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『Besiege』動画共有サイト時代におけるゲーム開発のあり方【インディーゲームレビュー 第73回】


広さと深さでゲームをマッピングする

前回『DIMENSION REIGN』のレビューで、「本作は『間口が狭く奥が深い』ゲームとして一定の成果を得ており、アップデートの方向性が課題だ」と論じた。
このように間口の狭さ・広さと奥の浅さ・深さを二軸で捉えると、あらゆるゲームは下記のようにマッピングできる。

  1. 間口が狭く奥が浅い(プロトタイプ)
  2. 間口が狭く奥が深い(マニア向けのゲーム)
  3. 間口が広く奥が浅い(モグラ叩きなどのエレメカ)
  4. 間口が広く奥が深い(多くのメガヒットゲーム)

もっとも、広さも狭さも深さも浅さも相対的なものだ。そして、作り手視点で見れば、かけたコストに対して見合うリターンが狙えるだけの広さ・深さがあれば、それで十分となる。それよりも重要なことは、自分たちの顧客をきちんと定義し、それに適した内容のゲームを開発して、確実に購入してもらうことだ。これが達成できれば、事業が回っていくからだ。

その意味で今回レビューする『Besiege』は優等生だといえるだろう。さまざまなパーツを組み合わせて、自分だけのトンデモ攻城兵器を創り出し、数々のミッションをこなしていく内容で、2015年にSteamでアーリーアクセスを開始。5年かけて内容を磨き上げ、2020年2月に正式発売された。ユーザーの評価も上々で、日本語にも対応している。

ゲームの進め方

パーツを組み合わせて攻城兵器を作る

各ステージで定められた目標を達成する

無事達成できればクリアだ

作り手によって意図された「狭さと深さ」

本作の特徴は徹頭徹尾「狭く深い」ゲーム体験を追求した点にある。パーツを組み合わせて攻城兵器を作り、敵陣を攻撃するだけなので、内容自体はシンプルだ。パーツの種類も多く、組み合わせ方次第でさまざまな兵器が作れる。全54ステージあるシングルモードは遊びごたえ十分で、MODの追加やマルチプレイも可能だ。エディットモードで自分だけのステージも作れる。

こう書くと「間口が広く奥が深い」ように思えるが、実際はかなり間口が狭い。そして、そのことを制作陣も了承済みのように思える。最大のポイントはパーツの組み合わせ方だ。チュートリアルを兼ねた説明書きが用意されているが、これだけでは数が少なすぎる。最初からすべてのパーツを使って、自分の思い通りの攻城兵器を作れるのは良いが、たいていの人は何をしたら良いかわからないだろう。

本来こうしたゲームでは、チュートリアルを前提としたレベルデザインを行って、徐々にプレイヤーを導いていく手法をとる。ステージを徐々に複雑にしながら、使用できるパーツがアンロックされていく……などだ。そのうえでアシスタント的なキャラクターを配置し、ストーリー要素を絡ませながら、手取り足取りプレイヤーを導いていく……コンシューマゲームであれば、一般的なやり方だろう。

もっとも、こうしたチュートリアルの制作は、思いのほか工数がかかる。しかも、コアユーザーにとっては、余計なお節介になりやすい。Steamのアーリーアクセスに飛びつくようなユーザーであれば、なおさらだ。いち早くゲームを攻略して、動画実況サイトで注目を集めたい……こうしたユーザーにとっては、こうした丁寧すぎるチュートリアルは、むしろ害悪でしかないだろう。

ゲーム内には最低限のマニュアルしか存在しない

https://www.youtube.com/watch?v=vYtYYXfWhWc&t=23s
YouTube上にアップされた『Besiege』の作例の一つで、列車が空を飛ぶ内容。パーツの特性を理解して組み合わせれば、ここまでできる

公式Discord日本コミュニティによるwiki。「公式」を冠しているものの、内容自体はユーザーによる知見がまとめられた「非公式」なもので、その旨の断りもある。同コミュニティはDiscordの公式チャンネル内で、日本語チャンネルも運営している

ユーザーコミュニティとの連携でゲームを育てる

このように今やインディーゲーム開発はゲーム単体にとどまらず、その周辺に存在する何重ものプレイヤーの存在を抜きにしては、成り立たなくなりつつある。下手に間口を広げるくらいなら、ゲームの深みを増す方向にコストをかけるべき。そのうえで動画共有サイトやSNSなどを活用し、コミュニティを成長させるべきというわけだ。こうした目的から、コミュニティマネージャーを早くから雇用するスタジオも増えつつある。

実際、Discordの公式チャンネルには、全世界からさまざまなユーザーが集まり、自慢の作例動画が大量に投稿されている。英語以外に日本語と中国語のチャンネルもあり、こちらもなかなかの充実ぶりだ。こうした公式チャネルの外側には、YouTubeの実況動画やwikiをはじめとして、ユーザーの勝手コンテンツがあふれている。ゲーム自体の底が浅ければ、こうした発展もあり得ないわけで、ゲーム自体の完成度の高さを良く示している。

ただし、これらは言い方を変えれば、「攻略本前提のゲーム作り」を是とするだけでなく、攻略本制作のコストをユーザーに負担させている、ともとれる。個人的には、あまり好みではないやり方だ。もっとも、こうした指摘も作り手側からすれば「余計なお節介」だろう。冒頭で論じたとおり、顧客を定義して適切なゲームを作り、きちんと収益を上げることが、企業活動では重要だからだ。

まとめると本作は動画共有サイト時代における、インディーゲーム開発者にとっての生存戦略を的確に分析し、それを高いレベルで実現した秀逸なタイトルだと言える。ただし、このやり方も「今の勝ち筋」にすぎず、市場が飽和する一方で、インターネット環境は常に進化を続けている。今後どのような勝ち筋が登場し、それにあったゲームが登場してくるか、注目していきたい。

Copyright© Spiderling Studios 2017

Steam『Besiege』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/346010/Besiege/
『Besiege』公式サイト
http://www.besiege.spiderlinggames.co.uk/
『Besiege』Wiki (公式Discord日本コミュニティまとめ)
https://w.atwiki.jp/besiegejpwiki/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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