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『Helltaker』解きたい人だけ解けばいいメタパズルゲーム【インディーゲームレビュー 第93回】

パズルゲームはパズルを解かなければクリアできない……この常識を打ち破ったゲームが『Helltaker』だ。ポーランドの悪魔伝承と日本のゲーム文化が融合した本作は、パズルゲームとしても、メタゲームとしても高いクオリティを示している。


パズルゲームのアキレス腱を力業で解決

『Timelie』『Superliminal』に続いて、今回レビューするゲーム『Helltaker』も思考型パズルゲームだ。本論に進む前に、あらためて筆者が考える良質な思考型パズルゲームの条件をあきらかにしておきたい。なお、以下の内容は本ジャンルだけでなく、パズル要素(プレイヤーが解決すべき謎や仕掛け)を有する、すべてのゲームに共通する内容であることを補足しておく。

  1. パズルを解くための情報や手掛かりがプレイヤーに明白に示されていること
  2. パズルを解かなくても進められるように、迂回路などが用意されていること
  3. 迂回路がない場合は、適切なヒントや解答がゲーム中で提示されること
  4. パズルを解くうえでプレイヤーの特別なスキルに依存しないこと

実際問題としてこの4点をクリアすることは、なかなか難しい。思考型パズルゲームを全否定している、とさえ言えるだろう。

もっとも、ルービックキューブや知恵の輪などのアナログパズルと違い、デジタルゲームではパズルの周囲にさまざまな情報や付加価値を盛り込める。これにより、パズルを解かなくてもゲームを楽しませることが可能だ。本作『Helltaker』もまた、そうした新世代の思考型パズルゲームだといえる。なにしろパズルを一切解かなくても、ゲームがクリアできてしまうのだ。いわば、メタゲームだと言えるだろう。


思考型パズルゲームとしても一級品

ゲームの目的はサングラスをかけたマッチョガイを操作し、制限ターン数までに障害物を移動させてルートを確保し、悪魔っ娘が待つゴールに到達することだ。プレイヤーが行える行動は上下左右の移動のみで、1マス先にスペースがあれば、ヤクザキックで障害物を移動させられる。ターン数をオーバーすると、即死亡だ。ただし、すぐにリスタートできるのでテンポ良く進めていける。

ポイントはモンスター、罠、ブロック、鍵など、パズルを構成する全要素がプレイヤーに明示されていることだ。アクション性も乏しいので、じっくりと考えれば必ずクリアできる仕組みになっている。にもかかわらず、あまり考えることなく進めていくと、ギリギリ失敗する状態になりやすい。「なるほど、その手があったか!」と何度も膝を打つことになる、ハイセンスな問題がずらりとそろっているのだ。

なお、パズルをクリアすると悪魔っ娘との会話シーンが挟まり、選択肢が表示される。ここで正しい答えを選ぶと悪魔っ娘を仲間にできる。これを繰り返して、悪魔っ娘を地獄から連れ帰り、地上にハーレムを築くのが主人公の目的だ。なお、数々のインディーゲーム翻訳を手掛けてきた陽炎01型氏による日本語化MODがネット上で無料配布されているので、ぜひ日本語化しておくことをオススメする。


もっとも、本作は無理にパズルをクリアする必要もない。ゲーム中にESCキーを押すとメインメニューが表示され、「パズルをスキップする」を選ぶと、先に進むことができるのだ。ゲームは全10ステージで、最終ステージではアクションゲームになるが、こちらも同様にスキップできる。そのため開始10分でエンディングまで到達できる。そのうえで、好きなパズルにじっくりと取り組めるのだ。

このメタゲームぶりは全編にわたって徹底されている。前述の選択肢では、間違えると強制的にゲームオーバーだ。この時、正しい選択肢を選ぶための情報はほとんどない。また、仲間にした悪魔っ娘からパズルのヒントをもらうこともできるが、役にたたないことも多い。いずれも通常のゲームなら大問題だが、パズルをスキップできるとなると、話は別だ。ちょっとしたスパイスとして楽しめるようになるからだ。


日本とポーランドの文化が融合

本作を製作したのはポーランドのインディーゲームデベロッパー、VanRipperことウカシュ・ピスコシュ氏だ。ビジュアルはカートゥーンスタイルながら、日本のゲームやアニメの影響が感じられる。肝心のパズルも往年の名作『倉庫番』との類似性が指摘できるだろう。そもそも、ゲーム中の課題を解いて美少女をコレクションするというゲームメカニクスも、きわめて日本的だ。

一方でポーランドは悪魔伝承が群を抜いて多く、妙に紳士的で、愉快で、道徳に明るく、誠実な悪魔が多いとされる。悪魔王ルシファーが人柄の良い、不憫な人物として描かれることも、先例があるという。ピクシブ百科事典では、ポーランドの悪魔は日本のお化けや妖怪に位置づけられると考察している。つまり本作はポーランドと日本の文化が融合した、過去にないタイトルになっているのだ。


本作のビジネスモデルもユニークだ。ゲームは無料で配信し、アートブックとゲーム中に登場するパンケーキのレシピを有料で販売するという、アイテム課金的なものになっている。これにより(そして陽炎01型氏による良質な日本語化MODによって)、一気に日本のファンが増加した。ネット上を検索すれば、本作のファンアートが大量にヒットすることがわかるだろう。まさに本作ならではの現象だ。

思考型パズルゲームといっても、必ずしもプレイヤーにパズルをクリアさせる必要はない……本作はデジタルゲームならではの、新しい思考型パズルゲーム像を打ち出した。その一方で、前述したように本作は、思考型パズルゲームとしても高いクオリティを示している。このハイブリッド感が本作の大きな特徴だ。カジュアルなプレイ感覚と相まって、インディーゲームならではの可能性を示していると言えるだろう。

metacriticスコア:なし(ユーザースコア8.9)
主な受賞歴:なし

Steam『Helltaker』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1289310/Helltaker/
『Helltaker』日本語化ファイル
https://steamcommunity.com/app/1289310/discussions/1/4666237625647679747/
Steam『Helltaker: Artbook + Pancake Recipe』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/1298590/Helltaker_Artbook__Pancake_Recipe/
『Helltaker』ピクシブ百科事典
https://dic.pixiv.net/a/Helltaker
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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