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『Inscryption』Steam版レビュー:デッキ構築+ローグライトカードゲームと思いきや!? 拡張されていくゲームプレイに好奇心が刺激されまくり!
『Inscryption』は、『Pony Island』や『The Hex』を生み出した開発元Daniel Mullins Gamesにより、2021年10月20日にリリースされた新作デッキ構築型ローグライトカードゲームだ。パブリッシュはDevolver Digitalが行う。筆者はDaniel Mullins Gamesの過去作をプレイしていないし、『Slay the Spire』に代表されるデッキ構築ローグライトは知識として知っている程度だった。
さて、本レビューは物語の直接的なネタバレや結末を述べるものではない。だが、本作を評するうえで、ネタバレを避けることは不可能である。
『Inscryption』というゲームは、カードゲームの知識がなくとも問題はない。難易度も極端に高いわけではないので、正直、こんな文章を読む暇があるならともかく今すぐ購入してプレイしてほしい。
では良いか? 警告はしたぞ?
『Inscryption』のポイント
余計な知識を持たない人こそ本作にすんなりと入り込み、Daniel Mullinsが仕掛けた“罠”に深く嵌っていったのかもしれない。
最後にもう一度言う、この先は重大なネタバレを含む。引き返すなら今のうちだ。
簡単にルールを説明しよう。プレイヤーはデッキからランダムに選ばれた手札を持っている。自分のターンでは、手札以外のデッキからランダムに、もしくは素材となる定められたカード(リス)のどちらか1枚を引くことを選択できる。そしてカードを場に出すのだが、たいていのカードは、右上に記された種類と数のコストを支払う必要がある。コストの種類は様々だが、リスやその他の生物のカードを生贄に捧げて得た血や、生贄や相手の攻撃によって死んだ生物の骨を使って場に出すことができる。
そして場にカードを出したらターンエンド。カードが攻撃を始める。カードに記されている左下の数字が攻撃力、右下が体力だ。場に出したカードの正面に、敵のカードがあればそれに攻撃し、なければプレイヤーに直接攻撃する、直接攻撃をすると天秤が傾く。逆に、敵プレイヤーから自分に直接ダメージが入ればその分天秤は自分側に傾く。
最終的に天秤の指針が振り切れると勝敗が分かたれる。負けると手元の蝋燭の火が消され、2回負けるとゲームオーバー、即ち死を意味する。ただし、各ステージのボスは例外なく蝋燭の火は1つとなる。死を迎えると、後述のマスを辿って強化してきたデッキは失うことになり、最初からやりなおしだ。
純粋に、普遍的なシステムである、シンプルな数字を用いたカードバトルは楽しい。バトルから最初に引くランダムなカードに一喜一憂したり、ターンを終えてからミスプレイに気づいて絶望したり、カードバトルゲームに触れる機会のなかった筆者には新鮮で楽しい時間だった。
また、カードには“印”が刻まれている。これは特殊効果のようなもので、相対するカードに関わらず敵プレイヤーにダメージを与える“飛行”や、失っても手札に帰ってくる“不死”など、有用なものから別にうれしくないものまで用意されている。印は進行状況に合わせて増えていくため、死を繰り返して少しずつカードゲームが楽しくなっていくというわけだ。
▲印の効果はルールブックで確認することができる
物語はボードゲームを辿る形で描かれる。湿地帯や雪線地帯など、各ステージの最後に待ち受けるボスを倒しつつ、ゴールを目指すという流れだ。
各ステージで辿る“マス”はカードバトルだけでなく、様々なイベントが用意されていて、ここがローグライトの肝となる。カードは最初に数枚配られ、マスを進んで増やしていくことになるが、マスにはシンプルに3枚のカードからノーリスクで自分の手札に加えることができるものから、選択したカードの数値を強化できるもの、カードから印を抽出して別のカードに付与することができるものまで、多種多様なイベントが存在する。
イベントはランダムで配置され、配られるカードや、どのマスで進むか、出現するか、そして一部のマスでは、カードを失うリスクもありつつ強化を選択できるなど、ギャンブルもあり、ローグライト要素を深めている。
これらのローグライトカードバトルは、すべて不気味な小屋を舞台に成り立っており、カードをしている机から離れて小屋を散策することもできる。意味深なオブジェクトが設置されており、これらの謎を何度も死にながら解いていくことが、ゲームクリアへの道筋だ。この序盤の舞台となる小屋の雰囲気もまた、血や骨を捧げてカードを場に出す不穏なルールと相まって、興味をそそられるものだ。
▲まぁ、立てないときもある
舞台となる部屋は薄暗く、ゲームマスターである謎の人物は目が光るのみで、得体が知れない。棚には物騒なナイフや、意味のわからない置物が並び、この先にある謎解きを思わせる。そして、血や骨を捧げてカードを場に出す不穏なルールや、意味深なことを話しかけてくるカードなど、疑問符が浮かぶ場面がたくさんある。
これらの疑問符は、最終的になんとなく点と点がつながるような、カタルシスを呼ぶものであることに、エンドロールを見たあとに気付かされるのだ。
ゲームが変化するごとに、レイヤーが徐々に重なっていき、『Inscryption』という世界観の輪郭がぼんやりと見えてくるデザインが、本作の魅力だ。冒頭の説明で、「デッキ構築型ローグライトカードゲーム」と紹介したが、本作は最終的に様々なゲームが内包されていることがわかる。カードゲーム、脱出ゲーム、サイコスリラー、RPGなど、そのジャンルは多岐に渡る。エンドロールを見終えるまでの十数時間という短い時間が、とても濃密なものに思えるはずだ。
また、直接的なネタバレを避けるために詳しくは言及できないが、『Inscryption』がどのような存在なのかを、メタフィクションとして描いている点も、本作の結末に対する“興味”を惹く理由の一つだろう。
「次にどんな仕掛けがあるのだろう」「この先の物語は?」とワクワクする感覚は、カードゲームの拡張によって深まる奥深さと相まって、徐々に高まっていく。
そして、本作の謎がARG(代替現実ゲーム)へと続いていくのも特徴的だ(もっとも、日本からの参加は難しいだろう。だが、コミュニティの”祭り“のような様を見ているのは楽しい)。
「とんでもないものを見た」というのが本作をクリアした感想だ。同時に、本当に終わってしまったのか、疑いもした。再びゲームを起動すると、別のゲームが始まるのではないか、実はデスクトップに変なファイルが生成されていないかと、『Inscryption』の魅せた多種多様な仕掛けが終わってしまうのが寂しくて仕方なかった。
ゲームに対する興味が右肩上がりで上がっていき、その思いに呼応するようにゲームはその形を変え、そのフォルムのひとつひとつが驚きと意味に溢れている。こんなにも好奇心に満ちたゲームプレイは、筆者の経験してきたゲームの中でそう多くあるものではない。
今あなたがPCを持っていて、2000円ちょっとのお金があるのなら、間違いなくプレイすべき作品である。そう断言しよう。
Copyright 2021 Daniel Mullins Games Ltd. All Rights Reserved.
●タイトル:Inscryption
●ジャンル:デッキ構築型ローグライトカードゲーム
●発売元:Devolver Digital
●開発元:Daniel Mullins Games
●プラットフォーム:PC(Steam)
●発売日:2021年10月20日
●価格:2050円
●必須スペック
OS: Windows 7
プロセッサー: Intel Core i5-760 または AMD Athlon II X4 645 AM3
メモリー: 4GB
グラフィック:NVIDIA GeForce GTX550 Ti または AMD Radeon HD 6850
ストレージ: 2GB
●推奨スペック
OS: Windows 10
プロセッサー: Intel Core i5-3470 または AMD FX-4350
メモリー: 8GB
グラフィック: NVIDIA GeForce GTX1050 または AMD Radeon RX460
ストレージ: 3GB
●公式サイトURL:https://www.inscryption.com/
●ダウンロードサイトURL:
https://store.steampowered.com/app/1092790/Inscryption/
さて、本レビューは物語の直接的なネタバレや結末を述べるものではない。だが、本作を評するうえで、ネタバレを避けることは不可能である。
『Inscryption』というゲームは、カードゲームの知識がなくとも問題はない。難易度も極端に高いわけではないので、正直、こんな文章を読む暇があるならともかく今すぐ購入してプレイしてほしい。
では良いか? 警告はしたぞ?
『Inscryption』のポイント
- ランダム性とギャンブルが楽しい、デッキ構築ローグライトカードゲーム
- メタフィクションを含む驚きと謎の連続
- ゲームが拡張されていく麻薬のような中毒性
余計な知識を持たない人こそ本作にすんなりと入り込み、Daniel Mullinsが仕掛けた“罠”に深く嵌っていったのかもしれない。
最後にもう一度言う、この先は重大なネタバレを含む。引き返すなら今のうちだ。
普遍的なカードゲームとローグライト
本作を起動すると、まず謎の小屋で謎の人物とカードゲームで対戦することになる。ここはいわゆるローグライトカードゲームだ。簡単にルールを説明しよう。プレイヤーはデッキからランダムに選ばれた手札を持っている。自分のターンでは、手札以外のデッキからランダムに、もしくは素材となる定められたカード(リス)のどちらか1枚を引くことを選択できる。そしてカードを場に出すのだが、たいていのカードは、右上に記された種類と数のコストを支払う必要がある。コストの種類は様々だが、リスやその他の生物のカードを生贄に捧げて得た血や、生贄や相手の攻撃によって死んだ生物の骨を使って場に出すことができる。
そして場にカードを出したらターンエンド。カードが攻撃を始める。カードに記されている左下の数字が攻撃力、右下が体力だ。場に出したカードの正面に、敵のカードがあればそれに攻撃し、なければプレイヤーに直接攻撃する、直接攻撃をすると天秤が傾く。逆に、敵プレイヤーから自分に直接ダメージが入ればその分天秤は自分側に傾く。
最終的に天秤の指針が振り切れると勝敗が分かたれる。負けると手元の蝋燭の火が消され、2回負けるとゲームオーバー、即ち死を意味する。ただし、各ステージのボスは例外なく蝋燭の火は1つとなる。死を迎えると、後述のマスを辿って強化してきたデッキは失うことになり、最初からやりなおしだ。
純粋に、普遍的なシステムである、シンプルな数字を用いたカードバトルは楽しい。バトルから最初に引くランダムなカードに一喜一憂したり、ターンを終えてからミスプレイに気づいて絶望したり、カードバトルゲームに触れる機会のなかった筆者には新鮮で楽しい時間だった。
また、カードには“印”が刻まれている。これは特殊効果のようなもので、相対するカードに関わらず敵プレイヤーにダメージを与える“飛行”や、失っても手札に帰ってくる“不死”など、有用なものから別にうれしくないものまで用意されている。印は進行状況に合わせて増えていくため、死を繰り返して少しずつカードゲームが楽しくなっていくというわけだ。
▲印の効果はルールブックで確認することができる
物語はボードゲームを辿る形で描かれる。湿地帯や雪線地帯など、各ステージの最後に待ち受けるボスを倒しつつ、ゴールを目指すという流れだ。
各ステージで辿る“マス”はカードバトルだけでなく、様々なイベントが用意されていて、ここがローグライトの肝となる。カードは最初に数枚配られ、マスを進んで増やしていくことになるが、マスにはシンプルに3枚のカードからノーリスクで自分の手札に加えることができるものから、選択したカードの数値を強化できるもの、カードから印を抽出して別のカードに付与することができるものまで、多種多様なイベントが存在する。
イベントはランダムで配置され、配られるカードや、どのマスで進むか、出現するか、そして一部のマスでは、カードを失うリスクもありつつ強化を選択できるなど、ギャンブルもあり、ローグライト要素を深めている。
これらのローグライトカードバトルは、すべて不気味な小屋を舞台に成り立っており、カードをしている机から離れて小屋を散策することもできる。意味深なオブジェクトが設置されており、これらの謎を何度も死にながら解いていくことが、ゲームクリアへの道筋だ。この序盤の舞台となる小屋の雰囲気もまた、血や骨を捧げてカードを場に出す不穏なルールと相まって、興味をそそられるものだ。
▲まぁ、立てないときもある
舞台となる部屋は薄暗く、ゲームマスターである謎の人物は目が光るのみで、得体が知れない。棚には物騒なナイフや、意味のわからない置物が並び、この先にある謎解きを思わせる。そして、血や骨を捧げてカードを場に出す不穏なルールや、意味深なことを話しかけてくるカードなど、疑問符が浮かぶ場面がたくさんある。
これらの疑問符は、最終的になんとなく点と点がつながるような、カタルシスを呼ぶものであることに、エンドロールを見たあとに気付かされるのだ。
増幅されていくゲームプレイ
というのも、本作は陰鬱とした序盤から想像もつかないほどの変貌を遂げる。可愛いドットのRPGのような装いになるのだ。そしてなんと、後に3Dグラフィックを駆使したものに変わっていく。それに合わせてカードゲームのルールやカード、法則が追加されるなど、遊びが拡張されていく。カードゲームの楽しさの拡張に合わせて、ゲーム空間ごと拡張されていくというわけだ。ゲームが変化するごとに、レイヤーが徐々に重なっていき、『Inscryption』という世界観の輪郭がぼんやりと見えてくるデザインが、本作の魅力だ。冒頭の説明で、「デッキ構築型ローグライトカードゲーム」と紹介したが、本作は最終的に様々なゲームが内包されていることがわかる。カードゲーム、脱出ゲーム、サイコスリラー、RPGなど、そのジャンルは多岐に渡る。エンドロールを見終えるまでの十数時間という短い時間が、とても濃密なものに思えるはずだ。
また、直接的なネタバレを避けるために詳しくは言及できないが、『Inscryption』がどのような存在なのかを、メタフィクションとして描いている点も、本作の結末に対する“興味”を惹く理由の一つだろう。
「次にどんな仕掛けがあるのだろう」「この先の物語は?」とワクワクする感覚は、カードゲームの拡張によって深まる奥深さと相まって、徐々に高まっていく。
そして、本作の謎がARG(代替現実ゲーム)へと続いていくのも特徴的だ(もっとも、日本からの参加は難しいだろう。だが、コミュニティの”祭り“のような様を見ているのは楽しい)。
「とんでもないものを見た」というのが本作をクリアした感想だ。同時に、本当に終わってしまったのか、疑いもした。再びゲームを起動すると、別のゲームが始まるのではないか、実はデスクトップに変なファイルが生成されていないかと、『Inscryption』の魅せた多種多様な仕掛けが終わってしまうのが寂しくて仕方なかった。
ゲームに対する興味が右肩上がりで上がっていき、その思いに呼応するようにゲームはその形を変え、そのフォルムのひとつひとつが驚きと意味に溢れている。こんなにも好奇心に満ちたゲームプレイは、筆者の経験してきたゲームの中でそう多くあるものではない。
今あなたがPCを持っていて、2000円ちょっとのお金があるのなら、間違いなくプレイすべき作品である。そう断言しよう。
Copyright 2021 Daniel Mullins Games Ltd. All Rights Reserved.
●タイトル:Inscryption
●ジャンル:デッキ構築型ローグライトカードゲーム
●発売元:Devolver Digital
●開発元:Daniel Mullins Games
●プラットフォーム:PC(Steam)
●発売日:2021年10月20日
●価格:2050円
●必須スペック
OS: Windows 7
プロセッサー: Intel Core i5-760 または AMD Athlon II X4 645 AM3
メモリー: 4GB
グラフィック:NVIDIA GeForce GTX550 Ti または AMD Radeon HD 6850
ストレージ: 2GB
●推奨スペック
OS: Windows 10
プロセッサー: Intel Core i5-3470 または AMD FX-4350
メモリー: 8GB
グラフィック: NVIDIA GeForce GTX1050 または AMD Radeon RX460
ストレージ: 3GB
●公式サイトURL:https://www.inscryption.com/
●ダウンロードサイトURL:
https://store.steampowered.com/app/1092790/Inscryption/
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