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『Old School Musical』コントローラーとUIの関係性が生み出すリズムゲームの可能性【インディーゲームレビュー 第43回】

ゲームグラフィックはさまざまなビジュアルUIの融合体だ。そして、そのデザインはコントローラーと関係性がある。レトロゲームが題材のリズムゲーム『Old School Musical』も同様で、十字ボタン型コントローラーでの操作に最適化された、基本に忠実なゲームデザインがみてとれる。


UIとコントローラーの関係性

『Brothers: A Tale of Two Sons』のレビューで述べたように、ゲームにはプレイヤーの仮想身体となる主人公(=自機、プレイヤーキャラクターなど)が存在し、その形状はコントローラーと関係性がある。一方、ゲームで操作できるものは主人公だけに限らない。メニュー・ボタン・アイコンなどがその代表例だ。これらは一般にビジュアルUI、または単にUIと呼ばれ、ゲームはさまざまなUIが組み合わさって構成されている。

ここでポイントとなるのが、UIのデザインもコントローラーに影響を受ける点だ。『ドラゴンクエスト』でメニュー項目が縦横に整然と並んでいるのも、ファミコンの十字ボタン型コントローラーで操作しやすくするためだ。これがPCゲームなら、マウスでクリックするため、メニューがアイコンとなり、配置の自由度が増す。スマホゲームでも同様だが、アイコンを指で操作するため、ある程度の大きさが必要になるといった具合だ。

このようにゲームをUIという視点で捉えた時、リズムゲームは非常にユニークな立ち位置にある。ゲーム画面が操作のタイミングを示すノーツ(アイコン)、すなわちUIで埋め尽くされるからだ。この時、UIのデザインがコントローラーの影響を強く受けることは言うまでもない。コントローラーで操作する家庭用ゲームと、画面をタップするスマホゲームと、両足でプレイするアーケードゲームでは、求められるUIは異なるのだ。

今回レビューする『Old School Musical(OSM)』もまた、この点に非常に自覚的だ。プレイヤーはバグだらけになったレトロゲームの世界で、主人公のティブとロブを操作して、さまざまなミッションに挑戦していく。『ロックマン』『メタルギア』『アウトラン』『ゼルダの伝説』など、数々の名作レトロゲームを模したステージが登場し、ジョーク満載の無駄に壮大なストーリーが展開される。


定石を否定する画面レイアウトが成功した理由

とはいえ、プレイヤーが行うのは元ネタのゲームではなく、リズムゲームだ。画面の上下左右から流れてくるノーツや、画面下から上方に流れていくバーを見ながら、タイミングよく対応するキー(またはコントローラーのボタン)を押していく。多くのリズムゲームと同じく、キーやタイミングをミスすると体力が減っていき、ゼロになるとゲームオーバー。逆に連続して成功させると体力が回復していく仕組みだ。

もっとも、ノートが2人の冒険の上にオーバーラップして流れていくため、慣れないうちは画面が非常に見にくい。各ステージの再現度が優れていることもあり、時には2人の冒険に気を取られてしまったりもする。ゲームデザインの定石からすれば、画面を左右に分割して、片方を元ネタのゲーム画面、もう片方をリズムゲームにするところだ。その方が、画面がぐっと見やすくなるからだ。

しかし本作では、あえて定石の逆が選択されている。それでもゲームが問題なく楽しめるのは、アイコンの流れる方向とキー配置やコントローラーのボタン配置が対応しており、感覚的に入力できる点が大きい。キーボードで遊ぶならWASDまたはカーソルキー、コントローラーならXbox 360やXbox OneコントローラーにあるABXYボタンと、RB&LBボタンといった具合だ。このため、初見でも操作がわかりやすい。

また、多くのリズムゲームと同じく、楽曲のメロディラインとアイコンの出現頻度がうまく同期しているため、慣れてくると自然に「リズムに乗れる」ようになる。こうなると2人の冒険を見ながらプレイする余裕も生まれてくる。そうするうちに、細部までこだわってグラフィックが構成されていることがわかってくる。ゲームが上達するほどに、新たな発見が生まれてくるというわけだ。

バックに流れるのがファミコンサウンドを模したチップチューン・ミュージックである点も、本作の遊びやすさに関与している。メロディ・オブリガード・ベースのシンプルな構成の楽曲が多く、リズムが取りやすいのだ。アイコンが流れるタイミングが、Aメロ・Bメロ・サビなど楽曲の構成ごとにまとまっており、タイミングの予測がつけやすい点も、遊びやすさに関係している。

『R-TYPE』風ステージ

『ロックマン』風ステージ

『アウトラン』風ステージ

ゲームオーバーは『PPAP』風という凝りようだ

新時代に入ったリズムゲームの可能性

リズムゲームにはアーケードゲーム『beatmania』にあわせて、コナミから1998年7月31日に出願された有名な特許がある。特許第2922509号、通称「ビーマニ特許」とよばれるもので、一時はコナミ・ジャレコ・ナムコが互いに訴訟合戦を繰り広げる泥沼状態に陥った。そのため、当時リリースされたリズムゲームはみな、本特許に抵触しないように細心の注意を払って制作されていた。

一例を挙げれば、「メロディにあわせてボタンを押すと効果音が変化する(キー音の付与)」「ノーツが上から下に向けて流れる」などは、本特許に抵触する恐れがあった。そのため「効果音ではなく、デバイス自体の音が鳴る」「ノートが右から左、または奥から手前に流れる」などの工夫がなされた。また、近年ではタップする位置に直接ノーツが現れる方式なども登場している。

しかし、本特許も20年の存続期間を経て、2018年7月31日に失効した。そのため、今後はより多彩なリズムゲームが、自由な発想で登場することが期待される。その際にはコントローラーとノーツの関係性について、改めて考えてみると良いのではないだろうか。アナログスティック系コントローラーやマウスなど、世の中にはさまざまなコントローラーが存在する。そこから生まれるさまざまなアイデアに期待したい。

日本語ローカライズのクオリティも非常に高く、国産ゲームと見間違うほどだ

■関連リンク
Steam『Old School Musical』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/398030/Old_School_Musical/
開発元「La Moutarde」公式サイト
https://www.lamoutarde.fr/en/
『Old School Musical』公式サイト
https://www.lamoutarde.io/games/old-school-musical/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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