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『Mindustry』1+1が2にも3にも。アイデアの組み合わせで生まれるゲームデザイン【インディーゲームレビュー 第67回】

異質なもの同士を組み合わせるのは企画術の基本だ。工場建設シミュレーションとタワーディフェンスゲームを組み合わせた『Mindustry』もまた同様で、後発ゲームならではの「いいとこ取り」が感じられる。


古くから続く発想術の本質とは

「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」

企画術のイロハとして必ず引用されるこの一節が、名著『アイデアのつくり方』で記されたのは、1940年のことだ。著者のジェームス・W・ヤング氏は米最大の広告代理店・トンプソン社の常任最高顧問や、米広告代理業界の会長などを歴任した人物。「新しい組み合わせを作り出す才能は事物の関連性を見つけ出す才能に依存する」という一節と共に、今でも多くのビジネスマンに信奉されている。

本作『Mindustry』もまた、工場建設シミュレーションとタワーディフェンスゲームのカップリングという、既存の組み合わせによって生まれたタイトルの一つだ。プレイヤーの目的は敵の波状攻撃を退けつつ、惑星を開発して工場を拡張し、資源を集めていくこと。惑星ごとに決められた資源を収集すると脱出することができ、収集した資源で新しい技術を解放し、新たな惑星に向かう……というのが基本的な流れだ。


深さを捨ててカジュアルさを追求

本作ではマウスカーソルのかわりに戦闘機を操作してゲームを進めていく。戦闘機は若干の攻撃能力があるものの、敵の大軍にはとてもかなわない。何度破壊されても復活できるが、敵軍に基地のコアを破壊されるとゲームオーバーだ。そのため防御を固め、砲塔などを配置して、敵を迎え撃つことになる。そのためには資源と、採掘場から基地に運ぶパイプラインの設営が必要……と、典型的なインフレーションで進んでいく。

本作のユニークな点は、工場建設シミュレーションにありがちな「深さ」を捨てて、カジュアルな方向に舵を切っていることだ。クリアをめざすだけなら、1惑星あたり1時間程度で終了する。惑星ごとに取得可能な素材数の上限が設定されているからだ。工場に複雑さも少なく、適当にラインを引いてもなんとかなる緩さもある。工場拡張のパズル性ではなく、建設と防御の繰り返しが基本メカニクスになっているからだ。


ソースコードをネット上で公開

もっとも、異質なモノを組みあわせればすぐにヒット作が生まれるほど、世の中は甘くない。料理と同じで、肉に野菜に魚にと、手当たり次第に鍋に放り込むだけでは、スープがにごって味が落ちてしまう。きちんと灰汁をすくうことが大事なのだ。本作も同様で、「敵軍の経路探索ルーチンが単純すぎる」「敵の出現地点が乏しく、展開にバリエーションが欠ける」「技術のアンロックとゲームの展開のバランスが悪い」などだ。

ただし、それを補って余りある長所もある。オンライン対戦/協力プレイ、マップエディットなどだ。なにより驚かされるのは、ソースコードがGitHub上で公開されていること。ゲームジャム用のプラットフォームであるitch.io上では、ドネーションウェアとして公開もされている。Android版も無料公開中だ。それでいて日本語対応がなされているのだからすごい。


ゲーム開発の民主化がもたらすもの

本作が誕生したきっかけは、2017年4月にネット上で開催された72時間ゲームジャム「METAL MONSTROSITY JAM」だ。ここで圧倒的な高評価を得たことで、商業開発がスタートしたのだ(ネット上ではゲームジャムバージョンも公開されている)。ソースコードまで開示してしまうという姿勢は、制作陣の「今後もコミュニティと共に成長していきたい」という意思のあらわれだろう。

本連載ではこれまで何度も、ゲームジャム出身のタイトルを取り上げてきた。『Baba Is You』『Minit』『Forager』などだ。ここからわかることは、ゲーム開発の敷居が年々下がっているということだ。その一方でSTEM教育の世界的な広がりをはじめ、児童・生徒のプログラミング能力は年々上がっている。この両者が交錯したとき、どのようなゲームが誕生するか……。今から楽しみで仕方がないのだ。

■関連リンク
Steam『Mindustry』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1127400/Mindustry/
『Mindustry』公式サイト
https://mindustrygame.github.io/
itch.io『Mindustry』販売ページ
https://anuke.itch.io/mindustry
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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