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『OMORI』に見るJRPGの再評価とインディーゲームならではの死と再生の物語【インディーゲームレビュー 第118回】

米ロサンゼルス在住のイラストレーター、アーティストによるJRPG『OMORI』。「RPGツクールMV」によって作られた死と再生の物語は、海外のみならず日本でも高い評価を受け、ゲームによる物語表現の可能性をさらに推し進める一作となった。

※本記事には『OMORI』のストーリーに関するネタバレが含まれます。


『MOTHER』シリーズの薫陶を受けたアメリカ人によるJRPG


JRPGほど時代によって評価が分かれたジャンルも珍しいだろう。『ドラゴンクエスト(ドラクエ)』『ファイナルファンタジー(FF)』シリーズに代表される国産RPGの略称で、「アニメ調のキャラクター」「コマンドバトル」「一本道ストーリー」が特徴とされることが多い。2000年代以降、欧米のゲームがフォトリアルなグラフィックやリアルタイム性に舵を切る中で、国産RPGはイノベーションに欠けるジャンルとして、揶揄の対象となっていった。2010年代に入ると、その傾向は顕著となった。

風向きが変わったのは2010年代後半で、背景となったのがインディーゲームブームで2Dゲームが増加したことだろう。多くのインディーゲーム開発者がJRPGに影響を受けたとおぼしきタイトルをリリースし、それと共に再評価が進んだ。

決定打となったのが『Undertale』で、制作者のトビー・フォックスが『MOTHER』シリーズに影響を受けたと発言したことだ。2022年のGame Developers Choice Awards(GDCA)で『ドラクエ』シリーズで知られる堀井雄二氏が生涯功労賞に輝いたのも、こうした流れと無縁ではないと思われる。

今回レビューする『OMORI』も、制作者自らが『MOTHER』シリーズをはじめ、さまざまなJRPG、そして国産ゲームに影響を受けたと明かしているタイトルだ。米ロサンゼルスで活動するアジア系アメリカ人、OMOCATを中心としたチームで制作されたタイトルで、ゲーム中に留守番電話でしか登場しない母親をはじめ、さまざまな引用が見られる。実際、アートスタイルは日本マンガそのままで、国産タイトルだと誤解した人も多いのではないだろうか。



夢と現実の世界を行き来しながらダークな物語が展開する


もっとも、本作の魅力はJRPGをなぞるだけにとどまらず、ゲームならではのメタ表現を盛り込んだ、ユニークなものになっている。鬱病や自殺といったセンシティブなテーマにも意欲的に切り込んでおり、まさにインディーゲームらしいタイトルだろう。これがJRPGに特有な「プレイヤーが操作・介入する余地を残しつつ、決められたストーリーに沿って進んでいく物語体験」と相まって、プレイヤーに鮮烈な印象を与えているのだ。

主人公は無口でシャイな少年オモリだ。小さな白い部屋「ホワイトスペース」で引きこもっているオモリは、自ら扉を開けてカラフルな世界「ヘッドスペース」に進み、友人のオーブリー、ケル、ヒロ、バジルと出会う。その後、オモリたちは姉のマリから支援を受けつつ、行方不明になったバジルを探して、世界を旅して回ることになる。しかし、やがてこの世界は16歳の少年、サニーの夢の世界であったことがあきらかになり……というストーリー。

その後プレイヤーは、夢と現実の世界を行き来しながら、オモリとサニー、2人の主人公を操作しつつ、その背後に隠された謎をあきらかにしていく。その過程でプレイヤーはサニーが抱えるトラウマを共有し、悩み、答えを出していく必要性を突きつけられていく。

このように、本作は主人公サニーの死と再生の物語であり、その過程を丹念に描くことで、主人公とプレイヤーの結びつきを強固なものにしようとしている。こうした仕掛けはJRPGのおはこであり、本作の大きな魅力になっている。

TRPGの『ダンジョンズ&ドラゴンズ』以来、欧米のRPGではプレイヤー自身が主人公となり、架空世界で冒険を疑似体験する点に重点が置かれていた。これに少年漫画的なキャラクターとストーリーを加味して日本流に翻案したのが『ドラクエ』だ。本作では、それがさらにひっくり返され、アメリカ流に翻案されている。いわば『MOTHER』シリーズの本歌取りだともいえる。個人的にはスティーブン・キングのモダンホラー小説の世界をJRPGで表現したタイトルのようにも感じられた(※)。



RPGツクールMVが可能にした異業種からの参入


本作のもう一つの特徴は、これが「RPGツクールMV」で開発されている点だ。「RPGツクール」シリーズはまさにトップビュー+コマンドバトルという、初期の『ドラクエ』『FF』ライクなRPGを作るのに向いたゲームエンジンで、日本だけでなく世界中で愛好家が存在する。ここからバトル要素を抜いた『ゆめにっき』や、コロンバイン高校銃乱射事件がテーマの『スーパーコロンバイン大虐殺RPG!』、シリア難民の作者による自伝的作品『Path Out』など、数々の著名ゲームが登場している。

最大のポイントは「プログラミング不要で作れる」ことと、「JRPG縛り」という2点だ。開発の敷居を大きく下げつつ、あるジャンルに特化したエンジンという特徴が、多くの開発者の想像力を刺激し、多種多様な作品を生み出す礎になったのだ。本作の開発を主導したOMOCATはもともとゲームやアニメのファンアートから始まり、アパレルブランドを立ち上げたアーティスト。そこから転じてゲーム開発を手がけるに至った。まさに「RPGツクールMV」だからこそ可能になったタイトルだろう。

中でも興味深かったのは分岐の作り方だ。本作ではマルチシナリオ・マルチエンディングが採用されている。もっとも、それまでの文脈に即した行動をとっていくと、自動的にグッドエンディングに誘われていくように感じられる。また、ラストシーンではプレイヤーに選択を許さない、一本道とも言える展開が続くが、主人公の行動に対して、「コレジャナイ」感を覚えることはなかった。こと筆者にとっては、主人公とプレイヤーのシンクロ率が高い状態が続いたまま、エンディングを迎えられた。

これが本作ならではの作り込みによるものなのか、それともJRPGの特徴ゆえなのかについては、議論の余地がある。その一方で、「RPGツクールMV」というユニークな開発環境が、自分が得た物語体験の一翼を担ったことは確かだろう。開発中のシリーズ最新作「RPG Maker Unite」ではUnity対応となり、より演出力が強化されるという。かつての揶揄的な位置づけを越えて、今や完全に1つのジャンルとして定着したJRPGから、本作のような刺激的なタイトルが、ますます登場してくることに期待したい。


※ホワイトスペースとヘッドスペースの間にある「オトナリルーム」には、『スタンド・バイ・ミー』を彷彿とさせる映画がテレビに表示されている旨の描写があり、スティーブン・キングとの関連性を示している。

Metacriticスコア:87
主な受賞歴:The Dreamies Daringly Dramatic Winner、IGF 2021 Seumas McNally Grand Prize & Excellence in Visual Art Nominee

Steam『OMORI』配信ページ
https://store.steampowered.com/app/1150690/OMORI/
『OMORI』公式サイト
https://www.omori-game.com/
OMOCAT公式サイト
https://www.omocat.com/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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