW』のPV

──開発に関する思い出などありますか。

斉藤:「GameMaker Studio 2のことは『Touhou Luna Nights』の開発を通じてだいたいわかりました。開発スピードをもっと上げられると思います」と話していたのは衝撃を受けました。本作はボスのほかに中ボスも用意するので『Touhou Luna Nights』より工数がかかるはずなんですが、意外と早く上がってきており本当にスピードアップしているのを実感しました。もともと彼らは手が早かったのに、まだ成長の途上にあるとは……。

──開発が順調で何よりです。では、開発以外での思い出も伺えれば。

斉藤:本作のプレスリリースで「ロードス島戦記」がTwitterのトレンドに載ったことですね。クオリティには自信があったので多少なりとも反響はあると思っていたのですが、これは予想以上でした。ロードス島戦記ファンのアツさと、愛の深さを感じ取れました。

本作が、ロードス島戦記のことを思い出すきっかけの一つになれたのもうれしいです。ロードス島戦記は2018年に30周年を迎えた作品で、当時中学生くらいだったファンの方にとって、本作のドット絵は郷愁を呼び起こしやすかったのかもしれません。また、原作者の水野良さんも喜んでいるとお聞きしました。

──本作の今後の予定について教えてください。

斉藤:年末年始にフルリリースすることを目標に動いています。ステージ3を作ってみた感触によって、スケジュールがもう少しはっきり見えてくるかと。

▲ステージ3の開発画面

まとめ

──今のところ、team ladybugさんの作品は有名IPを活用した作品のみをリリースし、完全オリジナル作品はありません。これはなぜでしょうか。

斉藤:僕がインディーゲームの開発者さんに有名作品とのコラボレーションをおすすめするのは、IPの力でリリース後の初動が良くなることや、それに伴って開発者さんの知名度を高められるからです。IPの力を借りずとも売上や知名度などの壁を突破できる状況にあれば、オリジナル作品はやるべきです。僕もteam ladybugさんも、やってみたい気持ちではあります。

──斉藤さんから見て、team ladybugはどこにゲーム開発に魅力を感じていると思いますか。

斉藤:「自分が成長するところ。技術が向上し、昨日できなかったことが今日できるようになるところ。過去の自分の弱点に気付き、自分をアップデートできるところ」と言っていました。そういうふうに成長しながら、何かを生み出しているときは楽しくて苦にならないけれど、コンバート作業ですとか作業感のある仕事はしんどい、つまらないとは言っていましたね(笑)

──日本のインディーゲームの開発者さんにアドバイスをお願いします。

斉藤:プラットフォームは、SteamなどPCに対応したところを選ぶと対応が楽です。スマートフォンで買い切りのゲームは売れ行きが良くないのが常ですし、機種ごとの対応などに工数もかかってしまいますので。個人の適性によってはスマートフォンとの相性が良い方もいるとは思いますが、アクションゲームを作りたいのであれば、まずはSteamをオススメします。

Steamを利用するなら、アーリーアクセスを経てからフルリリースを目指してください。一般論としては、3か月くらいに1回は目に見える成果を出したほうがゲーム開発者はモチベーションを維持しやすいので、アーリーアクセスはオススメです。適度に締め切りがある環境を作り、細かくコンテンツを提供していくことが許されるジャンルであれば、やってみて損はないと思います。

このような基本的な話になってしまいましたが……、ゲーム内容に関してはとくに言うことはありません。ひいき目なしで個人のインディーゲーム開発者さんはトップクラスに優れているので、もっと自信を持ってクリエイティビティを伸ばしてほしいです。

問題はゲーム開発者ではなくそれ以外。僕を含めたプロデュースサイドが幼いことです。

──プロデュースサイドの問題について詳しく教えてください。

斉藤:例えばインディーゲームは個性が表れることが多く、作品によってプロデュース手法や、売るべき地域すらも変わってきます。たとえばteam ladybug作品は欧米向けが強く、僕がプロデュースさせていただいている別の作品である『幻想郷萃夜祭』は中国に向けて売れるので、当然主にそちらを向いてプロデュースしています。地域による好みの差を知るには、現地に足を運んだりプレイヤーと交流したり、現地のクリエイターのゲームをプレイしたりする必要があります。例えば小ネタで言えば、中国ではゲームパッドではなくキーボード操作が主流なので、キーボードコンフィグがないと評判が悪くなるのですが、これは僕も知ってびっくりしました。

──世界を視野に入れるべきというお話ですね。その理由は?

斉藤:インディーゲームだけで食べていくには、当然ながら売上が必要です。15万本売った『Touhou Luna Nights』の売上比率も日本より海外のほうが上で、日本での売上だけではteam ladybugですら専業というわけにはいかないと思います。ですから、IPとのコラボする際でも、もちろん海外との相性をまずは真っ先に検討しています。

──プロデュースを仕掛けるのは主にパブリッシャーの役割なのだと思いますが、どこのパブリッシャーに対しても同じ印象でしょうか。

斉藤:世界を視野に入れて実績を出せている国内のパブリッシャーは、現状ではPLAYISMさんくらいではないでしょうか。そのPLAYISMさんでさえ「プロデュースという視点では、世界のパブリッシャーと比べるとできていることがあまりにも小さい」と話しており、僕も同じ気持ちです。

僕がteam ladybugさんをうまくプロデュースできているかというと、まだまだです。彼らよりクオリティの高い2D横スクロールアクションを作れるチームがどれだけいるのかと考えると、そうそう出てこないでしょう。そんなチームが世界に出られなかったのは何故かというと、プロデューサーサイドである僕のせい。もっと早く世界に向けてプロデュースできたのではないか、と反省しています。その反省をもとに、次はもっと攻めていきたいと思っております。

余談:「INDIE Live Expo 2020」のちょっとした裏側

──インディーゲームの情報番組「INDIE Live Expo 2020」、お疲れさまでした。非常に面白い番組でした。

斉藤:僕(ワイソーシリアス)はあくまでもスポンサーで、リュウズオフィスさんが中心に頑張って、番組に申し込んでいただいたゲーム開発者さんたちが居たからこそ実現しました。僕がやったことと言えば、東方ProjectのZUNさんや『Undertale』のトビー・フォックスさんなど一部の方の橋渡しと、スポンサーとして「できるだけ多くのゲームを取り上げてほしい」とお願いしたことでしょうか。当日も、裏で出演を待つZUNさんとお酒を飲んで眺めてたくらいですし(笑)。とても楽しい番組でしたが、あの番組を世界で一番楽しんだのは僕だと思います!

▲INDIE Live Expo 2020の配信

──たしかに登場したタイトル数が膨大で、知らなかった作品も複数登場しました。

斉藤:応募作品のほとんどが採用されたようです。「好きなゲームは自らの手で探したいから、とにかくすべての作品を流してほしかった」という思いで提案しました。

──番組配信中、番組の開始時間を勘違いしていたロッズさん(ゲームがめちゃくちゃ好きなツイッタラー)に声をかけていたのが印象に残りました。

斉藤:ロッズさんのことがすごい好きなんですよ! Twitterで一番楽しそうにゲームをプレイする人だと思っています。しかもその楽しさを他人にもわかるようにうまく言語化できている方なので。INDIE Live Expoへのコミットするモチベーションの5パーセントくらいはロッズさんに見てもらうためだったかもしれません!

▲ロッズさんに注意を促す斉藤さん

──ロッズさんをはじめ、多くのゲーマーに支持されたINDIE Live Expoですが、2回目も開催するんですね。

斉藤:はい、11月7日に配信予定です。エントリー(作品の情報提供)も受付中ですので、インディー・フリー・同人区別なく、ゲーム開発者さんはどしどし申し込んでください。初回の配信で番組の知名度が上がったので、エントリーされたゲームすべてを紹介するわけにはいかなくなると予想していますが、今回の空気感は残しておいてほしいですね。番組詳細は、公式サイトをチェックしていただければ。

©️水野良・グループSNE/KADOKAWA/Team Ladybug・Why so serious?

『ロードス島戦記ーディードリット・イン・ワンダーラビリンスー』
ジャンル:2D横スクロールアクション
フルリリース時期:2020年末~2021年初頭予定
プラットフォーム:Steam(Windows)
プレイヤー数:1人
価格:1320円


team ladybug Webサイト
http://teamladybug.info/
team ladybug Twitter
https://twitter.com/ladybug_happy6
ワイソーシリアス Webサイト
https://whysoserious.jp/
斉藤 大地 Twitter
https://twitter.com/daichittaX
【連載】インディーゲーム開発者インタビュー

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