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『すすめ!じでんしゃナイツ』Steam版レビュー:自転車の最初の一漕ぎめみたいな宝探しアドベンチャー。寂れたイギリスの小島で、二人の少女とハチャメチャ大冒険を繰り広げよう
自転車の最初の一漕ぎめは重いが、広い世界と爽やかな風、そして何か新しいことが始まる予感を連れてくる……。個性的な絵本っぽいグラフィックが特徴的な『すすめ!じでんしゃナイツ』は、そんなアクションアドベンチャーゲームだ。
Steam版は2019年8月にリリース。『リトルビッグプラネット』を手がけたRex Crowle氏・Moo Yu氏らによって制作され、サウンドトラックに『スパイダーマン:スパイダーバース』などハリウッドで活躍するDaniel Pemberton氏を起用。2020年には世界的なインディーゲーム賞「IGF Awards」ビジュアルアート部門を受賞した。
海外で高い評価を得た本作だが、2021年7月20日に満を持して(コンシューマー版とともに)日本語版が発売。今回はそちらのレビューをお届けしたい。
『すすめ!じでんしゃナイツ』の注目ポイント
舞台は1980年代のイギリスにある架空の島・ペンファージー島。主人公のデメルザは父と二人暮らしをするおてんばな女の子だ。
ある日、彼女は島の外からやってきた少女・ネッサと出会う。意気投合した彼女たちは、親のもとを抜け出して大冒険へ出発。はるか昔にペンファージーの騎士たちが残したお宝を探すことになる。
ペンファージー島のモデルは、アート面を担当したRex Crowle氏の故郷・コーンウォール。当時にはかつて栄えた鉱業は衰退し、経済は悪化していた。しかし、美しい自然やアーサー王伝説が伝わる城跡を抱える魅惑的な土地でもある。ペンファージー島を歩き回れば、これらの特色がビジュアルやストーリーに色濃く反映されていることが分かるだろう。
▲デメルザは空想しがち。彼女にはゴミ捨て場のプレス機さえもドラゴンに見える
そんなリアリティある舞台が、想像力豊かに描き替えられていることが本作の特徴だ。主人公の子どもたちが実際に使いそうな、クレヨンや絵筆に似たブラシを用いた手書きのビジュアルはカラフルで、手触りさえ感じる。デメルザのありあまる想像力はそこに投影され、ゴミ捨て場のプレス機はドラゴンに、ただのフェンスは立派な城壁に変身。子どもの目を通して見たペンファージー島が描かれている。
▲家のパースがうねっている子どもらしい画風
▲デメルザが笑い者になったことを思い出すと、ビジュアルに笑い声が表れる
画風も子どもらしく、写実的というよりは「見たいように見た」といった感じ。たとえば、家のパース(遠近感)がぐにゃぐにゃしている。この画風はコーンウォール出身の素朴派の画家、アルフレッド・ウォリスに影響を受けているそうだ。素朴派とは、正規の絵画教育を受けず、独自の方法で絵を描いた者たちを指す。既成概念に捉われないのびのびとしたデメルザの世界は、確かに彼らに通じるものがある。
ビジュアルにはデメルザの感情もはっきりと表れる。彼女が学校で笑い者になったことを思い出すと、画面いっぱいに「HAHAHA……」という笑い声が。まるで小さな子どもが感情を全身で伝えようとしているような、活き活きとしたビジュアルだ。
ペンファージー島での探検に欠かせないアイテムが自転車だ。その名も、ゴールデンドラグーン号! Aボタン連打で漕ぎ、Bボタン長押しで止まる操作感がリアルである。ペンファージー島の騎士伝説にのっとり、乗ると馬のいななきが聞こえる演出がにくい。幼いころに自転車で遠出した時の、自分のテリトリーを広げていくロマンと少しの不安を味わえる。
自転車は自分好みにカスタマイズすることが可能だ。カラーを変更したり、ハンドルやホイールにアクセサリーをつけたり。特にフラッグが子ども用らしくてかわいらしい。
自転車の他にも、忘れてはいけない旅の相棒がいる。ガチョウのキャプテンガーガーだ。優秀な案内役で、目的地まで先導してくれる。おなかが減ると何もしてくれなくなるので、こまめに餌をあげて撫でてあげよう。
▲子どものころ親しんだアイテムたち「宝物」。探索にもバトルにも欠かせない!
デメルザとネッサは、島中のさまざまな仕掛けを解くことで道を切り開いていく。時には古代の呪いから蘇った幽霊たちと戦う刺激的な場面も。仕掛けを解いたり、幽霊を倒すには「宝物」が必要だ。宝物と言っても財宝ではなく、普通の子どもが集めているようなモノが重要なアイテムになってくる。二人はそれぞれ違う宝物を持っており、その力をうまく組み合わせなければ進むことはできない。
本作はソロプレイと協力プレイ(オン・オフライン)を搭載。ソロプレイではデメルザとネッサを切り替えながら遊び、操作していない方はAIキャラクターになる。二人の密な連携が感じられるので、ソロプレイでも友達と遊んでいるような連帯感を楽しめた。
▲ネッサからフリスビーを投げても届かない場所にある仕掛け。デメルザの方に投げれば代わりに蹴飛ばしてくれる
▲壊れかけのグローブ型ゲームコントローラーで敵を感電させよう
序盤で手に入る宝物は長靴とフリスビー。デメルザが長靴で蹴る、ネッサがフリスビーを投げることが可能だ。デメルザの方にフリスビーを投げると、彼女がそれを蹴飛ばしてくれる。より遠くの仕掛けに当てたい時に役立つ合わせ技だ。
また、デメルザのグローブ型ゲームコントローラーを使うと、幽霊たちを感電・麻痺させられる。その隙にネッサに攻撃してもらおう。他にもトイレのスッポンやコンポなど、ちょっと変わった宝物がある。何がどう役に立つのかは、プレイしてからのお楽しみだ。
AIキャラクターは基本的にはよく動いてくれる、頼もしい存在である。仕掛けを解く場面では、「こう動いてくれれば解けるな……」という思惑通りに動くことがほとんどだ。意図していなくても、正解の動きをしてくれることだってある。思わず「天才か!?」と思ってしまったりと内心にぎやかに楽しめた。
ただ、AIキャラクターは相性の悪い敵が相手だとダメージを受けやすい。そんなときは二人の得意不得意を見極めて、優先的に操作してあげるキャラクターを決めたほうがいいだろう。本当は戦況に合わせてキャラクターを細かく切り替えたいのだが、ソロプレイでは手が回りづらい。バトルに限って言えば、このゲームが真価を発揮するのは協力プレイと言える。
悲しみに向き合い、
『すすめ!じでんしゃナイツ』は一見ハイテンションなゲームだ。デメルザは子どもの野性的な部分を持っていて、しょっちゅう唸ったり叫んだりする。走るときには唇をプルプルさせてエンジン音のマネもする。また喜怒哀楽が激しく、落ち込んでいても急に元気になることがある。
ちなみにタイトルの「じでんしゃ」は英語版では普通の「Bikes」だが、ローカライズを担当したPLAYISMのデザイナーのアイデアでこの読みに決まったらしい。デメルザのワイルドで子どもっぽいキャラクターにぴったり合った翻訳だ。
▲デメルザの父が運営するテーマパークに張られた立ち退き通知書
とにかく、この騒がしさに顔がほころんでしまうのだが、じつは本作のストーリーはシリアス。前述したようにペンファージー島は不景気で、デメルザの家も例外ではないのだ。彼女の父が営むテーマパークは観光客の減少によって差し押さえられていて、二人が住む家までもその対象になっている。さらに、デメルザの母親は事故で亡くなった。
デメルザは家がなくなることや母の死をうまく受け止められていない。しかしネッサとの冒険が、少しずつ彼女を明るい方向に導いていく。二人は時にケンカをしながらも、悲しかったことを語り合い、力を合わせて冒険する。そうやって悲しみを受け止め、新しい世界に希望を見出すきっかけを得るのだ。ハイテンションさとのギャップも相まって、感動的なストーリーに仕上がっている。
ユニークなグラフィックの上で繰り広げられる、ハイテンションかつ胸を打つ大冒険が魅力の『すすめ!じでんしゃナイツ』。クリアまでには10時間もあれば十分だが、スタッフロールの後に感じる清々しい気持ちとノスタルジーは格別だ。ぜひプレイして癒されてみてほしい。
(C) Foam Sword 2019, 2021. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
●タイトル:すすめ!じでんしゃナイツ
●ジャンル:アクションアドベンチャーゲーム
●発売元:Foam Sword / PLAYISM
●開発元:Foam Sword
●プラットフォーム:PC(Steam)、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One
●発売日:2021年7月20日
●価格:1980円[税込]
●必須スペック
OS: Windows 7
プロセッサー: Intel Core i3 または AMD FX
メモリー: 4GB
グラフィック: NVIDIA GeForce GTX460 または AMD RADEON 7500
ストレージ: 6GB
●公式サイトURL:https://playism.com/game/knights-and-bikes/
●ダウンロードサイトURL:
https://store.steampowered.com/app/592480/_/
Steam版は2019年8月にリリース。『リトルビッグプラネット』を手がけたRex Crowle氏・Moo Yu氏らによって制作され、サウンドトラックに『スパイダーマン:スパイダーバース』などハリウッドで活躍するDaniel Pemberton氏を起用。2020年には世界的なインディーゲーム賞「IGF Awards」ビジュアルアート部門を受賞した。
海外で高い評価を得た本作だが、2021年7月20日に満を持して(コンシューマー版とともに)日本語版が発売。今回はそちらのレビューをお届けしたい。
『すすめ!じでんしゃナイツ』の注目ポイント
- 想像力を刺激するユニークなビジュアル
- 二人のキャラクターの連携が楽しめるハイテンションな探検
- 主人公が悲しみを受け入れ、また前に進んでいく感動的なストーリー
もし子どもが1980年代のイギリス片田舎を描いたら……!?
▲右のオレンジ色の髪の子がデメルザ。左の黒髪の子はネッサ舞台は1980年代のイギリスにある架空の島・ペンファージー島。主人公のデメルザは父と二人暮らしをするおてんばな女の子だ。
ある日、彼女は島の外からやってきた少女・ネッサと出会う。意気投合した彼女たちは、親のもとを抜け出して大冒険へ出発。はるか昔にペンファージーの騎士たちが残したお宝を探すことになる。
ペンファージー島のモデルは、アート面を担当したRex Crowle氏の故郷・コーンウォール。当時にはかつて栄えた鉱業は衰退し、経済は悪化していた。しかし、美しい自然やアーサー王伝説が伝わる城跡を抱える魅惑的な土地でもある。ペンファージー島を歩き回れば、これらの特色がビジュアルやストーリーに色濃く反映されていることが分かるだろう。
▲デメルザは空想しがち。彼女にはゴミ捨て場のプレス機さえもドラゴンに見える
そんなリアリティある舞台が、想像力豊かに描き替えられていることが本作の特徴だ。主人公の子どもたちが実際に使いそうな、クレヨンや絵筆に似たブラシを用いた手書きのビジュアルはカラフルで、手触りさえ感じる。デメルザのありあまる想像力はそこに投影され、ゴミ捨て場のプレス機はドラゴンに、ただのフェンスは立派な城壁に変身。子どもの目を通して見たペンファージー島が描かれている。
▲家のパースがうねっている子どもらしい画風
▲デメルザが笑い者になったことを思い出すと、ビジュアルに笑い声が表れる
画風も子どもらしく、写実的というよりは「見たいように見た」といった感じ。たとえば、家のパース(遠近感)がぐにゃぐにゃしている。この画風はコーンウォール出身の素朴派の画家、アルフレッド・ウォリスに影響を受けているそうだ。素朴派とは、正規の絵画教育を受けず、独自の方法で絵を描いた者たちを指す。既成概念に捉われないのびのびとしたデメルザの世界は、確かに彼らに通じるものがある。
ビジュアルにはデメルザの感情もはっきりと表れる。彼女が学校で笑い者になったことを思い出すと、画面いっぱいに「HAHAHA……」という笑い声が。まるで小さな子どもが感情を全身で伝えようとしているような、活き活きとしたビジュアルだ。
二人だから楽しい探索・謎解き・バトル
ペンファージー島での探検に欠かせないアイテムが自転車だ。その名も、ゴールデンドラグーン号! Aボタン連打で漕ぎ、Bボタン長押しで止まる操作感がリアルである。ペンファージー島の騎士伝説にのっとり、乗ると馬のいななきが聞こえる演出がにくい。幼いころに自転車で遠出した時の、自分のテリトリーを広げていくロマンと少しの不安を味わえる。
自転車は自分好みにカスタマイズすることが可能だ。カラーを変更したり、ハンドルやホイールにアクセサリーをつけたり。特にフラッグが子ども用らしくてかわいらしい。
自転車の他にも、忘れてはいけない旅の相棒がいる。ガチョウのキャプテンガーガーだ。優秀な案内役で、目的地まで先導してくれる。おなかが減ると何もしてくれなくなるので、こまめに餌をあげて撫でてあげよう。
▲子どものころ親しんだアイテムたち「宝物」。探索にもバトルにも欠かせない!
デメルザとネッサは、島中のさまざまな仕掛けを解くことで道を切り開いていく。時には古代の呪いから蘇った幽霊たちと戦う刺激的な場面も。仕掛けを解いたり、幽霊を倒すには「宝物」が必要だ。宝物と言っても財宝ではなく、普通の子どもが集めているようなモノが重要なアイテムになってくる。二人はそれぞれ違う宝物を持っており、その力をうまく組み合わせなければ進むことはできない。
本作はソロプレイと協力プレイ(オン・オフライン)を搭載。ソロプレイではデメルザとネッサを切り替えながら遊び、操作していない方はAIキャラクターになる。二人の密な連携が感じられるので、ソロプレイでも友達と遊んでいるような連帯感を楽しめた。
▲ネッサからフリスビーを投げても届かない場所にある仕掛け。デメルザの方に投げれば代わりに蹴飛ばしてくれる
▲壊れかけのグローブ型ゲームコントローラーで敵を感電させよう
序盤で手に入る宝物は長靴とフリスビー。デメルザが長靴で蹴る、ネッサがフリスビーを投げることが可能だ。デメルザの方にフリスビーを投げると、彼女がそれを蹴飛ばしてくれる。より遠くの仕掛けに当てたい時に役立つ合わせ技だ。
また、デメルザのグローブ型ゲームコントローラーを使うと、幽霊たちを感電・麻痺させられる。その隙にネッサに攻撃してもらおう。他にもトイレのスッポンやコンポなど、ちょっと変わった宝物がある。何がどう役に立つのかは、プレイしてからのお楽しみだ。
AIキャラクターは基本的にはよく動いてくれる、頼もしい存在である。仕掛けを解く場面では、「こう動いてくれれば解けるな……」という思惑通りに動くことがほとんどだ。意図していなくても、正解の動きをしてくれることだってある。思わず「天才か!?」と思ってしまったりと内心にぎやかに楽しめた。
ただ、AIキャラクターは相性の悪い敵が相手だとダメージを受けやすい。そんなときは二人の得意不得意を見極めて、優先的に操作してあげるキャラクターを決めたほうがいいだろう。本当は戦況に合わせてキャラクターを細かく切り替えたいのだが、ソロプレイでは手が回りづらい。バトルに限って言えば、このゲームが真価を発揮するのは協力プレイと言える。
悲しみに向き合い、
再び走り出す力強いストーリー
『すすめ!じでんしゃナイツ』は一見ハイテンションなゲームだ。デメルザは子どもの野性的な部分を持っていて、しょっちゅう唸ったり叫んだりする。走るときには唇をプルプルさせてエンジン音のマネもする。また喜怒哀楽が激しく、落ち込んでいても急に元気になることがある。ちなみにタイトルの「じでんしゃ」は英語版では普通の「Bikes」だが、ローカライズを担当したPLAYISMのデザイナーのアイデアでこの読みに決まったらしい。デメルザのワイルドで子どもっぽいキャラクターにぴったり合った翻訳だ。
▲デメルザの父が運営するテーマパークに張られた立ち退き通知書
とにかく、この騒がしさに顔がほころんでしまうのだが、じつは本作のストーリーはシリアス。前述したようにペンファージー島は不景気で、デメルザの家も例外ではないのだ。彼女の父が営むテーマパークは観光客の減少によって差し押さえられていて、二人が住む家までもその対象になっている。さらに、デメルザの母親は事故で亡くなった。
デメルザは家がなくなることや母の死をうまく受け止められていない。しかしネッサとの冒険が、少しずつ彼女を明るい方向に導いていく。二人は時にケンカをしながらも、悲しかったことを語り合い、力を合わせて冒険する。そうやって悲しみを受け止め、新しい世界に希望を見出すきっかけを得るのだ。ハイテンションさとのギャップも相まって、感動的なストーリーに仕上がっている。
ユニークなグラフィックの上で繰り広げられる、ハイテンションかつ胸を打つ大冒険が魅力の『すすめ!じでんしゃナイツ』。クリアまでには10時間もあれば十分だが、スタッフロールの後に感じる清々しい気持ちとノスタルジーは格別だ。ぜひプレイして癒されてみてほしい。
(C) Foam Sword 2019, 2021. Licensed to and published by Active Gaming Media Inc.
●タイトル:すすめ!じでんしゃナイツ
●ジャンル:アクションアドベンチャーゲーム
●発売元:Foam Sword / PLAYISM
●開発元:Foam Sword
●プラットフォーム:PC(Steam)、Nintendo Switch、PlayStation 4、Xbox One
●発売日:2021年7月20日
●価格:1980円[税込]
●必須スペック
OS: Windows 7
プロセッサー: Intel Core i3 または AMD FX
メモリー: 4GB
グラフィック: NVIDIA GeForce GTX460 または AMD RADEON 7500
ストレージ: 6GB
●公式サイトURL:https://playism.com/game/knights-and-bikes/
●ダウンロードサイトURL:
https://store.steampowered.com/app/592480/_/
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