イギリス人によって作られた、（おそらく）アメリカの刑務所制度をモチーフにした経営シミュレーションゲームが『Prison Architect』だ。2Dで描かれたキャラクターがちょこまかと歩き回る、一見可愛らしいグラフィックの陰で、イギリス人らしいブラックユーモアが光っている。

世界でただ一つだけの刑務所をデザインできる、おそらくただ一つだけのシミュレーションゲーム

イギリス人が作ったアメリカが舞台の刑務所ゲーム

世界で最も人気の高いゲームの一つである『グランド・セフト・オート』シリーズは、アメリカの架空都市を舞台にしたクライム・アドベンチャーで、開発は英スコットランドで行われている（開発スタジオはロックスター・ノース）。つまり、本作は「欧州人によって劇画化された犯罪大国アメリカ」という側面がある。元ユーゴスラビア軍人の不法移民を主人公に据えた『IV』は、シリーズの中でも特にその印象が強く、当時の世相を感じさせる快（怪）作になっている。

今回レビューする『Prison Architect』もまた、イギリスのインディーゲームスタジオ、Introversion Softwareによって開発された、（おそらく）アメリカの民間刑務所をモチーフとした経営シミュレーションゲームだ。プレイヤーは刑務所の施設を建て、スタッフを雇用し、売上を稼ぎながら、理想の刑務所をデザインしていく。当のアメリカで民間刑務所の段階的な廃止が進む一方で、本作が世界的なヒットを収めているという事実が、一種のブラックユーモアのようにも感じられる。

小型独房が並ぶカプセルホテルのような刑務所（上）を作るのも、緑に囲まれた病院のような刑務所（下）を作るのも自由自在だ

日本でも進む民間刑務所の活用

通常、刑務所のような社会資本は公共施設として運営されるべきだというのが、一般的な感覚だろう。しかし、民間刑務所は1984年にアメリカで始まり、最盛期の2008年には10万人の受刑者がいたという。民間刑務所はイギリスそして日本でも導入され、全国で4施設が運営中（日本では半官半民の民活刑務所）。特に2007年に全国で初めて設立された山口県の美祢社会復帰促進センターは、初犯者で就業経験がある受刑者を対象としていることもあり、ビジネスホテル級の設備が完備されていることで知られる。

『Prison Architect』も同様で、さまざまな部屋を作り、アイテムを配置できる。留置場・独房・隔離房といったおなじみの施設から、食堂・シャワー室・共有ルーム・運動場といった生活施設。受付・オフィス・医療室・洗濯室といったバックヤードも重要だ。刑務所の拡大にあわせて、面会室や仮釈放室、さらには囚人向けの作業室や再教育用の教室も必要になる。テレビ、ラジオ、自動販売機、ベンチプレス、電話ボックス、ビリヤード台、本棚といった娯楽設備もそろっている。

女子刑務所では幼児と共に入れる、家族向け独房も作れる。託児施設を併設することが条件だ。男子刑務所では、こうした施設は選択できない

チュートリアルで行われる死刑執行イベント。ただし開発元のイギリスでは1998年に完全廃止されている。アメリカでも17州で死刑が廃止された

めざせ！刑務所ビジネスで億万長者

なかでも驚かされたのは女子刑務所で、乳児と共に入れる家族用の独房が作れる。しかも、託児施設まで併設する必要がある徹底ぶりだ（男子刑務所にはこうした施設はない）。また、すべての刑務所でチャペルも作ることができる。宗教的な配慮から、イスラム教徒向けと思われる祈祷用マットも存在する（残念ながら仏像は設置できない）。実際に英米の刑務所でこうした施設があるかは不明だが、「あってもおかしくない」という気にさせてくれる内容だ。

施設だけでなく、職員の種類も多彩だ。刑務所長から始まって、作業員、看守、医師、料理人、看守長、清掃人、警察犬訓練士、庭師、会計士、武装警備員、スナイパー、そして精神分析医に顧問弁護士まで、ゲームを進めるにつれて、さまざまな役職がアンロックされていく。顧問弁護士を雇用すると法律を無視した小型独房や、死刑囚の扱いも可能になる。会計士を雇用すれば、銀行でローンを組んだり、タックスヘイブンを活用したりもできる。やりたい放題というわけだ。

経営シムとしての難易度も比較的緩やかで、序盤から中盤は助成金を獲得し、標準的な数の囚人を受け入れるだけで、それなりの利潤が上がっていく。そのため病院のように快適な刑務所にすることも、居住制限ギリギリの刑務所にすることも自由だ。一般に施設の快適度が下がると囚人間のトラブルが増加し、脱獄や麻薬密売、暴動が発生することもある。これに対して刑務所側も囚人の中から密告者を募れるなど、刑務所をテーマにさまざまなアイディアが投入されている。

助成金の申請が間接的なミッションの役割を果たしている。タスクリストが常に画面左に表示され、迷うことなく進めていける

助成金の申請と共にプレイヤーの動機付けを担う、役所仕事の一覧。これをアンロックしていくことが序盤から中盤にかけての目標になる

現実は常にゲームの先を行く

本作のようなシミュレーションゲームは、現実の事象を抽象化したモデルをベースにデザインされる。もっとも、あくまでエンタテインメント目的で制作されるため、事実との相違点も多い。本作でも素手で壁に穴を開ける囚人が登場したり、プレイヤーが囚人となって、自分がデザインした刑務所から脱獄できるモードも存在したりする。そのため本作は「刑務所をモチーフにしたテーマパーク経営シミュレーション」だとも言い換えられるだろう。

しかし、だからこそ抽象化や誇張の度合いから、我々はゲームデザイナーの価値観に触れることができる。それが冒頭で述べた民間刑務所との関係性だ。アメリカで2016年8月に民活刑務所の段階的な廃止が決定したのは、公共刑務所よりもコスト高になったためだ。経営改善のための施策が刑務所内での混乱を招き、中には「貧困ビジネス」に近い状態も見られたという。幸い、本作ではそこまで悪辣な経営はできない。現実がゲームの先を行ってしまった、ユニークな事例になったといえる。

Copyright © 2017 Introversion Software Ltd.

＜参考・参照元＞ 
米政府、民間刑務所の利用打ち切りへ 矯正水準やコスト削減に疑問 写真1枚 国際ニュース：AFPBB News
米多国籍企業をたっぷり潤す現代の奴隷制度 240万人の受刑者をもっと増やせ、そして低賃金でこき使わせろ！ | JBpress(日本ビジネスプレス)
美祢社会復帰促進センター

◆関連リンク
Introvision Software
https://www.introversion.co.uk/introversion/
Prison Architect 日本語攻略Wiki
http://ja.prison-architect.wikia.com/wiki/Prison_Architect_Wiki
Steam『Prison Architect』のページ
http://store.steampowered.com/app/233450/Prison_Architect/?l=japanese