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『The Magnificent Trufflepigs』ケーブルTV会社が問う、新たな文学表現としてのゲームの可能性【インディーゲームレビュー 第99回】

インディーゲームをプレイする客層はゲームマニアというのが定説だ。ではカジュアル層に対してドラマを楽しんでもらうようにゲームを提供し、収益を上げることは可能だろうか。『The Magnificent Trufflepigs』はこの興味深い命題に挑んでいる。


米ケーブルテレビ大手がゲームに参入

『Beyond Blue』のレビューで論じたとおり、ゲームという表現手段はさまざまな可能性を秘めているが、残念ながら一部の顧客しか取り込めていないのが実情だ。こうした中、ドラマ『ウォーキング・デッド』シリーズの放送などで知られる、米ケーブルテレビ大手のAMC Networksがインディーゲームのパブリッシング事業に乗り出した。ゲーム部門のAMC Gamesを設立し、実験作『Airplane Mode』を経て、2021年6月に最新作『The Magnificent Trufflepigs』をリリースしている。

『Airplane Mode』はエコノミークラスの乗客となって、6時間もの国際線の旅をリアルタイムで楽しむという、インディーゲームならではのユニークな内容だった。その尖りっぷりは高く評価され、インディーゲームの祭典「IGF 2021」のNUOVO AWARD(一風変わった、挑戦的なゲーム部門)にノミネートされたほどだ。


それに比べると、本作『The Magnificent Trufflepigs』はまだ伝統的なゲームの範疇に収まっている。ウォーキングアドベンチャーという既存ジャンルの枠内に留まっているからだ。

本作の主人公は人畜無害な青年アダムで、ゲームの目的は金属探知機を持って農場を歩き回り、イヤリングを発見することだ。依頼者は幼なじみのベスで、ゲームの舞台は2人が育った故郷の村。農場は電力会社に売却が決まっており、一週間以内に探し出す必要がある。

ベスは子ども時代に金属探知機を使った遊びで、地中に埋まったイヤリングを発見し、ちょっとした有名人になった。しかし、成人した今になってもイヤリングのもう片方が見つけられずにいることが、ずっと心残りになっていたのだ。


ゲームの内容はシンプルで、プレイヤーは金属探知機をかざして農場を歩き回るだけだ。探知機の信号が最大になると、何かが埋まっている印。シャベルとスコップを手に地面を掘ると、そこから何かが出土する。スマートフォンで写真を撮ってベスに送信すると、玩具のトランシーバーからベスが話しかけ、コメントをくれる。これを繰り返してストーリーを進めていくという仕組みだ。

ランチと夕方には長めの会話シーンがあり、時には選択肢も表示され、背景が徐々に明らかになっていく。

会話を通して女性の心を癒やしていく

ここからわかるように、本作はフィールドを歩き回り、その場所に応じてシナリオが徐々に明らかになっていく、ウォーキングアドベンチャーの一種だ。

本作を開発したThunkdは、同ジャンルの草分け的なタイトルの一つ、『Everybody’s Gone to the Rapture』でリードデザイナーを務めたAndrew Crawshaw氏が設立したスタジオだ。『Everybody’s Gone to the Rapture』では、無人となったイギリスの田舎を歩き回り、事件の謎を解き明かしていく内容だった。美しいグラフィックとサウンドや、挑戦的な内容が高く評価され、metacriticでも76点を記録している。


本作もまた、同じくイギリスの田舎を舞台とする一方で、新たに金属探知機というギミックを導入。ストーリーを社会的に成功した、孤独な女性の内面に絞り込むことで、よりドラマ性を高めようとしている。

Thunkdの公式サイトには「evening-sized」なゲームを作るというミッションが掲げられている。夕食後の映画鑑賞のように、2時間程度で終わる、ドラマ性の高いゲーム作りをめざすというわけだ。

本作でキーマンとなるのが依頼者のベスだ。成人したベスは家業のアウトドアグッズメーカーを継いで近代的な企業に生まれ変わらせた。真っ赤なスポーツカーを乗り回し、結婚も目前に控えている。人生の表街道をひた走っているイメージだ。

にもかかわらず、なぜ子ども時代の思い出にそこまで固執するのか。トランシーバー越しに交わされる会話から、徐々に彼女が抱える闇や葛藤が明らかになっていく。

多くのレビューに見られるように、本作のゲーム体験は森林監視員として山中を駆け回る『Firewatch』に似ている。しかし、『Firewatch』で救済されるのは主人公だった。これに対して本作で救済されるのはトランシーバーの向こう側にいるベスだ。プレイヤーはイギリスの農村風景をバックに、ベスの告白を聞きながら、精神科のセラピストになったような体験が得られるだろう。







新たな文学表現としての可能性

ゲーム画面には農場と周囲の風景が表示されるだけで、アダムとベスは最後まで登場しない。いわば本作は欧米版のビジュアルノベルだといえる。多少の分岐はあってもゲームオーバーは存在せず、大半の人がクリアできるだろう。

そのことからもわかるように、本作のターゲットはゲームよりも映画やドラマなどを好む20~30代の女性だ。まさにケーブルテレビ会社のゲーム部門ならではの内容になっている。

では、肝心のストーリーはどうか。ベスとアダムは、あらゆる意味で好対照だ。社会的に成功したベスと、パッとしないアダム。故郷に残ったベスと、都会に出たアダム。ゲームを通して変わっていくベスと、変わらないアダム。両者の違いが興味深く、淡々とした内容ながら楽しめた。もっとも、対象ユーザーを選ぶゲームであることは確かだ。アドレナリンを沸騰させたいなら、本作を選ぶべきではないだろう。

日本では人気のノベルゲームも、アメリカではニッチジャンルに留まっている。識字率の問題などから、文章を読むことにストレスを感じるユーザーが多いことが理由の一つだとされている。

こうした中でリリースされた本作は、アメリカ人ならではのノベルゲームであり、新たな文学表現としての可能性を秘めている。本ジャンルから今後、映画『スタンド・バイ・ミー』のような名作が登場することを期待したい。

metacriticスコア:なし
主な受賞歴:なし

© 2021 AMC Network Entertainment LLC. All rights reserved.

Steam『The Magnificent Trufflepigs』販売サイト
https://store.steampowered.com/app/1529550/The_Magnificent_Trufflepigs/
販売元 AMC Games 公式サイト
https://games.amc.com/
開発元 Thunkd 公式サイト
http://www.thunkd.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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