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『Old Man’s Journey』映画とゲーム、似て非なるメディアが示す作劇法の違い【インディーゲームレビュー 第18回】

 
テレビゲームには「ハッピーエンドの呪い」がかけられている。ゲームはプレイヤーに再挑戦を強いるメディアであり、ゲームデザイナーはその努力に報いようとするからだ。しかし、単純なハッピーエンドだけでは、人を感動させる物語は作れない。東京ゲームショウ2017の「センス・オブ・ワンダーナイト」でファイナリストに選出された『Old Man’s Journey』もまた、その制限に挑もうとしたタイトルの一つだ。

海岸を見下ろす家でぼんやりと海を眺める主人公の元に一通の手紙が届き……

ハリウッドの脚本セオリーとは何か

映画の脚本術で名高い『シド・フィールドの脚本術』によると、ハリウッド映画の脚本には「AはBのためにCをするが、目的をはたせず、かわりにDを得る」という構造がみられる。映画『ロッキー』でいえば、「ロッキーは世界チャンピオンになるためアポロと戦うが、目的をはたせず(=試合に敗れ)、かわりにプライドを得る」という具合だ。正確には、主人公は目的のため試練に立ち向かう過程で精神的成長を遂げ、Cの重要性を喪失するかわりにDを発見する。この精神的成長がドラマの原動力となる。

地形を操作して老人をゴールに導くアドベンチャーゲーム『Old Man’s Journey』もまた、この構造を踏襲している。海岸を見下ろす家で一人暮らしをしている老人のもとに手紙が届けられ、そこから老人の一人旅が始まる。ゲームを進めるうちにプレイヤーは老人の人生と旅の目的がわかってくる。老人はかつて七つの海を駆け巡った船乗りで、妻子と幸せな暮らしをしていたが、誘惑を断ち切れず、一人で旅に出てしまう。それが元で妻子に逃げられ、一人暮らしをしている。そして今、妻子から手紙が届いて……というわけだ。

つまり本作のストーリー構造は「老人は妻子に再会するために(そして、幸せだった日々を取り戻すために)旅をするが、目的ははたせず、かわりに○○を得る」というものになる。ネタバレを防ぐために伏せ字としたが(また、実際はもう少し複雑なのだが)、これだけでも平板なストーリーではないことがわかる。ゲームを通して「キャラクターという記号的存在ではなく、人間を描こうとした」文学志向のゲームだといえるだろう。本作は驚くことにこれを、まったくテキストが登場しない、ノンバーバルな表現方法で描いている。

主人公は妻子をおいて、ヨットで世界一周の冒険に旅立つが……

パズルと回想シーンの二重構造

さて、このテーマを描く上で本作は二つの手法を採用している。第一に障害の設定、そして第二にストーリーの描き方だ。中でもゲームメカニクスと直結するのが前者で、本作では地形を操作することでルートを確立し、老人を移動させる仕組みを採用している。ゲームはポイントクリック型のアドベンチャーゲームで、画面の任意の地点をクリックすると、老人はその地点に向かって移動する。しかし、そのためには途中の障害物が排除されている必要がある。本作はこれを地形操作で達成するのだ。

老人が画面の左から右、下から上に向かって進む点もポイントだ。映画では画面の右側を上手、左側を下手と呼び、上手には起点、下手には終点の意味がある。しかし、ゲームでは操作との兼ね合いなどもあり、一般的にキャラクターは下手から上手に向かって進んでいく。本作ではこれがゲームの目的と一致しており、老人が目的地に向かうことが「帰宅」のメタファーとして機能している。このほか、画面の上から下への移動で老人の深層心理が描かれる、妻子の待つ家はステージの一番上に設定されている、などの工夫が見られる。

老人を右上に進めたいが、そのままではルートがつながっていない。稜線をドラッグ&ドロップして上下させ、地形を変えると、移動可能になる

ストーリーの描き方では、パズルと回想シーンの二重構造が特徴だ。ゲームの要所で主人公の回想シーンが入り、過去の出来事が提示される。描かれるのは「自分の欲求のために家族を顧みなかった、自分勝手な男の人生」であり、そのことで後悔している老人の姿だ。グラフィックは水彩画風の手描きタッチで描かれ、南欧の港町を彷彿とさせる世界が広がる。クラシカルでメロディアスなBGMと相まって、どこか絵本の世界のような印象すら受ける。そして、この対比が老人の孤独を浮き上がらせている。

こうした回想シーンの多用は、映画では避けるべきだとされる。映画の魅力は「次に何が起きるかわからない」ストーリー運びにある。しかし、回想シーンを挟み込むと、このメリットが削がれる。回想シーンでどんな事態がおきても、それはその中でのことであり、回想シーンが終わると、ストーリーは現実に引き戻される。これでは観客から、先を予想する楽しさを奪ってしまう。それなら、わざわざ回想シーンを挟み込まず、過去から未来に向かって時間軸通りにストーリーを進めたほうが良いというわけだ。

もっとも映画と異なり、ゲームではプレイヤーに何らかの課題を提示し、それを解決させることで進行していく。つまり課題を解決する行為自体がポジティブな意味合いを持つ。しかも『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』で分析したとおり、ゲームはプレイヤーに再挑戦性を強いるメディア特性がある。そのため本作のように「課題解決に対するご褒美」としてストーリーを設定するタイプのゲームは、ネガティブな話と相性が悪い。これを解決するのが回想シーンの活用で、ゲームならではの作劇法というわけだ。

主人公が得たリワードは適正か?

リスボンやマルセイユを彷彿とさせる美しい港町の風景

ただし、本作には幾つか些細な、しかし重要な問題もある。第一にパズルの難易度の問題だ。本作はストーリーの体験が主眼で、できるだけ多くの人にクリアしてもらえるように、パズルの難易度が抑えられている。しかし、操作が不要な映画と異なり、ゲームでは自力でクリアできないユーザーが一定数存在する。その場合、プレイヤーと主人公の心理が乖離せざるを得ず、最悪の場合はゲームが中断してしまう。本作にはそのための救済策が存在せず、もどかしさが感じられる。

もう一点は物語の終わらせ方だ。前述の通り老人は最後に○○を得る。しかし、少し甘すぎるのではないかという気がする。もっとも、人によって感じ方はさまざまだろう。実際はどうなのか、ぜひプレイして確かめてみて欲しい。ゲームは2時間程度で、値段も映画一本分というところ。東京ゲームショウ2017で開催された「センス・オブ・ワンダーナイト」をはじめ、世界中のアワードを総なめにしたタイトルだけあって、完成度は高い。本作をプレイしてゲームと映画の作劇法の違いについて体感して欲しい。

<参考・参照元>
『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』シド・フィールド著 安藤紘平、加藤 正人、小林 美也子、山本 俊亮訳(フィルムアート社)


■関連リンク
『Old Man’s Journey』
http://www.oldmansjourney.com/
Steam『Old Man’s Journey』のページ
http://store.steampowered.com/app/581270/Old_Mans_Journey/
「センス・オブ・ワンダーナイト2017」
http://expo.nikkeibp.co.jp/tgs/2017/business/event/sown/presentation.html
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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