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ゲームをとりまく差異がなくなっていく時代……「東京ゲームショウ2021 オンライン」に見る業界展望【インディーゲームレビュー 第107回】

コロナ禍で開催される2年目の東京ゲームショウ。会場がハイブリッドとなったように、出展ゲームも家庭用ゲームとPCゲームのマルチタイトルが増加した。さまざまな差異が融合していく、興味深い年となった今年の展示内容を振り返る。


コロナ禍で注目を集めたXbox Cloud Gaming

世界三大ゲームショウの一つに数えられる東京ゲームショウ(TGS)。その最大の特徴は長く家庭用ゲーム中心のイベントだったことだ。この背景にはTGSを立ち上げた一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が、家庭用ゲームのサードパーティー主導で設立された点にある。1988年に発足された「コンシューマ・ソフト・グループ」(CSG)主催の展示会を引き継ぐ形で1996年にスタートしたTGSは、煌びやかな会場の裏側で、プラットフォームホルダーとサードパーティーの力学が複雑に絡み合う、ゲームビジネスの最前線として機能してきたのだ。

もっとも、今年のTGSは少々毛色が違っていた。前哨戦となったのが6月にオンラインで開催されたE3(Electronic Entertainment Expo)だ。前年のPlayStation(PS)5とXbox Series X|Sの発売を受けて、さまざまな大型タイトルが発表されたが、どこか白け気味の雰囲気が(特に日本では)漂っていた。コロナ禍による世界的な半導体不足を受けて、ゲーム機の供給不足が深刻だったからだ。どれだけ優れたゲームが発売されても、ゲーム機が入手できないのでは意味がない。特に日本市場ではコアゲーマーを中心に、そうした雰囲気が漂っていたように感じられた。


こうした中で、大きな存在感を示したのが、独自のクラウドゲームサービス「Xbox Cloud Gaming (Beta)」を発表したマイクロソフトだ。登録されたゲームが月額料金で遊び放題になるサービス「Xbox Game Pass Ultimate」と組み合わせて、ハードの垣根を越えて最新ゲームが遊べる世界観を提案したのだ。これならXbox Series X/Sを持たなくても、自宅のPCでゲームが楽しめる。先行して欧米圏でサービスが始まると、クラウドゲームならではの遅延は発生するものの、総じて好評価で迎えられた。コロナ禍の巣ごもり需要を解消するタイムリーな施策として歓迎されたのだ。

この「Xbox Cloud Gaming (Beta)」が、満を持して2021年10月1日から日本でも楽しめるようになった。『スカーレットネクサス』『ドラゴンクエストビルダーズ』など、日本市場向けのタイトルも増加している。ポイントはゲーミングPCでなくても、リッチなインターネット回線があれば、多くのPCでこれらのゲームが楽しめることだ。スマートフォンやタブレットでもゲームを起動でき、対応タイトルであればタッチ操作でのプレイも可能だ。ゲーム機やPCといったハードの枠を越えて、ネット上でゲーム体験がひとつにつながる時代がついに到来したのだ。


PCを含むマルチプラットフォーム展開の一般化

こうしたゲームビジネスの変化をゲームメーカーも敏感に感じ取っている。その最右翼はカプコンで、同社の辻本春弘社長は日本経済新聞の取材に対し、2022年中にも販売に占めるPCゲームの割合を5割に高める方針を示した。シリーズ最新作『モンスターハンターライズ』向けの追加コンテンツ『サンブレイク』を、2022年夏にNintendo Switch版とSteam版で同時発売するのは、その好例だ。2021年5月には『バイオハザード ヴィレッジ』のPS5・PS4・Xbox Series X/S・Xbox One・Steam版の同時発売も行っている。こうした傾向は今後も続いていくだろう。

他にスクウェア・エニックスが『ドラゴンクエストX オフライン』をPS5・PS4・Switch・Steam向けに発売する旨の発表を行うなど(発売は2022年2月)、大手企業のPC対応は確実に進んでいる。バンダイナムコエンターテインメントのシリーズ最新作『テイルズ オブ アライズ』がPS5・PS4・Xbox Series X/S・Xbox One・Steamで発売されたのも同じ文脈だ。もっとも、これらの動きには開発規模の大型化に伴い、マルチプラットフォーム戦略が必須となっている事情もあるだろう。いずれにせよAAAタイトルでは、ゲーム機とPCの境界は次第に無くなっていくはずだ。


それではインディーゲームではどうだろうか。開発規模が小さいインディーゲームでは、これまでプラットフォームを変えて次々と移植しながら、マーケティングを行っていく施策が一般的だった。Steamで発売した半年~1年後にNintendo Switch版をリリースする、などは好例だ。これにはプラットフォームごとにパブリッシャーが変わるなどの事情もある。しかし、インディーゲームのマルチプラットフォーム対応は着々と進んでいる。構想15年、制作9年の大作ゲーム『RPGタイム!~ライトの伝説~』の発売がXbox・PC・iOS・Androidで予定されているのは好例だ。

他にもTGSインディーコーナーでは、今年も数々の注目インディーゲームが発表された。その多くはPCゲームだが、大手企業からマルチタイトルで発売される例も増加中だ。バンダイナムコエンターテインメントが『リトルナイトメア2』をPS5・PS4・Xbox Series X/S・Xbox One・Switch・Steamでリリースしたのは好例。マーベラスからSwitch・PS4・Steamで発売された『天穂のサクナヒメ』がミリオンセラーとなったのも記憶に新しい。日本ゲーム大賞2021の優秀賞授与によって、インディーゲームの存在意義は業界内に明確に示されたと言えるだろう。

家庭用ゲーム機の存在意義はグラフィックのリアルタイム処理をはじめ、ゲーム体験の向上に特化したアーキテクチャだ。もっともPCの性能向上に伴い、この優位性はどんどん薄れていった。また、ゲームエンジンの性能向上により、ハード間の差異も埋まりつつある。その最先端に位置するのがクラウドゲームだ。今やゲームビジネスがそうであるように、TGSの家庭用ゲーム中心主義も過去のものになりつつある。ユーザーが自分の好きな環境で、好きなようにゲームを楽しむための、最新ショウケース。TGSはそうした場に変わりつつあるのだ。


ハイブリッド開催となったTGSの現状と未来

ゲームと同じく、TGS自体も変化を続けている。コロナ禍における2年目の開催となった本年度では、バーチャル会場「TOKYO GAME SHOW VR 2021」が設置され、話題を集めた。PCVR、Oculus Quest、Windows、MACで入れる「GAME FLOAT」と、PCブラウザ、スマホブラウザ、Oculus Questブラウザで入れる「GAME FLOAT SKY」の2種類で、多くの出展企業による趣向を凝らした展示が行われた。これだけの規模のゲームイベントがVR会場でも実施された例は珍しく、今後のイベント展示のあり方にも重要な示唆を与えたと言えるだろう。

CESAは毎年、来場者調査報告書を公式サイトで掲載している。最後のオフライン開催となった2019年度は、一般来場者の75.1%が東京・千葉・埼玉・神奈川の居住者で占められた。TGSという名前通り、首都圏在住者のためのゲームイベントとなっていたのだ。これがオンライン化された2020年度は一都三県の参加者割合が53.3%にまで低下した。ハイブリッド開催となった今年度は、オフライン会場でインフルエンサー向けの施策が増えたこともあり、より多彩なチャネルでTGSを楽しんだ視聴者が増加したのではないだろうか。


体験版が増加したのも今年の特徴だ。TGS最大の魅力に「発売前の最新ゲームがいち早く試遊できる」点があるが、会場の混雑が激しく、2019年度の一般来場者のうち40%が1本も試遊していない状況だった。これに対して平均滞在時間は5時間で、47.9%が「まあ満足」と回答していた。つまり多くの来場者がTGSに対してゲームを試遊する以外の楽しみを得ていたことになる。

これに対して今年度は、会場内で楽しめる要素が削られたかわりに、体験版の配信が充実した。これは「最新ゲームを試遊できる」というゲームショウ本来の魅力に原点回帰したとも言える。


TGSにはオンライン・オフライン双方の魅力があり、コロナ禍が終息したとしても、今後はハイブリッド開催があたりまえになっていくだろう。これにより出展社の負担は増えることになるが、首都圏在住者以外の顧客層にリーチできる魅力は大きいと思われる。ゲームプラットフォームの垣根が崩れていくように、ゲームイベント自体もオンラインとオフライン、そして国内外の垣根が崩れていく。その中で出展社がどのようなスタンスをとり、ユーザーとコミュニケーションをとっていくか、ますます問われる時代になっていきそうだ。

TOKYO GAME SHOW 2021
https://tgs.nikkeibp.co.jp/tgs/2021/
CESA:東京ゲームショウ来場者調査報告書
https://www.cesa.or.jp/survey/stock/tgs.html
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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