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『Project Wingman』インディーゲーム開発者ならではの批評スタイル【インディーゲームレビュー 第89回】

『エースコンバット』(以下、AC)シリーズに対する多大なリスペクトが感じられる『Project Wingman』。本作はオーストラリアのインディーゲーム開発者、アビ・ラフマーニー氏がほぼひとりで開発したフライトシューティングだ。本作がめざした大空への挑戦は、インディーゲーム開発者ならではのゲームレビューのあり方を示している。


フライトシューティングを独自開発

『ポケットモンスター』シリーズの生みの親として知られる田尻智氏は、ゲーム雑誌のライターとして活躍するかたわら、ファミコンの開発機材を自作し、処女作『クインティ』を開発。旧ナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)に持ち込み、20万本のセールスを記録した。日本の家庭用ゲームにおける、インディーゲームの草分けとされるタイトルだ。「ゲームを批評するスマートなやり方は、ゲームを実際に作り上げることだ」……当時の田尻氏にこうした思いがあったことは、想像に難くないだろう。

このエピソードを現代に甦らせたタイトルが現れた。オーストラリアのインディーゲーム開発者、アビ・ラフマーニー氏が開発した『Project Wingman』だ。Unreal Engine 4の習熟からはじめたラフマーニー氏は、2015年11月より本格開発に着手。2017年12月に地元・パースのゲームイベントにプロトタイプを出展し、Kickstarterで11万4544豪ドル(約920万円)の調達にも成功するなど、開発は順調に進んだ。2020年12月1日に本作がリリースされると、その完成度の高さに全世界から大きな賞賛を受けた。

本作を一言で紹介すると、『AC』シリーズの原点回帰ともいえるフライトシューティングだといえるだろう。シリーズが進むにつれて世界観&ストーリー重視を強めてきた本家『AC』シリーズと同様、本作も傭兵となって活躍するストーリーモードが存在する。その一方で本作はローグライクの要素を加えた「コンクエストモード」を組み込んだ。目の前の敵を破壊しながら支配エリアを拡大させていく同モードは、ゲームの原始的な楽しさが凝縮されているように思える。

その上で特筆されるのは、全編にわたってVRモードに対応したことだ。本家『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』(以下、AC7)のVRモードと違い、本作は全ミッションをOculusまたはSteamのVRゴーグル(一般のコントローラーなどを用いて)で楽しめる。相応のマシンパワーが必要だが、これぞPCゲームならではの魅力だろう。筆者の自作ゲーミングPC+Oculus Quest 2という環境では、かなりグラフィックのクオリティを下げる必要があったが、それでもずっとVR空間に居続けたいという気持ちを抱かせた。全方位に頭を振りながら敵機を追いかける体験ができるだけでも、本作は「買い」だ。

ゲームの味つけもそれを裏づけている。『AC7』と比べて『Project Wingman』のゲーム体験は、良い意味で大ざっぱだ。バルカン砲はより命中しやすく、フレアも無制限に投下できる。特殊兵装も最大3種類使用でき、ミッション攻略の幅が増した。プレイヤーを苛立たせる時間制限や、ゲーム内イベントなどもない。難しいことを考えずに、目の前の敵を破壊し尽くせば良い。なぜなら、それが俺たちが好きだった『AC』シリーズなのだから……。本作が掘り当てたのは、そうした潜在的なユーザーニーズだ。そこに本作の存在意義がある。

裏を返せば『AC』シリーズの開発者チームは、たったひとりのインディーゲーム開発者から、ある意味で挑戦状を叩きつけられたと言えるだろう。『AC』シリーズはこれまで世界観やストーリーに浸る1人用モードと、対戦を楽しむオンラインモードの二本立てという、FPSと同じ進化を辿ってきた。これに対して本作は、シリーズが進化の過程で切り捨ててきた要素を拾い上げ、最新のグラフィックで提示してみせた。これに対して『AC』シリーズがどのような回答を見せるか、今から楽しみだ。



インディーとAAAゲームのあるべき関係

もっとも、客観的な視点から『AC7』と『Project Wingman』を比較考察すると、ゲームの完成度は『AC7』が大きく上回っているのは、言うまでもない。CGによるカットシーンや、ミッションブリーフィング&リザルト画面の完成度、機体や武器の進化ツリー、特殊兵装の選択シーンにおけるUIなどだ。日本のユーザーからすれば、音声が日本語ローカライズされておらず、ゲーム内の無線をすべて字幕で追わなければ十分にゲームが楽しめない点もつらいところだろう。

肝心のインゲーム部分においても、キャノピーを流れる水滴や氷結、雲海を飛び回る感覚など、グラフィック面で一段落ちる点は否めない。レベルデザインも同様で、全体的にメリハリが少なく、初心者プレイヤーに対する配慮も乏しい。何の説明もなく狭い回廊に進入し、ミサイルでターゲットを攻撃しろと言われても、シリーズのファンでなければ気づかないだろう。また、ファンであっても、途中でセーブポイントがないのも問題で、何度もミッションの最初からやり直させられるのはつらいものがある。

より根源的な問題を指摘すると、本作は『AC』シリーズをリスペクトするあまり、同じ問題に足を取られているきらいがある。戦闘機の空戦ゲームである以上、ゲームに盛り込めるギミックは自ずと限界がある(間違ってもロボットに変形させるわけにはいかない)。これを『AC』シリーズでは世界観・ストーリー・無線による演出・多彩な任務などで補おうとしているわけだが、本作はどれも中途半端な域に留まっているのだ。そのため、途中から似たような空戦の繰り返しになってしまう点は否めない。



ただし、筆者は「だから『Project Wingman』は『AC』のエピゴーネンに留まっている」と言いたいのではない。論点は逆で、「個人が作ったインディーゲームがAAAゲームの向こうを張り、ファンの評価を集めて、AAAゲームに刺激を与える」時代が到来したことについて、高く評価したいのだ。繰り返しになるがコンクエストモードの「フライトシューティング×ローグライク×VRモード」という組み合わせは慧眼で、「こんな『AC』を遊びたかった」と感じたファンは多かったのではないだろうか。

ふりかえれば『AC』シリーズの方向性の確立は、264万本のセールスを記録した『エースコンバット04 シャッタードスカイ』の大ヒットが大きい。これに対して本作はフライトシューティングの進化に、それとは別の方向性があることを示した。そうしたチャレンジはインディーゲームならではのものだ。AAAゲームがともすれば保守的になるなか、そこから影響を受けたインディーゲームが、その身軽さ故に新しい方向性を提示し、刺激を与える。それこそが真のリスペクトであり、インディーゲーム開発者ならではのレビューではないだろうか。

Steam『Project Wingman』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/895870/Project_Wingman/?l=japanese
Kickstarter『Project Wingman』ページ
https://www.kickstarter.com/projects/rb-d2/project-wingman
Kickstarter版アルファデモ
https://rb-d2.itch.io/wingman
『Project Wingman』Wikipedia(英語)
https://en.wikipedia.org/wiki/Project_Wingman
『エースコンバット』シリーズWikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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