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『Semblance』南アフリカの新鋭パズルゲームは、なぜわかりにくいか【インディーゲームレビュー 第45回】
今世紀に入り、ゲームは世界中で開発されるようになった。南アフリカのインディーゲームディベロッパー、Nyamakopのデビュー作『Semblance』もその一つだ。幻想的で力強いグラフィックと優れたパズル性が組み合わさった希有なタイトルとなっている。
筆者の好きな画家の一人にサイモン・ジョージ・ムパタがいる。1942年にタンザニアで生まれ、1969年に兄の工房で絵を描き始めた。60センチ四方の建築用ハード・ボードにペンキで絵を描くティンガティンガ派の代表画家として知られ、アフリカの動物や自然をダイナミックに描いた。1984年の没後もその魂は日本人の手で受け継がれ、会員制サファリ・ロッジ「ムパタ・サファリ・クラブ」にその名を残している。
「ムパタ没後30年展」公式サイト
今回レビューする『Semblance』もまた、南アフリカで開発されたインディーゲームだ。ゲーム内容はプラットフォーマースタイルのパズルアクションで、プレイヤーはスライムのような形状の主人公スクイッシュを操り、ステージに体当たりしてレベルデザインを変化させながら、生命の素を集めていく。
「レベルデザインを変えることをパズルにする」というユニークなメカニクスと、ポップでミニマルなグラフィックの組み合わせが秀逸で、2018年度に発売されたPCゲームのうち、レビュースコアサイトの「metacritic」で68位を受賞する大健闘をみせた。個人的にも生命の木を彷彿とさせるモチーフや、大胆な色使いがムパタをはじめとしたティンガティンガ派の作品を彷彿とさせ、ひきこまれた。
本作を制作したNyamakopは南アフリカのゲームクリエイター、KimaniとMyresが2015年に設立したインディーゲームデベロッパーだ。同国は人種隔離政策のアパルトヘイトを半世紀近く続けていたことで知られ、1994年に撤廃後もなお、社会に鋭い爪痕を残している。こうした中で黒人と白人のコンビによってゲームが制作され、全世界で賞賛を集めたことは、さまざまな側面で興味深い。世界規模で進むゲームの民主化の象徴的な作品ともいえるだろう。
序盤のパズルの解法
なぜ本作はわかりにくいのか。それは「環境を変化させて移動ルートを作る」ことが目的であるにもかかわらず、実際に操作できるのはプレイヤーキャラクター“スクイッシュ”である点が大きい。本来の目的である「壁を間接的に動かす」ゲームシステムが、特有のわかりにくさを生んでいるのだ。
仮に壁をマウスで直接クリックしてルートを作るか、パズルゲームの名作『倉庫番』のように、すべてをブロックの組み合わせで表現する内容であれば、よりわかりやすいゲームになっただろう。
また本作では後半になるにつれて、パズルの答えはわかっていても、ゲームの操作ミスで失敗するシーンが増えていく。「壁に体当たりしてルートを作る」という基本システムが良くも悪くもシンプルすぎるため、パズルのバリエーションが限定されてしまい、アクション性を高めるしかボリュームを増やす手立てがなくなってしまうのだ。これに加えてスクイッシュの動きに物理演算が影響を及ぼす点も、本作の理不尽さを上げてしまっている。これらの点が改善されれば、より遊びやすいゲームになっただろう。
このように本作は批評家から賞賛されるが、ゲーマーからは敬遠されがちな側面を秘めている(metacriticでメタスコアが79点、ユーザースコアが68点という結果は、なかなか良い点をついている)。にもかかわらず本作を推してしまうのは、アフリカの大自然を彷彿とさせる大胆なグラフィックや抽象化のセンスに負うところが大きい。今後アフリカから、どのようなユニークなゲームが登場してくるのか、期待してしまうのだ。
COPYRIGHT © NYAMKOP
■関連リンク
Steam『Semblance』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/700160/Semblance/
開発元「Nyamakop」公式サイト
https://nyamakop.co.za/
筆者の好きな画家の一人にサイモン・ジョージ・ムパタがいる。1942年にタンザニアで生まれ、1969年に兄の工房で絵を描き始めた。60センチ四方の建築用ハード・ボードにペンキで絵を描くティンガティンガ派の代表画家として知られ、アフリカの動物や自然をダイナミックに描いた。1984年の没後もその魂は日本人の手で受け継がれ、会員制サファリ・ロッジ「ムパタ・サファリ・クラブ」にその名を残している。
「ムパタ没後30年展」公式サイト
今回レビューする『Semblance』もまた、南アフリカで開発されたインディーゲームだ。ゲーム内容はプラットフォーマースタイルのパズルアクションで、プレイヤーはスライムのような形状の主人公スクイッシュを操り、ステージに体当たりしてレベルデザインを変化させながら、生命の素を集めていく。
「レベルデザインを変えることをパズルにする」というユニークなメカニクスと、ポップでミニマルなグラフィックの組み合わせが秀逸で、2018年度に発売されたPCゲームのうち、レビュースコアサイトの「metacritic」で68位を受賞する大健闘をみせた。個人的にも生命の木を彷彿とさせるモチーフや、大胆な色使いがムパタをはじめとしたティンガティンガ派の作品を彷彿とさせ、ひきこまれた。
Nyamakop公式サイトより
本作を制作したNyamakopは南アフリカのゲームクリエイター、KimaniとMyresが2015年に設立したインディーゲームデベロッパーだ。同国は人種隔離政策のアパルトヘイトを半世紀近く続けていたことで知られ、1994年に撤廃後もなお、社会に鋭い爪痕を残している。こうした中で黒人と白人のコンビによってゲームが制作され、全世界で賞賛を集めたことは、さまざまな側面で興味深い。世界規模で進むゲームの民主化の象徴的な作品ともいえるだろう。
本作ならではのパズル性が生み出す二重のわかりにくさ
もっとも、本作は一筋縄ではいかないおもしろさを秘めている。というのも「壁に体当たりしてレベルデザインを変えることがパズルになる」意味がわかりにくいのだ。とはいえ、いちどゲームのプレイ映像を見ると、その意味がたちどころに理解できる。そのため、ゲームを始める前にSteamの販売サイトに掲示されているトレーラーをチェックしてからゲームを始めることをお勧めする。序盤のパズルの解法
中央下の白い目のキャラクターが主人公の「スクイッシュ」。右上に輝く赤い生命の素を取るのが目的だが、触れるとミスになる緑色のトゲが行く手を遮る
ステージに下から体当たりして上に動かし、足場を作り……
緑のトゲをかわして、無事に生命の素を入手することができた
なぜ本作はわかりにくいのか。それは「環境を変化させて移動ルートを作る」ことが目的であるにもかかわらず、実際に操作できるのはプレイヤーキャラクター“スクイッシュ”である点が大きい。本来の目的である「壁を間接的に動かす」ゲームシステムが、特有のわかりにくさを生んでいるのだ。
仮に壁をマウスで直接クリックしてルートを作るか、パズルゲームの名作『倉庫番』のように、すべてをブロックの組み合わせで表現する内容であれば、よりわかりやすいゲームになっただろう。
また本作では後半になるにつれて、パズルの答えはわかっていても、ゲームの操作ミスで失敗するシーンが増えていく。「壁に体当たりしてルートを作る」という基本システムが良くも悪くもシンプルすぎるため、パズルのバリエーションが限定されてしまい、アクション性を高めるしかボリュームを増やす手立てがなくなってしまうのだ。これに加えてスクイッシュの動きに物理演算が影響を及ぼす点も、本作の理不尽さを上げてしまっている。これらの点が改善されれば、より遊びやすいゲームになっただろう。
このように本作は批評家から賞賛されるが、ゲーマーからは敬遠されがちな側面を秘めている(metacriticでメタスコアが79点、ユーザースコアが68点という結果は、なかなか良い点をついている)。にもかかわらず本作を推してしまうのは、アフリカの大自然を彷彿とさせる大胆なグラフィックや抽象化のセンスに負うところが大きい。今後アフリカから、どのようなユニークなゲームが登場してくるのか、期待してしまうのだ。
COPYRIGHT © NYAMKOP
■関連リンク
Steam『Semblance』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/700160/Semblance/
開発元「Nyamakop」公式サイト
https://nyamakop.co.za/
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