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『HEADLINER』ゲームによる社会批評という新しい可能性【インディーゲームレビュー 第59回】

ゲームデザインには現実世界の抽象化と誇張化という側面があり、ゲームは現実に対する批評性を帯びる。こうした特性を上手くいかし、社会問題に切り込んだタイトルが『HEADLINER』だ。ポピュリズムと自国第一主義が世界で広がる中、メディアのあり方をテーマとした本作の特異性は、ますます際立っている。


ゲームと現実はコインの裏表の関係

『環願 Devotion』のレビューで論じたように、ゲームは社会批評性を持つメディアだ。ゲームはマンガやアニメなどと同じく、現実を抽象化・誇張化(=記号化)してデザインされる。そのため作り手の意思とは関係なく、受け手が作品に対して批評性を感じ取ってしまうことがあるからだ。

この象徴が「現実(リアル)はクソゲーだ!」という物言いだろう。ゲームの作り手は別に社会批判をしたいわけではない。しかし現実に対する苛立ちを隠しきれない一部のゲーマーは、「現実のルールはゲームほど洗練されていない」と、しばしばゲームを遊んで主張したくなるのだ。

それでは、こうした社会批評性を前面に押し出すと、どのようなゲームが作れるだろうか……。それが今回レビューする『HEADLINER』だ。地域ニュースチャンネルの編集局長となり、ニュース報道を介して世論を操作するという内容で、プレイヤーの目的は昇進を通して家族の幸せを守ることにある。

開発は米シアトルのUnbound Creationsで、創設者でクリエイティブディレクターのヤコブ・カシュタルスキー氏はポーランド出身。15歳で両親と共にアメリカに移住した経歴を持つ。その後も世界各地を旅行し、日本・北アイルランド・インドにおける滞在経験も持つ人物だ。こうした経緯から、本作は政治とジャーナリズムと企業利益が融合しがちな米メディアの現状や、難民問題に揺れる欧州の世情が、ゲームを通して巧みに表現されている。


偏向報道を通して世論を誘導する

ゲームの内容はシンプルで、プレイヤーの行動は個々の記事の見出しと概要をチェックしながら、採用・不採用を決めていくだけだ。これがビジュアルノベルゲームにおける「選択肢」となり、世論が誘導されていく。

世論は街の様子や人々の会話によって可視化され、会社から自宅までの帰り道は、これを確認する良い機会だ。帰宅後はパートナーと娘を囲んで会話が行われ、ここでもいくつかの選択肢が提示される。これを7日間続ければ終了で、内容に即してエンディングが表示される。

もっとも、ゲームの内容に比べて、ゲームの展開はいささか複雑だ。舞台は人体に対する遺伝子組み換えの是非で揺れる仮想国ギャリクシア。住民の大半は経済的・健康的合理性から遺伝子組み換えを受容しているが、反対する純粋主義者も7%存在する。紛争が続く隣接国リーリスからの移民受け入れ問題も世論を二分するトピックの一つだ。経済は慢性的な不況で、予算を教育と福祉のどちらに分配するか、という世代間の摩擦もある。こうした中、プレイヤーはメディアとしての政治的姿勢を明確化し、人気を増やすことが求められるのだ。



世論の形成と偏向報道は紙一重

客観報道を良しとする日本と異なり、アメリカでは共和党寄りとされるFOXニュースをはじめ、メディアが政治的姿勢を明らかにすることが求められる。そのため本作でも、中立的な報道を貫くと人気が上がらず、昇進できない。その結果、配偶者の病気や娘の進学問題に対応できず、家庭が破壊されることになる。

そのため、人気を得るには偏向報道を通して世論を適切に煽る必要があるのだ。しかし世論が過熱しすぎるとテロや暴動が発生し、自身が標的にもなりかねないので、注意が必要だ。

このように本作のポイントは、世論の誘導によってさまざまな展開が見られることと、1プレイが30~45分程度で終了するため、何度も繰り返して違う結果を見たくなることだ。ゲームは街を上げて開催されるフェスティバルの1週間前に始まり、主人公が配信するニュース内容に即して、世論がヒートアップしていく。そして、その結果がフェスティバル会場で明らかになる。ジャーナリズムにおける職業倫理という問題が劇画化、つまり「抽象と誇張」で描かれているのだ。

もっとも本作では、メディアが世論を誘導すること自体は批判されていない。というのも、多彩なニュース報道を通して世論を形成するのは、メディアの本質的な役割の一つだからだ(そのため、日本でも新聞の社説は各紙によって論調の違いがある)。

問題は、職業倫理が欠落した報道機関が利潤追求に走ると、恐ろしい結果をもたらすということだ。では、報道機関は国営企業がいいのだろうか? その場合、国の御用メディアにならざるを得ないのは明らかだろう。民主主義と同様にジャーナリズムにも正解がないことを本作は教えてくれる。


世界に広がるポピュリズムの波とメディアの未来

本作がただのゲームだと無視できないのは、こうしたメディアのあり方が、ポピュリズムと自国第一主義の広がりを通して、世界的な問題になってきたからだ。米主要メディアを名指しで批判し、Twitterを使って世論を誘導するトランプ大統領は好例だろう。もっとも、これが可能なのも、2000年代に米経済が製造業から情報産業に移行する中で、繁栄から取り残された人々(白人中産階級)の不満が鬱積したからだ。そして、その存在に主要メディアは無関心だったことが、現状につながっている。

同じ事態はEU離脱を決めたイギリスをはじめ、欧州にも広がっている。EUの独裁者の異名を取るハンガリーのビクター・オルバン首相は象徴的で、移民問題や中国・ロシアとの間で独自外交をとる一方、関係性の深い企業を通じて大手メディアの大半を買収し、骨抜きにしてしまった。それでも高い支持率を誇るのは、EUが抱える構造的な矛盾に国民が失望したからだ。日本でもNHKから国民を守る党や、れいわ新選組が躍進した。こうした変化に対して大手メディアは戸惑いを隠せないように見える。

表現の自由には責任が伴う。しかし、日常生活でこの意味を実感することは少ない。こうした中、本作はメディアのあり方を体験的に学べるゲームとして、広く注目を集めた。惜しむらくは日本語ローカライズが不十分な点だが(文字の間隔がおかしい、英語のメッセージが残っている、主人公の性別の違いが台詞に繁栄されていないなど)、これを差し引いたとしても、ゲームの可能性を指し示すタイトルだろう。こうしたゲームが近い将来、学校教育の現場で遊べるようになることを期待したい。

■関連リンク
Steam『HEADLINER』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/680980/HEADLINER/
Unbound Creations 公式サイト
http://unboundcreations.com/
EUが生んだ“独裁者” 市民の支持にはワケがある
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190607/k10011943661000.html
【コラム】小野憲史のインディーゲームレビュー

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