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『The Artful Escape』Steam版レビュー:今とは全く違う自分になりたいあなたへ。全ギタリストマストプレイの宇宙的独奏会音!

ねえ、ちょっと聞かせてほしい。「今の自分とはぜんぜん違う人になりたい」と思ったことはある? 本作は苦悩と恍惚のギタリストのゆくえ、ギタープレイの宇宙的旅路、若きフォークミュージシャンのビジョンクエストをつづったものだ。とんでもないことに、以上に並べた形容詞のような言葉は、実際のゲームプレイと一致する。また、先に筆者の正体を明かしておくと、フリーランスのゲームライターでありながら商業音楽家でもある。ギタープレイはお手の物だ。よって本作には心酔するものがある。


この『The Artful Escape』はBeethoven&Dinosaurによって開発され、数々の名作を世にリリースしているAnnapurna Interactiveが販売を務める作品だ。「The Game Awards 2021」ではBest Art DirectionやBest Score、Best Debut Indieでノミネートされるほどの評価を受けた。特徴的なのは、ミュージシャンであり本作のリード デザイナーであるJohnny Galvatron氏が開発に携わっているところで、彼のツアーを含めた音楽体験が本作のインスピレーションとなっている。

そして本作をひと言であらわすのは難しいが、あえて言うなら「音ゲーとプラットフォーマー(ジャンプアクションゲーム)の融合」というところに落ち着くのだろう。しかし、その一語ではこぼれてしまうものに、本作の圧倒的魅力が詰まっている。それを評価するのに紙幅を割くが最後までお付き合いくだされば幸いだ。


『The Artful Escape』のポイント
  • 圧倒的なビジュアル体験
  • 素晴らしいインタラクティブミュージックの使い方
  • 少々ぎこちない翻訳

プラットフォーマーと音ゲーの融合は
奇妙かつ素晴らしい旅路

本作の導入はこうだ。主人公のフランシス・ヴェンデッティはフォークミュージシャンで、初めてのライブ前日に黄昏れながらギターを弾いている。心ここにあらずといった風で、フォークを弾いていたかと思ったらギターソロを弾き始める。そしてそれを見ていたのがビオレッタという謎の女性。


彼女は、穴の空いた風船に息を吹き込んでいるようなミュージシャンにギターを弾かせ、伝説的なフォークミュージシャン、ジョンソン・ヴェンデッティの影におびえていることを指摘する。ジョンソンはフランシスの叔父だ。その後ビオレッタは「ぜんぜん違う人になりたいと思ったことはない?」と問う。そして、飛躍するが、フランシスはライトマンというギタリストの前座を務めるため、宇宙に行く(!)。


おもなゲームプレイは「左から右へ」といった伝統的なフォーマットの進行で、横スクロールしながらジャンプし、そしてギターを弾いていく。まるで文章というアンプに入るノイズのように楽器の話が出るが、実際にXboxコントローラーであればXボタンを押している間はいつでもギターを弾けるし、いつ弾くのをやめてもいい。ここに罰則もなければゲーム進行上で得になることもない。ないが弾いていると素晴らしく気持ちよい。絶対にコントローラーでやるべき作品だ。


そして広がるのはサイケデリックあるいはファンタジー極まりない宇宙で、圧倒的なアート体験が待っている。その中をいつでもギターソロを弾ける状態で駆け回るのだ。楽しくないわけがない。高いところから低いところへ落ちていくようなレベルデザインのステージが多いので、ジェットコースターのような印象を受けるだろう。


ホットな丸いトーンのギターソロは耳に馴染むし、インタラクティブミュージックとしてバックグラウンドのふわふわとしたシンセサイザーのスケール(音階)とまったく違わずに鳴るため、いつ弾くのをやめても再開しても音階のずれが生じずに鳴るのは素晴らしい工夫だ。


一定数進むと、ストーリーパートになるか音ゲーパートになる。音ゲーパートでは示されたボタンを順番に押していく簡易なものを採用している。簡易なもので正解なのだ。本作は音ゲーを気軽に楽しみ、そのときの演出に驚かされながら進み、ギターと宇宙で紡がれる叙事詩を楽しむことなのだから。音ゲーパートでは数々の工夫が練られたステージングイベントが待っている。謎の宇宙生物とのセッションや、ライトマンとセッションすることもある。

オピニオンを表明できる選択肢は
物語の重み付けになっている

本作はいくつかの場面でオピニオンを表明できる選択肢がありそれがよい。ミュージシャンとしてのあり方を提示できる、プレイヤーとしてフランシスをどのように振る舞わせたいか、それを選べる。ミュージシャンのうぬぼれのような選択肢から現実的な選択肢まで多種多様だ。


そもそも、ぜんぜん違う人になりたくないか、という問いから始まるこの物語は、アイデンティティーの物語だ。ソロミュージシャンの音楽とはおよそ個人のアイデンティティー、だからそれを変えるということは自分を変えることと同義である。よってフランシス個人に集約される物語だが、素晴らしい結末をみせてくれる。


ツインギターを1人で弾くのは示唆に富む

本作は「ありそうでなかったゲーム」ではなく「なさそうで本当になかったゲーム」で、新しいビジョンを実現している。それはソリストの孤独と苦悩、あるいは今後の方向性への迷いを、プラットフォーマーと音ゲーとで表現しているところだ。やや翻訳がぎこちないところもあるがそれが独特のムードを生んでいるともいえ、実際のプレイには問題はないだろう。



そもそも本作で弾かれるギターはツインギターといって、2本のギターで鳴らすハーモニー。しかしそれをソロで鳴らしているのは、彼がなにがしか自身の姿が明瞭ではないのかもしれない。ともかくそういった苦悩を越えて宇宙をツアーするのだ。


幼い頃、布団の中に潜るのが好きだった。暗い洞窟の中にいるような、宇宙にいるような、夢幻の世界にいられた。今となっては枕に仰向けで身じろぎせず眠っている。ただひとつ──ギターを弾いている最中は夢と現実が同時にある。

フランシスもまた夢と現実を同時に生きるのだ。宇宙的旅路を越えて。

(C) 2021 Beethoven and Dinosaur Pty Ltd. Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.

●タイトル:The Artful Escape
●ジャンル:音楽リズム&プラットフォーマー
●発売元:Annapurna Interactive
●開発元:Beethoven and Dinosaur
●プラットフォーム:PC(Steam MS Store)、Xbox Series X|S、Xbox One
※Xbox Game PassおよびPC Game Pass対応
●発売日:2021年9月10日
●価格:
Steam版 2150円
Xbox版 2350円
●必須スペック
OS: Windows 7 64bit
プロセッサー: Intel Core i3-540 または AMD FX-4350
メモリー: 4GB
グラフィック:NVIDIA GeForce GTX650/1GB または AMD Radeon HD7870/2GB
ストレージ: 7GB
●推奨スペック
OS: Windows 10 64bit
プロセッサー: Intel Core i5-6600 または AMD FX-8350
メモリー: 8GB
グラフィック: NVIDIA GeForce GTX1070/8GB または AMD Radeon RX580/4GB
ストレージ: 7GB
●公式サイトURL:https://theartfulescape.com/
●ダウンロードサイトURL:
Steam https://store.steampowered.com/app/1122680/The_Artful_Escape/
MS Store https://www.xbox.com/ja-JP/games/store/the-artful-escape/9NGH2MTP0T44/0010
【連載】Alienware Zone PCゲームレビュー<2022年版>

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