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『Paradise Lost』レビュー。スラブ神話×ナチス地下都市を行く歴史改変ADVで、廃墟から読み解く戦争の虚しさとわずかな光

2021年リリースの注目PCゲームをご紹介する連載「Alienware Zone的おすすめPCゲームレビュー」。

筆者がナチス×歴史改変モノと聞いてまず思い浮かべるゲームは、『Wolfenstein』シリーズなどの派手で超ゴアな作品たちだった。対して今回紹介する『Paradise Lost』は同様のモチーフをとても静かに、そして美しく描いている。

2021年3月24日に発売されたこのアドベンチャーゲームの舞台は、架空の1960年代。ナチスがヨーロッパ中に核ミサイルを落とし、第二次世界大戦は膠着状態に陥った。核の冬に包まれたポーランドで、プレイヤーはスラブ神話とテクノロジーが共存するナチスの地下都市を探検することになる。

本作はアドベンチャーゲームというよりはウォーキングシュミレーターに近く、人によっては少し退屈な印象を与えるかもしれない。しかし、考察しがいのある史実を交えたストーリーや引きこまれる風景には確かな魅力があった。今回はそんな本作の魅力をお届けしよう。

廃墟の声に耳を澄ませる

主人公は物心ついたときから地下室で暮らす少年・シモン。母を亡くした彼は、彼女が大切に持っていた写真に映る謎の男を探すことを決心する。放浪の末にシモンがたどり着いた場所は、ナチスの巨大な地下都市だった。彼はマイクを通してのみ会話ができる少女・エヴァと共に、謎の男の正体や地下都市で生きていたナチスとポーランド人レジスタンスの過去に迫っていく。



本作にはパズルやアクション要素はほぼ無い。その代わり、断片的な手がかりからじっくり真相を読み解く楽しさがある。ナチス幹部の指示書から部下のケンカ、レジスタンスの作戦会議まで。廃墟に残った文書や音声ログはあらゆる人々の声を記録している。文書の紙面まで丁寧に日本語訳されているのが嬉しい。

▲地下都市を制御する「E-V-Eコンソール」

▲メモリチューブの監視記録

数ある手がかりの中でもユニークなものが「メモリチューブ」だ。地下都市の制御システム「E-V-Eコンソール」に接続して使うと、過去の監視記録が見られる。ただ見るだけではなく、プレイヤー側がE-V-Eコンソールを操作するターンがあるのが面白い。たとえばメモリチューブの内容が交戦記録だったときは、敵に対して「処刑する」「隔離する」といった行動を選択しなければならない。テキストと音声だけで表された昔のできごとなのに、その場の緊張がありありと感じられた。



風景そのものも想像を膨らませてくれる。電車の中に散乱する銃弾と、大破した窓の先に口を開けるトンネル。精肉工場で飼育していた様子のおかしいヤギについてのメモと、ヤギにしては大きい動物の骨。何が起きたのか気になって、つい見つめてしまう風景が多い。廃墟の魅力とは、誰もいない寂しい場所なのに物語が感じられること。よく廃墟(心霊スポット)の動画を見る筆者はそう思うのだが、まさにそれが再現されたゲームだ。

ここで探索時の操作について書いておく。主人公が小さな子供であることを強調するためか、シモンの歩く速度は遅め。走るアクションは用意されていない。4時間ほどでクリアできるので我慢できなくはないが、もどかしく感じるプレイヤーはいるだろう。また、ドアを開けたり引き出しを開けるときにスティック操作が必要になる。これがほとんど同じ操作で回数も多いため、いかにも入力させられている感があった。重そうな扉を開けるときはボタン連打など、もう少し状況に合わせた操作のバリエーションがあれば没入感をキープできたかもしれない。

古代の神話が際立たせる、
虚しくも美しいストーリー

▲スラブ神話のモチーフが崇拝されているエリア

『Paradise Lost』が訴えるテーマの一つに、人々が争い続けることの虚しさがある。本作はナチスという絶対悪的な存在と、抑圧される人々の二項対立を描くだけではない。絶対悪がいなくなった後でさえ、また争い始めてしまう人間の性も表現している。

特徴的な点は、こういった物語が神話の上で繰り広げられることだろう。地下都市にはスラブ神話を彷彿とさせるエリアがある。スラブ神話とは、ポーランド人を含むスラブ人がキリスト教以前に信仰していた土着的な神話のこと。あらゆる神々が雷や大地などの自然を司る。スラブの土地で育まれた神はずっと変わらずに、人々が争い続ける様子を見つめているのだ。その対比が無常ながらも美しい。

本作をより楽しめるように、もう少しスラブ人について語っておこう。彼らは『Paradise Lost』というタイトル通り、楽園を追われた過去を持っている。古代スラブ人は異民族に居住地を追いやられ、東西に分裂した。その後スラブ人が築いたポーランドも、ドイツをはじめとした周囲の強国に存在を脅かされてきた。本作のポーランド人レジスタンスたちはそんな波乱の歴史を背負っている。たとえナチスの持ち物でも、スラブ神話を想起させる地下都市は彼らの新しい安住の地になった。しかしプレイヤーがたどり着いたとき、そこにはなぜか誰もいない。人間はこれから何度楽園を失えばいいのだろう。真相を知るとそんな無力感が湧いた。

▲マイクから探検を手助けしてくれるエヴァ。たまに大胆な作戦を思いつく

この虚しいサイクルの中でわずかな希望となるのが、シモンとエヴァが自らの意志で地下を突き進む姿だ。2人はどれだけ残酷な戦争の痕跡を見つけても歩みを止めない。戦禍に生まれた彼らはあらゆる理不尽を押し付けられてきたが、自分の行き先を決めるときだけは無力感から逃れられることを知っている。虚しさがつのる戦禍の中で、そんな2人のまぶしさだけが小さく輝いているようなゲームだった。

ストーリーについては少し残念だった点もある。公式サイトによるとストーリーは選択肢によって分岐するらしいのだが、どれを選んでもエンディングはほぼ変わらない。最後に迫られる選択がとてもシリアスなので、拍子抜けしてしまった。もちろん1周目までのプレイであれば、ここまで語ってきたように楽しめるはず。ただ、2周目を始めて違うエンディングを見ようとするのはおすすめできない。選択肢によってキャラクターのセリフやマップ上のオブジェクトが変化していることは確認できたが、小さな変化にとどまっていた。


エンディング分岐についての不満は残るが、『Paradise Lost』は廃墟から過去を読み解く静かな面白さを備えたゲームだった。神話によって強調された戦争の虚しさと、その中で懸命に生きる少年たちの物語は絶妙な後味を残している。これらの美点と短いクリア時間のおかげで、操作性への不満もいくらかカバーできていると感じた。短くても余韻のあるゲームや考察が好きな人は、ぜひこの地下都市へ足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

Paradise Lost © 2020 All in! Games S.A.. Developed by PolyAmorous and published by All in! Games S.A.. Paradise Lost is trademark of All in! Games S.A.

●タイトル:Paradise Lost
●ジャンル:アドベンチャーゲーム
●発売元:All in! Games
●開発元:PolyAmorous
●プラットフォーム:PC、PlayStation 4、Xbox One
●発売日:2021年3月24日
●価格:1520円
※PS4版は1650円、Xbox One版は1750円
●必須スペック
OS: Windows 10
プロセッサー: Intel Cpre i5
メモリー: 4GB
グラフィック:NVIDIA GeForce GTX960
ストレージ: 30GB
●推奨スペック
OS: Windows 10
プロセッサー: Intel Cpre i5
メモリー: 8GB
グラフィック: NVIDIA Geforce GTX1060
ストレージ: 30GB
●公式サイトURL:https://www.allingames.com/game/paradise-lost/
●ダウンロードサイトURL:
https://store.steampowered.com/app/982720/Paradise_Lost/
【連載】Alienware Zone PCゲームレビュー<2021年版>

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