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「Worlds2019」決勝レポート:サムライと不死鳥の激戦のゆくえ、そして2020年の展開を占う【『LoL』世界大会2019】
目次
10月に始まり、1カ月を越えて続いた『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』の今年の世界大会「Worlds 2019」もいよいよ決勝戦。
全世界から集った24チームも残っているのはたったの2チーム。中国リーグであるLPLから出場したInvictus Gaming(iG)との王者対決を制したFunPlus Phoenix(FPX)と、韓国SKTを破ってグランドスラム達成まであと一歩となった欧州最強チームG2 Esports(G2)が、2019年最強のチームとしての名乗りを挙げるため、パリのアコーホテルズ・アリーナで激突した。
一見して不利な状況にあっても、巧みに差を埋める場所を見つけ出しては見事なチームワークから逆転の一手へと繋いで準決勝でSKTを破って見せたG2。一方のFPXはミッドレーンのDoinb選手を軸として、他チームではあまり見られないスタイルのミッドレーン、すなわちノーチラスやランブルといったピックを駆使し、サイドレーンに流れてどんどん戦闘を仕掛けていくスタイルでiGを破って決勝に進出した。
それぞれに独自の武器を持つ、異なる地域の2チームのどちらがより優れているのか。Doinb選手のチャンピオン選択にG2がカウンターすることができればG2が有利、でなければG2の戦場全体を使ったアプローチに対してFPXが適切に対応できるかが問われる構図である。
▲G2 Caps選手
第1試合は、FPXがDoinb選手にノーチラス(本大会ではサポートで運用されている)を渡し、G2のCaps選手がパイクでカウンターを狙う形でスタートした。
通常のFPXであれば、そこからボットレーンでのアクションを増やしていくところだが、この試合ではトップレーン側でのファイトを重点的に起こして、G2の予想の裏を突く形でリードを広げていく。G2は巧みに戦闘を避けては資金差を埋めて試合時間を伸ばしたものの、Wunder選手がライズでサイドレーンを支配するプランを崩されてしまった。最後は前線を確実に構築して正面から押し込んでいくFPXがまずは1勝となった。
続く第2試合はG2がミッド・トリスターナを選択してDoinb選手の動きを抑えようとするものの、Lwx選手のカイ=サが育つことを止められずに押し切られてしまう結果となった。第3試合でG2は強力なゾーニング能力を持つベイガーで堅守と少数戦を狙ったものの、思うような形で集団戦を作ることができなかった。
各試合とも高度な応酬が続いたものの、結果としては3勝0敗でFPXがBo5(3本先取)を制し、2019年の頂点を勝ち取った。「Worlds」初出場チームが優勝するのは、2013年のSKT以来の快挙であり、LPLは2年連続の優勝地域となった。また、欧州代表も2年連続でLPL代表を相手に決勝で敗れるという結果である。
Doinb選手が全身で喜びを現しながらチームメイトに抱きつき、夫人との約束を完全に果たしたことにより、FPXは頂点へと羽ばたいた。愛はまやかしではなかったし、LPLは世界最強のリーグであるという評価も確かなものになった。
2015年、「MSI 2015」におけるEDward Gamingの優勝、それを受けてその年の「Worlds」事前特集で注目の20人にずらりと並んだLPLのプレイヤー……そしてその後の悪夢を目の当たりにしていた身としては、その後のLPLが常に激しく戦いながら地域全体として着実に力をつけてきた結果が実ったことは、感慨深くもある。
小説であればここでめでたしめでたし、と締めくくってしまうところだが、競技シーンではそういうわけにもいかない。つまり来シーズンの話だ。
FPXは「Worlds」初参戦チームだが、所属選手たちは3年以上はプロ生活をしているベテランでもあった。LPLはその過酷さ(練習・中国国内の移動・レギュラーシーズンの対戦も常にBo3)も随一のリーグだ。Doinb選手は昨年引退を考えていたし、この決勝戦後のプレスカンファレンスによれば、今後の活動については考え中のようだ。
彼に限った話ではなく、2015年以来の拡大に伴ってLPLへやってきた選手、あるいはLMSから招かれた実績ある選手に続いて、若手がどれだけ現れるのかがLPLの未来を示すのではないだろうか。今年の「Worlds」参加こそ成らなかったものの ”黄金の左腕” Knight9選手(Top Esportsのミッド)はすでにその活躍が大いに注目されているし、何人かの偉大なプレイヤーの引退も囁かれている。彼らに続く伝説の担い手の誕生に期待している。
2年連続の決勝進出、「MSI」優勝。確かにグランドスラムは達成できなかったが、欧州がかつてのLCK一強時代からその歩みを大きく進めたことは疑いようがない。
G2の試合展開は、低リスクかつ確実なゲームプランを準備するだけでは足りないということをはっきりさせた。こういった、一見すると「危ない橋を渡る」試合を本番で実践できるチームをどれだけの組織が作り上げられるだろうか。
LECは “xPeke” を生み出し(なお犠牲者は現G2オーナーのocelote氏だ)、ベースレースとなることもしばしば見られる地域ではあるが、十分に意図した試合展開としてオブジェクトを交換し、時には捨てて、最終的には試合をコントロールしてみせたG2は、一つ抜けた存在だったと言えるだろう。彼らの試合観を支える準備は相当な労力となっていたはずで、G2のミッド/ADCはやんちゃでデキの悪い生徒だという動画は、LECによる悪質なデマだったというほかない。
さて、来期以降のヨーロッパでは、各国のリーグがアマチュアリーグではなく、本格的なプロリーグとして運営されていく見通しとなっている。sOAZ選手の言葉を借りるなら「より多くの良いチームと選手が切磋する場になる」だろう。来年さっそく雪辱を果たせる、とまでは言えないかもしれないが、LPLの覇権に待ったをかけるための準備を着々と進めてくれるはずだ。
最後にLCKチームが国際大会で優勝したのが「Worlds 2017」、決勝に進出したのが「MSI 2018」で最後ということを再確認すると、圧倒的な強さで君臨していた時代からずいぶんと経ったと思わされる。「Worlds」開催のたびにラスボスの様な扱いを受けるFaker選手が王座に君臨したのも2016年が最後なので、観戦を始めた時期によっては、魔王が本当に魔王だった姿を知らないということもあるだろう。果たしてLCKの輝きは色褪せ、その栄光は過去にしかないのだろうか?
筆者個人としては、実はそんなにLCKの今後については悲観していない。今年の最終的な結果は確かにファンの期待通りとはいかなかったかもしれないが、今回の大会に出場していた3チームの内、2チームが初参加で、SKTも3人が「Worlds」初経験の選手で、全体として若手が中心のラインナップだったのだ。その上で全チームがグループステージ1位突破だったことを、もっと評価しても良いと思う。
会場を変えてのBo5や、勝ち進んでいくにしたがってのしかかる重圧、長期間の海外遠征といった多くの経験を積んだことは彼らにとって今後大きな糧になってくれるだろう。何だかんだと言っても世界で最も厳しいランク戦環境を持ち、確実に相手を詰めていくプレイで競り合うこの地域では、常に新たな才能が舞台に現れているのだから、LCKという地域も再び強くなって帰ってくるはずだ。
今年のTeam SoloMid(TSM)は「Worlds」において、ついに無敗という圧倒的な記録を打ち立てた。もちろん参加していないので負ける道理もない……。
北米とそのファンは常に「今年こそはいける」と「こんなことだと思ってたよ」と書かれたコインを指先で弾いてはため息をついているようなところがある。実際、今年は「MSI 2016」以来となる久々の国際大会決勝進出を決め、今大会グループステージ前半もそこまで悪い仕上がりではなかったように思う。
一方で、後半戦の「NA week 2(※)」が思った以上に厳しい結果だったのも確かで、昨年の「Worlds」、今年の「MSI」に続く流れに期待を膨らませていたファンにとっては辛いことになってしまった。
北米はリーグの運営に伴い動いている資金の額でいえばすでに相当な規模になっており、「他地域に追いつくためにどうあるべきなのか?」という話題が来シーズンに向けて盛んに行われている。アカデミーリーグでは、一部地域の選手登録に関する扱いの変更がアナウンスされ、世界中の選手を引き抜いてくる補強の噂も事欠かない。
世界中から選手が集う華やかなリーグであり、シーン黎明期からの長い歴史を持つ地域でもある。活気あるメジャーリージョンの一角としてのカムバックに期待したい。来年こそはDoublelift選手がグループステージを突破すると信じて!
Season 2(2012年)にTaipei Assassinが優勝して以来、国際大会で一定の存在感を示し続けてきたLMS。来年からは東南アジア地域と統合され、かつてのGarena Premier League(GPL)の形に概ね戻ることとなったため、実は今年がLMSとして最後の「Worlds」だった。
グループステージを突破したチームはなかったものの、J TeamのFoFo選手やHon Kong Attitudeの3z選手が素晴らしいパフォーマンスを発揮して見せたシーンもあった。また、FPXのWarhorseコーチは、元々はLMSチーム「Flash Wolves」のコーチを務めていたので、LMSの人材そのものは結果を残していると見ることもできる。
ここ数年、LMSでめざましい活躍を見せた選手がLPLチームに移籍するという流れができているため、今後のリーグが心配……と考えるのは尚早というものだ。地域の統合は、時にリーグ単位で見たチームおよびプレイヤーベースの増加と、競争の加速を引き起こすものらしい。
ベトナムはかつて韓国に次ぐ競技人口の多さから頭角を現したが、東南アジア地域の新リーグ「Pacific League Championship Series(PCS)」が同じ道を登ることができない道理はないはずだ。多彩な地域の衝突から、新たな勢力が台頭してくることを信じてみよう。不死鳥は灰から蘇るのだ。
『LoL』10周年イベントでは、アラブ地域へのサービス拡充が発表された。さっそく12月上旬には、北アフリカおよび中東地域のファンを対象としたイベントがドバイで開催されると告知されている。
2019年11月現在、『LoL』は世界中の多くの地域にサーバーが設置されており、多くのプレイヤーが日々ゲームを楽しんでいる。しかしさまざまな事情から未だにサーバーが設置されていない地域もあり、そうした地域のファンたちはNAやEUWといった大規模地域のサーバーに接続して、大きなラグに不自由しながらゲームを遊んでいる。
北アフリカ・中東地域もそうしたサーバー未設置地域のひとつだ。12月のイベントは、ドバイに設置されたRiot支社の最初の仕事になるのだろう。インドもニューデリーにRiot支社が設置済みだが、サーバーは未設置のままだ。
新サーバーの設置については見通しが不透明だが、もし新しく『LoL』のサービスが始まる地域があれば、その地域のプロリーグも設置されるはずだ。そうした地域では、まだ見ぬ天才プレイヤーや素晴らしいチームが、正当な手順でステージに立てずに眠っている可能性がある。韓国サーバーの設置は2012年12月だったが、韓国チームが「Worlds」優勝を決めたのは2013年のことなのだから。
メジャーリージョンが華々しく戦い、そのパワーバランスも変化している国際大会だが、一方で彼らに挑むその他の地域、マイナーリージョンはどうだろうか?
今大会は結果だけ見ると思いのほか「予想外」が起こらずに終わっている。プレイインの各グループ順位はプール順で、プール2からグループ進出できたチームはなかった。その後もベスト4は各地域の第1シードチームと昨年の王者で、優勝したのは昨年と同じ地域で春夏通して最高の勝率だったチームだ。
しかし、その過程はそこまで絶対的でもなかった。プレイインのグループAはかなりもつれたし、LCL代表のUnicorns Of Loveはあと一歩でグループステージというところまで迫っていた。
メジャーリージョン同士の関係が変化していくように、他の地域もまた変化していくし、その過程でまた我々の予想を木っ端みじんにしてくれるゲームも見られるはずだ。もちろんそれは平坦な道ではないだろうが、それが可能だということを示してくれたのも今回の「Worlds」なのだから。
「Worlds」が終わり、次のシーズンを見すえる時期となればどうしても移籍、特に地域をまたいだ移籍に触れないわけにはいかない。
近年は特に顕著になっているが、組織が大規模な投資を受けてその資金を元に既に実績を上げている選手を獲得、チームを補強する事例は多い。一方で、そういった選手でリーグが占められるようになると「若手の選手が試合に出るチャンスが失われるのでは?」という声も当然出てくる。特に選手の年俸が高騰している一方で、結果が十分ではなかったと感じられる場合には。この問いは、何か一つの正解がある類いのものではない。
昨年のCloud9(北米)はアカデミー上がりの選手を活躍させることに見事に成功したし、今年のMisfits(欧州)の華麗なラインナップは夏スプリットを乗り切ることができなかった。
複数年にわたって考えれば、さらに事情は複雑になってくる。『LoL』の選手がチームと結ぶ契約は1~2年ほどなので、若手を育成しても他チームに引き抜かれるという可能性も十分にあるのだ。ただし、契約期間を長くできないのは、活躍に見合わない低い給与で選手を長期間拘束させないためのルールに基づいてもいる。
この状況は、大資本で選手を揃えているチームほど未知の可能性に賭けるということを難しくし、実績ある選手を揃えるという傾向に流れてしまう理由の一端になっている。メジャーリージョンの場合はフランチャイズ権獲得自体が大きな投資という面もあるので、さらにその判断は難しい。
とはいえ、活躍の場を求めるまだ見ぬタレントにその場所を与えるということについてはチームの側がボールを持っているのだし、何とか挑戦していってほしいという気持ちは強い。
今まで行われてきたRiot主催の国際大会は、各地域で行われているプロリーグのチームが成績に基づいて参加しているものだが、一部では国別のチームを集めて行われるワールドカップ形式の大会のうわさがささやかれている。2018年には国際オリンピック委員会主催の「アジア室内競技大会」でアジア各国チームによる競技『LoL』が行われていたわけだが、これを全世界に広げたような格好になるだろうか。
Riot主催の国際大会における現在の地域割り当ては、様々な国を含んだ広いエリアに対応している。国ごととなるとLECやLLA、LCLに該当する地域からは多くのプレイヤーが参加することになるだろう。名ミッドレーナーを輩出することに定評のあるデンマークをはじめとして、地域としてひとくくりになっている各国の個性が強く表れる大会になるかもしれない。
もちろん現時点では何の発表もないし、実際に行うとなれば選手の選考や会場の確保、移動に関する問題など、既存の国際大会にもまして多くの課題が出てくることが想像できるが、これまでのリーグとは異なるチーム、プレイヤーが一堂に会する大会というのも楽しそうだ。
今年で『リーグ・オブ・レジェンド』はサービス開始から10周年を迎えた。「Worlds」も来年には10回目となる大会が開催される予定となっている。第1回大会は2011年、LANパーティーイベント「DreamHack」の一部として行われ、参加チームも北米・欧州・シンガポール・フィリピンと、限られたトーナメントを勝ち上がってきた8チームで優勝を争った。
しかし翌年、参加チームは12チームに拡大され、その中にはiGやWEといった今でも活動を続けている中国、あるいは韓国のチームも加わり、一気に ”世界” 大会と言える規模となった。そしてその後、2013年にはSKTが現れ、2014年にはSamsung Whiteが圧倒的な強さを見せて翌年のKRエクソダスの予兆を見せることとなった。2015年にはSKTの前にROXが立ちふさがり、2016年は一度は離散したSamsungがSamsung Galaxy(SSG)となってSKTに挑み、そして2017年にはついにSSGがSKTを破って一つの時代を終わらせることになった。昨年と今年は、LPL・LECが2013年以降ずっとその背中を追い続けてきたLCKに追いつき、互いに優勝争いを演じる強豪地域へと成長する姿を見せている。そして次回は第10回大会となる。
LPLは地域としての3連覇を目標として、世界各地からやってくる挑戦者を迎え撃つホスト地域だ。過去の「Worlds」で開催地域のチームが優勝したのは2014年の韓国開催時、SSWによるものがただ一度。果たして来年のLPLは最強・最大の地域としてその王座を3度占めるのか、あるいはいずれかの地域が待ったをかけるのか。
いずれにせよ、我々の予想を軽々と飛び越えるような白熱した光景を来年の世界大会にも期待したい。
全世界から集った24チームも残っているのはたったの2チーム。中国リーグであるLPLから出場したInvictus Gaming(iG)との王者対決を制したFunPlus Phoenix(FPX)と、韓国SKTを破ってグランドスラム達成まであと一歩となった欧州最強チームG2 Esports(G2)が、2019年最強のチームとしての名乗りを挙げるため、パリのアコーホテルズ・アリーナで激突した。
FunPlus Phoenix vs G2 Esports:羽ばたく不死鳥
▲FPX Doinb選手一見して不利な状況にあっても、巧みに差を埋める場所を見つけ出しては見事なチームワークから逆転の一手へと繋いで準決勝でSKTを破って見せたG2。一方のFPXはミッドレーンのDoinb選手を軸として、他チームではあまり見られないスタイルのミッドレーン、すなわちノーチラスやランブルといったピックを駆使し、サイドレーンに流れてどんどん戦闘を仕掛けていくスタイルでiGを破って決勝に進出した。
それぞれに独自の武器を持つ、異なる地域の2チームのどちらがより優れているのか。Doinb選手のチャンピオン選択にG2がカウンターすることができればG2が有利、でなければG2の戦場全体を使ったアプローチに対してFPXが適切に対応できるかが問われる構図である。
▲G2 Caps選手
第1試合は、FPXがDoinb選手にノーチラス(本大会ではサポートで運用されている)を渡し、G2のCaps選手がパイクでカウンターを狙う形でスタートした。
通常のFPXであれば、そこからボットレーンでのアクションを増やしていくところだが、この試合ではトップレーン側でのファイトを重点的に起こして、G2の予想の裏を突く形でリードを広げていく。G2は巧みに戦闘を避けては資金差を埋めて試合時間を伸ばしたものの、Wunder選手がライズでサイドレーンを支配するプランを崩されてしまった。最後は前線を確実に構築して正面から押し込んでいくFPXがまずは1勝となった。
続く第2試合はG2がミッド・トリスターナを選択してDoinb選手の動きを抑えようとするものの、Lwx選手のカイ=サが育つことを止められずに押し切られてしまう結果となった。第3試合でG2は強力なゾーニング能力を持つベイガーで堅守と少数戦を狙ったものの、思うような形で集団戦を作ることができなかった。
各試合とも高度な応酬が続いたものの、結果としては3勝0敗でFPXがBo5(3本先取)を制し、2019年の頂点を勝ち取った。「Worlds」初出場チームが優勝するのは、2013年のSKT以来の快挙であり、LPLは2年連続の優勝地域となった。また、欧州代表も2年連続でLPL代表を相手に決勝で敗れるという結果である。
2020年を前に競技シーンについて頭をよぎる10のこと
1. LPLの今後
▲今大会決勝でMVPを獲得したTian選手は、「MSI 2015」でLPL代表のEDward Gamingが優勝する様子を見て、『LoL』のプロ選手を志したという
Doinb選手が全身で喜びを現しながらチームメイトに抱きつき、夫人との約束を完全に果たしたことにより、FPXは頂点へと羽ばたいた。愛はまやかしではなかったし、LPLは世界最強のリーグであるという評価も確かなものになった。
2015年、「MSI 2015」におけるEDward Gamingの優勝、それを受けてその年の「Worlds」事前特集で注目の20人にずらりと並んだLPLのプレイヤー……そしてその後の悪夢を目の当たりにしていた身としては、その後のLPLが常に激しく戦いながら地域全体として着実に力をつけてきた結果が実ったことは、感慨深くもある。
小説であればここでめでたしめでたし、と締めくくってしまうところだが、競技シーンではそういうわけにもいかない。つまり来シーズンの話だ。
FPXは「Worlds」初参戦チームだが、所属選手たちは3年以上はプロ生活をしているベテランでもあった。LPLはその過酷さ(練習・中国国内の移動・レギュラーシーズンの対戦も常にBo3)も随一のリーグだ。Doinb選手は昨年引退を考えていたし、この決勝戦後のプレスカンファレンスによれば、今後の活動については考え中のようだ。
彼に限った話ではなく、2015年以来の拡大に伴ってLPLへやってきた選手、あるいはLMSから招かれた実績ある選手に続いて、若手がどれだけ現れるのかがLPLの未来を示すのではないだろうか。今年の「Worlds」参加こそ成らなかったものの ”黄金の左腕” Knight9選手(Top Esportsのミッド)はすでにその活躍が大いに注目されているし、何人かの偉大なプレイヤーの引退も囁かれている。彼らに続く伝説の担い手の誕生に期待している。
2. LECの拡大
▲決勝で敗れ、惜しくもグランドスラム達成とは成らなかったG2。しかしこの1年間で達成したことは、2019年のG2が欧州リーグ史上最高のチームであることも示している
2年連続の決勝進出、「MSI」優勝。確かにグランドスラムは達成できなかったが、欧州がかつてのLCK一強時代からその歩みを大きく進めたことは疑いようがない。
G2の試合展開は、低リスクかつ確実なゲームプランを準備するだけでは足りないということをはっきりさせた。こういった、一見すると「危ない橋を渡る」試合を本番で実践できるチームをどれだけの組織が作り上げられるだろうか。
LECは “xPeke” を生み出し(なお犠牲者は現G2オーナーのocelote氏だ)、ベースレースとなることもしばしば見られる地域ではあるが、十分に意図した試合展開としてオブジェクトを交換し、時には捨てて、最終的には試合をコントロールしてみせたG2は、一つ抜けた存在だったと言えるだろう。彼らの試合観を支える準備は相当な労力となっていたはずで、G2のミッド/ADCはやんちゃでデキの悪い生徒だという動画は、LECによる悪質なデマだったというほかない。
さて、来期以降のヨーロッパでは、各国のリーグがアマチュアリーグではなく、本格的なプロリーグとして運営されていく見通しとなっている。sOAZ選手の言葉を借りるなら「より多くの良いチームと選手が切磋する場になる」だろう。来年さっそく雪辱を果たせる、とまでは言えないかもしれないが、LPLの覇権に待ったをかけるための準備を着々と進めてくれるはずだ。
3. LCKの地位
▲今年LCKデビューからそのまま「Worlds」出場を成し遂げたDAMWON Gamingのミッドレーナー、Showmaker選手。今年のLCKチームは若手の活躍がめざましく、新たな時代の到来を予感させてくれる
最後にLCKチームが国際大会で優勝したのが「Worlds 2017」、決勝に進出したのが「MSI 2018」で最後ということを再確認すると、圧倒的な強さで君臨していた時代からずいぶんと経ったと思わされる。「Worlds」開催のたびにラスボスの様な扱いを受けるFaker選手が王座に君臨したのも2016年が最後なので、観戦を始めた時期によっては、魔王が本当に魔王だった姿を知らないということもあるだろう。果たしてLCKの輝きは色褪せ、その栄光は過去にしかないのだろうか?
筆者個人としては、実はそんなにLCKの今後については悲観していない。今年の最終的な結果は確かにファンの期待通りとはいかなかったかもしれないが、今回の大会に出場していた3チームの内、2チームが初参加で、SKTも3人が「Worlds」初経験の選手で、全体として若手が中心のラインナップだったのだ。その上で全チームがグループステージ1位突破だったことを、もっと評価しても良いと思う。
会場を変えてのBo5や、勝ち進んでいくにしたがってのしかかる重圧、長期間の海外遠征といった多くの経験を積んだことは彼らにとって今後大きな糧になってくれるだろう。何だかんだと言っても世界で最も厳しいランク戦環境を持ち、確実に相手を詰めていくプレイで競り合うこの地域では、常に新たな才能が舞台に現れているのだから、LCKという地域も再び強くなって帰ってくるはずだ。
4. NAの今(あるいはTSMファンの嘆き)
▲NAの競技シーンそのものと言えるベテランとなったDoublelift選手。一般に選手生命が短いとされる『LoL』競技シーンにおいて未だに上を目指して戦い続け、結果も(グループ突破以外は)残している偉大なプレイヤーだ
今年のTeam SoloMid(TSM)は「Worlds」において、ついに無敗という圧倒的な記録を打ち立てた。もちろん参加していないので負ける道理もない……。
北米とそのファンは常に「今年こそはいける」と「こんなことだと思ってたよ」と書かれたコインを指先で弾いてはため息をついているようなところがある。実際、今年は「MSI 2016」以来となる久々の国際大会決勝進出を決め、今大会グループステージ前半もそこまで悪い仕上がりではなかったように思う。
一方で、後半戦の「NA week 2(※)」が思った以上に厳しい結果だったのも確かで、昨年の「Worlds」、今年の「MSI」に続く流れに期待を膨らませていたファンにとっては辛いことになってしまった。
(※)NA week 2:「Worlds」グループステージで、NA代表チームたちが前半戦は新戦術などを繰り出して調子よく勝ち進めるものの、後半戦では相手に研究されて、最終的には敗退してしまう様子
北米はリーグの運営に伴い動いている資金の額でいえばすでに相当な規模になっており、「他地域に追いつくためにどうあるべきなのか?」という話題が来シーズンに向けて盛んに行われている。アカデミーリーグでは、一部地域の選手登録に関する扱いの変更がアナウンスされ、世界中の選手を引き抜いてくる補強の噂も事欠かない。
世界中から選手が集う華やかなリーグであり、シーン黎明期からの長い歴史を持つ地域でもある。活気あるメジャーリージョンの一角としてのカムバックに期待したい。来年こそはDoublelift選手がグループステージを突破すると信じて!
5. さらばLMS(台湾・香港・マカオ地域)
▲惜しくもグループステージ敗退となったLMS第1シードのJ Team。FPX相手にも1勝しており、FoFo選手(ミッド)のパフォーマンスは素晴らしいものがあった
Season 2(2012年)にTaipei Assassinが優勝して以来、国際大会で一定の存在感を示し続けてきたLMS。来年からは東南アジア地域と統合され、かつてのGarena Premier League(GPL)の形に概ね戻ることとなったため、実は今年がLMSとして最後の「Worlds」だった。
グループステージを突破したチームはなかったものの、J TeamのFoFo選手やHon Kong Attitudeの3z選手が素晴らしいパフォーマンスを発揮して見せたシーンもあった。また、FPXのWarhorseコーチは、元々はLMSチーム「Flash Wolves」のコーチを務めていたので、LMSの人材そのものは結果を残していると見ることもできる。
ここ数年、LMSでめざましい活躍を見せた選手がLPLチームに移籍するという流れができているため、今後のリーグが心配……と考えるのは尚早というものだ。地域の統合は、時にリーグ単位で見たチームおよびプレイヤーベースの増加と、競争の加速を引き起こすものらしい。
ベトナムはかつて韓国に次ぐ競技人口の多さから頭角を現したが、東南アジア地域の新リーグ「Pacific League Championship Series(PCS)」が同じ道を登ることができない道理はないはずだ。多彩な地域の衝突から、新たな勢力が台頭してくることを信じてみよう。不死鳥は灰から蘇るのだ。
6. さらに広がる世界
▲競技シーンの拡大に伴い、世界各地のリーグから多彩なチームが集うようになった「Worlds」
『LoL』10周年イベントでは、アラブ地域へのサービス拡充が発表された。さっそく12月上旬には、北アフリカおよび中東地域のファンを対象としたイベントがドバイで開催されると告知されている。
2019年11月現在、『LoL』は世界中の多くの地域にサーバーが設置されており、多くのプレイヤーが日々ゲームを楽しんでいる。しかしさまざまな事情から未だにサーバーが設置されていない地域もあり、そうした地域のファンたちはNAやEUWといった大規模地域のサーバーに接続して、大きなラグに不自由しながらゲームを遊んでいる。
北アフリカ・中東地域もそうしたサーバー未設置地域のひとつだ。12月のイベントは、ドバイに設置されたRiot支社の最初の仕事になるのだろう。インドもニューデリーにRiot支社が設置済みだが、サーバーは未設置のままだ。
新サーバーの設置については見通しが不透明だが、もし新しく『LoL』のサービスが始まる地域があれば、その地域のプロリーグも設置されるはずだ。そうした地域では、まだ見ぬ天才プレイヤーや素晴らしいチームが、正当な手順でステージに立てずに眠っている可能性がある。韓国サーバーの設置は2012年12月だったが、韓国チームが「Worlds」優勝を決めたのは2013年のことなのだから。
7. マイナーリージョンのこれから
▲結果が最後まで分からなかったプレイイン・グループA。プール3のチームであることから、評価が高くなかったオセアニア代表・MAMMOTHが活躍したことで多くのタイブレークが行われることとなった
メジャーリージョンが華々しく戦い、そのパワーバランスも変化している国際大会だが、一方で彼らに挑むその他の地域、マイナーリージョンはどうだろうか?
今大会は結果だけ見ると思いのほか「予想外」が起こらずに終わっている。プレイインの各グループ順位はプール順で、プール2からグループ進出できたチームはなかった。その後もベスト4は各地域の第1シードチームと昨年の王者で、優勝したのは昨年と同じ地域で春夏通して最高の勝率だったチームだ。
しかし、その過程はそこまで絶対的でもなかった。プレイインのグループAはかなりもつれたし、LCL代表のUnicorns Of Loveはあと一歩でグループステージというところまで迫っていた。
メジャーリージョン同士の関係が変化していくように、他の地域もまた変化していくし、その過程でまた我々の予想を木っ端みじんにしてくれるゲームも見られるはずだ。もちろんそれは平坦な道ではないだろうが、それが可能だということを示してくれたのも今回の「Worlds」なのだから。
8. 世界を股にかけるベテラン選手 vs 若手の育成
▲左からImpact選手、CoreJJ選手、Nuguri選手、Nuclear選手。全員韓国出身のプレイヤーだが、たどってきたキャリアとプレイした地域は千差万別だ。Impact選手はSKTでキャリアを積み北米へ。CoreJJはADC時代に北米へ渡ったのちLCKに戻ってサポートに転向し、後に「Worlds」優勝を経て北米に再び渡った。Nuguri選手はLCK期待の新人として今年は大いに結果を出した。Nuclear選手は欧州で1年間を過ごした後にDWGに加入し、「Worlds」出場を果たした
「Worlds」が終わり、次のシーズンを見すえる時期となればどうしても移籍、特に地域をまたいだ移籍に触れないわけにはいかない。
近年は特に顕著になっているが、組織が大規模な投資を受けてその資金を元に既に実績を上げている選手を獲得、チームを補強する事例は多い。一方で、そういった選手でリーグが占められるようになると「若手の選手が試合に出るチャンスが失われるのでは?」という声も当然出てくる。特に選手の年俸が高騰している一方で、結果が十分ではなかったと感じられる場合には。この問いは、何か一つの正解がある類いのものではない。
昨年のCloud9(北米)はアカデミー上がりの選手を活躍させることに見事に成功したし、今年のMisfits(欧州)の華麗なラインナップは夏スプリットを乗り切ることができなかった。
複数年にわたって考えれば、さらに事情は複雑になってくる。『LoL』の選手がチームと結ぶ契約は1~2年ほどなので、若手を育成しても他チームに引き抜かれるという可能性も十分にあるのだ。ただし、契約期間を長くできないのは、活躍に見合わない低い給与で選手を長期間拘束させないためのルールに基づいてもいる。
この状況は、大資本で選手を揃えているチームほど未知の可能性に賭けるということを難しくし、実績ある選手を揃えるという傾向に流れてしまう理由の一端になっている。メジャーリージョンの場合はフランチャイズ権獲得自体が大きな投資という面もあるので、さらにその判断は難しい。
とはいえ、活躍の場を求めるまだ見ぬタレントにその場所を与えるということについてはチームの側がボールを持っているのだし、何とか挑戦していってほしいという気持ちは強い。
9. ワールドカップのうわさ
▲欧州はミッドレーナーの宝庫と言われるが、特に名を挙げているプレイヤーはデンマーク出身が多い(Froggen選手やBjergsen選手)。より小さな地域ごとの特徴の現れたチーム同士の戦いというのも興味を惹かれる
今まで行われてきたRiot主催の国際大会は、各地域で行われているプロリーグのチームが成績に基づいて参加しているものだが、一部では国別のチームを集めて行われるワールドカップ形式の大会のうわさがささやかれている。2018年には国際オリンピック委員会主催の「アジア室内競技大会」でアジア各国チームによる競技『LoL』が行われていたわけだが、これを全世界に広げたような格好になるだろうか。
Riot主催の国際大会における現在の地域割り当ては、様々な国を含んだ広いエリアに対応している。国ごととなるとLECやLLA、LCLに該当する地域からは多くのプレイヤーが参加することになるだろう。名ミッドレーナーを輩出することに定評のあるデンマークをはじめとして、地域としてひとくくりになっている各国の個性が強く表れる大会になるかもしれない。
もちろん現時点では何の発表もないし、実際に行うとなれば選手の選考や会場の確保、移動に関する問題など、既存の国際大会にもまして多くの課題が出てくることが想像できるが、これまでのリーグとは異なるチーム、プレイヤーが一堂に会する大会というのも楽しそうだ。
10. 10回目の世界大会
▲中国へ戻ることとなったサモナーズカップ。2年連続「Worlds」制覇を果たしたLPLは、来年10回目の節目を迎える「Worlds」のホスト地域となり、広大な中国で6都市を巡るかつてない規模の大会が行われる
今年で『リーグ・オブ・レジェンド』はサービス開始から10周年を迎えた。「Worlds」も来年には10回目となる大会が開催される予定となっている。第1回大会は2011年、LANパーティーイベント「DreamHack」の一部として行われ、参加チームも北米・欧州・シンガポール・フィリピンと、限られたトーナメントを勝ち上がってきた8チームで優勝を争った。
しかし翌年、参加チームは12チームに拡大され、その中にはiGやWEといった今でも活動を続けている中国、あるいは韓国のチームも加わり、一気に ”世界” 大会と言える規模となった。そしてその後、2013年にはSKTが現れ、2014年にはSamsung Whiteが圧倒的な強さを見せて翌年のKRエクソダスの予兆を見せることとなった。2015年にはSKTの前にROXが立ちふさがり、2016年は一度は離散したSamsungがSamsung Galaxy(SSG)となってSKTに挑み、そして2017年にはついにSSGがSKTを破って一つの時代を終わらせることになった。昨年と今年は、LPL・LECが2013年以降ずっとその背中を追い続けてきたLCKに追いつき、互いに優勝争いを演じる強豪地域へと成長する姿を見せている。そして次回は第10回大会となる。
LPLは地域としての3連覇を目標として、世界各地からやってくる挑戦者を迎え撃つホスト地域だ。過去の「Worlds」で開催地域のチームが優勝したのは2014年の韓国開催時、SSWによるものがただ一度。果たして来年のLPLは最強・最大の地域としてその王座を3度占めるのか、あるいはいずれかの地域が待ったをかけるのか。
いずれにせよ、我々の予想を軽々と飛び越えるような白熱した光景を来年の世界大会にも期待したい。
執筆:山口佐和子
執筆協力:ユラガワ
写真:LoL Esports Photos
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