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『This War of Mine』ゲームはついに戦時下の生活を描いた【インディーゲームレビュー 第15回】

 
『911 Operator』のレビューでは、ゲームと現実がストレスループで接続されることを示した。今回は戦時下における一般市民の暮らしを疑似体験する『This War of Mine』のレビューを通して、ゲームの持つ可能性について考えていく。

ゲームは「過去の体験との差分」を楽しむメディア

テレビゲームの特徴に「繰り返しを前提とする娯楽」という点がある。『スーパーマリオブラザーズ』をクリアするために、プレイヤーは何度もステージに挑戦していく。そのたびにプレイヤーは上達していく。ゲームの楽しさとは「過去の体験との差分」に存在する、とも言えるだろう。ここが映画やドラマなどとの大きな違いだ。

そのため、多くのゲームでは「過去の体験との差分」が何らかの価値を持つようにデザインされる。しかし、そうした行為が人間性の否定を伴うとしたら、どうだろうか。本作『This War of Mine』はまさに、こうしたゲーム体験の意味について問いかけてくる問題作であり、そのために高く評価された作品となった。

サラエヴォ包囲下の一般市民の暮らしを描く

本作のモチーフはボスニア・ヘルツェゴビナ紛争に伴い、1992年から発生したサラエヴォ包囲だ。プレイヤーは戦火に見舞われた家屋を拠点に、食料や物資をやりくりしながら、日々の生活を送っていく。日中は家屋にこもって道具や食料を作り、夜は物資を求めて街を徘徊する。停戦まで生き延びられればゲームクリアだ。

https://youtu.be/gotK5DLdVvI

プレイヤーキャラクターたちの拠点となるシェルター。壁には爆撃で出来た大きな穴が開いている。早く塞がなければ強盗の良い餌食になってしまう

プレイヤーキャラクター一人ひとりにプロフィールが設定されている。こうしたプロフィールがあるだけで、感情移入度が大きく異なってくる

収集した物資を組み合わせて新しい道具や燃料を作り出せる。物資は常に不足しているので、優先順位をつけることが重要だ

最初の数日は家屋の探索で物資が確保できるが、それもすぐにつきてくる。鍵を握るのが夜間の探索だ。学校・ホテル・住宅街・スーパーマーケットなど、ゲームが進むにつれて探索範囲が拡大していく。もっとも物資が豊富な場所は先住者や探索者がいる可能性が高い。トラブルに見舞われることもあるので注意が必要だ。

時には生き延びるために究極の選択を迫られることもある。戦時下で人間らしい生活を送ろうとする老夫婦や、医薬品が不足する中で病気になった仲間のケアは、本作における典型的な「踏み絵」だ。このままでは餓死が免れない中、犯罪に手を染めるか否かは、プレイヤーの判断にかかっている。

ただしモラルに反する行為を続けていくと、キャラクターのメンタルが低下していき、うつ病のような症状を見せ始める。こうなると作業を放棄し、寝たきりに近い状態になってしまう。誰か一人のメンタルが低下すると、次第に他のキャラクターに伝染していくのが厄介だ。戦時下のやりきれなさがゲームを通して伝わってくる仕組みだ。

夜になると近隣の施設に出向いて物資を探索できる。場所に応じて入手可能性や危険度が異なっている。安全な施設はすぐに物資がつきてしまうので、次第に危険な施設に出向かざるを得なくなっていく

施設の住人と遭遇。病気の父親のために医薬品を欲しているようだ。交渉しても良いし、殺害してもいい。物資を盗んで逃げることもできる

過去からの学びは喜びにつながるか

本作のストレスループは下記の通りだ。キャラクターたちは慢性的な物資不足や食糧不足に襲われており、これがストレスに相当する。物資を入手したり、新しい道具を作りだしたりすれば、それがキーファクターとなってストレスが緩和する。しかし、根本的な解決にはいたらず、徐々にストレスが増していくというわけだ。

筆者は初プレイで17日間しか生き延びられなかった。もっとも、何度も繰り返すことで徐々に日数が伸びていき、停戦を迎えられるようになった。良心の呵責に目をつぶりながら、小ずるく立ち回る術も学んだ。過去の経験を生かした結果だ。しかし、それは果たして「喜び」なのだろうか。そこに本作が提示する大きな問題がある。

時には近隣住民から手助けを求められることも。手助けしなければ彼らは困難な目に遭うだろうし、手助けすることで貴重な人力が減少するのも事実だ

エディタ機能を使って自分だけのシチュエーションを創り出すこともできる。環境やキャラクターを変更することで無限のストーリーが創られていく

通常のゲームなら「過去との差分」は成長であり、喜びにつながる。しかし本作は、そのメカニズムを活用して、重苦しいメッセージを投げかけてくる。もっとも、本作はエンタテインメントであり、声高に是非を叫ぶことはない。ただ、プレイヤーごとに受け取り方が異なるだけだ。

本作の開発会社はポーランドの「11bit studios」で、『ウィッチャー』シリーズで知られる「CD Project」からの独立組だ。本作はしばしばアカデミズムの分野で、ゲームで社会問題などを解決する「シリアスゲーム」の好例として引用される。それだけしっかりと現実社会を観察し、ゲームに落とし込んでいると言えるだろう。

ベトナム戦争は史上初めてテレビで戦場の様子が茶の間に届けられる戦争になった。湾岸戦争では現地からの衛星生中継が世界を駆け巡った。サラエヴォ包囲は戦時下の暮らしがゲーム化された初の戦争として記録されるだろう。VR・MRと技術は常に進化していく。その先に、どのようなゲームが生まれるのだろうか。

一つ言えるのは、ゲームは社会の映し鏡であり、大きな可能性が広がっているというだけだ。

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■関連リンク
『This War of Mine』
http://www.thiswarofmine.com/
Steam『This War of Mine』のページ
http://store.steampowered.com/app/282070/This_War_of_Mine/
11bit studios
http://www.11bitstudios.com/

【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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