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『アガルタ』ゲームエンジンから離れることで実現した世界との遊戯【インディーゲームレビュー 第33回】

商業ゲームエンジンを用いたインディーゲーム開発が花盛りだ。しかし、それでは実現できないアイデアもある。セルオートマトンを利用したサンドボックスアクション『アガルタ』もまた、フルスクラッチならではのユニークなゲームだった。


セルオートマトンを用いた変わり続ける世界

Unityに代表される商業ゲームエンジンは多くのインディーゲーム開発者に福音をもたらした。しかし、そこには功罪がある。商業ゲームエンジンが普及したことで、インディーゲームの持つ多様性が失われたようにも感じられるからだ。セルオートマトン系のゲームは好例で、今では『シムシティ』ライクな都市育成ゲームを除けば、ほとんど見かけることがない。商業ゲームエンジンで開発しにくいタイプのゲームだからだ。

このようにゲームの開発環境はゲーム自体のあり方をも規定する。こうした中、数少ない例外とも言えるのが、国産インディーゲームの『アガルタ』だ。ゲームの舞台はセルオートマトンを利用して実装された地底世界で、簡単な自然現象が再現されている。プレイヤーはガンナー・エスパー・魔法使いなど、多彩な冒険者を駆使して地底深く進み、理想郷アガルタをめざしていく。



限られたリソースで隠されたゴールを見つけ出す

ゲームの目的はシンプルで、キャラクターを操作してモンスターを攻撃しつつ、ステージごとに設置されたゴールをめざすことだ。全8種類のキャラクターには、それぞれ4種類のスキルが備わっており、敵を攻撃したり、地形を変化させたりできる。ゴールはしばしば土砂などに覆われているため、マップを見ながら周囲を吹き飛ばすなどして、ゴールを見つけ出す必要がある。無事ゴールに到達したらマップクリアだ。

もっとも、マップ上を移動するのも一筋縄ではいかない。地底湖の底を破壊して水を抜いたり、水を凍らせて地面にしたりと、自分で道を切り開いていく必要があるからだ。ちなみに主人公のパラメーターは命と酸素の二種類で、どちらかがゼロになるとミスになる。キーボードでもプレイできるが、アクション性が高いため、別途コントローラーを用いての操作がオススメだ。

また、スキルには使用制限があり、マップをクリアするまで補充されることはない。そのため限られたリソースを活用して、マップをどのように変化させるかが重要になる。アクションパズルとしての要素も併せ持っているのだ。同じマップでもキャラクターを変えれば攻略方法も異なってくるため、繰り返し遊び込める。思わぬ場所で隠しゴールが見つかることもあるなど、隅々まで探索する楽しさもある。



フルスクラッチならではの新しいゲーム体験

このように、本作の特徴は半自律的に変化し続ける世界にある。本作においてゴールに到達することは、実は副次的な目標にすぎない。真の目的はプレイヤーの操作によって、多彩な表情を見せる世界と戯れることにあるのだ。それは我々が自然と戯れることとよく似ている。違いがあるとすれば、その多様性だ。自然に比べて本作における世界の変化は、コンピューターの処理速度の範囲に留まっているからだ。

ただし、コンピューターの処理速度は年々向上していく。本作においてもドット絵をさらに精緻にすることが可能だろう。それでは実写なみのクオリティのゲーム世界が、セルオートマトンで実現したら、どのようなゲーム体験が得られるだろうか。そして、それが2Dではなく3Dになったとしたら……。そこには、まったく新しいゲーム体験が広がっているだろう。

そして、こうしたゲーム体験の広がりは、商業ゲームエンジンの上でゲームを作っているだけでは難しい。本作がDirect Xベースでフルスクラッチされているのも、そうした呪縛から逃れるためだ。そして、そこにはゲームの可能性が広がっている。新しいゲーム体験の創造のために、新たな技術分野に挑戦していく。フルスクラッチの重要性を改めて知らしめているタイトルだと言える。

©shindenken

■関連リンク
DLSite『AGARTHA』
http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ212551.html
神奈川電子技術研究所 公式サイト
http://www.shindenken.org/
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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