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『Mini Motorways』カジュアルゲームのちょうどいい“難しさ”とは【インディーゲームレビュー 第117回】


カジュアルゲーマーの意外なゲーム嗜好


ゲーム研究者のイェスパー・ユール(Jesper Juul)は2009年に出版された著書『A Casual Revolution(カジュアル革命)』で、家庭用体感ゲーム(Wii、『ギターヒーロー』など)とダウンロード配信型無料ゲーム(ブラウザゲームなど)の興隆により、ゲームをカジュアルにプレイする層が拡大したと述べた。ゲーム機の世代交替の過程で前者の市場は消滅したが、後者はスマホゲームの登場で、ますます拡大している。

もっとも、本書のポイントはゲーム開発者に対して、カジュアルゲーマーがゲームに求めている要素をインタビュー調査などであきらかにした点にある。

一般的にゲーム開発者はカジュアルゲーマーがシンプルで「難易度が低い」ゲームを求めていると考えがちだ。しかし、実際は「難易度が低すぎるゲームは退屈でつまらない」と、少なくないカジュアルゲーマーが考えているというのだ。

筆者もふとした拍子に、カジュアルゲーマーが驚くほどゲームに熱中している様を知り、驚かされることがある。実際に妻が『フリーセル』を何百時間も遊び込んだり、『キャンディクラッシュサーガ』を無課金で100レベル以上に到達したりしているのは好例だ。このように特定のゲームにおいては、とてもかなわないと思わされることが多い。

こうした事例はゲームの内容次第で、まだまだ市場を拡大させられる可能性があることを示している。

必ず破綻する世界で、いかにバランスをとり続けられるか



今回レビューする『Mini Motorways』も同様に、カジュアルゲーマーにリーチするインディーゲームだと言えるだろう。

都市育成シミュレーションゲームパズルゲームを組み合わせた内容で、1回のプレイが15分程度で終了する。マウスで道路をひくだけのシンプルな操作や、ミニマルなグラフィックやサウンドも大衆向けだ。その上でハイスコアを狙って遊び込む奥深さも兼ね備えている。Metacriticで87点を記録するなど、高評価を得ているのも納得の内容だ。

ゲームの舞台は急速に人口が増加している地域社会だ。ゲームを始めると、画面上に住宅エリアと施設エリアがランダムに出現していくので、同じ色同士を道路でつないでいく。これにより住民が自動車で移動を開始し、都市が発展していく。

もっとも、序盤は整然としていた道路網も、ゲームが進むにつれて、次第にスパゲッティのように絡み合っていく。これに伴い、自然に交通渋滞が発生していくのだ。移動に時間がかかりすぎて、どこかの施設で不満が爆発するとゲームオーバーで、それまでに移動した車の総数がスコアとなる。

▲『Mini Metro』

本作を開発したのはニュージーランドのインディーゲームスタジオ、Dinosaur Polo Clubだ。2015年に地下鉄をテーマとした『Mini Metro』をリリースし、いちやく注目を集める存在になった。『Mini Motorways』と同じく、人口が増え続ける地域社会で地下鉄網を拡張していき、何名の乗客を運べるかを競う。

このように両タイトルとも、「環境の変化に伴い、近い将来に破綻が運命づけられた世界にプレイヤーが介入することで、いかにバランスを保ち続けられるか」をテーマとしている。SDGsにも通じるテーマ設定だといえるだろう。

ラウンドアバウトがもたらすゲーム体験の変化



そのうえで『Mini Motorways』では、『Mini Metro』よりもプレイヤーのスキルが活かせるゲームになっているように感じられる。鍵を握るのがラウンドアバウト(※)だ。現実世界と同じく、本作でも交差点は渋滞の発生ポイントとなる。この時、ラウンドアバウトを適切に配置することで、自動車の速度を低下させることなく、方向転換させられるのだ。『Mini Metro』におけるターミナル駅と機能は同じだが、向きの概念があるぶん、より使いどころが試される。

▲ラウンドアバウトの例

とはいえ、自動車の交通量が閾値を超えると、ラウンドアバウトは一転して渋滞の発生要因になる。また、ラウンドアバウトの設置にはそれなりのスペースが求められる。補助手段として信号や高速道路の設置もできるが、増え続ける自動車をさばくには限界がある。ゲームのコツは何度も一時停止を繰り返して、道路の再配置を続けていくことだが(再配置にコストはかからない)、遅かれ早かれジェンガのように、どこかで破綻することが運命づけられているのだ。そのうえで、どこまで運命にあらがえるか競うというのが、本作のテーマだ。

このように本作は「スコアが高ければ自分の腕のおかげ、スコアが低ければ運が悪かったから」という、ゲームの結果に対してプレイヤーに納得のいく答えを提供することに成功している。そのうえで1プレイを15分程度に抑えることで、何度も繰り返し遊べる構造を用意しているのだ(本作には全世界のプレイヤーとスコアを競える機能もあり、プレイヤーの挑戦心をかき立ててくれる)。カジュアルゲームの見本のようなゲームだろう。

※交差点の一種で、中心の島の周囲を一方向に周回する方式のうち、環状の道路に一時停止位置や信号機がないなどの特徴をもったもの(Wikipediaより)

Metacriticスコア:87
主な受賞歴:2020 NZ GAME AWARDS GRAND PRIZE WINNER、2020 INDIECADE CHOICE AWARD WINNER、2020 GDCA BEST MOBILEノミネート

Steam『Mini Motorways』配信ページ
https://store.steampowered.com/app/1127500/Mini_Motorways/
Steam『Mini Metro』配信ページ
https://store.steampowered.com/app/287980/Mini_Metro/
Dinosaur Polo Club公式サイト
https://dinopoloclub.com/
A Casual Revolution | The MIT Press
https://mitpress.mit.edu/books/casual-revolution
Turning road noise into music in Mini Motorways
https://www.gamedeveloper.com/design/turning-road-noise-into-music-mini-motorways
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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