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『OPUS 魂の架け橋』コンテキストが生み出す彼岸の物語【インディーゲームレビュー 第42回】
パンデミック後の世界で生き残った巫女とロケット技師。地表をさまよう霊魂たちを、銀河の彼方に返す「宇宙葬」を復活させるため、2人はロケットの修理を進めていく。
「こちら側」と「あちら側」が交錯する世界の中で綴られる美しい物語は、台湾ならではのローカルな宗教観と深い関係があった。
その後、年末に台湾人の知人等と連れだって墓参りに行った筆者は、そこでカルチャーショックを受けた。日本ではおなじみの墓石が存在しなかったからだ。骨灰は共同墓地内で地面に埋められ、いわゆる自然葬として埋葬されたのだという。我々も公園内の石に知人ゆかりのストラップを巻き付け、黙祷を捧げて帰路についた。自然と一体化した彼の霊魂はその間中、我々を見守っていたのかもしれない。
この例に限らず土地が狭い台湾では近年、政府の後押しも手伝って、伝統的な墓地にかわり自然葬が増加中だ。中でも土の中に骨灰を埋めて花や木を植えたり、樹木の根の周囲に骨灰を埋めたりする「樹葬」が、若い世代を中心に増えているのだという。このように冠婚葬祭と、それにまつわる宗教的行事は、その土地のコンテキストに大きく依存する。死者の弔い方一つとっても、さまざまな考え方があるのだと実感させられた。
タイトルは『OPUS 魂の架け橋』で、以前とりあげた『OPUS: The Day We Found Earth(地球計画)』と同じSIGONOによる開発だ。世界観は同じだが、物語に直接的な関係性はなく、前作をプレイしていなくても問題はない。
ゲームジャンルはアドベンチャーゲームで、主人公はロケット技師のヨハンを操作しながら、巫女のフェイの指示に従い、ロケットの部品を収集していく。ロケットが完成すれば、絶えて久しかった宇宙葬が行われ、地上にさまよう霊魂が銀河の彼方で成仏できるという設定だ。地球規模の疫病が流行した結果、地球上に残されたのは2人だけで、雪におおわれた儚くも美しい世界で週末の物語が展開されていく。
ゲームの展開もシンプルで、「フェイが不足しているロケットパーツを伝える」→「ヨハンがロケット工場の周囲を探索し、パーツを見つける」→「フェイにパーツを渡して1日が終了」といったサイクルを続けていく。その過程でさまざまなイベントが挟まり、時には美麗なムービーが流れるといった具合だ。最初は工場の周囲しか探索できないが、探索に必要な道具を揃えていけば、徐々に遠出できるようになる。
もっとも、本作の魅力はゲームならではのストーリーテリングにある。中でも特筆すべきは、フェイとヨハンの「夫婦漫才」だ。天然なフェイとツッコミ役のヨハンの会話が楽しく、ついつい時間を忘れてプレイしてしまう。『OPUS: The Day We Found Earth』と同じく、日本語ローカライズのクオリティも非常に高く、国産ゲームと見間違うほどだ。展開が単調と感じる人がいるかもしれないが、個人的には最後まで楽しめた。
「家族が台湾にいましたし、モバイルゲームではアジアが一番発展していますからね。それにインターネット時代ですから、台湾でもアメリカでも関係ないですし」(ブライアン)。
「卒業後、ブライアンといろいろ話をして、やっぱり台湾の雰囲気がいいよなということになったんです」(スコット)。
また、本作の日本語ローカライズに協力した台湾在住の島崎諒氏は、筆者のメールインタビューに対して「今回の脚本を書くにあたって、彼らは色々な宗教を参考にしたそうで、特にこれといったベースはないそうです。ですが、私個人の考えとしてですが、霊魂が地表を彷徨うという考え方は非常に台湾的(仏教・道教的)だと思うのです。
というのも台湾ではお盆の時期(旧暦の7月)の1カ月を「鬼月(グイユエ)」と言っていて、「地獄の門が開かれる」月だと考えています。日本では祖先の霊が帰ってくる時期とされていますが、台湾では祖先の霊だけでなく悪霊等全ての霊が地表を漂うとされています。小野様もご指摘の通り、これが正に『OPUS 魂の架け橋』での光景と合致するのではないのはないでしょうか」という回答を寄せている。
実際、彼らがアメリカに住み続けていたのでは、本作のようなゲームは産まれなかっただろう。
ヒトは社会的な生物で、自分をとりまく環境や人々と無縁ではいられない。いじめなどの問題も、そうした習性ゆえだ。だからこそ、あらゆるゲームには、それが生まれるためのコンテキストが存在する。世界に星の数ほどのゲームがある中で、ゲームの持つ土着性や民族性は今後ますます重要になっていくだろう。「開拓的・前衛的・非主流・創造的」をキーワードに掲げる同社の次回作に期待したい。
COPYRIGHT© SIGONO INC.
■関連リンク
Steam『OPUS 魂の架け橋』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/742250/OPUS_Rocket_of_Whispers/
『OPUS 魂の架け橋』公式サイト
http://www.sigono.com/rocket-of-whispers-jp/
台湾の政府系雑誌で「自然葬」を大きく紹介
http://www.shizensou-japan.org/section/kaigai/foreign/taiwan-shizensou.html
【台北ゲームショウ2015】ミミズのモチーフはアレだった!? 我が道を行く開発グループTeam Signal Gamesインタビュー
https://otakuindustry.biz/archives/1115
「こちら側」と「あちら側」が交錯する世界の中で綴られる美しい物語は、台湾ならではのローカルな宗教観と深い関係があった。
ところ変われば墓地も変わる……台湾の自然葬
2013年、知人で台湾のゲーム開発者が交通事故で亡くなった。国際ゲーム開発者協会(IGDA)台湾の発起人で、北京語の他に日本語と英語にも堪能。台湾・アメリカ・日本のゲーム開発者コミュニティの架け橋として、精力的な活動を続けていた矢先だった。直前に彼から台湾ゲーム史のコラム原稿を受け取っており、まさかこれが彼の最初で最後となる日本語の商業原稿になるとは、思いも寄らなかった。その後、年末に台湾人の知人等と連れだって墓参りに行った筆者は、そこでカルチャーショックを受けた。日本ではおなじみの墓石が存在しなかったからだ。骨灰は共同墓地内で地面に埋められ、いわゆる自然葬として埋葬されたのだという。我々も公園内の石に知人ゆかりのストラップを巻き付け、黙祷を捧げて帰路についた。自然と一体化した彼の霊魂はその間中、我々を見守っていたのかもしれない。
この例に限らず土地が狭い台湾では近年、政府の後押しも手伝って、伝統的な墓地にかわり自然葬が増加中だ。中でも土の中に骨灰を埋めて花や木を植えたり、樹木の根の周囲に骨灰を埋めたりする「樹葬」が、若い世代を中心に増えているのだという。このように冠婚葬祭と、それにまつわる宗教的行事は、その土地のコンテキストに大きく依存する。死者の弔い方一つとっても、さまざまな考え方があるのだと実感させられた。
台湾のゲーム開発者コミュニティとともに墓参りに訪れた筆者(前列中央)
自然葬にふされ、個々人の墓石はない
石を拾い、そこにストラップを巻き付け、それに向かって黙祷を行った
美しくも悲しい終末期の世界で繰り広げられる「夫婦漫才」
ゲームレビューには不釣り合いな自分語りから始めたのも、今回取り上げるゲームが、台湾のインディーゲームスタジオが開発した宇宙葬をテーマとしたアドベンチャーゲームだからだ。タイトルは『OPUS 魂の架け橋』で、以前とりあげた『OPUS: The Day We Found Earth(地球計画)』と同じSIGONOによる開発だ。世界観は同じだが、物語に直接的な関係性はなく、前作をプレイしていなくても問題はない。
ゲームジャンルはアドベンチャーゲームで、主人公はロケット技師のヨハンを操作しながら、巫女のフェイの指示に従い、ロケットの部品を収集していく。ロケットが完成すれば、絶えて久しかった宇宙葬が行われ、地上にさまよう霊魂が銀河の彼方で成仏できるという設定だ。地球規模の疫病が流行した結果、地球上に残されたのは2人だけで、雪におおわれた儚くも美しい世界で週末の物語が展開されていく。
ゲームの展開もシンプルで、「フェイが不足しているロケットパーツを伝える」→「ヨハンがロケット工場の周囲を探索し、パーツを見つける」→「フェイにパーツを渡して1日が終了」といったサイクルを続けていく。その過程でさまざまなイベントが挟まり、時には美麗なムービーが流れるといった具合だ。最初は工場の周囲しか探索できないが、探索に必要な道具を揃えていけば、徐々に遠出できるようになる。
もっとも、本作の魅力はゲームならではのストーリーテリングにある。中でも特筆すべきは、フェイとヨハンの「夫婦漫才」だ。天然なフェイとツッコミ役のヨハンの会話が楽しく、ついつい時間を忘れてプレイしてしまう。『OPUS: The Day We Found Earth』と同じく、日本語ローカライズのクオリティも非常に高く、国産ゲームと見間違うほどだ。展開が単調と感じる人がいるかもしれないが、個人的には最後まで楽しめた。
留学先のアメリカで出会った2人が台湾に戻って起業
開発元のSIGONOはブライアン・リーとスコット・チェンという2人の台湾人によって設立されたインディーだ。筆者は前身のTeam Signal Games時代に、台北ゲームショウ2015で彼らにインタビューしたことがある。留学先の米カーネギーメロン大学で意気投合した2人はゲーム制作をスタート。マイクロソフトなどが主催するゲームアワードで入賞し、起業に至った。その際、彼らが選んだのはアメリカではなく、台湾だった。「家族が台湾にいましたし、モバイルゲームではアジアが一番発展していますからね。それにインターネット時代ですから、台湾でもアメリカでも関係ないですし」(ブライアン)。
「卒業後、ブライアンといろいろ話をして、やっぱり台湾の雰囲気がいいよなということになったんです」(スコット)。
また、本作の日本語ローカライズに協力した台湾在住の島崎諒氏は、筆者のメールインタビューに対して「今回の脚本を書くにあたって、彼らは色々な宗教を参考にしたそうで、特にこれといったベースはないそうです。ですが、私個人の考えとしてですが、霊魂が地表を彷徨うという考え方は非常に台湾的(仏教・道教的)だと思うのです。
というのも台湾ではお盆の時期(旧暦の7月)の1カ月を「鬼月(グイユエ)」と言っていて、「地獄の門が開かれる」月だと考えています。日本では祖先の霊が帰ってくる時期とされていますが、台湾では祖先の霊だけでなく悪霊等全ての霊が地表を漂うとされています。小野様もご指摘の通り、これが正に『OPUS 魂の架け橋』での光景と合致するのではないのはないでしょうか」という回答を寄せている。
実際、彼らがアメリカに住み続けていたのでは、本作のようなゲームは産まれなかっただろう。
ヒトは社会的な生物で、自分をとりまく環境や人々と無縁ではいられない。いじめなどの問題も、そうした習性ゆえだ。だからこそ、あらゆるゲームには、それが生まれるためのコンテキストが存在する。世界に星の数ほどのゲームがある中で、ゲームの持つ土着性や民族性は今後ますます重要になっていくだろう。「開拓的・前衛的・非主流・創造的」をキーワードに掲げる同社の次回作に期待したい。
COPYRIGHT© SIGONO INC.
■関連リンク
Steam『OPUS 魂の架け橋』販売ページ
https://store.steampowered.com/app/742250/OPUS_Rocket_of_Whispers/
『OPUS 魂の架け橋』公式サイト
http://www.sigono.com/rocket-of-whispers-jp/
台湾の政府系雑誌で「自然葬」を大きく紹介
http://www.shizensou-japan.org/section/kaigai/foreign/taiwan-shizensou.html
【台北ゲームショウ2015】ミミズのモチーフはアレだった!? 我が道を行く開発グループTeam Signal Gamesインタビュー
https://otakuindustry.biz/archives/1115
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