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『エルシャダイ』Steam版レビュー:今こそ遊ぶべき1本。ネットミームだけでない本作から訴えかけてくる魅力を再評価しよう
2021年9月2日にSteamにてPC版がリリースされたアクションゲーム『El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON HD Remaster』(以下、『エルシャダイ』)のレビューをお届けします。
インターネット・ミームの熱狂が過ぎ去った10年後の2021年、PC(Steam)向けのHDリマスター版として再登場し、魅力を突きつけてきた本作のレビューをお届けします。4K解像度と60fpsにも対応するなど、アート性の高いグラフィックを存分に楽しめる様々な改良点を施された本作のPC版は、発売から10年経過していても見劣りしません。
レビューの前に『エルシャダイ』について簡潔に説明します。
元々はイグニッション・エンターテイメントの開発によって、2011年4月にPS3/Xbox 360向けにオリジナル版が発売されたゲームです。大きな話題となったのは、「E3 2010」に合わせて公開された「ルシフェルver」で、当時のニコニコ動画で340万回を超える再生数を記録するほどのヒットでした(他の映像も振れ幅は大きいが再生数を伸ばしていた)。
▲ルシフェルverは、ゲーム的な繰り返しなどをパロディにしたような映像だからか、多くのユーザーが反応した
ゲームが発売される前段階の盛り上がり方が異質だったためか(発売されていないことで各々想像を様々な形で吐き出していた)、実際にゲームが発売されてみると大きな話題も終息。発売後はいったん落ち着いたものの根強い人気もあり、完結していない本編のその後を含め文章化した原作小説「エルシャダイ」が発売されるなどの展開もありました。
今回のPC版については、2018年のインタビューにてその開発について初めて言及しており、実際に2021年9月2日に発売されるまで3年ほど時間がかかっています。
『El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON HD Remaster』のポイント
2D/3Dアクションで構成される
『エルシャダイ』の物語は、セムヤザ率いるグリゴリの天使達が堕天し、地上にて創造されてしまった「背徳の塔」を止めるため、主人公のイーノックと旅をサポートするルシフェルとが、塔を作った天使達の魂を人間界から連れ戻すために戦うというもの。本作は全11チャプターで構成されており、3Dで敵と戦闘を繰り広げるだけでなく、3D/2Dのプラットフォーマーとして展開されるアクションゲームです。
操作は非常に簡潔で、Xboxゲームパッドなら左スティックが移動、LBが武器の浄化、RBが防御、Xボタンが攻撃、Aボタンがジャンプです。その他特殊攻撃はボタンの組み合わせや、ボタンを押すテンポをずらすことで発動させられます。また、ゲーム画面は1週目だとUI表示がなく、イーノックのみを見て操作することになります。PCへ移植されたことにより、4K解像度と60fps動作へも対応しています(オリジナル版では30fps動作だったため、戦闘も爽快感を得にくかった)。
▲これらに加えて「浄化ボタン」などあるものの、基本操作は非常にシンプル
『エルシャダイ』におけるプラットフォーマー要素は主に移動シーンです。
2007年発売の『マリオギャラクシー』のように途中で3Dパートから2Dパートに切り替わるシーンも多く、世界観の説明に加え幻想的な雰囲気を味わえるようなビジュアルに仕上がっています。
また、足場から落ちるなどミスを犯しても、ルシフェルの指鳴らしで一瞬にしてジャンプする前の段階に戻される施策はとても良く、煩わしさを減らし集中力を途切れさせずに挑み続けられることへ繋がっています。
▲主人公イーノックが挑むことになる各ステージはそれぞれ特徴を持っている
▲2Dパートはそこまで難しくないが、2Dという特性を活かした演出やステージ構成が面白い
▲3Dプラットフォーマーパートは奥行きがあり、当然のことながら物語終盤になるほど難しくなる
基本的に2Dパートにおいての通常戦闘は多くなく(幽霊的な「サリエルの籠愛者」ぐらい)、塔へ至るまでのプロローグや背景に映像を映した状態でのイベント戦のみ。難しいことだと思いますが、2Dプラットフォーマーとして「アーチ」と「ガーレ」、そして「ベイル」をジャンプだけでない攻撃や防御を活用してステージを攻略してみたかったのは否めません。
▲シルエットの映像を背景に2Dで戦闘がある終盤の1パート
▲1週目をクリアすると各種特典が開放され、鎧の耐久地などUIも表示されるようになる
2D/3Dのプラットフォーマーパートは「シビアな操作を要求させるほど難しくない」がとても重要で(簡単に見える配置でも小さなミスから落ちることが多々あるため)、『エルシャダイ』はルシフェルの即復帰も含めて遊びやすく挑戦しやすいポジションに収まっています。
本作の武器は、素早い動きで斬り合う「アーチ」と、銃弾を撃ち込むように子機を発射する「ガーレ」、鈍重だが強力な打撃を放つ「ベイル」の3種類が存在(素手状態もあるため正確には4つ)。「アーチ」は「ベイル」に強く、「ベイル」は「ガーレ」に対して強力で、「ガーレ」は「アーチ」に対して遠距離攻撃のアドバンテージが存在する武器の三すくみ構造にもなっています。
▲ある意味『エルシャダイ』を象徴する武器であるアーチ
この武器はそれぞれに攻撃のタイミングなど特性を持っていますが、「アーチ」と「ガーレ」は『デビルメイクライ』などのスラッシュアクションゲームにおける斬撃と銃撃に近い印象を持つ一方で、「ベイル」は『ダークソウル』などソウルライクな持ち味と思えるプレイ感覚を持っています。
10年前にXbox 360版を遊んだ段階では「ベイル」の鈍重さが苦手でしたが、10年経過してソウルライクなゲームを経験してきた現在なら、「ベイル」において発動させやすいジャストガードなどの強みを存分に発揮できます。プレイヤーの能力が高まったことで結果的に、現代の感覚に近い武器へと昇華されたことは驚きと共に嬉しさもありました。
一方で敵の挙動について、ボスや通常の敵も含め予備動作の描写が少し足りないため、純粋にガードや回避が行いづらく難しさが目立ってしまうのが気になりました(攻撃前に何かが光る、のけ反るなどがあれば良かった)。
とくに気になるのがボス戦全般で、「アーチ」と「ガーレ」ではガードが崩されダメージが入ってしまう場合が多く、ほとんどの場合は防御に優れた「ベイル」に頼り切る場面が多くなってしまっていました。
▲終盤のボスであるネザーアザゼルは予備動作なしに即攻撃を繰り出すため、正直よけづらい
他にも敵武器の奪取によって武器を切り替えることから、3種類の武器を用いたバトルは、上手く機能しているものの(武器を奪って敵を弱体化させる意味もある)、全体の約10時間から7時間におけるゲームプレイでは種類が足りず物足りなさを感じてしまいます。
それでも基本的な戦闘のバランスは良く考えられていて、致命的な欠点がないことは驚異的です。プレイしていると、ある意味で「アーチ」と「ガーレ」はスラッシュアクションジャンルで、「ベイル」はソウルライクのジャンルであるようにも思えていきます。このことから、プレイヤーと相性の良いジャンルそのものを変えながら戦うゲームであるようです。
見た人を惹き付ける力がある!?
本作のグラフィックはフォトリアルではない幻想的なビジュアルによって成り立っています。各チャプターで描写されるステージは、「ファンタスティック・プラネット」に代表されるヨーロッパのアニメ映画や水墨画など様々な芸術を見ているかのような、光と共に影や陰を強調するビジュアルです。
▲タワーに入る直前のシーン
▲ステンドグラスの光によってイーノックがシルエットのみになっている
▲よく見るとイーノックの影がない。水墨画的なビジュアルを邪魔しないようになっている
▲サイバーパンク的なバイクパートがあるステージ
残念ながら、筆者が持ちうる知識では『エルシャダイ』で表現される多くの美術表現に対して何らかのコメントを残すことが難しいですが、チャプターの進行を考えると、古代から現代にかけての美術の歴史を追っているかのようです。
このビジュアルコンセプトについて発表時のプレスリリースによれば、常に変化し続ける「生きた世界」を表現したものであるとのこと。サイバーパンク的な都市が見えるバイクステージも合わせて、『エルシャダイ』を一度遊んだら忘れられないゲームへと作り上げることに成功しています。
▲序盤に登場する破壊できる像は「ヴィレンドルフのヴィーナス」などの古代の像を彷彿とさせる
▲古典のヨーロッパ影絵アニメ「アクメッド王子の冒険」のようなハッキリと陰陽が目立つ2Dパート
▲堕天使と人間のハーフ「ネフィリム」が初登場するパートでは、アニメ表現のような明瞭な色分けとなっている
他にも、ルシフェルが時間を操れることも含めてなのか、プレイヤーに対するメタ的な表現がとても多く、携帯電話を使い神と会話するシーンがたびたび挿入される他にも、カットシーンの途中に時間を止めて登場し解説を始めることにも現れています。他にも、ゲーム中盤で戦闘後に操作する「アルマロス」はしゃべらないものの、まるで様々なゲームで登場したマイケル・ジャクソンのような存在です。
▲カットシーンを止めて登場するルシフェル。彼がいるからこそ破天荒な展開でも付いていけるようなカリスマがある
▲古典アメコミで表現されるような線を太めに描き入れる影表現でアウトラインが強く強調されている
▲「アルマロス」の初登場シーンは、顔見せの時に微妙に動かないためマイケル・ジャクソンのブカレストツアーの冒頭のよう
▲「アルマロス」はプレイヤーのカメラを認識できるのか、戦闘中に彼がカメラを遮ったり動かしたりする
▲「アルマロス」操作パートの動きは汗とダンスで攻撃することから、メガドライブ版『マイケルジャクソンズ ムーンウォーカー』のようにも思える
ゲーム開始直後に現れるシーンは人類の夜明けとも捉えられるような、地平線の暗闇を切り裂く光と後光によって表現されているとも思えます。これらは、イーノックを依代として、様々な美術の中に入り込んで触れられる(破壊もできる)、というゲームだからこその表現を入れ込んだようにも見えます。
この特徴的なアートスタイルを持つゲームが日本国内から出てきたことは非常に嬉しく思う一方で、当時ネットミーム的な消費のされ方だけで終わってしまったのが非常にもったいなく悔しさもあります。
▲人類の夜明けとも見えるゲームスタート直後のシーン。これに干渉できるのがゲームというメディアの面白いところ
高いレベルで完成した『エルシャダイ』
『エルシャダイ』は、開発時に経済的な問題で様々な要素が削られました(加えて、オリジナル版発売時には開発チームも解散)。とはいえ、各チャプターそれぞれに異なる独創的なアートスタイルを披露し、スラッシュアクションとソウルライクが合体したようなゲームプレイも持ち合わせており、最終的に直感的で簡潔なゲームプレイに帰結している完成度の高いゲームです。
オリジナル版発売後にイラストレーター・ゲームデザイナーである竹安佐和記氏がインタビューで補足しているように、序盤の300年間の旅を含めたストーリー部分をよく観察してみると、トレイラーで披露されたものの導入されていない、途中でカットされたような要素が多々あることに気付きます(例えば、トレイラーでイーノックの使っていた剣と盾が本編で使えないことなど)。
本編のストーリーは途中で終わってしまいますが(それでも一応のオチは付いている)、その後の物語を補完する小説「ルシフェルの堕天」がクリア特典としてクリア後に観覧できるようになり、一応は本作だけで物語が完結するようになっています。
特徴的なグラフィックにも意味があることや、演出の意図を知ると世界観への理解が深まることが面白く、何とかしてゲームとして最後まで完結してほしいと願わざるを得ません。
▲主人公イーノックも本編で10年間眠ってしまったが、『エルシャダイ』本編そのものが再始動するまでに10年かかってしまったのは実際に体験すると長い……
2011年にオリジナル版が発売されたとはいえ、ある意味で2010年代に流行った独特のアートスタイルを持つ様々なインディーゲームの特徴と目指すべき表現を先取りしたようにも思えます。また、PC(Steam)版では、0fpsでの動作が可能なため、アクションゲームである本作の面白さをより強く引き出しています。
どんなゲームでも10年の歳月が経過してしまえばグラフィックなど相対的な古さを感じてしまいますが、本作においてはその弱点がアートスタイルという点で回避できているために、10年後のいま遊んでもビジュアル的に耐えられる出来映えだったのには驚きました。
一方で、微妙に古さを感じてしまったのがアクション部分ですが、ソウルライクな「ベイル」の存在からギリギリ踏ん張れているのも嬉しい発見です。
▲本編の続きだけでなく、前日譚とも言える300年間の旅もいつかゲーム化してほしいところ
加えてPCへ移植されたことにより4K解像度と60fpsでの動作ができることによって本作のグラフィックを余すところなく体験できることは大きな魅力であり、本作がもつ良さを十分に発揮できるようになったと思えます。『エルシャダイ』は今こそ遊ぶべきゲームです。
©crim
●タイトル:El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON HD Remaster
●ジャンル:アクションゲーム
●発売元:crim
●開発元:crim
●プラットフォーム:PC(Steam)
●発売日:2021年9月2日
●価格: 3980円[税込]
●必須スペック
OS: Windows 10
プロセッサー: Intel Core i5-4200U
メモリー: 4GB
グラフィックIntel HDグラフィックス4400
ストレージ: 8.2GB
●公式サイトURL:http://elshaddai.jp/elshaddai_crim/index.html
●ダウンロードサイトURL:Steam
インターネット・ミームの熱狂が過ぎ去った10年後の2021年、PC(Steam)向けのHDリマスター版として再登場し、魅力を突きつけてきた本作のレビューをお届けします。4K解像度と60fpsにも対応するなど、アート性の高いグラフィックを存分に楽しめる様々な改良点を施された本作のPC版は、発売から10年経過していても見劣りしません。
レビューの前に『エルシャダイ』について簡潔に説明します。
元々はイグニッション・エンターテイメントの開発によって、2011年4月にPS3/Xbox 360向けにオリジナル版が発売されたゲームです。大きな話題となったのは、「E3 2010」に合わせて公開された「ルシフェルver」で、当時のニコニコ動画で340万回を超える再生数を記録するほどのヒットでした(他の映像も振れ幅は大きいが再生数を伸ばしていた)。
▲ルシフェルverは、ゲーム的な繰り返しなどをパロディにしたような映像だからか、多くのユーザーが反応した
ゲームが発売される前段階の盛り上がり方が異質だったためか(発売されていないことで各々想像を様々な形で吐き出していた)、実際にゲームが発売されてみると大きな話題も終息。発売後はいったん落ち着いたものの根強い人気もあり、完結していない本編のその後を含め文章化した原作小説「エルシャダイ」が発売されるなどの展開もありました。
今回のPC版については、2018年のインタビューにてその開発について初めて言及しており、実際に2021年9月2日に発売されるまで3年ほど時間がかかっています。
『El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON HD Remaster』のポイント
- 斬撃、射撃、打撃の三すくみ構造が面白い
- 見た人を惹き付ける幻想的なアートスタイル
- 高いレベルで完成! 今こそ遊ぶべき!
2D/3Dアクションで構成される
『エルシャダイ』
『エルシャダイ』の物語は、セムヤザ率いるグリゴリの天使達が堕天し、地上にて創造されてしまった「背徳の塔」を止めるため、主人公のイーノックと旅をサポートするルシフェルとが、塔を作った天使達の魂を人間界から連れ戻すために戦うというもの。本作は全11チャプターで構成されており、3Dで敵と戦闘を繰り広げるだけでなく、3D/2Dのプラットフォーマーとして展開されるアクションゲームです。操作は非常に簡潔で、Xboxゲームパッドなら左スティックが移動、LBが武器の浄化、RBが防御、Xボタンが攻撃、Aボタンがジャンプです。その他特殊攻撃はボタンの組み合わせや、ボタンを押すテンポをずらすことで発動させられます。また、ゲーム画面は1週目だとUI表示がなく、イーノックのみを見て操作することになります。PCへ移植されたことにより、4K解像度と60fps動作へも対応しています(オリジナル版では30fps動作だったため、戦闘も爽快感を得にくかった)。
▲これらに加えて「浄化ボタン」などあるものの、基本操作は非常にシンプル
『エルシャダイ』におけるプラットフォーマー要素は主に移動シーンです。
2007年発売の『マリオギャラクシー』のように途中で3Dパートから2Dパートに切り替わるシーンも多く、世界観の説明に加え幻想的な雰囲気を味わえるようなビジュアルに仕上がっています。
また、足場から落ちるなどミスを犯しても、ルシフェルの指鳴らしで一瞬にしてジャンプする前の段階に戻される施策はとても良く、煩わしさを減らし集中力を途切れさせずに挑み続けられることへ繋がっています。
▲主人公イーノックが挑むことになる各ステージはそれぞれ特徴を持っている
▲2Dパートはそこまで難しくないが、2Dという特性を活かした演出やステージ構成が面白い
▲3Dプラットフォーマーパートは奥行きがあり、当然のことながら物語終盤になるほど難しくなる
基本的に2Dパートにおいての通常戦闘は多くなく(幽霊的な「サリエルの籠愛者」ぐらい)、塔へ至るまでのプロローグや背景に映像を映した状態でのイベント戦のみ。難しいことだと思いますが、2Dプラットフォーマーとして「アーチ」と「ガーレ」、そして「ベイル」をジャンプだけでない攻撃や防御を活用してステージを攻略してみたかったのは否めません。
▲シルエットの映像を背景に2Dで戦闘がある終盤の1パート
▲1週目をクリアすると各種特典が開放され、鎧の耐久地などUIも表示されるようになる
2D/3Dのプラットフォーマーパートは「シビアな操作を要求させるほど難しくない」がとても重要で(簡単に見える配置でも小さなミスから落ちることが多々あるため)、『エルシャダイ』はルシフェルの即復帰も含めて遊びやすく挑戦しやすいポジションに収まっています。
斬撃、射撃、打撃の三すくみ構造が面白い
『エルシャダイ』の戦闘パートは、プラットフォーマーパートの途中に「広くて3体ほど敵がいても窮屈しない場」がマップ上にあるならほとんどの場合に発生。前述の通り操作は非常に簡潔なため、敵へのガード崩しや武器の特性を活かして戦う事になります。コンソール版は30fpsでしたが、PC版は60fpsで動くため、攻撃や防御のタイミングが掴みやすくなっています。本作の武器は、素早い動きで斬り合う「アーチ」と、銃弾を撃ち込むように子機を発射する「ガーレ」、鈍重だが強力な打撃を放つ「ベイル」の3種類が存在(素手状態もあるため正確には4つ)。「アーチ」は「ベイル」に強く、「ベイル」は「ガーレ」に対して強力で、「ガーレ」は「アーチ」に対して遠距離攻撃のアドバンテージが存在する武器の三すくみ構造にもなっています。
▲ある意味『エルシャダイ』を象徴する武器であるアーチ
この武器はそれぞれに攻撃のタイミングなど特性を持っていますが、「アーチ」と「ガーレ」は『デビルメイクライ』などのスラッシュアクションゲームにおける斬撃と銃撃に近い印象を持つ一方で、「ベイル」は『ダークソウル』などソウルライクな持ち味と思えるプレイ感覚を持っています。
10年前にXbox 360版を遊んだ段階では「ベイル」の鈍重さが苦手でしたが、10年経過してソウルライクなゲームを経験してきた現在なら、「ベイル」において発動させやすいジャストガードなどの強みを存分に発揮できます。プレイヤーの能力が高まったことで結果的に、現代の感覚に近い武器へと昇華されたことは驚きと共に嬉しさもありました。
一方で敵の挙動について、ボスや通常の敵も含め予備動作の描写が少し足りないため、純粋にガードや回避が行いづらく難しさが目立ってしまうのが気になりました(攻撃前に何かが光る、のけ反るなどがあれば良かった)。
とくに気になるのがボス戦全般で、「アーチ」と「ガーレ」ではガードが崩されダメージが入ってしまう場合が多く、ほとんどの場合は防御に優れた「ベイル」に頼り切る場面が多くなってしまっていました。
▲終盤のボスであるネザーアザゼルは予備動作なしに即攻撃を繰り出すため、正直よけづらい
他にも敵武器の奪取によって武器を切り替えることから、3種類の武器を用いたバトルは、上手く機能しているものの(武器を奪って敵を弱体化させる意味もある)、全体の約10時間から7時間におけるゲームプレイでは種類が足りず物足りなさを感じてしまいます。
それでも基本的な戦闘のバランスは良く考えられていて、致命的な欠点がないことは驚異的です。プレイしていると、ある意味で「アーチ」と「ガーレ」はスラッシュアクションジャンルで、「ベイル」はソウルライクのジャンルであるようにも思えていきます。このことから、プレイヤーと相性の良いジャンルそのものを変えながら戦うゲームであるようです。
見た人を惹き付ける力がある!?
幻想的な美術の歴史を感じさせるアートスタイル
本作のグラフィックはフォトリアルではない幻想的なビジュアルによって成り立っています。各チャプターで描写されるステージは、「ファンタスティック・プラネット」に代表されるヨーロッパのアニメ映画や水墨画など様々な芸術を見ているかのような、光と共に影や陰を強調するビジュアルです。▲タワーに入る直前のシーン
▲ステンドグラスの光によってイーノックがシルエットのみになっている
▲よく見るとイーノックの影がない。水墨画的なビジュアルを邪魔しないようになっている
▲サイバーパンク的なバイクパートがあるステージ
残念ながら、筆者が持ちうる知識では『エルシャダイ』で表現される多くの美術表現に対して何らかのコメントを残すことが難しいですが、チャプターの進行を考えると、古代から現代にかけての美術の歴史を追っているかのようです。
このビジュアルコンセプトについて発表時のプレスリリースによれば、常に変化し続ける「生きた世界」を表現したものであるとのこと。サイバーパンク的な都市が見えるバイクステージも合わせて、『エルシャダイ』を一度遊んだら忘れられないゲームへと作り上げることに成功しています。
▲序盤に登場する破壊できる像は「ヴィレンドルフのヴィーナス」などの古代の像を彷彿とさせる
▲古典のヨーロッパ影絵アニメ「アクメッド王子の冒険」のようなハッキリと陰陽が目立つ2Dパート
▲堕天使と人間のハーフ「ネフィリム」が初登場するパートでは、アニメ表現のような明瞭な色分けとなっている
他にも、ルシフェルが時間を操れることも含めてなのか、プレイヤーに対するメタ的な表現がとても多く、携帯電話を使い神と会話するシーンがたびたび挿入される他にも、カットシーンの途中に時間を止めて登場し解説を始めることにも現れています。他にも、ゲーム中盤で戦闘後に操作する「アルマロス」はしゃべらないものの、まるで様々なゲームで登場したマイケル・ジャクソンのような存在です。
▲カットシーンを止めて登場するルシフェル。彼がいるからこそ破天荒な展開でも付いていけるようなカリスマがある
▲古典アメコミで表現されるような線を太めに描き入れる影表現でアウトラインが強く強調されている
▲「アルマロス」の初登場シーンは、顔見せの時に微妙に動かないためマイケル・ジャクソンのブカレストツアーの冒頭のよう
▲「アルマロス」はプレイヤーのカメラを認識できるのか、戦闘中に彼がカメラを遮ったり動かしたりする
▲「アルマロス」操作パートの動きは汗とダンスで攻撃することから、メガドライブ版『マイケルジャクソンズ ムーンウォーカー』のようにも思える
ゲーム開始直後に現れるシーンは人類の夜明けとも捉えられるような、地平線の暗闇を切り裂く光と後光によって表現されているとも思えます。これらは、イーノックを依代として、様々な美術の中に入り込んで触れられる(破壊もできる)、というゲームだからこその表現を入れ込んだようにも見えます。
この特徴的なアートスタイルを持つゲームが日本国内から出てきたことは非常に嬉しく思う一方で、当時ネットミーム的な消費のされ方だけで終わってしまったのが非常にもったいなく悔しさもあります。
▲人類の夜明けとも見えるゲームスタート直後のシーン。これに干渉できるのがゲームというメディアの面白いところ
高いレベルで完成した『エルシャダイ』
ゲームとして物語の最後まで遊べることを願って
『エルシャダイ』は、開発時に経済的な問題で様々な要素が削られました(加えて、オリジナル版発売時には開発チームも解散)。とはいえ、各チャプターそれぞれに異なる独創的なアートスタイルを披露し、スラッシュアクションとソウルライクが合体したようなゲームプレイも持ち合わせており、最終的に直感的で簡潔なゲームプレイに帰結している完成度の高いゲームです。オリジナル版発売後にイラストレーター・ゲームデザイナーである竹安佐和記氏がインタビューで補足しているように、序盤の300年間の旅を含めたストーリー部分をよく観察してみると、トレイラーで披露されたものの導入されていない、途中でカットされたような要素が多々あることに気付きます(例えば、トレイラーでイーノックの使っていた剣と盾が本編で使えないことなど)。
本編のストーリーは途中で終わってしまいますが(それでも一応のオチは付いている)、その後の物語を補完する小説「ルシフェルの堕天」がクリア特典としてクリア後に観覧できるようになり、一応は本作だけで物語が完結するようになっています。
特徴的なグラフィックにも意味があることや、演出の意図を知ると世界観への理解が深まることが面白く、何とかしてゲームとして最後まで完結してほしいと願わざるを得ません。
▲主人公イーノックも本編で10年間眠ってしまったが、『エルシャダイ』本編そのものが再始動するまでに10年かかってしまったのは実際に体験すると長い……
2011年にオリジナル版が発売されたとはいえ、ある意味で2010年代に流行った独特のアートスタイルを持つ様々なインディーゲームの特徴と目指すべき表現を先取りしたようにも思えます。また、PC(Steam)版では、0fpsでの動作が可能なため、アクションゲームである本作の面白さをより強く引き出しています。
どんなゲームでも10年の歳月が経過してしまえばグラフィックなど相対的な古さを感じてしまいますが、本作においてはその弱点がアートスタイルという点で回避できているために、10年後のいま遊んでもビジュアル的に耐えられる出来映えだったのには驚きました。
一方で、微妙に古さを感じてしまったのがアクション部分ですが、ソウルライクな「ベイル」の存在からギリギリ踏ん張れているのも嬉しい発見です。
▲本編の続きだけでなく、前日譚とも言える300年間の旅もいつかゲーム化してほしいところ
加えてPCへ移植されたことにより4K解像度と60fpsでの動作ができることによって本作のグラフィックを余すところなく体験できることは大きな魅力であり、本作がもつ良さを十分に発揮できるようになったと思えます。『エルシャダイ』は今こそ遊ぶべきゲームです。
©crim
●タイトル:El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON HD Remaster
●ジャンル:アクションゲーム
●発売元:crim
●開発元:crim
●プラットフォーム:PC(Steam)
●発売日:2021年9月2日
●価格: 3980円[税込]
●必須スペック
OS: Windows 10
プロセッサー: Intel Core i5-4200U
メモリー: 4GB
グラフィックIntel HDグラフィックス4400
ストレージ: 8.2GB
●公式サイトURL:http://elshaddai.jp/elshaddai_crim/index.html
●ダウンロードサイトURL:Steam
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